魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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プロローグ

第二話 カテイナの入学願書

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 クラウディアの様子がおかしい。折角俺が来たというのに、感激で涙を流すでもなく、再会を喜ぶわけでも無い。ドアを無表情で閉めたのだ。
 俺は首をかしげてドアを叩く。
 この俺、次期魔界王から姿を隠すとはいかなる了見なのか? もしかして、会うにふさわしい格好では無かったとでもいうのか? 今から化粧でもする気か?
 う~ん、俺はあれから紳士になったのだ。挨拶もなしにいきなり女の部屋に土足で上がるほど無礼はしないつもりだが……女の化粧は時間がかかる。軽く一、二時間は待たされるかもしれない。
 ……そうだな、ここは紳士になった俺の実力を見せるべきであろう。

「クラウディア、化粧なら待ってやるぞ。その間、ちょっとその辺を見てくる」
 
 何かを引っかけて転んだ音がした後、あっという間にドアが開いた。
 ? 化粧はどうしたんだ? はは~ん、なるほど、めかし込むより、俺から離れたくなかったんだな? 俺の魅力も罪なものだ。

「クラウディア、慌てる必要は無いぞ。ゆっくりメイクでもするがいい。俺は紳士だ。待ってやるぞ」
 
 優雅に自分の金髪をいじる。赤い瞳を柔らかく好意的に向けてクラウディアに笑ってやる。
 うむ、俺は素晴らしい紳士になった。母が監視用の首輪を外してくれるほどだ。
 しかし、クラウディアの視線は不安げに揺れていて、周りを伺っている。
 そして一瞬だ。まるで獣のような速さ、胸ぐらをつかまれた。一気に部屋の中に引きずり込まれる。
 この無礼に声をかけるより早くクラウディアは壁に向かってサイレンスやドアにロックの魔法をかけている。俺に振り返ったのは窓を閉めてカーテンを閉めた後だ。

「カ、カテイナちゃん。なんでここに来たの?」

 俺はそのクラウディアの言葉に応えない。クラウディアが男を部屋に引きずり込んで部屋を暗くするような女だとは思わなかったからだ。全く、あきれさせてくれる。それは、魔王城の女メイドのフランシスカが言っていた悪い女の典型例だ。それをそのまま口に出して指摘してやる。これは紳士一流の暗喩と言うやつだ。

「全く、女は油断できないな。まさかいきなり部屋に引きずり込まれて出入り口をふさがれるとは思わなかったぞ。ふふん、俺も年をとって魅力が増したか?」
 
 暗くなった部屋で自信に満ちあふれて胸を張る。クラウディアは目を覆っている。
 よしよし、反省できるところがお前のいいところだ。クラウディアは顔を覆ったまま、力なくベッドに腰を下ろしている。
 ようやく落ち着いたみたいだな。これでようやく俺の本題に入れる。

「気は収まったか? 今日来たのは他でもない。オリギナの魔法学校の入学に関してだ。クラウディア、お前の学校に入ってみたくてな」
「……それで何で私の部屋に来たの? 入学願書なら持って帰ったでしょ?」
「そう、それだ。どこに出すんだ? この学校には部屋がいっぱいあってな。どこに出したらいいかわからなかったんだ。そこでだ。探し回るよりお前に聞いた方が早くてな」

 ? クラウディアの眉間にしわが寄った。相変わらず女はいつ怒り出すかわからない。今のやり取りのどこでクラウディアの怒りのスイッチを押したのか……わからないなぁ。

「そう怒るな。ちゃんと言ってくれればたどり着ける。どこにこれを出せばいいんだ?」
 
 俺の直筆の、一生懸命書いた願書を見せる。黒々としたそれをクラウディアは目を点にして見ていた。

「ちょっと願書を見せてくれる? ちゃんと読むからさ」
「いいぞ。ただし俺の直筆だ。金貨と同じ価値があるから注意して扱うんだぞ」

 クラウディアが必死に俺の入学願書を見ている。何しろ白いところが無くなるまで一生懸命書いた。これで俺は晴れて魔法学校の一員になれるのだ。気合いが入ろうというものである。
 
「どうだ? 俺の直筆は?」
「……ちょっと黙ってて……、五歳、クヮティナ? ……名前か。……出身地……魔界・カミエ……親、”死を売る”……」
 
 クラウディアが眉間に指を当てている。時折目をほぐしながら、必死に真剣に俺の文字を追っている。
 まあ、次期魔界王の直筆の書類だ。あまりの歴史的価値に恐れおののいて、一字一句漏らさず真剣に見るのは不思議で無い。
 クラウディアはたっぷり時間をかけて隅々まで目を通している。
 俺はそれをどきどきしながら待った。どんな風に絶賛されるのか俺には皆目見当も付かない。

「……これ本当に出す気?」
「もちろんだとも、そうで無ければ入学できないぞ」
「……ごめん。あんまり言いたくないけど、字が汚くて凄く読みづらい」
「な、何? 何だって?」

 この一言で、雷に打たれたようなショックが全身を走った。クラウディアの一言は本当に予想すらしていないものだったのだ。必死に書いた事実に比べれば字がちょっと曲がったぐらい大したことじゃないじゃないか。

「な、なんで? 俺は必死に書いたんだぞ? このために難しい字だって覚えたんだぞ?」
「……」

 クラウディアが真剣に俺を見る。もう一度書類に目を落とす。

「……年は五歳だったよね?」
「そうだ! この俺の学習能力を甘く見るなよ? ちょっとの間に俺は勉強したのだ!」
「うん、君の年齢を考えたら、凄いと思うよ。五歳でこれだけ書ければ天才の類いだよ。でも、それでもまだこの学校には足らないと思う」
「だ、大丈夫だ! ほんのちょっと足らなくても俺の成長力なら一ヶ月でお前達にも追いつけるぞ! も、文字だってもっと綺麗に書けるようになる! 俺なら出来る!」
「……あながち嘘に聞こえないのが怖いけど……、本気で入学手続きする?」
「もちろんだ!」
「君は逃げないし、退かないよね?」
「応とも!」
 
 クラウディアが真剣な目で俺をみる。俺はその視線をドンと受けて堂々と立っている。俺の自信はくずれないのだ。
 根負けしたのか「ふぅっ」とクラウディアがため息をついて覚悟を決めたような表情で立ち上がった。

「じゃあ、一緒に入学願書を出しに行こうか」
「ああ。絶対に入学してみせる!」

 そうと決まればクラウディアはクラスメイトに今日の一時限目を欠席する旨を伝えている。
 しばらくクラウディアの部屋で身だしなみを整えて、一時限目のチャイムの音を聞いてから部屋を出た。
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