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第2話 これが畑です
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「一体どういうことだ? この数年で、小麦の生産量が大幅に増大しているぞ……?」
ミハイル=レーミアンは新任の代官だった。
アルトレウ侯爵家が治める広大な領内でも、かなり辺境に位置するこの地域。
それゆえ名目上は代官への昇格ということになっているが、正直、栄転とは言い難い。
むしろ左遷と呼んでもいいくらいだろう。
そうなってしまったのも、有能な上に正義感の強いミハエルのことを良く思わない者たちが、領内に多くいたせいだった。
それでも真面目なミハイルは、代官としての役割をまっとうしようと、前任者の残した資料などを確認しながら、まずは地域の現状把握に努めていたのだ。
そこで真っ先に調べたのが、ここ数年における、この地域での小麦の収穫量。
というのも、彼がこの地に来てから目にした農地がどれもこれも荒れ果てており、作物などロクに収穫できそうにない様相だったからだ。
きっと厳しい飢饉で、餓死者が大量に出ているに違いないと覚悟していたのだ。
「その割に、住民たちが餓えている様子がないのも変だと思っていたが……むしろ収穫量が増えているとはな」
さらに詳しく資料を見ていくと、小麦の収穫量が増大を始めたのは、ちょうど十二年ほど前からであることが分かった。
「この時期を境に、急激な収穫量の増大が始まっている。それ以前は、ごくごく平均的な、いや、むしろあまり芳しくない収穫量だったが……その頃と比べると今は三倍にもなっている……。だが人口は当時とほとんど変わらないし、何か革新的な農地改革があったとの記録もない……」
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりである。
その謎を確かめるべく、彼は自ら調査に赴くことにした。
部下に任せずに直接現場を見にいくというのが、彼のスタイルなのだ。
調べていくうちに、色々とおかしなことが分かってきた。
この地域で流通している小麦の生産者のもとへ赴いてみても、そこにあるのはもう何年も放置されたような荒れた畑だけだったのだ。
それも一か所や二か所ではない。
そこで生産者を問い詰めたところ、どうやら彼らは別のところから小麦を仕入れ、それを転売しているだけだという。
彼らが白状した仕入先。
驚くべきことに、それはすべて、ある一つの村だった。
「イセリ村……資料によれば、住民百人にも満たない小さな村のはずだが……」
無論こうなったら、そのイセリ村とやらに足を運ぶしかない。
ミハイルはすぐさまその村に向かった。
道中、やけに街道が整備されていることに疑問を抱きつつ、やがて目的のイセリ村が見えてきた。
「随分と立派な村だな……?」
とても小さな村とは思えない、高い防壁で囲まれ、分厚い門で護られている。
建ち並ぶ家屋も、こんな田舎の村には似つかわしくない造りをしていて、どれもこれも新しかった。
中でも村長の屋敷は豪華なものだった。
地方の下級貴族の屋敷に匹敵するかもしれない。
「なに? うちの村の畑を見たいじゃと? お主、一体何者じゃ? 余所者になぜ……え? 代官様!? し、失礼しましたっ! ですが、うちの村の畑など、見たところで何も面白いことなどありませぬが……」
ミハイルが素性を明かすと、村長は少し焦ったような反応を見せた。
何か疚しいことでもあるのかもしれない。
「今すぐ見せてもらおう。案内してくれ」
「は、はい……」
有無を言わさぬ態度で命じると、村長は観念したように頷いた。
そうして連れていかれた先は……。
「何だ、ここは? 森ではないか?」
「い、いえ、森ではありません……これが畑です」
「畑? いやいや、こんな生い茂った畑があるわけ……」
とそこで、彼はあることに気づく。
目の前の葉っぱが、じゃがいもの葉とそっくりであることに。
「向こうに見えるのはキャベツと似ているし、あっちはニンジンに……ま、まさか、これらは全部、巨大な野菜なのか……っ!?」
ミハイルが驚愕していると、空から何かが降ってくる。
「村長? 何か御用ですか?」
それは農具を担いだ青年だった。
ミハイル=レーミアンは新任の代官だった。
アルトレウ侯爵家が治める広大な領内でも、かなり辺境に位置するこの地域。
それゆえ名目上は代官への昇格ということになっているが、正直、栄転とは言い難い。
むしろ左遷と呼んでもいいくらいだろう。
そうなってしまったのも、有能な上に正義感の強いミハエルのことを良く思わない者たちが、領内に多くいたせいだった。
それでも真面目なミハイルは、代官としての役割をまっとうしようと、前任者の残した資料などを確認しながら、まずは地域の現状把握に努めていたのだ。
そこで真っ先に調べたのが、ここ数年における、この地域での小麦の収穫量。
というのも、彼がこの地に来てから目にした農地がどれもこれも荒れ果てており、作物などロクに収穫できそうにない様相だったからだ。
きっと厳しい飢饉で、餓死者が大量に出ているに違いないと覚悟していたのだ。
「その割に、住民たちが餓えている様子がないのも変だと思っていたが……むしろ収穫量が増えているとはな」
さらに詳しく資料を見ていくと、小麦の収穫量が増大を始めたのは、ちょうど十二年ほど前からであることが分かった。
「この時期を境に、急激な収穫量の増大が始まっている。それ以前は、ごくごく平均的な、いや、むしろあまり芳しくない収穫量だったが……その頃と比べると今は三倍にもなっている……。だが人口は当時とほとんど変わらないし、何か革新的な農地改革があったとの記録もない……」
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりである。
その謎を確かめるべく、彼は自ら調査に赴くことにした。
部下に任せずに直接現場を見にいくというのが、彼のスタイルなのだ。
調べていくうちに、色々とおかしなことが分かってきた。
この地域で流通している小麦の生産者のもとへ赴いてみても、そこにあるのはもう何年も放置されたような荒れた畑だけだったのだ。
それも一か所や二か所ではない。
そこで生産者を問い詰めたところ、どうやら彼らは別のところから小麦を仕入れ、それを転売しているだけだという。
彼らが白状した仕入先。
驚くべきことに、それはすべて、ある一つの村だった。
「イセリ村……資料によれば、住民百人にも満たない小さな村のはずだが……」
無論こうなったら、そのイセリ村とやらに足を運ぶしかない。
ミハイルはすぐさまその村に向かった。
道中、やけに街道が整備されていることに疑問を抱きつつ、やがて目的のイセリ村が見えてきた。
「随分と立派な村だな……?」
とても小さな村とは思えない、高い防壁で囲まれ、分厚い門で護られている。
建ち並ぶ家屋も、こんな田舎の村には似つかわしくない造りをしていて、どれもこれも新しかった。
中でも村長の屋敷は豪華なものだった。
地方の下級貴族の屋敷に匹敵するかもしれない。
「なに? うちの村の畑を見たいじゃと? お主、一体何者じゃ? 余所者になぜ……え? 代官様!? し、失礼しましたっ! ですが、うちの村の畑など、見たところで何も面白いことなどありませぬが……」
ミハイルが素性を明かすと、村長は少し焦ったような反応を見せた。
何か疚しいことでもあるのかもしれない。
「今すぐ見せてもらおう。案内してくれ」
「は、はい……」
有無を言わさぬ態度で命じると、村長は観念したように頷いた。
そうして連れていかれた先は……。
「何だ、ここは? 森ではないか?」
「い、いえ、森ではありません……これが畑です」
「畑? いやいや、こんな生い茂った畑があるわけ……」
とそこで、彼はあることに気づく。
目の前の葉っぱが、じゃがいもの葉とそっくりであることに。
「向こうに見えるのはキャベツと似ているし、あっちはニンジンに……ま、まさか、これらは全部、巨大な野菜なのか……っ!?」
ミハイルが驚愕していると、空から何かが降ってくる。
「村長? 何か御用ですか?」
それは農具を担いだ青年だった。
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