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第三章 取材orデート?
本当のお前はあったかい
しおりを挟む「そうじゃねえ。謝るのは俺の方だ。嫌なこと思い出させて悪かった」
「先生……」
「お前は根暗なんかじゃない。よく笑う優しい子だ」
鷹城がそっと真琴の髪を撫でた。大きくて暖かい手だった。
「飯を食えば分かる。お前の料理は優しい味がする。普段はひねくれてて、素直じゃねえけど……でも俺には分かる。本当のお前はあったかい」
真琴の心がじんと震えた。ずっと胸に刺さっていた氷柱(つらら)が解けていくような気がした。
(そんなことを言ってくれる人、今までいなかった)
「で、でも、おれが暗いのは、本当で……。ネガティブだし、融通きかないし、人と上手く馴染めないし……」
「俺とは上手くやってるだろうが」
「でっ、でもそれは……先生が大人だからで」
「俺はそんなに優しい人間じゃない。初対面の人間には猫かぶってるの、お前も知ってるだろ。ちょっとくらいネガティブだろうが、融通がきかなかろうが、人と上手く馴染めなかろうが、全く気にしない。むしろ、そういうお前がいい」
「でも……」
「ああもう、さっきから『でも』ばっかりだな。どうしたら伝わるんだろうな。そのままのお前でいいってこと」
鷹城が言った。
真琴は与えられた言葉の暖かさに返事が出来なかった。震える指で、ぎゅっと鷹城の服をつかむ。
(いいのかな、おれは、このままで……)
今まではダメな自分を受け入れるのが怖かった。でも鷹城はそのままでいいと言う。
(やっぱり先生は優しいんだ。本を読んでいた時のおれの直感は間違ってなかった……)
無理に躯を開かれて以来、遠くに追いやっていた鷹城への憧れが、また輝き出すのが分かった。
背中に回る太い腕の心地よさに真琴は目を閉じる。
(先生の体温はやっぱり落ち着く……。なんでだろう)
しかし抱擁(ほうよう)は長くは続かなかった。鷹城はすっと真琴から離れると、ばつが悪そうに言う。
「あー……っと、悪かった。勝手にハグして」
「あ、いえ……」
「今のは親愛のハグだから。深い意味はない。だから、大丈夫だよな。これ以上嫌いになって、ないよな……?」
まるで母親に0点のテストを差し出す小学生のような表情に、真琴はぷっと吹き出した。
「嫌ってませんよ」
「本当か。イヤじゃなかったか」
「いえ……。実は慰めてもらえて、ちょっと嬉しかったです」
鷹城が一瞬フリーズした。そしてじわじわと耳たぶまで朱に染まっていく。
「ああ、もう何だってんだ。可愛すぎだろう! ……ったく、俺はどうしたらいいんだよ。このまま期待していいのか、ダメなのか、分からなくなる。――ほら、行くぞ」
鷹城は髪をかき上げると、真琴の手を引いて歩き出した。
「わっ……! あの、期待って?」
「このまま頑張れば、いつかはお父さん以上として見てもらえるのかってこと」
鷹城が不満そうな目で言った。
「お父さん、って……。昨日おれが言ったこと気にしてるんですか?」
「そりゃそうだろう! これでも毎日口説いてんだぞ。なのにお前さんはちっとも真に受けてくれねえし」
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