悪役令嬢はヒロインを溺愛することにした。

はならら

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それならば、私がすることは、ただひとつ

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「お、お姉さま…私にはここはちょっと…」

私の前でふるふると肩を揺らしているミモザが、王子と待ち合わせをしている四阿あずまやを落ち着きない様子でうろうろしている。

「大丈夫よ。私の妹なのだから。それにあなたを同伴することは、先方にきちんと伝えているのだし」
「は、はい…」

その顔が赤いのは緊張だけではないだろう。
もうすぐここに来る王子と顔を直接会わせるのは初めてなのだ。
いままで憧れの重いで見つめていただろう王子に会える喜びと、姉の婚約者であるという焦燥に胸を焦がしているにちがいない。


ーー大丈夫。あなたが王子を選ぶなら、私は喜んで身を引くから。

元々親同士が決めた婚約で、確かに記憶を失う前の私は王子を愛していた。

顔と、地位を。

王子が私に持っていた印象は間違いではない。



ただ、私は王妃はミモザには荷が重いのではないかと思っている。
もちろん、ヒロインであるミモザは王妃として幸せに暮らすのだ。

けれど、王妃という肩書きは自由ではない。
それをミモザが望むならば、いい。
ただ、本当は普通の貴族の娘として、愛のある幸せな結婚の方が良いのではないかと思っていたりも、する。

「考えが纏まらないわね…」
「何の話だ、リリーナ」

俯いていた顔を上げると、見事な金髪の貴公子が立っていた。
その明るく優しげだと皆が噂するほどの柔らかな表情を、私は見たことがない。

「いいえ、殿下。何でもありませんわ」
「…リリーナ、今日はいつものお前と違うのではないか?」
「そうですか?…自分を省みるきっかけがありまして。そのせいかもしれませんわね」

奥義で口元を隠すと、私は瞳だけで微笑んだ。

チ、と忌ま忌ましそうな声がして、王子が首を振るのを確認して、ミモザを呼んだ。

「殿下。今日は私の妹を連れてくると申し上げましたでしょう?どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」

知らないうちに遠くに逃げていたミモザが私に名前を呼ばれ、ピシッと背筋を固くしたまま、手と足を両方前に出して歩きながら、ノロノロと近づいてくる。

「ほう。私は会うのが初めてだったな」
「は、はい!ミモザと申します!!!」

90度は曲がったのではないかと思うほどのお辞儀をみせて、ミモザがその姿勢のまま固まる。

数秒して、その場に笑い声が響いた。

「あはははは!面白いなミモザ!リリーナとは似つかぬ!顔を上げろ」

直ぐ様、反動のように勢いよく顔を上げたミモザは、存外に近くにいたカルロスと見つめあう形となる。

「………」
「………」

二人ともに、顔がうっすらと赤くなっていくのを私は眺めていた。

…相手、決定しちゃった…?これ、二人とももう親密度マックス気味の応対な気がする…。


それならば、私がすることは、ただひとつ。


「申し訳ありません。私、朝から少し体調が…。殿下、ミモザ、少し庭園を歩いて花の香に癒されたいの。席をはずしても?」

私の提案に王子はハッと顔をキラキラさせた。わー、その顔が見たことないわー。

ミモザは私に申し訳ないような顔をひたすらしていた。
ただ、私は今日ここに来る際に告げている。

『私、本当は殿下が苦手なの』と。

「ミモザ、ごめんなさいね」

もう一度慣れない困り顔を披露すると、私の気持ちを察したのかミモザも小さく頷いた。

護衛は王宮内ということと、庭園にしか行かないということで無しにできた。

私は、ここで行動を開始しなければならない。
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