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しおりを挟む「何故……?」
クリフトフがやっと口に出来た疑問は、頼りなく震えていた。
ヴァイオレットの非にならない様に、細心の注意は払って来た筈だ。それは今回のエミリアの件で確実になったと思い安堵していたのに、何故彼女を愛している兄はその決断を下したのか、クリフトフには理解出来なかった。
「ヴァイオレットはお前の企みに加担していた。婚約者としてお前を止める事が彼女の務めだったのにも関わらず、敢えて止めずに騒ぎ立て、早期の婚約破棄に持ってきた……無関係ではない」
冷たいと思うほどの判決に、クリフトフは目を見開いた。
ヴァイオレットは自分に振り回されて来た。今回の事もその延長でしかない。
「何故そんなに冷たいのですか! 仮にそうだとしても、彼女にそうさせたのは俺のせいです! ……兄上は、ヴァイオレットの事を」
「好いているから不問にする愚かな王になる気はない。それでは父上と……愚王と同じだ」
クリフトフの言葉を制する様に放たれたジェラルドの意志に、彼は口を閉じるしかなかった。
愚王──その言葉に、全てが詰まっている気がした。
父親の生ぬるさを見て反面教師になった、と言えるならまだ良かっただろう。だが国王という立場を使い、気に入った王子一人に対し好き勝手させていた姿は、反面教師にする対象としては悪過ぎた。
(本当に……取り返しのつかない事をしてしまった)
令嬢とって婚約破棄は今後の人生の幅を大きく失わせる。それは公爵という貴族のトップでも同じ事。ヴァイオレットの今後は苦難の道が待っているだろう。
(こんな事なら、始めから婚約解消を申し出ておくべきだった)
ヴァイオレットを慕うジェラルドに、甘えていた。ジェラルドに任せれば、ヴァイオレットの非になる事は避けてもらえると、期待していた。
だがジェラルドは、クリフトフの期待を大きく裏切った。
私情を振り切り国王として、身内にも、そして臣下にも公正なジャッジを下した……それがたとえ、愛する者の立場を揺るがそうとも。
「ヴァイオレットの、悪評に繋がります」
「……だとしたら、何だ?」
「何だって……心配ではないのですか!?」
少し苛立った訴えに、兄は溜め息を吐いて目の前の弟を見据えた。
(本当に何も見てこなったのだな……)
身を引いていた自分が馬鹿らしく思える程、クリフトフにはヴァイオレットの素晴らしさが見えていなかった。
(“彼ら”も庇うような事をしていたが……余計な事を)
彼らとは他でもない。ユリシーズたちヴァイオレット大好きな者たちの事だ。
味方、後ろ楯が多く強いのは貴族社会では重要な事だ。だが甘やかす事は話が別だ。上位貴族であればあるほど、その責任はしっかり負わなければ、下の貴族たちに示しがつかない。それに……
「ヴァイオレットが、それで潰れる女だとでも?」
そう言えば、クリフトフはハッ! とした表情を浮かべた。
ここで潰れるような令嬢なら、王太子妃、国母になどなれはしない。
好きという感情だけでどうにかなる問題でもなければ、それだけで潰れてしまう女を選ぶ事もないのだ。
「彼女は強い」
「……そう、でしたね」
「落馬して骨折しても『練習する!』と言って聞かない程粘り強く、頑固で諦めなかったり」
「は──え?」
「イライザ相手に『負けない!』と言って剣術まで身に付けたり」
「えぇ!?」
「今では王妃がやるべき各従者たちの管理までしている」
そう……ヴァイオレットは、ただ淑女として日々過ごしている訳ではなかった。
王子王女たち同様、王宮で自身の居場所を得るために、彼女も日々何かに挑み、地盤を固めていった。
ジェラルドたち兄弟だけではなく、女中や従僕、侍女や執事も彼女を称賛するのは、貴族の争いの中でヴァイオレットが勝ち取った結果なのだ。
「だから俺は、彼女なら蹴飛ばして這い上がって来ると信じている」
今ここにいない者を想う瞳は恍惚の色を浮かべている。
そんな兄を見て、弟は目眩を覚えた。
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