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第09部 魔王たちの産声 歪

第4幕 第5蒐 贈り物

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「おはようございます、今日が楽しみで良く眠れました。寝心地も良い部屋をありがとうございます。1泊幾らです?」
「タダだ、後最上階のフロアは全部お前にやる、毒物も使うなら専用の部屋も必要だろう?風呂は好きか?」
「普通ですし、必要ありませんよ」
「そうか、風早。調合室とクラークラック達の湯を風呂に引いてくれ、それとアメニティ類も最上級品で揃えろ」   『承知しました、温室と良質な土を用いた畑も用意します』
「ああ」
『半日程で完成します』
「要りません」
「オーナーは俺達だ、嫌なら出て行けば良い」
商業エリアで待っていた蒐集家と、大河、千歳、ラジカ、ジラと崇幸と左胸に留まる千眼で合流した。    
「分かりました」
「貴方の店を用意しました、そちらで契約しましょう」
「分かりました」
「あんたが蒐集家か、凝った服だな。俺は崇幸だ、よろしく。それとゴーレムの修復とかしないか?道具と材料はあるから」
「ゴーレムの修復ですか?面白そうですね、良いですよ」
崇幸の腕に抱かれた2体のゴーレムを受け取り収納にしまう、ゴーレムを直せば借りを返せるとでも思った蒐集家にラジカとジラが内心笑う、まさか直したゴーレムに傀儡魔法と核を入れて返されるとは微塵も思っていないだろう、その時どんな表情を浮かべるのか楽しみだった。

商業エリアの一角、コンクリート調の四角い建物に草花の絵が描かれアシューとサウが出迎えてくれた。
「地上3階、地下2階のエスカレーター、エレベーター付きの建物だ」
「明日には中の絵も完成しますよ!すごい楽しいです!崇幸さんありがとうございます!」
「じゃ、一休みしような。ほら、中に入ろう」
「普通の露店で良いのですが」
「気 に入らないなら、出ろ」
「分かりましたよ、1ヶ月幾らですか?賃貸料は?」
「永久無料だ、この建物もやる」
「アンタ……」
「化けの皮が剥がれそうだ、此方はお前が使おうが使わまいどちらでもいい。此処にいる限りは好き勝手出来るとは思わない事だな」
大河の言葉に蒐集家の言葉が崩れる、ラジカとジラは心の中で盛大に拍手を贈り、そんな2人を見て千歳は笑った。
「あんた好きか食べ物とかは?」
「ありません」
「じゃ、適当に食ってくれ。準備するから」
「頂きます」
「では、こちらが契約書ですサインして下さい」
「なんですか、この『オーナー達の機嫌を損ねたら即出禁 以上』とは?」
「読んだ通りです、さっさとサインしたらどうです?しなくても構いませんよ」
一階は正面には階段と右側にはエスカレーター、空間魔法が使われているのか見た目より広く左側にはカウンターと棚が配置され、その脇にはソファと背の低いガラステーブル、その向かい側にはガラス質の椅子とテーブルが置かれている。
「地下1階2階は倉庫にも出来るし、温度管理も出来る、冷蔵冷凍適温に設定可能だ。後で2階と3階と屋上もあるから確認して変更したい部分があれば言ってくれ」
崇幸が準備出来たと軽食を並べてくれる、蒐集家はサインしてラジカに書類を返した。
「はい、これでこの店は貴方の店ですよ。明日引き渡しで、禁止品を並べた瞬間に此方に話が来ますから。それで利用出来なくても構いません」
「いい、店じゃん。良かったなータダで、オーナー達の機嫌を損なうなよー」
「ええ、精々励みます」
ラジカとジラからの嫌味にも平然としている、崇幸に促され一応席には座り、左胸の蝶から姿を人型へと転じた千眼も共に食卓を囲んだ。
「何を飲む…」
「なんでもいいです、無くてもいいです」
「なら、これを。それとあんパンで良いか?」
「いただきます」
サイダーのペットボトルを受け取りキャップを外して飲む、あんパンもちぎって口に運んでいく。
「へぇ、アンタ飯を食うんだな」
「味や何を食べるかもどうでもいいですが、最低限は食べますよ」
ジラが食べている蒐集家を眺め感想を伝える、サイダーもコクりと飲む特に感想は無いが、残さずサイダーも飲み干した。
「風早、コイツの食事も用意しろ」
『承知しました』
「はいはい、サインしましたからお好きにどうぞ」
大河がお茶とクッキーを食べながら告げれば風早がすぐに対応する、好きにしてくれと言わんばかりに投げ遣りに答えた。
「あんた、名前は?」
「蒐集家です」
「通り名だろ?ちゃんと名前で呼びたいんだが?」
「蒐集家も立派な名前です、蒐集家かあんたかお前で構いません」
「そうか、よろしくな」
「はい」
崇幸の質問に淡々と答える、他の面子も食事を終えてアシューとサウは絵の続きを行い、ラジカと千歳は他の出店の契約を行いに向かい、大河とジラが見張りとして残った。

「ね、グリちゃん、イザラちゃん、タナトスちゃん、ウォル君。この子達に名前を付けてあげないとね」
一方此方は龍皇国のグローリー宅、ニジェルガ達に挨拶しカーテスと一緒に来た面々は懐記から空き家を貰い下街に住む事に決めて分かれた。
現在グローリーの家にいるのは、グローリー、イザラ、ウォルゾガ、カーテス、タナトス、魔人の子供達とゴーレムとヒヨコとおりがみの子達だった。
「うーんおとたんー」
「うーぱぱー」
「私は関係ないのでご自由に」
「ダメ、一緒に暮らしているんだから、家族です。話し合いには参加してね」
「……………」
行く場所がなく出られない(次はニジェルガの寝室)から此処にいるだけだ、家族じゃない。
「グリちゃんがお父さんだから名前を付けてあげてね」
「名前……」
「大事な物だからな、グリ」
「父さん…」
顔色1つ変わらないが途方にくれているグローリーを、イザラが見つめる。
「すぐでなくてもいいから、親が最初に子供にする贈り物だからね」
「贈り物…」
「そう、大事な事だよ。グリちゃん」
「わかっ…た…考える」
「うん!」
「俺は懐記の所で飯教わってくるけど親父は?」
「ご近所さんの引っ越しの手伝い、子供たちを連れて行くよ。おやつを食べようね」
「うんー」
「うー」
タタ…とグローリーの足からカーテスの足に移動する、イザラも行くようで、久しぶりの感じがする1人だ。
「グリも一緒に行くか?」
「おりがみとゴーレムを直す…」
「そうか、飯持ってくるからな」
「うん」
グローリーとタナトスが2人だけになるのも久しぶりな気もする、数日前の事だがこの家も随分変わった。
「お茶飲む?」
「貴方が飲むならついでで構いません」
ゴーレムがお茶の準備をしてくれる、タナトスしかいない日は時間でゴーレムやヒヨコが用意してくれていた。
タナトスも他人の事を言えないが、目の前の魔神も随分人らしい仕草や感情を出す様になった。
「クッキー…どうぞ」
「どうも」
可愛い型のクッキーが並ぶ、グローリーは可愛い型のは食べない丸い形のばかりを食べていた。
随分可愛らしい思考の魔神だ、人の形をした全く違う異形の化け物のくせにとタナトスはドラゴンの形のクッキーを噛み砕いた…。
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