神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

文字の大きさ
91 / 163
第7章 弟子と神器回収

禁止書物

しおりを挟む
「悪いな魔狼…そろそろ終わらせてもらう」

咲良は氷剋を発動し、自身と邪神魔狼を閉じ込める形でドーム状に氷を発生させる。
それによって遠くで見ていた陸は中の様子が分からなくなった。
咲良は純度の高い透明な氷も作り出せるが、あえて不純物が混じった氷にした。

「俺とお前の特別ステージだ」

その中は氷のドームによって全面に影が落ちた。一見邪神魔狼に有利に思えるが咲良には考えがあった。

「いくぞ魔狼。飛翔 乱撃!」

邪神魔狼に無数の飛ぶ斬撃が迫り、影に潜ろうとするが何故か潜れない。仕方なく避けることに切り替えるが避けた所に肆ノ型 鬼哭が身体を貫いていった。

その後邪神魔狼は何度も影に潜ろうとしたり、影で攻撃しようとするが何も起こらない。

「不思議か?」

咲良が邪神魔狼に向けてニヤリと笑みを浮かべる。

「お前はもう影を操ることは出来ない。もうここは俺の…いや…村正のテリトリーだ」

言葉を理解しているかは定かではないが、咲良は邪神魔狼がイライラしているように感じ取った。

なぜ影を操ることが出来なくなったのか……それはこの氷のドーム内の全ての影を村正が支配したからだ。もうすでに邪神魔狼自身の影も咲良は操作することが出来る。

「影の支配権はもうお前にはない。終わりだ」

咲良は称号の導き手を発動する。
その瞬間、氷のドームは恐ろしい程の圧迫感に満たされた。
お忘れだろうが、導き手はステータスプレートによると次の黒竜を導く者で、王だけが持つ覇気を纏い、黒竜の如き威圧を放つ。


邪神魔狼は体験したことのない恐怖で混乱し動けなくなる。流石に災害級でも、浅くない傷を負い、能力も奪われた状態では咲良の威圧に抵抗する事は叶わなかった。

「お前のおかげで俺は更に強くなれた。礼を言う」

咲良はその場で村正を鞘に仕舞い、抜刀の構えを取る。
そして目を閉じて深く集中する。

「これは俺の十八番だ。眠れ………暁流抜刀術 破常」

ドシャッ

空間をも断ち切る無慈悲の斬撃によって邪神魔狼は真っ二つとなり地に落ちた。
それと同時に氷のドームが音もなく砕け散った。

「終わったか…」

咲良は邪神魔狼の死骸を細かく分けて拡張袋に入れると陸の元へ向かう。

「終わったのか?」

陸が戻って来た咲良に問う。

「あぁ、なんとかな」
「さっきの氷みたいなのはなんなんだ?」
「俺の魔法だ。ついさっき覚醒してな」
「覚醒したのか!?」
「運が良かったってことだな」
「いいなー。俺も早く覚醒しねーかな」
「そりゃ運だろ」
「だな。取り敢えずお疲れさん」
「おう。早く休みたいな…流石に疲れたわ」

2人はシュレイ山を下山するが道中ほとんど魔物と出会わなかった。群のボスである邪神魔狼を倒した咲良に襲いかかる度胸のある魔物はいないらしい。









「無事終えたようだな」

コーチンに戻り〈妖精の羽〉のギルドマスター、フィリスに依頼達成の報告をすると労いの言葉をもらった。

「まぁな、だがフェンリルじゃなかったぞ」
「ん?どういうことだ?」
「フィリスは古代の遺物を知ってるか?マリアは知っているみたいだが」
「まさか……確かに俺は知っているが…もしかして」
「あぁ…その魔物の名は邪神魔狼。かつて世界を混沌に陥れた邪神の置き土産と言うところか」
「やはりか…」

フィリスもどうやら邪神について多少知識はあるらしい。

「フィリス、なぜ邪神について知っている?」

邪神を滅したのはクロノスの前の黒竜だ。咲良はその黒竜から知識を受け継いだ張本人から直接話しを聞いたため知っている。
しかし現代では邪神の情報は得るのは極めて難しい。なぜなら邪神が暴れたのは何千年も前の話なので文献には残っていないだろう。あるとすれば閲覧禁止書物くらいだ。

「マリアとは昔一緒に冒険者として活動していたのは前に言ったな?」
「あぁ」
「その道中の話だ。俺たちは功績を認められ王城にある閲覧禁止書物を見る機会があってな。そこで邪神や古代の遺物について知ったんだ」
「眉唾物だとは思わなかったのか?」

閲覧禁止書物に載っているからといって何千年も前の歴史を本当であると信じることは難しい。

「俺たちは身を持って体験していたのさ。西のガロン大陸で活動していた時期に俺たちは見たこともない恐ろしい魔物に遭遇してな。逃げる事しかできなかった」
「その魔物が邪神系統の魔物だったという事か」
「そうだ。俺たちはあの頃調子に乗っていて自分たちの力を信じて疑わなかった。その伸びた鼻を木っ端みじんに折られたわけだ」
「あの、なんでその魔物が邪神系統だと分かったんですか?」

陸がもっともな疑問をフィリスに投げかける。

「初めは知らなかったさ。だが俺たちはどうしてもその正体を突き止めたかった。だから色々調べたが一切情報は得られなかった。そして最後の手段として功績を上げれば見られる閲覧禁止書物に手を出した」
「なるほどな」
「その本によると俺たちが遭遇したのは邪神魔蛇。階級でいえば災害級の上位だろうな。その蛇の実力を目の当たりにした俺たちは邪神がいたという歴史が真実であると確信した」
「まぁ遭遇していたのなら信じるしかないな」
「そうだな。もしあのような化け物がまだ他にいたとすれば人類は滅びる。そう考えた俺たちはギルドマスターとなって教育に力を入れることにした。個では勝てなくても数ならなんとかなるという淡い希望にすがってな」

マリアやフィリスがギルドマスターとなった経緯は思っていた以上に壮大な計画の様だった。

「なら次は俺からの質問だ。なぜ咲良は邪神について知っている?閲覧禁止書物は見られないはずだ」

フィリスがこちらの表情の変化を見逃さないとばかりに厳しい視線を咲良に向ける。

「フィリスは邪神がどうやって滅んだか知っているか?」
「少しなら。古の竜が多種族を導き邪を滅すという文章が本に載っていたからな」
「そうか…なら少しだけ教えておこう。俺はその多種族を導いたと言う竜を知っている」
「なに!?」

フィリスは咲良の言葉に人生で一番ではないかと言えるほど衝撃を受けた。

「あり得ない!何千年も前だぞ!」
「その竜はまだ生きている。直接会ったからな」
「まさか……ほ、本当なのか?」
「信じるかどうかは好きにすればいい」
「ど、どこに…」

フィリスはしきりに場所を聞いてくる。会いにでも行きたいのだろうか。とはいっても今は咲良の中で眠っているので会おうにも会えないのだが…

「これ以上教えるつもりはない…今はな」
「なぜ、なぜ俺に話した?」
「別に深い理由はない。閲覧禁止書物の内容は他言していい代物じゃないはずだ。それをあんたは話してくれた。そのお礼とでも思ってくれ」
「いや、俺の方こそ礼を言う。いくら冒険者の数を増やしても圧倒的な力には対抗できない。その竜がいるなら一先ず安心できる。貴重な情報だ…感謝する」

フェリスはそう言いながら咲良に頭を下げる。余程邪神魔蛇に対する恐怖心があったようで、クロノスが居たという情報は喉から手が出るほど欲しい情報だったのだろう。

「それで、話を戻すが依頼は達成で良いのか?イレギュラーだが」
「それは達成で問題ない。だがその邪神魔狼の素材があるなら少し提供してくれ。こちらでも調べたい」
「それは構わない」

咲良は拡張袋から邪神魔狼の肉や毛を少しずつ出してフィリスに手渡す。

「これが……持つだけで生気を吸い取られるような感じがする」
「俺は見た瞬間ちびりそうになりましたよ」

陸が苦笑いを浮かべて呟く。

「そういや陸。お前はしっかり働けたのか?」
「まぁなんとか、咲良にかなり鍛えられましたから」
「陸はよくやってくれた。奴に一撃食らわせていたしな」
「おいおい、まじか」
「いきなり爪で切り裂かれたときは流石に生きた心地がしませんでしたけど」
「お前……よく生きてたな」

フィリスが憐みのような視線を陸に向ける。

「今の陸ならすぐにA級に上がれるだろう」

咲良は陸に足りないのは経験だけで、単純な実力ではA級はあると踏んでいる。

「ほぅ…そんなに強くなったのか」
「どうなんですかね…咲良の戦いを見ると自分なんてちっぽけな存在だと思い知らされましたから」
「こいつは例外にしとけ。邪神系統の魔物を一人で倒しちまう奴だ。どっちが化け物か分からねぇな」
「人を化け物扱いするな。俺はれっきとした人間だ」
「どんな修行すればそこまで強くなれるんだ?」

フィリスは興味本位で咲良に尋ねる。

「とにかく頑張った。まぁ強いて言うなら俺が習得している暁流という流派のお陰ともいえるな」
「俺もそれ今教わってるところなんですよ」
「暁流?似た名前なら聞いたことあるな」

なんとフィリスは暁流に関する情報を持っていた。その情報網は流石ギルドマスターというべきだろう。
暁流の正当な継承者はクロノスと咲良だけだ。他にいるとすれば継承者になれなかった者が弟子を取り、受け継がれていった偽物の暁流だ。咲良はもしその流派が居るならばぜひ会いたいと思っていた。

「どこで聞いた?」
「どこだっけな…そうだ!南の国のどこかに暁月流という流派の道場があったはずだ」
「暁月流か…確かに無関連ではなさそうだ。南の国に行く楽しみが増えたな」
「俺の記憶が正しければだがな」
「別に間違っていても構わないさ。それも旅の醍醐味だろ?」
「間違いねぇな」

咲良とフィリスは共にフッと口角を上げる。

「ところで…これからどうするんだ?すぐに南の国にいくのか?」

フィリスが咲良の今後の予定を尋ねる。

「いや、まだ少しコーチンに滞在するつもりだ。やりたいことがあるからな」
「そうか、お前との会話は面白い。いつでも来るといい」
「時間があったらな」


咲良と陸はフィリスと別れギルドを後にする。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

処理中です...