王太子と公爵令嬢は我らがお守りします!

照山 もみじ

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26.棟の中で

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 王宮には五つの棟が存在する。その内四棟は客人を迎えるための棟であり、東西南北に一棟ずつ建っている。
 四つの棟は大きな窓に華やかな装飾が施され、招かれた客人たちが旅の疲れを癒せるように工夫されている……が、残りの一棟──別棟と呼ばれるその棟は、本邸に繋がる様に建っているにも関わらず、どの窓も顔が覗く程度の広さしかなく、最低限の装飾しかされていない。
 罪人であれど牢に入れる程でもなく、且つ罪を背負った王族が一時的に入れられる場所……それが別棟であった。

(あれ? ここは……?)

 そんな別棟の一室で、エミリア・ボンネットは、ぼんやりとした頭で室内を見渡していた。
 シンプルな机と椅子がベッドの横に置かれ、対の壁際には化粧台が置かれているだけの質素な部屋。部屋は続いており、どうやらそっちは浴室のようだった。

(何よ、この何にもない部屋。それに私、園庭にいなかったっけ?)

 クリフトフの園庭でヴァイオレットの頬を打ったエミリアは、あの後暴れに暴れ、手に負えないので気絶させられた。
 そしてそのままこの部屋に連れて来られたのだが、エミリアからすれば先ほどまで園庭にいたのに、目覚めたら見知らぬ部屋に放り込まれていた。不思議に思うのも無理はない。

「……あっ!! あの女ぁ!!」

 暫く空中を見つめていたエミリアだったが、不意に園庭での出来事を思い出して、頭の中に浮かんだ、彼女にとって大嫌いな女をキツく睨んだ。

「何よ何よ!! アンタなんてお茶にも誘ってもらえないくせに!! 話しかけて来たってずっと無視されてるくせに!!」

 ピンクパールの髪を振り乱しながら、思い付く限りの罵倒を叫ぶ。
 だがあの園庭の青の意味を知った今、この行為が虚しさを強くさせるだけだという事を理解していた。

 憎い
 憎い
 私が欲しいものを全部持っている、あの女が憎い!!

 嫌われていると思っていた相手が、まさか一番愛されていた事実に、感情が破裂して理性が焼き切れる。

 愛されているのは自分だ。自分が第二王子の妻となるのだ。
 だが、愛された青を持つ女──ヴァイオレット・オルブライドの姿が、脳裏にちらついて離れない。

「………-そうだわ」

 ピタッ、と、動きを止めたエミリアは、数秒固まったままでいたが、憤怒の形相をしていた顔は、次第に笑みを浮かべ始めた。

「殺せば良いのよ」

 良いことを思い付いたと言わんばかりに何度も頷きながら、その笑みは深みを増して行く。
 しかしその瞳はほの暗く、ドロドロとした憎悪の色が渦巻いていた。

「そうよ、そうだわ。何でもっと早く気付かなかったのかしら。殺せば邪魔する者はいなくなるんだから……フフフ」

 小さい窓から外を見る。窓には面格子が付いており、外に出る事は叶わない。

「良いの、良いのよ……私は絶対上手くいくもの」

 窓から見える王宮を見つめながら、窓ガラスを撫でる。
 この様子では彼らは気付いていないのだろうと、エミリアは満足げに息を吐いた。

「アナタを殺せば全て解決する……そうしたら」

 両手で頬を包み込み、光のない瞳を恍惚に濡らす。
 思い描く未来に身を震わせて、口から垂れた欲望を舌で舐めとった。

「そうしたら、全て私のものだわ……」

 明日から楽しみね、と、暮色騒然とした景色に沈む王宮を見つめ続けた。

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