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第三章 取材orデート?

自然と笑顔になれる

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「え、口説いてたんですか」
「あ・た・り・ま・え・だ・ろ!」

 鷹城がわざわざ一音いちおん区切って言った。

「お前が好きな人としかしねえって言うから、そうなってもらえるように努力してんだろうが。ちまちまチマチマちょっかい出して、お前の喜ぶ顔が見たいってこんな所まで連れてきて。まったく、健気だよ、俺は。こんな三十代いないね」

 鷹城の言い分を聞いて、真琴はまた声をだして笑った。

(先生かわいい)

 まさか鷹城が本気で自分を相手にしているとは思えないが、しかし一生懸命なのは伝わってきた。

(先生は不器用な人なんだな。でも一緒にいると、自然と笑顔になれる)

「先生は冗談が上手いんですね。おれが女の子だったら本気にしちゃいそうです」
「だから冗談じゃねえって言ってんだろ。……チッ、ほら、全然分かってない。日本語が通じてない」
「そうですか?」

 真琴は首を傾げた。

「……お前、意外と小悪魔?」
「? 意味がよく分かりません。小悪魔って女性に言う言葉ですよね」
「まあ、そうだけど……。くそ、これだから恋愛経験とぼしい奴は……。例えだよ、例え。お前が小悪魔みたいに俺を手のひらの上で転がしてるってこと」

 鷹城は「なんで自分の言葉を自分で解説しなきゃなんねーんだ」とぼやいていた。
 真琴はふむ、と考えて、もし自分が女性だったらと想像する。
 鷹城の先程の台詞が蘇った。

――いつかはお父さん以上として見てもらえるのかってこと。

(お父さんなんか超えてるよ……。ひとりの男として先生のこと見てる)

 想像だというのに、そう考える自分が恥ずかしくなった。

「あの、先生」
「なんだ」
「おれがもし女だったらの話ですけど、その……とっくに超えてると思います、お父さんを」
「……男として意識してるってことか?」
「はい。先生は優しいし、一緒にいて楽しいです。それに側にいてほっとするから……。それだけじゃ、ダメですか?」

 真琴は鷹城を見詰めて言った。

「……十分だよ。ああ、もうちくしょう。俺ってこういう無自覚なタイプに弱いのか……。知らなかった」

 鷹城は深く息を吐いた。何かに降参したような幸せそうな表情だった。

(あ……いい顔してる)

 真琴は思った。

「ほら、帰るぞ。日が暮れちまう」
「はい」

 真琴はにっこりする。
 鷹城が手を繋ぎ直した。今度は指を絡めて、がっちりと。
 空は茜色に染まり、夜気をはらんだ冷たい風が吹いてくる。火照った頬に気持ちよい。
 赤や黄色に紅葉する山。家路を急ぐカラスの声。大好きなキンモクセイの甘い香り。
 秋が二人を包んでいた。
第三話・了 
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