92 / 163
第7章 弟子と神器回収
神器暴走
しおりを挟む
「これからどうするんだ?」
フィリスと別れ、一先ず〈イマジナリー〉に顔を出すことにした。咲良は香織にギルドに入るかどうかの話を持ち掛けられていたが、指名依頼の為に先送りになっていたからその話もしておきたかった。
「今回の戦闘で色々思う部分があった。まずはそれを解消したい」
「咲良でも災害級は厳しかったってことか」
「当然だ。前回も今回も相性が良かったからなんとか勝てただけだ。陸に武器に頼りすぎだと言っておきながら俺も災害級と戦うときは神器に頼らなければまだ勝てない」
「でも咲良の場合はしっかり使いこなしてるだろ」
「それでもだ。まだまだ見直す部分は多い」
「流石だな。普通それほどの力を持っていたら驕る人が多いはずだからな」
「俺は上には上がいる事を知っている。クロノスがいい例だ」
「俺も頑張らないとな」
2人は今後について歩きながら話し合っていると、前方から2人の名前を大声で叫びながら走ってくる人物がいた。
「陸!咲良!やっと帰ってきたか!」
その人物の正体は秀樹だった。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「緊急事態だ!香織さんが!」
どうやら香織のみに何かあったらしい。秀樹の表情からもその深刻さが窺える。
「落ち着け。まずは何があったのか話せ」
咲良が秀樹に拡張袋から取り出した水を飲ませて落ち着かせる。
「ふぅ…すまん。実は香織さんと一緒に数人で依頼を受けたんだが、依頼先でいきなり香織さんの持っていた刀が変なことになって…」
「まさか!暴走したのか!」
咲良は険しい表情で秀樹に問い詰める。
「暴走?…確かにあれは魔武器の暴走っていえるのかもれない。香織さんの刀、白峯からいきなり光のようなもんが飛び出てきて無差別に近くの人を襲い始めたからな。近づきたくても無理だし、香織さんも制御できないみたいだ。だから誰かに助けを求めて俺は戻ってきたんだ」
「急いで案内しろ!今すぐだ!」
「え…あ、あぁ」
咲良の剣幕に秀樹はたじろぐがすぐに落ち着きを取り戻し、3人は秀樹の案内で依頼先のハナト村へ直行する。
ハナト村はコーチンから東に半日歩いた場所にある森に囲まれた小さな村だ。
秀樹によると、数日前からC級に魔物が数体現れ、田畑を荒らしていたのでその討伐に香織と秀樹達が向かったらしい。魔物は無事に討伐し終えたが、その直後白峯が暴走し、〈イマジナリー〉のメンバーだけでなく、村人まで襲い始めた。
なんとかしようと試みたが、状況は悪化する一方だったので秀樹は半日掛かる道のりを4時間で走破してコーチンまで来た。そこで運がいいのか悪いのか咲良と陸を見つけた。
「暴走してから何時間たった?」
咲良が走りながら秀樹に問う。
「今で丁度5時間ほどだ。俺たちがつく時間を考えれば9時間暴走することになる」
「くそ、それじゃ間に合わない。2人とも後から着いてこい。俺は先に行くぞ」
「あぁ、頼んだぞ咲良!」
現状がどういったものかを知っている陸は咲良にしか解決できないと分かっている。
「さっさと追いついてこい」
ドンッ!!
咲良はそう言い残し、魔装を発動すると全速力でハナト村の方角へ駆けていく。地面には咲良が足に力を込めたのだろう足跡が地を抉ってくっきりと付いていた。
「はや!何だありゃ!もう見えねぇ!」
「あれが咲良の実力だ」
秀樹はまだ咲良の実力をB級冒険者レベルだと思っているのであまりの速さに立ち止まりそうになった。
(くそ!日輪をもっと早く回収するべきだった!)
日輪は香織の持つ白峯の本当の名前である。咲良は一秒も無駄にしないために一切の休憩を取らずに全速力で駆ける。
今は普通の外套を羽織って隠しているが、本当なら邪神魔狼によって損傷した漆黒の装束などの魔道具を修復して万全の状態で臨みたい所だが、そんな時間すら惜しい状況だ。
「はぁ、はぁ、はぁ…ここか…」
そして咲良は半日の道のりを経った30分弱で走破し、ハナト村にたどり着いた。
そして目に入ってきたのはほぼ全壊した家屋、そして村の一番奥で謎の光が発している光景だった。
「待ってろ日輪。すぐに助けてやるからな」
咲良はその光の下へと駆けだす。
「咲良くん!」
光の下には穂花がいた。その身体は所々白く変色していた。恐らく日輪の暴走の余波を受けた所為だろう。
「穂花か…大丈夫じゃなさそうだな」
「あの光に触れるだけで武器も身体も真っ白になっちゃうの」
「あぁ分かってる」
咲良は光の中心に目を向ける。そこには気を失って地面に倒れている香織が居た。その手には日輪がしっかりと握られている。
「どうしよう…このままじゃ」
「被害はどれくらいだ?」
「まだ皆軽症で済んでるよ。でも光がどんどん大きくなってきて…それに治療法が分からないの」
「医者がいるのか?」
「大橋先輩が治癒解体っていう魔法の覚醒者なの。けど大橋先輩でも治せないって」
(大橋?あぁ大橋宗治という地味な先輩がいたっけな)
咲良は地球では委員会の先輩とはほとんど面識がないので顔と名前しか知らなかった。
「そりゃ治療は無理だろ」
「え?なんで?」
「説明は後だ。まずは暴走を止める」
咲良は魔装を再度発動すると香織の元へと歩いていく。
「咲良くん!ダメ!」
穂花が制止しようとするが既に咲良は光の中にいた。
(これが日輪の浄化の力か)
魔装をしているにも関わらず、咲良の皮膚は所々白くなっていく。
(力も抜けていくようだ。もしこれが神器開放された状態だったなら俺でもヤバいな)
日輪の能力、それは浄化能力だ。所持者が本能的に悪と定めた相手を浄化する聖なる光を生み出すことが出来る。日輪が白峰と呼ばれていた時の光を操る能力は、本来の浄化の能力の欠片に過ぎないのだろう。浄化は聖なる属性だ。傷でも病気でもないので普通に治療しようとしても出来るわけがない。寧ろ浄化は悪を取り払う治療とも言える。
今の日輪は暴走しているため見境なく近づく者全てを浄化するだろう。それは咲良も例外ではないが日輪の能力は絶対ではない。もし防ぐ術が一切なければ相手が災害級だろうが神級だろうが一瞬で浄化して終わる。
しかし世の中そう上手くはいかない。所持者が悪と認識していない相手には一切効果がなく、またどれほどの悪と認識しているかによっても浄化の威力は変動する。さらに魔力による攻撃は魔力と氣で抵抗出来るので咲良のように魔力と氣の操作に長けていれば余裕で抵抗できる。咲良の肌は白くなったが皮一枚浄化されただけだ。その程度では痛くも痒くもない。
咲良は香織の隣に腰を下ろすと日輪に触れる。
パキパキパキパキ
日輪に触れた右腕がまるで石化していくかの様にひび割れていく。流石に暴走状態とはいえ直接触ると浄化の威力が増すようだ。
咲良は魔装を更に強めて浄化に抵抗する。
「日輪…痛い思いをさせて悪かったな。もう大丈夫だ」
日輪に話しかけて撫でるように刀身に触れる。すると傍から見ると光が少し収まったように見て取れる。
「日輪…神器開放」
小さくそう呟くとパァっと村全体が光で包まれる。
その様子を見ていた穂花は突然の光に目を瞑るが、その後不思議な感覚を味わった。まるで母のお腹の中にいるかのような安心感と温かさが身体中に広がっていく。
ふと目を開けると白くなっていたはずの体は元に戻っていた。
「咲良くん!」
その現象を引き起こした原因が咲良じゃないかと考えた穂花は駆けていく。
「今のは咲良くんが……あれ、それ」
穂花が見たのは咲良の手に収まった日輪だった。しかし、香織が持っていた白峯とは少し違うように感じる。
「お疲れ様…よく頑張った」
「え?……わ、私は何も…」
何もしていない。そう言いかけて口を閉ざした。咲良の視線は穂花ではなく手に持つ日輪に向いていたからだ。
(私に言ったんじゃない?武器に話しかけたってこと?)
穂花はよく分からない感情になったが、咲良の顔を改めてみると驚いた。
咲良は穂花が見たこともないとても穏やかな表情をしていた。
「あ、あの…」
おどおどとしながら穂花は咲良に声をかける。
「ん?あぁもう終わったぞ。他の村人たちも全て元に戻した。見に行ってこい」
「ほんとうに!?分かった!」
穂花はまだ半信半疑ではあるが非難させておいた村人たちの元へと走っていった。
「終わったようだな」
「はぁはぁ…まじかよ…」
事態が収拾したと同時に陸と秀樹が村に到着し、咲良に声をかける。
「遅かったな」
「咲良が早いんだよ」
「陸!お前もだよ!」
見たところ秀樹と違って陸はあまり息を切らしていない。やはり咲良との修行で〈イマジナリー〉のメンバーとはかなり差が開いたようだ。
「どうやったかは知らないが助かった!これで解決だな」
秀樹が咲良に労いの言葉をかけるが…
「ふざけるな…まだ解決なんてしていない…根本的な問題が残っている」
咲良の顔から感情が削ぎ落とされたかのように無表情になり、未だ気絶している香織を見やる。その視線を感じ取った陸と秀樹の体中から嫌な汗が噴き出てくる。咲良が殺気を放ったわけでも威圧したわけでもない。ただ体と脳が本能的に危険だと信号を送っているのだ。
「お、おい咲良…やっぱり怒っているんだな」
「当たり前だ。許すつもりは毛頭ない」
陸はここまで怒った咲良を初めて目にした。怒鳴り散らすでもなく、ただ静かに怒る方がよほど恐ろしく感じた。
「目を覚ますまでは待ってやる。だがそれまでだ」
咲良はそのまま村の端まで歩いていき、地面に座ると日輪の手入れを始めた。
その間、穂花や村人たちが回復したようで陸の元にやってきて香織の介抱を始めるが、誰も咲良に声を掛ける事はなかった。
フィリスと別れ、一先ず〈イマジナリー〉に顔を出すことにした。咲良は香織にギルドに入るかどうかの話を持ち掛けられていたが、指名依頼の為に先送りになっていたからその話もしておきたかった。
「今回の戦闘で色々思う部分があった。まずはそれを解消したい」
「咲良でも災害級は厳しかったってことか」
「当然だ。前回も今回も相性が良かったからなんとか勝てただけだ。陸に武器に頼りすぎだと言っておきながら俺も災害級と戦うときは神器に頼らなければまだ勝てない」
「でも咲良の場合はしっかり使いこなしてるだろ」
「それでもだ。まだまだ見直す部分は多い」
「流石だな。普通それほどの力を持っていたら驕る人が多いはずだからな」
「俺は上には上がいる事を知っている。クロノスがいい例だ」
「俺も頑張らないとな」
2人は今後について歩きながら話し合っていると、前方から2人の名前を大声で叫びながら走ってくる人物がいた。
「陸!咲良!やっと帰ってきたか!」
その人物の正体は秀樹だった。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「緊急事態だ!香織さんが!」
どうやら香織のみに何かあったらしい。秀樹の表情からもその深刻さが窺える。
「落ち着け。まずは何があったのか話せ」
咲良が秀樹に拡張袋から取り出した水を飲ませて落ち着かせる。
「ふぅ…すまん。実は香織さんと一緒に数人で依頼を受けたんだが、依頼先でいきなり香織さんの持っていた刀が変なことになって…」
「まさか!暴走したのか!」
咲良は険しい表情で秀樹に問い詰める。
「暴走?…確かにあれは魔武器の暴走っていえるのかもれない。香織さんの刀、白峯からいきなり光のようなもんが飛び出てきて無差別に近くの人を襲い始めたからな。近づきたくても無理だし、香織さんも制御できないみたいだ。だから誰かに助けを求めて俺は戻ってきたんだ」
「急いで案内しろ!今すぐだ!」
「え…あ、あぁ」
咲良の剣幕に秀樹はたじろぐがすぐに落ち着きを取り戻し、3人は秀樹の案内で依頼先のハナト村へ直行する。
ハナト村はコーチンから東に半日歩いた場所にある森に囲まれた小さな村だ。
秀樹によると、数日前からC級に魔物が数体現れ、田畑を荒らしていたのでその討伐に香織と秀樹達が向かったらしい。魔物は無事に討伐し終えたが、その直後白峯が暴走し、〈イマジナリー〉のメンバーだけでなく、村人まで襲い始めた。
なんとかしようと試みたが、状況は悪化する一方だったので秀樹は半日掛かる道のりを4時間で走破してコーチンまで来た。そこで運がいいのか悪いのか咲良と陸を見つけた。
「暴走してから何時間たった?」
咲良が走りながら秀樹に問う。
「今で丁度5時間ほどだ。俺たちがつく時間を考えれば9時間暴走することになる」
「くそ、それじゃ間に合わない。2人とも後から着いてこい。俺は先に行くぞ」
「あぁ、頼んだぞ咲良!」
現状がどういったものかを知っている陸は咲良にしか解決できないと分かっている。
「さっさと追いついてこい」
ドンッ!!
咲良はそう言い残し、魔装を発動すると全速力でハナト村の方角へ駆けていく。地面には咲良が足に力を込めたのだろう足跡が地を抉ってくっきりと付いていた。
「はや!何だありゃ!もう見えねぇ!」
「あれが咲良の実力だ」
秀樹はまだ咲良の実力をB級冒険者レベルだと思っているのであまりの速さに立ち止まりそうになった。
(くそ!日輪をもっと早く回収するべきだった!)
日輪は香織の持つ白峯の本当の名前である。咲良は一秒も無駄にしないために一切の休憩を取らずに全速力で駆ける。
今は普通の外套を羽織って隠しているが、本当なら邪神魔狼によって損傷した漆黒の装束などの魔道具を修復して万全の状態で臨みたい所だが、そんな時間すら惜しい状況だ。
「はぁ、はぁ、はぁ…ここか…」
そして咲良は半日の道のりを経った30分弱で走破し、ハナト村にたどり着いた。
そして目に入ってきたのはほぼ全壊した家屋、そして村の一番奥で謎の光が発している光景だった。
「待ってろ日輪。すぐに助けてやるからな」
咲良はその光の下へと駆けだす。
「咲良くん!」
光の下には穂花がいた。その身体は所々白く変色していた。恐らく日輪の暴走の余波を受けた所為だろう。
「穂花か…大丈夫じゃなさそうだな」
「あの光に触れるだけで武器も身体も真っ白になっちゃうの」
「あぁ分かってる」
咲良は光の中心に目を向ける。そこには気を失って地面に倒れている香織が居た。その手には日輪がしっかりと握られている。
「どうしよう…このままじゃ」
「被害はどれくらいだ?」
「まだ皆軽症で済んでるよ。でも光がどんどん大きくなってきて…それに治療法が分からないの」
「医者がいるのか?」
「大橋先輩が治癒解体っていう魔法の覚醒者なの。けど大橋先輩でも治せないって」
(大橋?あぁ大橋宗治という地味な先輩がいたっけな)
咲良は地球では委員会の先輩とはほとんど面識がないので顔と名前しか知らなかった。
「そりゃ治療は無理だろ」
「え?なんで?」
「説明は後だ。まずは暴走を止める」
咲良は魔装を再度発動すると香織の元へと歩いていく。
「咲良くん!ダメ!」
穂花が制止しようとするが既に咲良は光の中にいた。
(これが日輪の浄化の力か)
魔装をしているにも関わらず、咲良の皮膚は所々白くなっていく。
(力も抜けていくようだ。もしこれが神器開放された状態だったなら俺でもヤバいな)
日輪の能力、それは浄化能力だ。所持者が本能的に悪と定めた相手を浄化する聖なる光を生み出すことが出来る。日輪が白峰と呼ばれていた時の光を操る能力は、本来の浄化の能力の欠片に過ぎないのだろう。浄化は聖なる属性だ。傷でも病気でもないので普通に治療しようとしても出来るわけがない。寧ろ浄化は悪を取り払う治療とも言える。
今の日輪は暴走しているため見境なく近づく者全てを浄化するだろう。それは咲良も例外ではないが日輪の能力は絶対ではない。もし防ぐ術が一切なければ相手が災害級だろうが神級だろうが一瞬で浄化して終わる。
しかし世の中そう上手くはいかない。所持者が悪と認識していない相手には一切効果がなく、またどれほどの悪と認識しているかによっても浄化の威力は変動する。さらに魔力による攻撃は魔力と氣で抵抗出来るので咲良のように魔力と氣の操作に長けていれば余裕で抵抗できる。咲良の肌は白くなったが皮一枚浄化されただけだ。その程度では痛くも痒くもない。
咲良は香織の隣に腰を下ろすと日輪に触れる。
パキパキパキパキ
日輪に触れた右腕がまるで石化していくかの様にひび割れていく。流石に暴走状態とはいえ直接触ると浄化の威力が増すようだ。
咲良は魔装を更に強めて浄化に抵抗する。
「日輪…痛い思いをさせて悪かったな。もう大丈夫だ」
日輪に話しかけて撫でるように刀身に触れる。すると傍から見ると光が少し収まったように見て取れる。
「日輪…神器開放」
小さくそう呟くとパァっと村全体が光で包まれる。
その様子を見ていた穂花は突然の光に目を瞑るが、その後不思議な感覚を味わった。まるで母のお腹の中にいるかのような安心感と温かさが身体中に広がっていく。
ふと目を開けると白くなっていたはずの体は元に戻っていた。
「咲良くん!」
その現象を引き起こした原因が咲良じゃないかと考えた穂花は駆けていく。
「今のは咲良くんが……あれ、それ」
穂花が見たのは咲良の手に収まった日輪だった。しかし、香織が持っていた白峯とは少し違うように感じる。
「お疲れ様…よく頑張った」
「え?……わ、私は何も…」
何もしていない。そう言いかけて口を閉ざした。咲良の視線は穂花ではなく手に持つ日輪に向いていたからだ。
(私に言ったんじゃない?武器に話しかけたってこと?)
穂花はよく分からない感情になったが、咲良の顔を改めてみると驚いた。
咲良は穂花が見たこともないとても穏やかな表情をしていた。
「あ、あの…」
おどおどとしながら穂花は咲良に声をかける。
「ん?あぁもう終わったぞ。他の村人たちも全て元に戻した。見に行ってこい」
「ほんとうに!?分かった!」
穂花はまだ半信半疑ではあるが非難させておいた村人たちの元へと走っていった。
「終わったようだな」
「はぁはぁ…まじかよ…」
事態が収拾したと同時に陸と秀樹が村に到着し、咲良に声をかける。
「遅かったな」
「咲良が早いんだよ」
「陸!お前もだよ!」
見たところ秀樹と違って陸はあまり息を切らしていない。やはり咲良との修行で〈イマジナリー〉のメンバーとはかなり差が開いたようだ。
「どうやったかは知らないが助かった!これで解決だな」
秀樹が咲良に労いの言葉をかけるが…
「ふざけるな…まだ解決なんてしていない…根本的な問題が残っている」
咲良の顔から感情が削ぎ落とされたかのように無表情になり、未だ気絶している香織を見やる。その視線を感じ取った陸と秀樹の体中から嫌な汗が噴き出てくる。咲良が殺気を放ったわけでも威圧したわけでもない。ただ体と脳が本能的に危険だと信号を送っているのだ。
「お、おい咲良…やっぱり怒っているんだな」
「当たり前だ。許すつもりは毛頭ない」
陸はここまで怒った咲良を初めて目にした。怒鳴り散らすでもなく、ただ静かに怒る方がよほど恐ろしく感じた。
「目を覚ますまでは待ってやる。だがそれまでだ」
咲良はそのまま村の端まで歩いていき、地面に座ると日輪の手入れを始めた。
その間、穂花や村人たちが回復したようで陸の元にやってきて香織の介抱を始めるが、誰も咲良に声を掛ける事はなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,555
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる