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16.青との出会い
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※クリフトフ視点です
クリフトフの目に写るのは、呆れ顔の姉・イライザと、不機嫌そうな騎士のジャン。その彼に拘束されているエミリアに……青い花に囲まれ佇む、頬から血を流している婚約者の姿だった。
──何故、どうして……
真っ直ぐ自分を見ていた愛しい青が伏せられて、クリフトフは無意識に足を踏み出した。
* * *
──自分は兄弟の様にはなれない
物心付いた頃には、自信のないクリフトフは既にそう感じていた。
兄弟仲は悪くなかった。長男のジェラルドや姉のイライザ。妹のシンシアに弟のシリルも、皆クリフトフを邪険にする事はなかった。
心にモヤモヤを抱えていたのは……何でも出来る兄弟に嫉妬していたのは、クリフトフ自身。特に兄のジェラルドは良い側近にも恵まれ、自分たちの父親である国王以上に、臣下や民からの信用は厚かった。
クリフトフとて何もしなかった訳でもなければ、出来が物凄く悪いという訳でもなかった。ただ、彼は貴族として上出来でも、王族としては生き難い質なだけであった。
それに気付かない幼き頃のクリフトフは、何でも兄のものを欲しがった。
兄のものが手に入れば、自分ももっと何でもこなせる様になる……心の中で「そんなわけない」と否定しながらも、皆より何も出来ないと劣等感を抱えていたクリフトフは、そう信じ込もうとしていた。
ここで国王が厳しく律する事を学ばせ、「何も出来ていない訳ではない」という事を伝えれば良かったのだが、国王がしたことは、彼を甘やかせる事だけであった。
クリフトフは他の兄弟よりも、亡くなった王妃であり母親に容姿が似ていた。潤む瞳で上目遣いをする仕草はまさに母親そのものだった。
王妃を溺愛していた国王は、クリフトフには大層甘かった。対する己に似た第一王子・ジェラルドには「もっと広い心を持て。己を甘やかすな」と厳しく当たった。
自分に似ているジェラルドに、病に苦しむ王妃を救えなかった己の罪をぶつけている事は自覚していたが、国王はその態度を改めず、その代わり、長男への罪の意識を紛らわす様に、クリフトフにはどんどん我が儘を許す様になっていった。
そんな事が続けば、いくら兄弟仲が良いと言えど、今までの優しい見方は出来なくなってくる。
甘えて我が儘を言い放ち、兄のものを奪っていく弟より、理不尽にも屈せず、黙々と成果を上げる長男に、他の兄弟が付いて行くのは自然の事であった。
一年、二年……と、ジェラルドに対するクリフトフと国王の態度は続いて行った。
クリフトフが兄のものを盗っていく度に、ジェラルドの表情は死んだ様になっていく事には気が付いていた。
(でも、兄上は何でも持っているじゃないかっ)
罪悪感を感じた後は、決まってそう思うようになっていた。
恵まれた生まれ、恵まれた地位、恵まれた友人、恵まれた信頼……クリフトフがどんなに頑張っても手に入らなかったものを、失くしても失くしても、気が付けばジェラルドは再び手にしていた。
しかし、ジェラルドの表情は、死んだ様に変化を表さなかった。
度重なる理不尽に、兄はほとほと疲れていた。その原因である国王とクリフトフは知る術もなく、クリフトフに至っては「また色んなものを手に入れて!!」と、更に嫉妬するばかりであった。
だがある日、ジェラルドに光が蘇った。
側近の一人であるアベルの家……オルブライド公爵家に遊びに行って帰って来たジェラルドは、いつもの死人顔ではなく、まるで春の訪れに喜ぶ鴬の様に生き生きとしていた。
一体、公爵家で何があったのか……クリフトフは兄の変化が気になった。
それからジェラルドは、時間があればオルブライド家に向かって出掛けて行った。その回数が増えれば増える程、ジェラルドは生気に溢れ、以前の様に威厳のある雰囲気を醸し出す様になっていった。
その姿は、幼いながらに王の風格を滲ませており、早々に国王に見切りを付けていた優秀な貴族は、皆ジェラルドに付いた。
兄を変えたのは、一体なんなのか……周囲に聞いても答える者はおらず、よく兄たちに付いて遊んでいる姉のイライザに聞いても「余計な詮索はするな」と忠告されて終わった。
気になる
気になる
兄上は何を手に入れたの?
それがないと、俺、皆みたいに優秀になれないじゃん……でしょう?
既に病的な発想になっていたが、誰も止められなければ、止める者もいなかった。
それをいいことに、クリフトフは密かにオルブライド家の家族構成を確認した。
公爵と公爵夫人。嫡男のアベルと、長女のヴァイオレットと次女のルビー。
(イライザ姉上と年が近いのはヴァイオレット嬢か。姉上は兄上に付いて行ってるし……もしかして、彼女が?)
良い思いをして帰って来ている、というのは目に見えてわかっている。時折イライザとも意味深げに話しているのを見ると、共通の話が出来るものに絞られる。
相手がアベルであれば、ジェラルドはそこまで変わっていなかっただろう。実際登城して来るアベルと一緒にいても、ジェラルドに目立った変化は見られなかった。
アベルでないのであれば、可能性があるのはイライザと年が近いヴァイオレットだけであった。
『……会ってみるかな』
あの兄を生き返らせる令嬢は、一体どんな子なのか……クリフトフの中で、ヴァイオレットに対しての興味は強くなっていった。
クリフトフの目に写るのは、呆れ顔の姉・イライザと、不機嫌そうな騎士のジャン。その彼に拘束されているエミリアに……青い花に囲まれ佇む、頬から血を流している婚約者の姿だった。
──何故、どうして……
真っ直ぐ自分を見ていた愛しい青が伏せられて、クリフトフは無意識に足を踏み出した。
* * *
──自分は兄弟の様にはなれない
物心付いた頃には、自信のないクリフトフは既にそう感じていた。
兄弟仲は悪くなかった。長男のジェラルドや姉のイライザ。妹のシンシアに弟のシリルも、皆クリフトフを邪険にする事はなかった。
心にモヤモヤを抱えていたのは……何でも出来る兄弟に嫉妬していたのは、クリフトフ自身。特に兄のジェラルドは良い側近にも恵まれ、自分たちの父親である国王以上に、臣下や民からの信用は厚かった。
クリフトフとて何もしなかった訳でもなければ、出来が物凄く悪いという訳でもなかった。ただ、彼は貴族として上出来でも、王族としては生き難い質なだけであった。
それに気付かない幼き頃のクリフトフは、何でも兄のものを欲しがった。
兄のものが手に入れば、自分ももっと何でもこなせる様になる……心の中で「そんなわけない」と否定しながらも、皆より何も出来ないと劣等感を抱えていたクリフトフは、そう信じ込もうとしていた。
ここで国王が厳しく律する事を学ばせ、「何も出来ていない訳ではない」という事を伝えれば良かったのだが、国王がしたことは、彼を甘やかせる事だけであった。
クリフトフは他の兄弟よりも、亡くなった王妃であり母親に容姿が似ていた。潤む瞳で上目遣いをする仕草はまさに母親そのものだった。
王妃を溺愛していた国王は、クリフトフには大層甘かった。対する己に似た第一王子・ジェラルドには「もっと広い心を持て。己を甘やかすな」と厳しく当たった。
自分に似ているジェラルドに、病に苦しむ王妃を救えなかった己の罪をぶつけている事は自覚していたが、国王はその態度を改めず、その代わり、長男への罪の意識を紛らわす様に、クリフトフにはどんどん我が儘を許す様になっていった。
そんな事が続けば、いくら兄弟仲が良いと言えど、今までの優しい見方は出来なくなってくる。
甘えて我が儘を言い放ち、兄のものを奪っていく弟より、理不尽にも屈せず、黙々と成果を上げる長男に、他の兄弟が付いて行くのは自然の事であった。
一年、二年……と、ジェラルドに対するクリフトフと国王の態度は続いて行った。
クリフトフが兄のものを盗っていく度に、ジェラルドの表情は死んだ様になっていく事には気が付いていた。
(でも、兄上は何でも持っているじゃないかっ)
罪悪感を感じた後は、決まってそう思うようになっていた。
恵まれた生まれ、恵まれた地位、恵まれた友人、恵まれた信頼……クリフトフがどんなに頑張っても手に入らなかったものを、失くしても失くしても、気が付けばジェラルドは再び手にしていた。
しかし、ジェラルドの表情は、死んだ様に変化を表さなかった。
度重なる理不尽に、兄はほとほと疲れていた。その原因である国王とクリフトフは知る術もなく、クリフトフに至っては「また色んなものを手に入れて!!」と、更に嫉妬するばかりであった。
だがある日、ジェラルドに光が蘇った。
側近の一人であるアベルの家……オルブライド公爵家に遊びに行って帰って来たジェラルドは、いつもの死人顔ではなく、まるで春の訪れに喜ぶ鴬の様に生き生きとしていた。
一体、公爵家で何があったのか……クリフトフは兄の変化が気になった。
それからジェラルドは、時間があればオルブライド家に向かって出掛けて行った。その回数が増えれば増える程、ジェラルドは生気に溢れ、以前の様に威厳のある雰囲気を醸し出す様になっていった。
その姿は、幼いながらに王の風格を滲ませており、早々に国王に見切りを付けていた優秀な貴族は、皆ジェラルドに付いた。
兄を変えたのは、一体なんなのか……周囲に聞いても答える者はおらず、よく兄たちに付いて遊んでいる姉のイライザに聞いても「余計な詮索はするな」と忠告されて終わった。
気になる
気になる
兄上は何を手に入れたの?
それがないと、俺、皆みたいに優秀になれないじゃん……でしょう?
既に病的な発想になっていたが、誰も止められなければ、止める者もいなかった。
それをいいことに、クリフトフは密かにオルブライド家の家族構成を確認した。
公爵と公爵夫人。嫡男のアベルと、長女のヴァイオレットと次女のルビー。
(イライザ姉上と年が近いのはヴァイオレット嬢か。姉上は兄上に付いて行ってるし……もしかして、彼女が?)
良い思いをして帰って来ている、というのは目に見えてわかっている。時折イライザとも意味深げに話しているのを見ると、共通の話が出来るものに絞られる。
相手がアベルであれば、ジェラルドはそこまで変わっていなかっただろう。実際登城して来るアベルと一緒にいても、ジェラルドに目立った変化は見られなかった。
アベルでないのであれば、可能性があるのはイライザと年が近いヴァイオレットだけであった。
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