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ヒロインは悪役令嬢の侍女と会う (2)
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「今回の件がアリスさんのいう〈シナリオ〉では〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉の襲撃に該当しそうな今どんな気持ちか、聞いてみたかったのです」
(うわ、本当に聞いた)(いきなり聞きましたね)
マジックミラーの向こうではジュールと学園長が震撼していた。この質問をするつもりと予めレイアから聞いていたものの、まさか開口一番に持ってくるとは思っていなかった。
レイアは彼女自身が「受付嬢アンドロイドの笑顔」と呼ぶ笑顔でアリスと対峙している。親しみのある礼儀正しく丁寧な態度、相手が臆せずものを尋ねることのできる親切そうで愛想の良い雰囲気、ただし性的アピールはなし——を心掛けている。
アリスに対する配慮も一応あって、襲撃の際に向かい合ったときの、口角をほんの少しだけ上げた笑顔(レイア自身は「モナリザの微笑擬」と内心呼んでいる)、あれをやると、あのときのアリスの恐怖を浮かべた表情再びとなってしまわないかと考えたため。
アリスは怯えていた。ソフィーの金切り声にいっさい動じることなく静かに立つレイアの無表情な笑顔は確かに怖かった。それ以上に今レイアが浮かべている笑顔が怖い。まるで貴族令嬢の笑顔、襲撃時に豹変する直前まではソフィーもロザリーも浮かべていた愛想の良い笑顔と重なった。
(怖いけど頑張らなくちゃ。うん、レイアさんは歯を見せて笑っているからソフィーさんやロザリーさんとは同じじゃない)とアリスは自分を奮い立たせた。
そして担当官が「最初にレイアさんがアリスさんに質問したいそうです」と言うから「はい、どうぞ」と答えたら、最初の質問が、
「今回の件がアリスさんのいう〈シナリオ〉では〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉の襲撃に該当しそうな今どんな気持ちか、聞いてみたかったのです」
目の前の少女に対するアリスの恐怖は一気に膨れあがったが、質問の意味を飲み込むと、ローズマリーへの誤解を絶対に解かなくてはいけないという義務感が恐怖を吹き飛ばした。
「違うっ! 違います。ローズマリー様があたしに指示したことじゃない。あたしの勝手な行動なんです。あたしにしたって襲撃なんてつもりはなくて!」
「そうだとしてもローズマリーさんの侍女である貴方が、わたしを襲ったソフィーさんと一緒に、わたしを待ち伏せしていたのも事実ですよね?」
アリスはハッとしたような顔をする。
「そうよ、『女好き枠』のお取り巻きと一緒に行動するなんて、あたしって本当にバカぁ。あの中の誰かにいつか刺されるんじゃないかって噂にもなっていたのに、そんな怖い人たちと一緒に、レイアさんに直談判に行くなんて。今回は濃硫酸だったけどナイフが出てきたかもしれないんだわ」
返答に困ったレイアは沈黙を選んだ。
「あたしはソフィーさんやロザリーさんに騙されたようなもんです。あの人たち、ローズマリー様には三人で待ち伏せするなんて言うな、知られたら絶対とめられるからって。あたしは何か怪しいと思うべきでした。だから、あたしが罰を受けるのはしょうがないけど、何も知らなかったローズマリー様だけはっ」
「わたしは裁判官ではないので罰を決める立場にありません。
ソフィーさんが濃硫酸とか物理的な暴力に走るなどと、アリスさんが予測できなかったことはわかります。しかし『〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉の襲撃』とは夢にも思わなかったとして、『〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉への虐め』を実行しようとした理由は聞きたいと思います」
「〈ヒロイン〉への虐め? どうしてそうなるのよ?」
「アリスさんの予定では、わたしの至らぬ点を厳しく指摘するつもりだったのでしょう? あえて嫌な言い方をすれば、徒党を組んでわたしを吊し上げ。
王子様と〈ヒロイン〉が〈悪役令嬢〉を断罪する材料になるようなことはアリスさんも徹底的に避けるものと思っていたためアリスさんの行動は意外でした。
アリスさんの希望はジュールさんにお見舞いに来て欲しいという話だったのに、なぜ待ち伏せ相手にわたしを選んだのかと併せて理由を聞きたいと思ったのです」
(うわ、本当に聞いた)(いきなり聞きましたね)
マジックミラーの向こうではジュールと学園長が震撼していた。この質問をするつもりと予めレイアから聞いていたものの、まさか開口一番に持ってくるとは思っていなかった。
レイアは彼女自身が「受付嬢アンドロイドの笑顔」と呼ぶ笑顔でアリスと対峙している。親しみのある礼儀正しく丁寧な態度、相手が臆せずものを尋ねることのできる親切そうで愛想の良い雰囲気、ただし性的アピールはなし——を心掛けている。
アリスに対する配慮も一応あって、襲撃の際に向かい合ったときの、口角をほんの少しだけ上げた笑顔(レイア自身は「モナリザの微笑擬」と内心呼んでいる)、あれをやると、あのときのアリスの恐怖を浮かべた表情再びとなってしまわないかと考えたため。
アリスは怯えていた。ソフィーの金切り声にいっさい動じることなく静かに立つレイアの無表情な笑顔は確かに怖かった。それ以上に今レイアが浮かべている笑顔が怖い。まるで貴族令嬢の笑顔、襲撃時に豹変する直前まではソフィーもロザリーも浮かべていた愛想の良い笑顔と重なった。
(怖いけど頑張らなくちゃ。うん、レイアさんは歯を見せて笑っているからソフィーさんやロザリーさんとは同じじゃない)とアリスは自分を奮い立たせた。
そして担当官が「最初にレイアさんがアリスさんに質問したいそうです」と言うから「はい、どうぞ」と答えたら、最初の質問が、
「今回の件がアリスさんのいう〈シナリオ〉では〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉の襲撃に該当しそうな今どんな気持ちか、聞いてみたかったのです」
目の前の少女に対するアリスの恐怖は一気に膨れあがったが、質問の意味を飲み込むと、ローズマリーへの誤解を絶対に解かなくてはいけないという義務感が恐怖を吹き飛ばした。
「違うっ! 違います。ローズマリー様があたしに指示したことじゃない。あたしの勝手な行動なんです。あたしにしたって襲撃なんてつもりはなくて!」
「そうだとしてもローズマリーさんの侍女である貴方が、わたしを襲ったソフィーさんと一緒に、わたしを待ち伏せしていたのも事実ですよね?」
アリスはハッとしたような顔をする。
「そうよ、『女好き枠』のお取り巻きと一緒に行動するなんて、あたしって本当にバカぁ。あの中の誰かにいつか刺されるんじゃないかって噂にもなっていたのに、そんな怖い人たちと一緒に、レイアさんに直談判に行くなんて。今回は濃硫酸だったけどナイフが出てきたかもしれないんだわ」
返答に困ったレイアは沈黙を選んだ。
「あたしはソフィーさんやロザリーさんに騙されたようなもんです。あの人たち、ローズマリー様には三人で待ち伏せするなんて言うな、知られたら絶対とめられるからって。あたしは何か怪しいと思うべきでした。だから、あたしが罰を受けるのはしょうがないけど、何も知らなかったローズマリー様だけはっ」
「わたしは裁判官ではないので罰を決める立場にありません。
ソフィーさんが濃硫酸とか物理的な暴力に走るなどと、アリスさんが予測できなかったことはわかります。しかし『〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉の襲撃』とは夢にも思わなかったとして、『〈悪役令嬢〉による〈ヒロイン〉への虐め』を実行しようとした理由は聞きたいと思います」
「〈ヒロイン〉への虐め? どうしてそうなるのよ?」
「アリスさんの予定では、わたしの至らぬ点を厳しく指摘するつもりだったのでしょう? あえて嫌な言い方をすれば、徒党を組んでわたしを吊し上げ。
王子様と〈ヒロイン〉が〈悪役令嬢〉を断罪する材料になるようなことはアリスさんも徹底的に避けるものと思っていたためアリスさんの行動は意外でした。
アリスさんの希望はジュールさんにお見舞いに来て欲しいという話だったのに、なぜ待ち伏せ相手にわたしを選んだのかと併せて理由を聞きたいと思ったのです」
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