【第2章開始】俺とお前は親友のはずだろ!? ~姉の代わりに見合いした子爵令息、親友の聖騎士に溺愛される~

田鹿結月

文字の大きさ
65 / 78
第1章

第65話 のまれる

しおりを挟む
 コルネリス伯爵家は、レイが水晶宮で幽閉されている間に取り潰された。伯爵令嬢も被害者だと訴えていたが、父の犯した罪の一端を担っていたという証拠があり罰を受けていた。
 何処かの地下牢へと収監されたはずだ。それなのに彼女は、以前会った時と変わらず着飾り、他の女性達と遜色ない外見のまま。
 黒い靄は何だろうか。そう思いながらも、レイはそれから目を離せない。
 視界の端に映る王太子殿下は自分の妹達を背に守りながら聖魔法の結界を展開し兵達へと何か指示を出しているようだが、何も聞こえない。それどころか、周囲にいる者達の声も一切。
 聞こえるのはすすり泣くようにも聞こえるコルネリス元伯爵令嬢の叫びだけだ。

「私の方が先に好きだったのに!」

 クレス女史とエディがいつからそんな仲になっていたのかは知らない。
 レイだって、好きになったのはつい最近のことだ。
 学生時代からずっと想っていたのなら、確かに彼女の方が先にエディに惚れていたんだろう。
 でも、だからなんだというのだろう。エディはクレス女史を選んだ。
 初めて愛を囁いた自分じゃなくて、他の。

「……っは」

 その愛だって、その場凌ぎの嘘になっていたかもしれないのに何を縋っているんだ。
 レイは思わず笑ってしまう。

 そのレイの腕を、エディが強く引いた。
 熱い手が素肌に触れる。

「レイ、俺を見て」
「……だめだ」
「大丈夫。俺を見て、あの子でも、ドリスでもなくて俺を」

 優しい声色はいつもと何も変わらない。ずっと、レイが求めていた声そのもの。
 けれどこれさえ、レイを悲しませないための演技だったとしたら?

「……もういいよ」

 もう好きじゃないんだろう、自分のことなんて。
 膨れ上がるコルネリス元伯爵令嬢の闇に、レイの心は蝕まれていく。
 エディを狂わせた元凶はこれ以上近付いてはいけない。エディは『正常』になったんだ、今更気遣わなくたっていい。
 レイはエディの手を振り払い、虚ろな目で彼の顔を見上げた。

「親友、やめようか」
「……何言ってるの?」
「俺、いても邪魔なだけだろ。大丈夫、これからは殿下が俺の面倒見てくれるって」

 王太子殿下は、エディと離れたら直属の文官として雇ってくれると言っていた。本をたくさん読んできたおかげか、文章能力を買われ将来安泰な文官になれる。
 そうなれば寮の中でもいいところに住める。所属だっていいところになるから、軍部の時のような嫌がらせも受けない。結婚相手だって世話してくれると言っていた。
 生活費を出させてもくれず、完全に寄生して過ごしていたエディとの同居生活より健全な暮らしだ。
 エディを想うことは、まだ少しやめられないけれど。それでも離れればいつかは。

「駄目だ」
「もう決まってんだよ。……婚約、おめでとうございます。ヘンドリックス様」

 もう名前だって、呼ばない方が良い。節度を持って、適切な距離感で。
 背後からまた爆発音が聞こえる。コルネリス元伯爵令嬢の魔力が、怒りで暴発を続けているんだろう。
 子供の癇癪と同じだ。エディが自分のものにならないから、彼女の膨大な魔力が暴走し爆発している。
 いっそ、自分もそのくらい魔力が多ければよかったのに。癇癪を起こして、嫌だ、自分から離れないでなんて言えれば。

「駄目だレイ、飲まれたら」

 飲まれる? 一体、何に。
 レイのような少ない魔力の持ち主は、時折膨大な魔力の暴走で意識を乗っ取られ、力を吸い取られ、魔力の乱れで感情すら左右させられることがある。
 ただ、それはあまり知られていない。平穏な日常を過ごしていれば、魔力の暴走なんて一生に一度見られればいい方だから。知識として頭の何処か片隅に置いていたレイも覚えていない。
 この胸に残る後悔と嫌悪、喪失といった感情が、全て闇魔法により増幅しているなんて露ほども思わない。

 爆風でベールがまた顔に落ちる。エディの白金も、青ももう見えない。 
 結局、好きだと一言も口にすることもできなかった。そんな後悔しても遅いのはわかっているのだけれど。
 全てを飲み込む闇魔法の魔力に全てを吸い取られる自覚もないまま、レイは自らの意識を手放した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

結衣可
BL
呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...