神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第7章 弟子と神器回収

魔法覚醒

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「正体も分かったことだし……やるか…」

咲良はケリをつけるために村正を開放しようとした瞬間、無数の影の柱が咲良に襲いかかる。

「うおっ!」

何とか避けるがその攻撃は収まる気配がない。

「うぐっ!くそっ、掠ったか」

流石の咲良も触れることなく避けることは叶わず、背中を影の柱が掠めていった。
咄嗟に距離を取ったがその威力は凄まじく、着用していた漆黒の装束、漆黒の外套、銀匠の鎖帷子の背中部分がごっそり削り取られており少し傷も負った。

「流石に影は防げなかったか…」

漆黒の装束と外套、銀匠の鎖帷子は物理攻撃には滅法強いが魔法等の特殊攻撃にはそこまで耐性がない。これから災害級に遭遇する機会が増えるなら性能不足だ。

「帰ったら改良するか……って寒っ!」

急に寒さを感じ身震いする。時間が経てば経つほどまるで全裸で雪山に放り出されたかの様で、寒さを通り越して針で刺される様な痛みすら感じる。

「なにが……ちっ!」

原因を確かめる暇もなく邪神魔像の影による攻撃が咲良を襲う。何とか避けるが寒さのせいで身体が上手く動かない。

「暁流 砕!」

とっさに参ノ型 嵐戒で地面を抉って雪煙を発生させる。その隙に咲良は遠目に距離を取る。

「ふぅ…何だこの寒さは………あ、そういうことか」

咲良はようやく寒さの原因に気付いた。
原因は、漆黒の装束と外套に縫っていた自動修復と温度調節の魔法陣が背中部分にあり、それが影によって消滅させられた為であった。自動修復があれば他の魔方陣が消えても元に戻るが、今回は自動修復まで消えたので温度調節が出来ずに寒くなってしまった。

「魔方陣を直してる暇はないか…くそ、寒すぎる」

暁流 砕によって舞い上がった雪煙も既に地に落ち、邪神魔狼は咲良を捉えている。

「村正…神器開放!」

邪神魔狼が攻撃を始める前に村正を開放し、咲良は黒いオーラを纏い、村正も本来の黒い刀身へと変化した。これによってステータスが一気に上昇したが状況はあまり良くない。シュレイ山は標高5000Mもあるので空気も薄く気温も低い。いくらステータスが上がったと言っても寒さに強くなるわけでは無い。

「凍える前に決めないとな…」

そう呟いた瞬間、邪神魔狼の影が一斉に咲良に襲い掛かる。しかし咲良は落ち着いていた。

「目には目を…影には影を……影突」

咲良の影からも棘の形をした無数の闇が放たれ、邪神魔狼の影と衝突する。
打ち消しあうかと思われたが、村正の闇が影を飲み込むようにして消滅させた。
影は闇と似た性質だが下位互換である。影突と言ってはいるがその正体は闇なので、お互いにぶつかり合えば闇が勝つことは明らかだった。

咲良の放った影突はそのまま邪神魔狼に襲い掛かる。近くの影に潜むことでなんとか難を逃れるが影突もその影に入っていき、中にいた邪神魔狼を貫いた。

溜まらず影から抜け出してきた所を咲良が壱ノ型 魔断で威力をあげた村正で切り付ける。邪神魔狼は咲良の不意打ちに対応できず首元を浅く切られてしまい、すかさず距離を取るために影に潜ると、影から影へと移動して距離を取る。

そして元居た場所を確認するが咲良はそこにはいなかった。どこに行ったのだとキョロキョロと辺りを見渡した瞬間、腹部に強烈な痛みが走った。

ギャン!!

とっさにその場から跳躍した邪神魔狼が見たのは、自身の身体の影から出てきた咲良が村正を突き上げている姿だった。

「真似させてもらったぞ。名付けて影渡」

邪神魔狼が影に潜むことが出来るなら、闇を扱う咲良にできない道理はない。
良い技を教えてもらい、少し邪神魔狼に感謝する咲良だったが、影渡によってかなりの魔力を消費したのでそう連発できる代物ではなさそうだ。

そしてここで危惧していた問題が発生した。

「く…だめだ…身体が……」

寒さによって身体が自由に動かなくなってきたのだ。このままでは倒す前に凍え死んでしまう。助けを呼ぼうにも陸ではこの戦闘には着いてこられないし、そもそも激しく動き回ったために陸とはかなり距離が離れてしまっている。

「な…なにか…方法は…」

この状況を打破するために色々と考えるが打開策が浮かばない。温度調節魔法陣の効果を持つ魔道具マジックアイテムは他にない。炎を生み出す魔武器マジックウェポンは持っているがこの状況を打破できる程の能力ではないし、神器は規模が大きすぎる。
さらに思考を巡らすが寒さの所為で頭が働かない。

「迷っている…場合じゃ…ないか」

仕方なく最後の手段であった陸との修行で使用した神器紅焔を拡張袋から取り出そうとした時、頭の中にある情報が流れ込む。それと同時に凍えるほどの寒さを急に感じなくなった。

「これは…」

咲良の頭に流れ込んできたもの………それは氷魔法の使い方であった。つまり咲良は覚醒者となったのだ。
寒さを感じなくなったのもそのお陰だ。魔法は様々な種類があるが共通する部分もある。それは火の魔法なら暑さに、水の魔法なら寒さに強くなるのだ。ならば氷の魔法も寒さに強いのは当然の事となる。

「棚から牡丹餅とはこのことか…」

初めての感覚に咲良は少し戸惑ったがすぐに落ち着きを取り戻す。今は寒さが心地良いくらいだ。
魔法も聞いていた通り、覚醒した瞬間から手足のように使えるのがわかった。かといって完全に自由自在というわけでは無く、筋トレと同じように鍛えれば鍛えるだけ魔法の威力、操作は上達していく。

「まずは使ってみるか」

咲良は手を前に出して邪神魔狼に向ける。そして魔法を発動すると外に出た魔力が氷に変換されていくのが感じ取れた。
その肝心の魔法はすぐに効果を発揮し、邪神魔狼の右前脚を凍り付かせた。氷から逃れるために影に潜ろうとするが凍った脚の所為で潜れていない。
どうやら咲良の魔法はただ凍らすわけでは無く、影すらも凍らしていた。ただ邪神魔狼はシュレイ山に住んでいたので寒さには強く、あまりダメージは与えられていない。

「なるほど、良い魔法だ」

咲良はより深く知るためにステータスプレートで自身の魔法を確認する。


氷剋
氷の本質を司る魔法


たった一行だけの説明だったが咲良は満足した。ただ氷を生み出したり操ったりする魔法よりも余程レアな魔法だからだ。

「氷の本質か…なるほど…色々出来そうだな」

頭の中に流れてきた情報は、魔力を氷に変換させることが出来るというものだ。本質を司るという事は工夫次第ではもっと色々な使い方が出来るはずだ。

「よし…まずは試しだ。氷は水でもある…なら雪だって操れるはずだ」

咲良は集中して魔力を広げていく。そして脚が凍っている所為で動けない邪神魔狼の方向に指揮者のように手を振り下ろす。

ドドドドドドドドッ

周りの降り積もった雪が一斉に邪神魔狼に襲い掛かり吹き飛ばしていく。その光景はまるで意思を持った雪崩のようだ。

「ふぅ…やはり操作する質量によって魔力がごっそり減るな」

満足いく結果を得られたが、魔法に頼り切ることは良くない事なのでここぞという時に使う事に決めて、咲良は雪崩によって流された邪神魔狼の元へ駆けていく。




その一連の戦闘を遠くから辛うじて見ることが出来ていた陸は、決着が近い事を肌で感じ取っていた。


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