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勇者登場

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城は魔界の中心に佇んでいる。

魔界へやってくる勇者たちは、まずはその入口にいる魔物たちを倒さなければならない。
そのため、城に着くころには体力も削られいつもは満身創痍の状態なのだが・・・

「魔物がいない?」

その様子に勇者たちは首を傾げた。

正確には魔物はそこかしこにいるのだが、勇者たちと一定の距離を保つように遠くから自分たちを見ている。
普段ならその姿を見ただけで
「人間が魔界になんのようだ?」
「ここは人間が来る場所じねえーよ!帰れ!」
と口々に言ってくるが、今回は目を合わせようともしない。

それもそのはず、前もって女王によって注意されていたのだ。
「次、勇者を見ても声をかけてはダメよ。
半径3メートル以内に近付くのもダメ。
これを破ったら女王じきじきにお仕置きするわ」

いつものように城のてっぺんで魔物全員にそう宣言したのはつい先日。
それにより、誰一人として勇者ご一行に喧嘩を売らなくなった。
なんせ女王のお仕置きは、限度を超えている。
お仕置きなんて生易しいものではないことをみな知っていた。

「なにが起きてるかよくわかんねーけどラッキーだな」
「今回は魔法使いも連れてきています。女王を倒せるときが来たかもしれませんね」
仲間たちの嬉しそうな言葉にも勇者は無言だった。
その表情からは何を考えているか伺えない。

勇者たちは城までの道のりを誰の邪魔も入ることなく進んでいった。


大きく頑丈な石の門を持つお城の前に勇者たちは立っていた。
門は開け放たれ、魔王を倒しに来た彼らを歓迎しているようにさえ見える。

その光景にまた首をかしげたとき、前を見ると人狼アルとイルが立っていた。

「あ、まじで魔法使いがいる」
「ほんとだ。女王のいったことが本当だってここで証明されたな」
「そうだねー」

なんてのんきに話しながら近づいてくるオオカミに、勇者たちは戦闘態勢に入るため剣を構えた。

「ま、そうなるよな」

アルとイルは予想通りの反応にため息をつく。
そして両手をひろげながらこう言った。

「ボクらは何もしない。今日はお前らと話がしたい」
「魔物が誰もお前らを攻撃しなかっただろう?
女王はお前との対話を望んでいる」

思ってもみなかった人狼の発言に、困惑する勇者たち。
「どういうことでしょうか?」
「対話などと言っているが・・・」

勇者の仲間である剣士と弓使いは、訳が分からない魔物の発言により一層警戒を強めた。

「そう簡単に分かりましたとはなんないよな」

勇者たちの反応に、アルは呟く。
そして、勇者たちに一歩近づいた。
攻撃しないことを示し、警戒を解いてもらうため無意識に出た一歩だ。
しかし、警戒していた勇者たちは逆の意味で受け取った。
油断させておいて攻撃する作戦だと捉えられたのだ。

弓使いが、構えていた弓をアルに放った。
「あ」
近い距離で放たれた弓に、これは避けられないとアルは悟った。
その時。

「ダメ!!!」

その弓はアルの身体に突き刺さる直前、ボッと音を立てて焼け落ちた。

その場にいる全員が声のした方向へと目を向ける。
そこには、真っ白のワンピースに身を包み、血のように赤い髪を風でなびかせた女の子が立っていた。


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