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第09部 魔王たちの産声 歪
第4幕 第12蒐 主亡き城と国
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「気配が何もない…ですね?」
「命がない…」
「なんだここ気味が悪い」
「静かだな」
雨が降り始めた《コオン》の王城謁見の間に乗り込んだ4名、産まれたヒヨコはイザラの方に乗り静まり気配もない城の中をグリが見渡し不気味な静けさにイザラが眉を顰めた。
「どうします?」
「何がお起きているのか、状況を確認したいな。グリ、どこかに誰かいないか分かるか?」
「この城にはいない…」
「…………」
蒐集家が玉座を無言で眺め何も言わない、大河がそれを確認し一旦城に出る事に決めた。
「神々から電話か、少し待て。俺だ……ああ、………そうか、で、生きている人間は?………そうか…分かった。神々からこの国の国王とその側近たちはもうこの世界に存在しない。何故そうなったかは神々も分からないらしい」
「……分かった、大河帰る?」
「そうだな、お前は?」
「少し街を見て戻ります」
「なら、俺もそうする。グリ、イザラと《島船》へ状況を皆に先に伝えてくれ」
「分かった…行こうイザラ」
「わかった…」
コクリとグローリーが頷き黒と白の空間を出現させ、イザラを連れて《島船》へと向かった。
「大河さんも戻ったらどうです?」
「気にするな」
「………」
空は晴れているのに雨が降っている、狐の嫁入りの天気…おそらく原因は蒐集家だなと大河は思う。
大した造りでもない城を出て街に向かう、すれ違う者もいなければ門番もいないのでスムーズに出られた。
街のおそらく栄えているだろう、市場の露店にも道にも人はいないが気配ひそこかしこでしている、此方を伺うように覗いている視線に大河は眉を歪ませた。
「商人や裕福な人はいなさそうですね、反乱が成立した訳でもないので逃げだしたか」
「街が綺麗だからか?」
「ええ、血の臭いはあまりしないですし」
大河の綺麗というのは街並みがではなく暴動等が起きたという感じでもない、日常の生活の中で必要最低限の物を持ち出し逃げたしたという表現がこの状態に当てはまる。
「まだ見回ります?」
「お前が見るならな」
「これから面白くなるから、邪魔なんですが」
「だろうな、もうその胡散臭い敬語も止めたらどうだ?」
「胡散臭いのも私の売りです」
差程身長の変わらない2人が並んで睨み合う、周囲の気配が近づく。
「来た」
「話しを聞ければいいが」
「聞けますよ?簡単な話しだ」
蒐集家の口元が大きく歪む、楽しんでいるのだろうこの不可思議な事態を、大河はこの目の前の人物を《アタラクシア》で今まで出逢ったどの人物達よりも危ないと認識していた。
「身なりがいいな、金を置いていけ」
「金…」
「コイツらも売り払おうぜ」
細道かぞろぞろとぼろ布を纏った人々が剣やら武器やらを携え現れる、蒐集家も大河も彼らをよく観察しながらどうするか考えた。
「おい、金だせ。そのよくわからん服も脱げ」
「へへ、この国は俺達のもんだ」
「俺らがこの国の王だ」
剣や武器には血が付着し赤黒い、よくよく見れば服はボロボロだが腕や首には宝飾品を飾り栄養は足りていない様子だが血色良い。
「この国の王や兵士はどこに行った?」
「へへ、しらね。金ださないなら…」
「どうぞ、どれくらい欲しいのですか?」
「あん、いくらでも!」
「置いてけ!有り金ぜんぶ」
「はい、どうぞ」
大きく歪に嗤う蒐集家、指を鳴らし彼らの上に空間が開きコインが雨のように降り注ぐ止むことのないコインに宝石までが落ちてきた。
「金だ!」
「宝石もある!」
「お、おれのもんだ!」
「あたいのよ!!」
「寄越しな!」
何処からかわらわらと人々が集まり地面に落ちたコインや宝石をかき集める、その様を蒐集家が嗤って眺めていた。
趣味が悪い、この光景も人々の顔も隣の蒐集家の嗤い顔も、降り注ぐ財宝も何もかも最悪な光景だ。
「おお、王冠が降って来たぞ」
「どうぞ、王様には必要でしょう」
「すげぇ、全部宝石か!」
降り注ぐ財宝の中に王冠を見つけた薄汚い男がその王冠を頭に被る、その王冠に血が付いていようがお構い無しだ、目の前の財に狂気と狂喜を混ぜながら人々群がる。
「この、宝は全部俺のもんだ!」
「俺のだ」
「あたいのよ!」
「誰にもやらん!」
「よこせ!」
やがて宝に目が眩んだ人々が降り注ぐ財宝を独占しようと、諍いが始まった。
「揉めなくてもまだまだありますよ」
「もっともっと」
「全部」
「おれのもんだ!」
蒐集家の慈悲深い声に更に独占したい欲望が膨らむ、大河は何度も本で読んだ光景だと思う、山分けでも充分な量を欠片も残さず自らの物にしたい人の欲望…決まって最期は……。
「ぎゃあああー」
「この!」
「おれの宝にさわんな!」
「俺の金!」
「あたいの宝石!」
殺し合いが始まった、持っていた武器で斬り合う、悲鳴と宝の所有欲、狂気と欲望が降り注ぐ雨と交わっていった。
「もう飽きた、この国はお仕舞いだ。戻ります、どうします?止めます?止めるならお1人でどうぞ」
「帰るぞ」
「………はい」
欠伸を噛み殺した蒐集家の問いに大河も踵を返す、全員で分け合えば大河は手を差しのべた。
殺し合い以外の方法でしか宝を手に入れられない彼等を少し憐れみ、大河は転移魔法を発動させ蒐集家を連れて《島船》へと戻った。
数時間後…宝を独占しようとした人々のうち最期に残った2名のうち1人が斬り伏せられ王冠を被った男が血塗れの剣を片手に歓喜の声を上げた刹那……目鼻口耳から赤黒い血を吹き出しその場に倒れた。
正しく山の如く積まれた宝に震える手を伸ばした途端、宝が全て目の前で消えてしまい男の手が力無く地面に落ちた。
『その王冠はあげましょう、良くお似合いですよ。嘗て自分の欲望のままに民を蹂躙し民に粛清された王の物です』
男の耳元で囁かれる言葉、それを聞いて男は事切れた…。
この瞬間、真に《コオン》が滅んだ瞬間だった…。
「命がない…」
「なんだここ気味が悪い」
「静かだな」
雨が降り始めた《コオン》の王城謁見の間に乗り込んだ4名、産まれたヒヨコはイザラの方に乗り静まり気配もない城の中をグリが見渡し不気味な静けさにイザラが眉を顰めた。
「どうします?」
「何がお起きているのか、状況を確認したいな。グリ、どこかに誰かいないか分かるか?」
「この城にはいない…」
「…………」
蒐集家が玉座を無言で眺め何も言わない、大河がそれを確認し一旦城に出る事に決めた。
「神々から電話か、少し待て。俺だ……ああ、………そうか、で、生きている人間は?………そうか…分かった。神々からこの国の国王とその側近たちはもうこの世界に存在しない。何故そうなったかは神々も分からないらしい」
「……分かった、大河帰る?」
「そうだな、お前は?」
「少し街を見て戻ります」
「なら、俺もそうする。グリ、イザラと《島船》へ状況を皆に先に伝えてくれ」
「分かった…行こうイザラ」
「わかった…」
コクリとグローリーが頷き黒と白の空間を出現させ、イザラを連れて《島船》へと向かった。
「大河さんも戻ったらどうです?」
「気にするな」
「………」
空は晴れているのに雨が降っている、狐の嫁入りの天気…おそらく原因は蒐集家だなと大河は思う。
大した造りでもない城を出て街に向かう、すれ違う者もいなければ門番もいないのでスムーズに出られた。
街のおそらく栄えているだろう、市場の露店にも道にも人はいないが気配ひそこかしこでしている、此方を伺うように覗いている視線に大河は眉を歪ませた。
「商人や裕福な人はいなさそうですね、反乱が成立した訳でもないので逃げだしたか」
「街が綺麗だからか?」
「ええ、血の臭いはあまりしないですし」
大河の綺麗というのは街並みがではなく暴動等が起きたという感じでもない、日常の生活の中で必要最低限の物を持ち出し逃げたしたという表現がこの状態に当てはまる。
「まだ見回ります?」
「お前が見るならな」
「これから面白くなるから、邪魔なんですが」
「だろうな、もうその胡散臭い敬語も止めたらどうだ?」
「胡散臭いのも私の売りです」
差程身長の変わらない2人が並んで睨み合う、周囲の気配が近づく。
「来た」
「話しを聞ければいいが」
「聞けますよ?簡単な話しだ」
蒐集家の口元が大きく歪む、楽しんでいるのだろうこの不可思議な事態を、大河はこの目の前の人物を《アタラクシア》で今まで出逢ったどの人物達よりも危ないと認識していた。
「身なりがいいな、金を置いていけ」
「金…」
「コイツらも売り払おうぜ」
細道かぞろぞろとぼろ布を纏った人々が剣やら武器やらを携え現れる、蒐集家も大河も彼らをよく観察しながらどうするか考えた。
「おい、金だせ。そのよくわからん服も脱げ」
「へへ、この国は俺達のもんだ」
「俺らがこの国の王だ」
剣や武器には血が付着し赤黒い、よくよく見れば服はボロボロだが腕や首には宝飾品を飾り栄養は足りていない様子だが血色良い。
「この国の王や兵士はどこに行った?」
「へへ、しらね。金ださないなら…」
「どうぞ、どれくらい欲しいのですか?」
「あん、いくらでも!」
「置いてけ!有り金ぜんぶ」
「はい、どうぞ」
大きく歪に嗤う蒐集家、指を鳴らし彼らの上に空間が開きコインが雨のように降り注ぐ止むことのないコインに宝石までが落ちてきた。
「金だ!」
「宝石もある!」
「お、おれのもんだ!」
「あたいのよ!!」
「寄越しな!」
何処からかわらわらと人々が集まり地面に落ちたコインや宝石をかき集める、その様を蒐集家が嗤って眺めていた。
趣味が悪い、この光景も人々の顔も隣の蒐集家の嗤い顔も、降り注ぐ財宝も何もかも最悪な光景だ。
「おお、王冠が降って来たぞ」
「どうぞ、王様には必要でしょう」
「すげぇ、全部宝石か!」
降り注ぐ財宝の中に王冠を見つけた薄汚い男がその王冠を頭に被る、その王冠に血が付いていようがお構い無しだ、目の前の財に狂気と狂喜を混ぜながら人々群がる。
「この、宝は全部俺のもんだ!」
「俺のだ」
「あたいのよ!」
「誰にもやらん!」
「よこせ!」
やがて宝に目が眩んだ人々が降り注ぐ財宝を独占しようと、諍いが始まった。
「揉めなくてもまだまだありますよ」
「もっともっと」
「全部」
「おれのもんだ!」
蒐集家の慈悲深い声に更に独占したい欲望が膨らむ、大河は何度も本で読んだ光景だと思う、山分けでも充分な量を欠片も残さず自らの物にしたい人の欲望…決まって最期は……。
「ぎゃあああー」
「この!」
「おれの宝にさわんな!」
「俺の金!」
「あたいの宝石!」
殺し合いが始まった、持っていた武器で斬り合う、悲鳴と宝の所有欲、狂気と欲望が降り注ぐ雨と交わっていった。
「もう飽きた、この国はお仕舞いだ。戻ります、どうします?止めます?止めるならお1人でどうぞ」
「帰るぞ」
「………はい」
欠伸を噛み殺した蒐集家の問いに大河も踵を返す、全員で分け合えば大河は手を差しのべた。
殺し合い以外の方法でしか宝を手に入れられない彼等を少し憐れみ、大河は転移魔法を発動させ蒐集家を連れて《島船》へと戻った。
数時間後…宝を独占しようとした人々のうち最期に残った2名のうち1人が斬り伏せられ王冠を被った男が血塗れの剣を片手に歓喜の声を上げた刹那……目鼻口耳から赤黒い血を吹き出しその場に倒れた。
正しく山の如く積まれた宝に震える手を伸ばした途端、宝が全て目の前で消えてしまい男の手が力無く地面に落ちた。
『その王冠はあげましょう、良くお似合いですよ。嘗て自分の欲望のままに民を蹂躙し民に粛清された王の物です』
男の耳元で囁かれる言葉、それを聞いて男は事切れた…。
この瞬間、真に《コオン》が滅んだ瞬間だった…。
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