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第二章

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「何よ? 文句ある?」

「目利きの試験ではないのですから、高そうなものを買うのではなく、似合う物を買って下さいよ。まさか、後で売るつもりじゃないですよね?」

 ギクッとしたエミリアに、フリードリヒは溜息を吐いた。

「わ、分かったわよ! これはやめて、こっちにするわ!」

 エミリアは王宮から出ても使えそうな一粒だけのパールのネックレスを指さした。

 すると、フリードリヒはもっと大きな溜息を吐いた。そして、エミリアの選んだ品の他に、3連パールの豪華だけど上品なネックレスとイヤリングのセットも一緒に包むように商人に指示した。

 ドレスのコーナーは有名店が数軒、自慢の商品を並べている。自分の店を選んでもらおうと、店主達は揉み手して待機していた。

 エミリアは自分に似合いそうなブロンズカラーのドレスを手にとったのだが、またもやフリードリヒの目がつりあがっている。

「な、何よ?」

「い、いえ...お好きな物を買って下さい。ただ、そのドレスには先程買ったアクセサリーは合わない気がしますので、それを買うなら、宝石売り場に戻りましょう」

「あ、そうよね。ジュエリーなんて自分で買った事がなかったから知らなかったわ」

 エミリアは手に持っていたドレスを元の場所に戻した。

 すると店主が慌てて、別の商品を勧める。

「先程、購入されていたダイヤのネックレスには、こちらのドレスなんてどうですか?」

 プリンセスラインの真っ赤なドレスや、薄いピンクに金の刺繍がされた豪華なドレスを見せてくる。

 なるほど~、確かに、あのダイヤのネックレスにはこういうドレスが合うかも。

 チラッとフリードリヒの方を振り返ると、フリードリヒはやっぱり、嫌そうな顔をしていた。

 いつもの仮面は何処へいったのかしら? ちょっと、面白いわ。

 エミリアは、色々なドレスを手に取って、フリードリヒの表情の変化を楽しんだ。

 そして、結構、1番最初のブロンズカラーのドレスを選んだ。

 すると、フリードリヒはエミリアの手を掴んで、宝石売り場へと戻った。

 怒っているフリードリヒの顔が面白くてエミリアは思わず噴き出した。

「ふざけていないで、ちゃんと選んで下さい! エミリーの買い物なんですから」

「はいはい。それで、あのドレスにはどのアクセサリーが合うの?」

 フリードリヒは石なしの純金製のチョーカーを選んだ。チョーカーにはボディチェーンが付いており、石なしでもとても豪華な一品だった。

「すごく良いと思いまぁ~す」

 フリードリヒは褒められて機嫌を直したのか、いつもの笑顔に戻った。

「じゃあさ! あのサファイアのジュエリーにはどんなドレスが合うの?」

「もう一度、ドレスを見てみましょう」

 フリードリヒがドレス売り場に戻るので、エミリアはこっそりガッツリポーズを決めた。

 2着目ゲット!

 フリードリヒは、さっきとは別のブランドのドレス売り場に来て、青と紫と紺のレースが幾重にも重ねられたマーメイドドレスを手に取った。マーメイドドレスだが、裾が豊かに広がる豪華なドレスである。

 フリードリヒは、そのドレスに合わせて、サファイアが縫い付けられたハイヒールのパンプス、刺繍たっぷりのジョーゼット生地の手袋、金糸の織り込まれたカシミヤショール、レース製の扇子など、次々と選んでいった。

 私よりも真剣に、私の服飾品を選んでるなんて、フリッツってば、実は私のこと好きなんじゃない?

 あぁ~、期待しちゃうけど、期待し過ぎちゃダメよ~!

 お姫様が泣いたら、皆が可哀想って思うけど、私が泣いたら、皆が喜ぶんだから!


 その後も買い物を続け、フリードリヒは、信じられないくらいいっぱい買ってくれた。

 王宮を出た後、弟のマルクスと住んでいたアパートに戻ったら、収納するスペースなんてないわ。フリッツには悪いけど、今日もらった物のほとんどは売るしかないのよね。凄いお金になりそう...そのお金で家を買っちゃおうかな? 念願のマイホーム! 家賃収入で不労生活!

 そう思ったら笑いが止まらないわ!

「何か、悪いことを考えていませんよね?」

「ぜ、全然! そんなことあるわけないでしょ!」

「では、一旦、お別れして、お互いに晩餐の準備をしましょう。時間になったら迎えに来ますね」

 去って行くフリードリヒの背中を見送り、エミリアはちょっと切ない気持ちになった。

 すでに買い物だけでクタクタだけど、ここまでしてもらったんだから、最後の晩餐のために頑張りますか!
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