あなたは私の、輝ける星 ーーYou're My Only Shinin' Starーー

藍川 東

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職務通りに

 新任の将校の職務として、アーシェとシンは基地司令官に着任の報告をした。
 さらに職務の通りに基地における職務の説明を受けーーー途中、飽きたアーシェが堂々とあくびをしそうになったところ、シンの肘が脇腹に刺さり事なきを得たーーー今は将校用の宿舎にいる。
 何故か、二人で同じ部屋に。
「いや、君。なんで当然のように私の部屋にいるの?」
「え? お前、なんでそんな不思議そうな顔してるの?」
「え? 私の認識がおかしいの?」
 シンの疑問に、アーシェはこの世の常識を問われたように、逆に驚いて答えた。
 黄金きんの瞳は、一遍の陰りもなく輝いている。
「え? 士官の部屋が相部屋だなんて聞いてないけど。そもそもベッドはひとつしかないし」
「え? 別々のベッドで寝る気だったのかよ」
 純粋無垢の顔で覗き込んでくるアーシェは、このままシンを丸め込む気満々なのだろう。
 丸め込まれる半歩前、崖っぷちぎりぎりのところで、シンは己の常識に立ち返った。
「別々に寝るのは当たり前だろう。いいかい、アーシェ。親しき中でも、プライベートは必要なんだよ」
 アーシェは渋々譲歩するていでいった。
「しょーがないな。トイレは別でいいよ」
「なんで、『わがまま聞いてやる彼氏』的な態度なんだよっ。風呂も別に決まってるだろ」
「いや。そこは譲れない」
 アーシェは腕を組んで、断固とした意思を見せた。
 しかし、シンの部屋で、シンのベッドに隣り合わせに座っているので、腰を90度ひねって無理やり対面している。体幹がいいので姿勢は揺るがないが、しばらくしたら腰の筋を痛めること確実だ。
「いや。譲る譲らないじゃなくて、そもそもなんで君と一緒にお風呂に入らなきゃならないんだよ」
「え~。俺の美肌、見たくないの~」
 確かにアーシェの肢体は、鑑賞の価値がある。
 軍という特性上、地上での訓練や実戦でドロドロになって、一緒にシャワーを浴びる機会は幾度もあった。
 同性にはありえない肌のきめ細かさに、本当に生き物なのかと疑問に思ったこともある。
 彫像と見まごう完璧な筋肉のラインに、一瞬陶然とさせられてしまうが、
 『なぁ。どっちがち○ち○大きいか、比べっこしようぜ~』
 という幼年学校エレメンタリースクール並の言葉に、感動を返せと水鉄砲で顔面を撃ったこと数知れず。
「シンさぁ、シャワーだけじゃなくて湯船に浸かるの好きだろ? 俺と一緒に入るなら、足が伸ばせる湯船がもれなくついてくる」
 官舎のバスルームはどこも同じ仕様のはずだ。
 湯船はあるが、シャワーの飛沫を受ける程度で、アーシェやシンが入ろうと思ったら、かなりきつく膝を抱え込まなくてはならない。
「どうして、君の部屋だけ仕様が違うの?」
「ここの官舎は、ウチのとこが受注してるから。赴任が決まったときに、勝手に改装されてた」
 ……これだからボンボンは。
 前の赴任地のように、勝手に基地外に家ーーーシンからしたら邸宅ーーーを建てようとしたり、赴任期間中ホテルを貸し切りーーー部屋、でもなくフロアでもなく、ホテル1棟ーーーにしようとせずに、大人しく官舎にい入ったと思ったら、これか。
 シンはベッドに座ったまま、アーシェを横目で見た。普通に座っているので、腰は痛くない。
 これは言い訳を必要とする案件だと、アーシェの知能指数判定をうけた全人類の中で、上位5%頭脳が判断したようだ。
「だってさ。二人で泊るときって、シンがバスに浸かるのが好きだから、湯船が大きいところを指定してただろ? そしたらウチの奴らがそう思ったらしくてさ。まぁでも、俺達が離任したら普通のに戻すようにいっておくし、別にいいだろ?」
 口調は強気のくせに、おねだりをする子どものように見つめてくる。
 羽ばたく音がしそうなほど長く密集した金の睫毛に縁取られた黄金の瞳の奥は、ほんの少しだけ不安げに揺れている。
 それがわざとなのか、本心なのか。
 どちらにしろ、シンには効果覿面ということだ。
「で? 特典とかないの?」
 不機嫌を装った口調でシンは帰したが、お許しが出るようだと察したアーシェは喜色満面に応えた。
「もちろん。いまならもれなく、『アヒル隊長』もついてくるっ」
 赤い帽子を被った黄色いアヒルのおもちゃは、なぜかアーシェのお気に入りで、大体の赴任地に同行している。
 シンは自分でもわざとらしいな、と思いながらも長い溜息をついた。
 様式美だ。
「『アヒル隊長』が一緒じゃね。仕方ないな」
「やったっ」
 シンのほうが恩恵を受けることなのに、まるで大好きなお菓子を貰った子どものように、アーシェが笑った。
 幻視とはわかっていても、眩しさにシンは目を細めた。
「ところでさ。この基地、どう思った?」
 話題をそらすため、本来の職務に関わることを口にした。
「ん~、胡散臭さ満載~って感じ? 宇宙航路にも関わんないし、地政学的にもなぁんの価値もない。そんな場所なのに、基地司令官と副官の経歴は悪くない」
 先ほど着任挨拶をした基地司令官と副司令官の経歴は、華々しさはないものの堅実で、とてもこんな辺境の捨てられた基地にふさわしくない。
 ここへの赴任理由としてか、前任地で経歴に多少の傷をつけているが、飛ばされるとしても、ここより数段マシところが妥当だ。
「そうだんだよね。きみもご実家からなにか聞いてない?」
 アーシェの家の情報網は、ときに宇宙軍を凌ぐ時がある。
「だよなー。一応じいに聞いてみたんだけど、マジなんもないって。逆に次はいつ、シンがウチに来るのかってうるせー」
 かつてビビりながら、人類中で指折りの大富豪の家に行った折り、予想外の歓待を受けたことをシンは思い出した。
「そうだね。最近はご無沙汰してたね」
 この任地から移るときにでも顔を出させてもらおうか、というと、アーシェが顔をしかめた、
「まだいーじゃん。お前が行くとなると、もれなく俺も実家帰らねーとだし。ま、お前が俺に実家でウケが良いのは、将来的にはめちゃ役立ちそうだけど」
 アーシェがなにか小声でブツブツっているのを聞き流して、シンは話題を戻した。
「ただ私達を退屈させて反省させるために、ここに赴任させたってだけなら構わないけどね」
 次の定期船が来るまでの二か月間、のんびり過ごさせてもらうだけだ。
「んなわけない方に、この徽章きしょう賭ける」
 アーシェは軍服の胸の略章を指した。
 軍人として称された証だ。普通の軍人なら、己の能力をわかりやすく他者に示す証だが、アーシェにとっては、毎回付け替えるのが面倒なバッチに過ぎない。
「いらないよ」
 シンも同じものを持っている。
 二人でくぐり抜けてきたことは、軍に称されるでもなく二人の中にある。
「こうしててもしゃーねーじゃん。飯でも食いに行こうぜ」
 官舎ではシンの手作りをねだるアーシェが、外食を提案した。
 さすがに初日からわがままは封じたのだろうか。
「そうだね。今の時間なら食堂に誰かいるだろうから、情報収集でもしておこうか」
 バディの精神的成長を喜びつつ、シンは腰を上げた。

 ーーー数時間後ーーー
 シンは自分の部屋の扉を開けて、呆然とした。
 隣の部屋との壁が取り払われ、ラグジュアリー感あふれる広いリビングルーム。広い浴槽。カウターキッチン。キングサイズのベッドが置かれた寝室。
 魔改造された官舎の部屋に、シンがアーシェにアッパーカットをキメたのは、自然の摂理だった。
 バキッ
「ぐえっ」
 ちなみに、浴槽では『アヒル隊長』がつぶらな瞳で揺れていた。
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