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第27話 西野璃菜
次の目的地はエスルド王国北西部の辺境にあった。
道のりとしては、まずメルダウンから馬車で西へ。
およそ一週間をかけて王国の王都に辿り着くと、そこからさらに馬車で北西に進み、セーレンという都市へと移動する。それがまた一週間ほどの行程だ。
さらにそこから北へ三日ほどかけて、エートと呼ばれる町へ。
しかしそれでもまだゴールではない。
俺たちが向かうのは、エートの町からもっと北西へと進んだ山の中だった。
「こんな山の中に何があるんだ?」
「分かりません。色々と訊いてはみたんすけど、何の情報も得られなかったんですよね……」
俺と先輩は馬車の中で、この国の地図を広げながら改めてルートを確認していた。
メルダウンで買った地図に、さらに旅の途中で立ち寄った宿場町などで得た情報を書き込んだものだ。
もちろんこの世界に流通している地図の精度は、日本のそれと比べると遥かに粗い。
しかし俺の視界に表示できる地図と合わせることによって、かなり正確に位置情報が分かるようになっていた。
ただ、目的地の光点の場所について訊ねてみても、誰も知らない。
何かあるのかと思っていたが……本当にただの山の中だったりして。
ともかく行ってみるしかなさそうだ。
その場所が近くなってくれば、知っている人も出てくるかもしれないしな。
ちなみに現在は王都を出発し、セーレンへと向かっているところだ。
途中で駅馬車の運営者が代わっため、改めて護衛の契約を交し直していた。
馬車の護衛をしつつ、可能な範囲で先輩のレベル上げも行っている。
アヤカ
種族:人間
職業:アマゾネス
レベル:4
スキル:〈剣技・E〉〈体技・D〉〈怪力・E〉〈頑丈・E〉〈闘気・E〉
「レベル4か……。やはりそう易々と上がるものではないようだな」
「十日で三つ上がれば早い方ですよ。……たぶん」
俺は数時間で上がったけど……。
まぁあれはダンジョンでガンガン魔物を倒してったからな。
できる限り先輩に譲ってはいるが、魔物が現れるのはせいぜい数時間に数体程度。
それも弱い魔物ばかりだ。
なかなか上がらないのも無理はない。
どこかでレベル上げに専念するべきだな。
ただしやるとすれば、もっと目的地に近づいてからが良いだろう。
いつ次のクエストが発生するか分からないし。
やがて俺たちはエートの町へと辿り着いた。
王都やメルダウンに比べるとかなり小さな町である。
人口は数百人程度らしい。
そこで再び目的地の情報について集めることにした。
訊き込み調査だ。
すると何人か知っている人がいた。
「もしかしてゴアス村のことじゃないかい?」
「ゴアス村、ですか?」
「ああ。確か、そんな村が山の奥にあったはずさ。たまーに、この町に特産物を持ってくることはあるけど、ほとんど人の行き来はないねぇ」
彼らも実際に行ったことは無いそうだが、噂によると本当に小さな村らしい。
戸数もせいぜい二、三十ほどしかないとか。
エートからは途中、険しい山道を通らなければならないため、馬車も通れないらしい。
つまり徒歩でしか行けないそうだ。
「随分と辺鄙なところに村があるんだな……」
「ですね。エートの町からだと、歩いて二日はかかるみたいです」
道のりは大変そうだが、それでも村があるだけまだマシだ。
となると、次の要救助者はそこで生活しているのだろうか?
聞き込みしていると、少々不安になることを言う人もいた。
「ゴアス村に行きたい? 悪いことは言わねぇ、やめておいた方がいいぜ」
「どうしてですか?」
「何でも村の近くに怖ろしい化け物が住んでるって噂だぜ」
「化け物?」
「詳しくは知らねぇがな」
そんなのが住んでいたら、そもそも村自体が成り立たない気がするが……。
「それに、あの村の連中は何か変なんだよな」
「変?」
「ああ。どこがどうって言われると難しいんだが……」
……嫌な予感しかしない。
まぁこれまでのクエストから考えて、そう簡単に救出できるはずがないよな。
◇ ◇ ◇
西野璃菜は自分のことを世界で一番可愛いと思っていた。
実際、中学の頃からファッション雑誌の読者モデルとして活躍している彼女は、今や某人気雑誌で専属モデルをしている。
最近ではモデル以外の仕事も増えつつあった。
当然、クラス内――――いや、校内で最もイケている女子は自分だと思っている。
だからこそ気に入らない。
女子の大半がまるで信者のように崇めている、あの女のことが。
早乙女詩織。
天蘭学園の生徒会長である。
清楚な黒髪に、きっちり着こなした制服。
成績優秀で常に学年トップ。
特技のピアノは全国コンクールで優勝するほどの腕前。
まさに才色兼備を絵に描いたような人間だ。
大人や教師たちからすれば、確かに理想的な女子高生像かもしれない。
しかし璃菜からすれば、いかにも野暮ったくて垢抜けない、所詮は素人美人だった。
天蘭学園は元々女子高だったこともあって、お嬢様系の女子が多い。
明らかにタイプが違う璃菜がなぜこの学校に入学したのかというと、地元の名士である父親のせいだった。
読者モデルのような活動に眉をひそめる堅物であり、活動を認めてもらう条件の一つが、この学校に通うことだったのである。
それでも入学前は、自分なら周りの女子たちを巻き込んで変えていけると考えていた。
璃菜さん凄いと崇められ、ファッションについてのアドバイスを常に求められる。
クラスの、いや、学校の中心。
それこそが璃菜の描く理想だったのだ。
二年生となった今、現実はそれと真逆だ。
入学当初こそ璃菜に感化されて、髪を染めたり、制服や持ち物を可愛らしくコーディネートしたりする女子が増えつつあった。
だが早乙女詩織が生徒会長になると同時、そうした服装に対する目が厳しくなった。
そして真っ先に目を付けられたのが、璃菜と、璃菜に賛同していた女子のグループだった。
あっさりと叩き潰された。
「まぁ生徒会長が言うなら仕方ないよ」
「そうそう」
あっという間に離れていく女子たち。
璃菜にはそれを引き留めておけるだけの求心力がなかった。
あたしは今、読モ界では女子高生のカリスマとまで言われてんのよ?
何でどいつもこいつも、あんな女の方に付くのよっ!
お陰で現在、学校に友人と言える存在はほとんどいない。
以前は仕事のとき同様、学校でも表面的には笑顔でいるように努めていたが、最近では面倒になって〝素〟でいることも多くなってきていた。
結果、ますます周囲から敬遠されるという悪循環である。
「……何なのよ、これ……?」
そんな彼女もまた、足元に突然現れた魔法陣によって、この世界へと転移させられてしまったのだった。
見渡す限り、山、山、山。
明らかに山奥だった。
ただし人が住んでいるらしく、小屋のようなものがぽつぽつと立ち並び、その間を縫うように畑らしきものが広がっている。
小さな村だ。
呆然と立ち尽くしていると、背後から声が聞こえてきた。
「おい、今いきなり人が現れたぞ?」
「何者だ?」
振り返った璃菜が見たのは、どう見ても日本人ではない男たちだった。
明らかに日本語ではないというのに、なぜか彼らの言語を理解できる。
訳が分からず困惑する璃菜は、彼らによって村へと案内された。
「ここはゴアス村と言います」
「え? よーろっぱ……? いえ、ここはエスルド王国領内でして……」
村人たちの話を通じて、璃菜は少しずつ自らの置かれた状況を理解し始める。
ここは日本どころか、海外ですらない。
自分はどうやら地球とはまったく別の世界に来てしまったらしい。
そのことに璃菜は最初、大いに絶望した。
だが思いのほか早く立ち直ったと言っていいだろう。
というのも、村人たちが自分のことを丁重にもてなして……いや、もはや崇拝と言っても過言ではないくらいの扱いをしてくれたからだ。
「ルナ様、今晩のお食事でございます」
「ルナ様、お着替えをお持ちいたしました」
「ルナ様、お湯のご用意ができました」
彼女はそうした扱いに酔いしれた。
そう、これよ。
あたしを前にしたら、こんな風に誰もが平伏すべきなのよ。
確かに、食事も寝床も村では常に最上級のものを与えられたが、それでも日本での暮らしと比べれば遥かに質素だ。
それでも彼女にとっては、この村での生活は非常に居心地の良いものだった。
――彼女は気づいていなかった。
村人たちが時折見せる、狂信的な瞳に。
◇ ◇ ◇
クエスト発生!
邪竜を討伐し、生贄少女を救出せよ。
推定タイムリミット【168:00:00】
道のりとしては、まずメルダウンから馬車で西へ。
およそ一週間をかけて王国の王都に辿り着くと、そこからさらに馬車で北西に進み、セーレンという都市へと移動する。それがまた一週間ほどの行程だ。
さらにそこから北へ三日ほどかけて、エートと呼ばれる町へ。
しかしそれでもまだゴールではない。
俺たちが向かうのは、エートの町からもっと北西へと進んだ山の中だった。
「こんな山の中に何があるんだ?」
「分かりません。色々と訊いてはみたんすけど、何の情報も得られなかったんですよね……」
俺と先輩は馬車の中で、この国の地図を広げながら改めてルートを確認していた。
メルダウンで買った地図に、さらに旅の途中で立ち寄った宿場町などで得た情報を書き込んだものだ。
もちろんこの世界に流通している地図の精度は、日本のそれと比べると遥かに粗い。
しかし俺の視界に表示できる地図と合わせることによって、かなり正確に位置情報が分かるようになっていた。
ただ、目的地の光点の場所について訊ねてみても、誰も知らない。
何かあるのかと思っていたが……本当にただの山の中だったりして。
ともかく行ってみるしかなさそうだ。
その場所が近くなってくれば、知っている人も出てくるかもしれないしな。
ちなみに現在は王都を出発し、セーレンへと向かっているところだ。
途中で駅馬車の運営者が代わっため、改めて護衛の契約を交し直していた。
馬車の護衛をしつつ、可能な範囲で先輩のレベル上げも行っている。
アヤカ
種族:人間
職業:アマゾネス
レベル:4
スキル:〈剣技・E〉〈体技・D〉〈怪力・E〉〈頑丈・E〉〈闘気・E〉
「レベル4か……。やはりそう易々と上がるものではないようだな」
「十日で三つ上がれば早い方ですよ。……たぶん」
俺は数時間で上がったけど……。
まぁあれはダンジョンでガンガン魔物を倒してったからな。
できる限り先輩に譲ってはいるが、魔物が現れるのはせいぜい数時間に数体程度。
それも弱い魔物ばかりだ。
なかなか上がらないのも無理はない。
どこかでレベル上げに専念するべきだな。
ただしやるとすれば、もっと目的地に近づいてからが良いだろう。
いつ次のクエストが発生するか分からないし。
やがて俺たちはエートの町へと辿り着いた。
王都やメルダウンに比べるとかなり小さな町である。
人口は数百人程度らしい。
そこで再び目的地の情報について集めることにした。
訊き込み調査だ。
すると何人か知っている人がいた。
「もしかしてゴアス村のことじゃないかい?」
「ゴアス村、ですか?」
「ああ。確か、そんな村が山の奥にあったはずさ。たまーに、この町に特産物を持ってくることはあるけど、ほとんど人の行き来はないねぇ」
彼らも実際に行ったことは無いそうだが、噂によると本当に小さな村らしい。
戸数もせいぜい二、三十ほどしかないとか。
エートからは途中、険しい山道を通らなければならないため、馬車も通れないらしい。
つまり徒歩でしか行けないそうだ。
「随分と辺鄙なところに村があるんだな……」
「ですね。エートの町からだと、歩いて二日はかかるみたいです」
道のりは大変そうだが、それでも村があるだけまだマシだ。
となると、次の要救助者はそこで生活しているのだろうか?
聞き込みしていると、少々不安になることを言う人もいた。
「ゴアス村に行きたい? 悪いことは言わねぇ、やめておいた方がいいぜ」
「どうしてですか?」
「何でも村の近くに怖ろしい化け物が住んでるって噂だぜ」
「化け物?」
「詳しくは知らねぇがな」
そんなのが住んでいたら、そもそも村自体が成り立たない気がするが……。
「それに、あの村の連中は何か変なんだよな」
「変?」
「ああ。どこがどうって言われると難しいんだが……」
……嫌な予感しかしない。
まぁこれまでのクエストから考えて、そう簡単に救出できるはずがないよな。
◇ ◇ ◇
西野璃菜は自分のことを世界で一番可愛いと思っていた。
実際、中学の頃からファッション雑誌の読者モデルとして活躍している彼女は、今や某人気雑誌で専属モデルをしている。
最近ではモデル以外の仕事も増えつつあった。
当然、クラス内――――いや、校内で最もイケている女子は自分だと思っている。
だからこそ気に入らない。
女子の大半がまるで信者のように崇めている、あの女のことが。
早乙女詩織。
天蘭学園の生徒会長である。
清楚な黒髪に、きっちり着こなした制服。
成績優秀で常に学年トップ。
特技のピアノは全国コンクールで優勝するほどの腕前。
まさに才色兼備を絵に描いたような人間だ。
大人や教師たちからすれば、確かに理想的な女子高生像かもしれない。
しかし璃菜からすれば、いかにも野暮ったくて垢抜けない、所詮は素人美人だった。
天蘭学園は元々女子高だったこともあって、お嬢様系の女子が多い。
明らかにタイプが違う璃菜がなぜこの学校に入学したのかというと、地元の名士である父親のせいだった。
読者モデルのような活動に眉をひそめる堅物であり、活動を認めてもらう条件の一つが、この学校に通うことだったのである。
それでも入学前は、自分なら周りの女子たちを巻き込んで変えていけると考えていた。
璃菜さん凄いと崇められ、ファッションについてのアドバイスを常に求められる。
クラスの、いや、学校の中心。
それこそが璃菜の描く理想だったのだ。
二年生となった今、現実はそれと真逆だ。
入学当初こそ璃菜に感化されて、髪を染めたり、制服や持ち物を可愛らしくコーディネートしたりする女子が増えつつあった。
だが早乙女詩織が生徒会長になると同時、そうした服装に対する目が厳しくなった。
そして真っ先に目を付けられたのが、璃菜と、璃菜に賛同していた女子のグループだった。
あっさりと叩き潰された。
「まぁ生徒会長が言うなら仕方ないよ」
「そうそう」
あっという間に離れていく女子たち。
璃菜にはそれを引き留めておけるだけの求心力がなかった。
あたしは今、読モ界では女子高生のカリスマとまで言われてんのよ?
何でどいつもこいつも、あんな女の方に付くのよっ!
お陰で現在、学校に友人と言える存在はほとんどいない。
以前は仕事のとき同様、学校でも表面的には笑顔でいるように努めていたが、最近では面倒になって〝素〟でいることも多くなってきていた。
結果、ますます周囲から敬遠されるという悪循環である。
「……何なのよ、これ……?」
そんな彼女もまた、足元に突然現れた魔法陣によって、この世界へと転移させられてしまったのだった。
見渡す限り、山、山、山。
明らかに山奥だった。
ただし人が住んでいるらしく、小屋のようなものがぽつぽつと立ち並び、その間を縫うように畑らしきものが広がっている。
小さな村だ。
呆然と立ち尽くしていると、背後から声が聞こえてきた。
「おい、今いきなり人が現れたぞ?」
「何者だ?」
振り返った璃菜が見たのは、どう見ても日本人ではない男たちだった。
明らかに日本語ではないというのに、なぜか彼らの言語を理解できる。
訳が分からず困惑する璃菜は、彼らによって村へと案内された。
「ここはゴアス村と言います」
「え? よーろっぱ……? いえ、ここはエスルド王国領内でして……」
村人たちの話を通じて、璃菜は少しずつ自らの置かれた状況を理解し始める。
ここは日本どころか、海外ですらない。
自分はどうやら地球とはまったく別の世界に来てしまったらしい。
そのことに璃菜は最初、大いに絶望した。
だが思いのほか早く立ち直ったと言っていいだろう。
というのも、村人たちが自分のことを丁重にもてなして……いや、もはや崇拝と言っても過言ではないくらいの扱いをしてくれたからだ。
「ルナ様、今晩のお食事でございます」
「ルナ様、お着替えをお持ちいたしました」
「ルナ様、お湯のご用意ができました」
彼女はそうした扱いに酔いしれた。
そう、これよ。
あたしを前にしたら、こんな風に誰もが平伏すべきなのよ。
確かに、食事も寝床も村では常に最上級のものを与えられたが、それでも日本での暮らしと比べれば遥かに質素だ。
それでも彼女にとっては、この村での生活は非常に居心地の良いものだった。
――彼女は気づいていなかった。
村人たちが時折見せる、狂信的な瞳に。
◇ ◇ ◇
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邪竜を討伐し、生贄少女を救出せよ。
推定タイムリミット【168:00:00】
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