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2.王様に会って仲間(候補)たちと会うまで
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丁寧な対応で無礼なことをされる。
慇懃無礼を体現した兵たちに、ルディオとルカスは連行された。
言葉遣いは丁寧だが、こちらの都合は一切斟酌されない。
繰り返すがこれが、慇懃無礼。
ルカスの額に出た印の形は、どうやら『英雄』の形のようだ。
他にもあるようだが、こちらの質問には一切答えがない。
『こちらへ』
『こちらへどうぞ』
『こちらでお待ちを』
田舎の村から出てきた二人にとって、王城だけで自分たちの村よりも広い。
それを登ったり回ったりしながら、ただ『後ろをついてこい』と兵士の背中がいっている。
先頭を歩く隊長は、廊下ですれ違うお仕着せを着た男女が頭を垂れ道を譲っているところを見ると、多分それなりの位の人物なのだろう。
ルディオとルカスにはなんの説明も自己紹介もないけれど。
これが王都の流儀なのだろうか。
いっそのこと、どこかの部屋に紛れ込んでしまおうか、とルディオは思った。
自分もルカスも気配消しは充分できる。
隣で、大人の歩幅に合わさせられて、少し小走りで歩いているルカスを見る。
(面倒だから、うまく紛れて帰ろうか?)
(帰っていいの?)
(村長からのお達しは『体に印が出た者は王都に向かうこと』だったろ? もう王都には入ってる。そこから先は、知ったこちゃないさ)
これだけの意思疎通なら、村で狩りのときに使っていた目配りや指文字でできる。
呼び出した方は、当然自分たちの都合のいいように動くと思っているんだろうけど、通達された命令は『来い』だけだったわけだし、流れでなんとなく連行されているが、これはまた別の話だ。
了承したわけでもない。
村よりも広い所を歩かされたけれど、方向感覚をなくすほどではない。
いざとなれば外に出て、屋根伝いに出て行ってしまえばいい。
大ぶりの花瓶を目にとめて、ルディオは歩みを少し遅くした。
ルカスも当然合わせる。
後ろについていた兵士が、ルカスにぶつかりそうになり、ガチャリと不格好な音をたてて立ち止まる。
「チッ」
面の下から舌打ちをすると、あろうことか鞘の先でルカスの頭を小突こうとした。
それはその兵士からすれば何の気もない仕草で、そこらの行儀の悪い犬猫を避ける程度のことだっただろう。
害意すらない。
その反面、その行動で相手がどうなろうと知ったことではない、ということだ。
大人で鍛えてもいる兵士が、自分の胸の高さもない子どもの頭を、鉄製の武器で後ろから小突いたところで自分に非はないと信じ切っているのだろう。
非という意識すらないかもしれない。
これが身分のある貴賓の子どもだったら、別の対応をしているだろう。
それがルディオの癇に障った。
当然避けられるが、ルカスと鞘の間に手を入れる。
そのまま兵に身を寄せる。
ルカスが興味深げに見上げている。
兵士の体に触れることなく、その視覚を誘導することで重心をぶらせた。
「なっ」
兵士は自分の身に起こったことが信じられないとでもいうように声をあげると、すがるものもない空で腕を回した。
しかし掴むものもなく無様に後ろに倒れこむ。
兵士の体と鉄製の鎧の重さに、ぶつかられた大ぶりな花瓶が砕け、派手な音がした。
先頭を歩いていた隊長が、足を止めて振り返る。
「なにをしておるっ」
叱責を浴びて兵した素早く立ち上がり、隊長に向け敬礼をする。
本人はなにが起きたかわかっていない様子で、ただ反射で敬礼を取っているのがルディオにはわかった。
割れた花瓶を横目で見て焦っている気配が面越しでも伝わってくる。
割れた花瓶がありふれたものなのか、それとも一生どころか子々孫々まで贖わないとならない代物なのかは、ルディオの知ったことではない。
周りにいた人々が騒ぎ出す。
どう起こったかはルディオとルカスしか知らないが、なにが起きたかは周囲の人間すべてがわかった。
晒された無様さに隊長の顔が赤黒くなる。
面の下では、睨まれた兵士が青ざめていることだろう。
しかし自分がなぜこんな目に合っているのかは、わかっていない。
それほどこの兵士にとって『平民の子どもを小突く』ことが些細なことだろいうことだ。
騒ぎの中心からルディオはゆっくりと身を引いた。
ルカスもその動きに合わせる。
自然な仕草で動けば、人々の目には映らなくなる。
正確には映っていても、意識しなくなる。
そのまま予定通りさっさとか抜け出そうとしたところで、よく通る声が廊下に響いた。
「騒がしいね。なにかあったの?」
人々は声の方を向くと、一斉に膝を折った。
相手がわからない上に膝を折る礼なんてやり方も知らないので、ただ突っ立っているルディオとそれを見習ったルカス。
そして声の主だけがその場で立っていた。
当然目が合う。
上背はルディオと同じくらいだが、線が細い。
眼光は溌溂としているけれど、年に合わない不健康そうなくすんだ顔色が不似合いで、見ていると落ち着かない気持ちになる。
頭を下げるだけで誰も答えない。
周囲を見回すと、隊長に声をかけたらしい。
そういえは、ルディオはこの『隊長』の名前も役職も知らない。
「セルフィリオス王太子殿下におかれましては、ご機嫌も麗しく、」
「私の機嫌が麗しいかどうかは、これらの話し次第かな。で、なにがあったの?」
「はっ。不調法な者が恐れ多くも王宮の調度品を破損いたしまして」
兵士がビクリと体を揺らす。
隊長は『部下』ともいわなかった。
切り捨てられた感が伝わってくる。
「そう。誰が?」
王太子がその場を見渡す。
震えていた兵士がとっさに声を上げた。
「こ、この者らでございますっ。この者らが躓いてよろけ、恐れ多くも王宮の調度品を破損したのでありますっ」
裏返った声は、村の子どもたちが『オレは知らないもんっ』といたずらが見つかった時しらばっくれようとする感じに似ているが、可愛げと微笑ましさが皆無だ、とルディオは思った。
子どもでさえ時には『お前なぁ』とイラつきつつも許せてしまう可愛らしさもあったのに、こんな見ず知らずの男に罪を擦り付けられるいわれもない。
仮にも先生としてものを教える立場の人間が思ってはいけないことかもしれないが、正直面倒くさい。
手近な窓を見る。
開いている。
ルディオでも十分通れる大きさだし、ルカスも当然。
重心を移動させ、窓から出る機会をうかがっていると、王太子とやらが声をかけてきた。
「見かけない顔だね。誰?」
王太子の言葉で、人々の注目が集まってしまった。
わざとだとしたら、この王太子はなかなか曲者だ。
「え~、はじめてお目にかかります。わたくしはルディオと申します。教え子のルカスに『証』が出ましたので、付き添いとして王宮に、」
罷りこしました次第でございます、が正しいかもしれないが、自主的に来たわけでもないのでいいたくない。
ルカスはルディオの改まった口調が面白いらしく、人も気も知らずにケラケラ笑っている。
コイツ、と思わないでもないが、王都に来て初めて屈託なく笑うルカスに少しほっとした。
「あぁ、聞いている。『英雄』の証が出た少年だそうだね。本来はこちらから迎えに行かなくてはならないところ、わざわざ来てくれてありがとう」
王都で初めてまともな会話。
それがおそらくこの国で二番目の位の人物としてか成り立たないというのは、けっこうな問題ではないだろうか。
「オレね、ルカス。先生だけはルカって呼んでもいいよっていってる」
「そうか。ではルカスと君を呼ぼう。私はセルフィリオスという。呼ばれ方は『おうたいしでんか』と呼んでくれると、周囲の者がわかりやすい」
「そうなの。名前どこにもはいってはいけど。それに長いね」
子どもとは人を貶めない限り疑問を口にしていい、というのはルディオの方針だ。
傷つくかどうかは相手次第なので、まずは故意でなければよし。
しかし、自分の立場を子どもにすら押しつけたいという輩相手のときは、少し面倒なことが起こる時もある。
さて、この『おうたいしでんか』はどちらか。
ルカスに害を加えるようなら、ルカスを変えて窓から飛び出すのも訳はない。
サリ、っと爪先を動かしておく。
しかしセルフィリオスの回答は、その必要性がないことがわかった。
「そうだな。確かに長い。では今後お互いをどう呼び合うかは、もう少しお互いを知ってから決め合うとしよう」
満点以上の回答だ。
自分でもこれ以上の回答ができるとは思えない。
偉い人ってすごいものだ、とルディオがみていると、セルフィリオスがいった。
「陛下にお目通りを願う途中なのだろう? 私が案内しよう」
セルフィリオスはどうかな?といってきたので、ルディオとしては慇懃無礼で気遣いのない兵士たちよりはるかにマシな提案に是しかない。
「あ、じゃあお願いします」
一応丁寧語で答えてみる。
「そうか、では行こうか」
そのまま歩き去ろうとするセルフィリオスを、隊長が引き留める。
「お待ちを、殿下。そのような者どもと王太子殿下がご一緒なさるなど、危のうございます。警護の随行をお許し頂きたく」
「王宮内で、王太子である私の警護が必要とも思えないけれどね。それに彼らを国王陛下に目通りするために案内してきたのだろう? まさか危険かもしれない者を陛下の面前に連れて行こうとしていたわけではないだろう?」
それはまったくもってその通り。
「それより『君の部下』の始末を先に片づけたらどうかな。このままでは破片で誰かが怪我をしないとも限らないしね。王宮の品位も少し損ねる」
責任の所在をはっきりさせる。
「もっとも国の全ての責任は王族が負うものである以上、その花瓶を割った責も王太子たる私に帰するのだろうけれど」
「いえ、それは。恐れ多いことでござます」
「そう。それなら片づけはよろしく頼むよ。ついでに、君の部下にもどうしてこうなったかよく聞いておいておくれ。屈強な兵士が転ぶような廊下だとしたら、何か理由があるのかもしれないからね。では、行こうか」
光沢のあるマントを優雅にひるがえすと、セルフィリオスは礼をする人々の間を進んでいった。
歩く速さは先ほどの隊長より遅いのに、スムーズに進んでいる気がする。
同行者によって気持ちが変わり、気持ちによって歩きが変わるなんて、自分の随分気分屋だとルディオは思った。
「君の迎は私が行くといっていたんだがね。どうやら耳が遠い者が多いようで」
国政対しては税が上がるか下がるかしか興味がなく、ましてや王位や王宮闘争にはまったく興味がないルディオにも、セルフィリオスの言葉で、この気持ちのいい王太子は王宮内で主流派ではないことが察せられた。
「どうしておうたいしでんかがオレの迎えに来るの?」
ルカスがセルフィリオスを見上げたて尋ねる。
近くによると、ルディオよりも背は少し低い。
体も薄く、肌は不健康に白い。ゆっくり歩いているのも、ルカスに合わせているのもあるが、セルフィリオス自身が歩ける速度がこれなのかもしれない。
それなのに、目の光だけが強く、まるで脆弱な体に闊達な精神が閉じ込められているように感じる。
「それは、君はお願いをしないといけないからだ。それも結構大変なことを」
「なに?」
無邪気に問い続けるルカスに、セルフィリオスは意識して平易な言葉を使って返す。
「魔物をね、退治してもらいたい」
「魔物? 悪い魔物?」
「悪いかどうかはわからないけれど、私たちとは仲良くしてくれない魔物だよ」
「そうなんだ。村では魔物の縄張りに近づかなければ、あっちからは何もしてこないって知ってるよ。魔物も人間とは関わり合いになりたくないんだって。入っちゃいけないところは、先生が教えてくれるから大丈夫なんだよ」
やや胸を張りながらルカスがいう。
ルカスの『先生はすごいんだぞ』アピールは村では有名だったが、こんな王宮のど真ん中でされると、された本人もやや照れる。
「でも、どうして? 国にはさっきの兵隊とかがいて、その人たちが国を守るんでしょう? そのために税金を納めてるって先生がいってた」
確かにルディオはそう子どもたちに教えている。
税金を払うのは、代わりに戦う兵士たちを養ったり、みんなで出し合ったお金で大きなことーー橋をかけたり、道を作ったりーーをするためだ、と教えている。
それが『王族』にも通用するかは、わからない。
「そうだね、その通りだルカス。君の先生は正しい」
この王太子には通用するようだ。
ルカスが誇らしげな顔でルディオを見上げてくる。
それに頷きながら、ルディオはこの王太子が少数派であることを理解した。
こんな考え方の王族では、特権威意識が満載の王族貴族たちからさぞ煙たがられるだろう。
知らないけれど。
「本来なら君のいう通りなんだが、兵士たちだけでは魔物に対応できなくてね。歴史書によると魔物が押し寄せてくるたび、体に『証』が現れる者たちがいて、その者たちが魔物と戦ってくれていたんだ。
その『証』は体の上の方であればあるほど力も強い。
そしてそれぞれの特性を表している。
君の額の『証』は『英雄』。
『証』の者たちを統べて、先頭に立し導いていく者の『証』なんだよ」
…………なるほど。
ここに至って、やっとルカスが呼ばれた訳が分かった。
というかここに至るまで誰も説明してこなかったのが、大問題ではないだろうか。
年端もいかない少年を『証』が出たからといって、魔物と戦わせる。
たまたまルカスは森での狩りも教えているから体力もあり、刃物や弓矢の扱いも、動物をしとめる技も身に着けているし、たまたまルディオが知っているから『そのほかのこと』も教えているが、そうでなかったらどうなることか。
「『証の者たち』ということは、他にも『証』が出ている者がいるということですね?」
ルディオの問いに、セルフィリオスが答える。
「あぁ。君たちが一番遠い地にいたので、他の者たちはすでに集まっている。それぞれ歴史書に記されている『証』の性質も確認してあるよ」
「そうですか。その『方々』に比べて、ルカスは幼いのでは?」
「いや。『証』が出た者は、みな十代ばかりだ。ルカスが特に幼いということはないだろう」
ということは。
国か王族か軍かは知らないが、十代の子どもたちに自分たちも敵わない魔物に立ち向かわせようとしているわけだ。
本当にしょうもないな。大人ってやつは。
「君が考えていることはわかる気がするよ、ルディオ。しかし実際、兵の中でも手練れの者を向かわせたこともあるし、金で傭兵を雇ったこともある。わが国がが弱みを見せることを承知で異国の軍に頼ったこともある。だが、一時しのぎにはなったが、奴らはどこから湧いて出てくるのやら、それすらも掴めない。せめて言葉の通じる相手なら、とあるとあらゆる学者やら動物をまとめて飼っているいる者なども向かわせたが、ことごとく目的を達したものはいなかった。中には奴らと必ず通じ合える、と奴らのただ中に丸腰で飛び込んでいった者もいたよ」
「一応聞きますけど、どうなりました?」
「……子どもがいる前では、あまり口に出したくない結果になった」
セルフィリオスが配慮のできる大人でよかった。
ルカスも狩りをしているので獲物を屠ることはあるが、充分な感謝と余計な分はとらないようにさせている。
獲物を得るために必要な狩りと相手を殺すための戦いとでは、やり方が違う。
片方は得るための行いで、もう片方は破壊のための行為だ。
どうしても必要ならば、それは大人がやるべきであって、子どもにさせるものではない。
それくらい、この王太子なら考えただろう。
それくらいはルディオでも察せられた。
それでもというのなら、本当にどうしようもないのだろう。
『証』を持たない人間には。
「歴史書っておっしゃってましたけど、とすると前回も子どもたちだけで魔物に立ち向かわせたってことですか」
立ち向かっていった、とはいいたくない。
きっと本人たちは自ら向かっていったと思っているかもしれないが、子どもを死地に向かわせた大人たちがいたはずだ。
「耳に痛いことだが、その通りだ。私の何代か前の先祖が美辞麗句を並べ立て、子どもたちを死地に送り込んだ。だから今王家は存続し、この国はのうのうと歴史を刻んでいるわけだ」
飾らない言葉は結構だが、それとルカスに何のかかわりがあるのか。
たまたま『証』が出たからといって、教え子を死地に送り出す先生がいるものか。
「君の憤りは甘んじて受けよう。だが、もう他に手立てがなくてね。ルカスも使えるのだろう? あれが」
なるほど。
あれ、ね。
確かにあれは強力な武器になる。
いいところに目を付けたものだ、かつての王族たちは。
あれが使える者に、『証』が出るというのなら、単純にして明快。
なんと便利な識別方法だろう。
「そういうわけでね、これから陛下にお目通りいただいた後、他の『証』が出ている子供たちを紹介するよ」
「はぁ」
ルディオは不敬にもセルフィリオスに不敬な返事を返した。
心はすでに、ルカスを連れてどこまで逃げ出そう、という算段を整えつつある。
自分とルカスなら、国の警備兵に捕まることもないだろうし、特に惜しむようなものを村に残してはいない。
どうやら王太子は気配に敏感なようだ。
「まずはルカスと同じ『証』を持った子どもたちと会ってみて欲しい。抜けるのはいつでもできるだろう?」
ルディオを見て微笑む。
儚げな笑みでありながら、太々しさも感じる。
王族というのは、よくわからない。
「こんな状態の君たちと陛下と謁見させるのは、やる気のなさをマイナスにしてしまうかもしれないんだけれど、これも手順でね。諦めて。そしてすぐに忘れてくれると助かるよ」
一国の王太子。
つまり次代の王が現王を批判しては、下手をしたら死を賜ることもあるだろう。
しかしセルフィリオスは恐れてはいないようだ。
「ま。構いませんけど。俺もルカスも王様とお会いするときの礼節作法なんて知りませんよ」
一応不逞の輩っぽくいってみるが、セルフィリオスには効かなかった。
「ルカスは『英雄の証』持ち出し、君はその後見人だ。たとえ王の前でも膝をつく必要はない。ただ直答はないだろうから、なにかいってきても、もごもご呟いたら取次官が勝手に奏上する。気にしなくていい。ただ一度だけ」
セルフィリオスは言葉を切って、申し訳なさそうにルカスを見た。
「一度だけ、わかりやすくあれを使って見せて欲しい。どんな者にもはっきりとわかるように」
顔は笑っているが、目が伴っていないお手本のような笑顔だ。
「おうたいしでんかって、次の王様なんでしょう? お父さんと仲が悪いの?」
ルカスがなかなか核心を突く質問をする。
「いや、私の父は前の王様でね。今の王様は叔父にあたるんだ。そして、従妹の男の子がいる」
…………それはそれは。
王様だろうが村長だろうが、絶対にもめる状況だ。
ルディオは周辺国との地図とこの国に隷属していない、できれば対立している国を調べておこうと決めた。
両脇に、『ただ扉を開けることが仕事』の人間を配した扉にたどり着く。
セルフィリオスは優雅な仕草で、仕草だけで扉を開けさせた。
扉の先には、初めて見る自国の王らしき男と、王妃らしき女。
そして王の椅子のほんの少し後ろの椅子に、その男女の息子らしい男の子が座っていた。
年はルカスとそう変わらなそうだが、俊敏さにおいてはルカスが、今まで食べてきた食事の量なら圧倒的にその子が勝つであろう姿だ。
セルフィリオスは扉のすぐ内側でルディオとルカスをとどめると、ごく気楽な様子で玉座に近づいていった。
そして、男の子の前に立った。
「セルドゥルク。そこは私の椅子だ。どきなさい」
男の子は不満そうな顔で母親らしき王妃を見る。
王妃は冷めた目で王を見る。
王は苦虫を噛んだ顔をして、少しだけ頷いた。
王妃が男の子を手招きし、自分の膝に座らせた。
やせぎすな王妃の膝の上では座りが悪いのか、男の子はむずがったが王妃が後ろから手を回すと不満顔をしながらも動かなくなった。
王妃がなにか耳打ちしたのが効いたらしい。
そんな二人の横で、王と王太子の会話があった。
「陛下。『英雄の証』の者が登城したら、王太子たる私が出迎えるとお伝えしていましたし、それついてご許可をいただいていると思っておりましたが」
「そうだな。そうであった」
「しかしながら、かの者が王都についたという連絡も、王宮に参上しているという知らせも受けておりません」
「そうか。城にも怠惰な者がおるな。あとで相応の罰を与えなくてはな」
セルフィリオスは王を見下ろしながら、王はセルフィリオスと一切視線を合わせないままの会話だ。
寒々しい会話が少しあり、王はセルフィリオスに着席を促した。
セルフィリオスは落ち着いた仕草で席についた。
頬が紅潮しているので、余計に肌の白さが引き立つ。
四人が並んでいるのを見ると、ルディオは身震いした。
先王の遺児の王太子。
現王と妃とその息子。
どう見ても火種しかない。
こんな場所からは一刻も早く暇したい。
広間は広いといっても、高い天井に反射して声は届く。
しかし『高貴な方との直接の会話』は平民には許されておらず、セルフィリオスがいった通りご下問にもごもごしていると、間に2人ほどいる『平民の言葉を正しく王にお伝えできる言葉遣いに変える』のを職務としている官吏がうまいこといっているらしい。
王の機嫌はまぁまぁ良いようだ。
セルフィリオスの予想通り、最後のあれを見せてみろ、といわれた。
王としては大道芸のひとつのように、ちょっとした余興とでも思ったのだろう。
王の言葉は聞こえたが、二人を介して同じことが伝えられた。
「どうする? 先生?」
ルカスがルディオに聞いてくる。
人前でやるときは、必ず聞くように、といっていたのが身についている。
「そうだな、少しだけ見せてやろう。天井ぎりぎりまでで。熱は増さずに深さだけ増してみな。もし制御できなくなっても、先生がいるから大丈夫」
「えー、それくらいオレにだってできるよ。見てて」
そういうと、ルカスは手の平を天井に向けた。
その手の平から、何の前触れもなく炎が生まれた。
生まれた次の瞬間には巨大な火柱となり、高さはルカスの手の平から天井にまで達した。
命じた王も王妃と子どもも椅子から転げ落ちることはなかったが、少しでも遠ざかるように手すりに力を込めてずり上がった。
二人の官吏のうち、より王に近いひとりは慌てて壁際まで逃げ去り、ルカスに近いほうのひとりは動くこともできず呆然と火柱を見上げている。
ルカスがルディオを見る。
ルディオが頷くと、ルカスは炎を黒く変えた。
熱は赤い炎よりも放たれなくなったが、それを見た誰もがより強い『なにか』に変質したのがわかった。
本能的に人間に畏怖を持たせる、本来人間が扱うべきではない『なにか』だ。
それをルカスは苦もなく出現させている。
王が収めるようにいったのは聞こえたが、一応礼儀らしいので取次の官吏が伝えてくるまで待って、それから収めた。
退室を許可するとのことなので、ありがたく承る。
その背中に男の子の声がかかった。
「化け物め」
その化け物の手を借りなければ保たれないものの上にいることに、気づいているのだろうか?
控えの間にいると、それほど待たずにセルフィリオスが来た。
ゆったりとした動作はルディオから見てもなんだか高貴っぽく見えるのに、本人は漲るものとそれを発揮できない体との差異に消耗しているようにも見えた。
「待たせたね。では他の『証』の子どもたちのところに案内するよ。みなには集まってもらっているんだ」
セルフィリオスの後に続いていくと、王宮の外縁部らしいところに来た。
姿は見えなくとも、ルディオには『証』の子どもたちの気配を感じ取れた。
それぞれの特性があるようだが、総じてルカスほどの力の持ち主はいないようだ。
扉の前に控えていた兵が、扉を開ける。
それは内側を守っているようでもあったが、逃亡を許さない見張りのようでもあった。
しかしルディオは、この程度なら簡単に突破できるな、という感触を得た。
扉が開かれ、セルフィリオスを先頭に三人が部屋に入る。
部屋中の人間から一斉に視線を向けられた。
それは単に好奇心のものから、嫉妬、敵愾心、恐れ。
どちらにしろ余り好意的なものはなかった。
それを感じているはずなのに、セルフィリオスは完全に無視して笑顔で口を開いた。
「みなも待ちかねていただろう。彼が『英雄の証』ルカスだ」
ルカスの背に手を添える。
部屋の中は、子どもとそれよりやや少ない人数の大人とがいた。
どうやら『証』の子どもの後見やら親兄弟らしい。
自分がいることでルカスが引率の先生と一緒だなんて、と侮られることは内容で、ルディオは少し安心した。
ぶつけられる視線は想定内なので、特に気にしない。
ルカスとルディオを紹介すると、セルフィリオスは部屋を出て行った。
王太子ともなると、いろいろ多忙なようだ。
漠然と全体に紹介されたからといって、いきなり友好的雰囲気になるわけでもない。
子どもたちの中でもやや力の強そうな女の子がルカスの前に進み出てきた。
年はルカスより少し上かもしれない。
なかなか上等な布の服を着ている。
貴族の子女のようだが、片方の肩をあらわにしているのははしたないといわれても仕方がない仕様の服だ。
しかしそのあらわになった方には、ルカスとは異なる形の『証』が現れている。
「いっておくけど。『証』が出た者の多くは貴族なの。『英雄の証』が平民に出たのは残念だわ」
「そうなんだ」
ルカスは気のない返事を返した。
それが気に喰わないようで、少女は声高に宣言した。
「いいこと。あなたと私たちとでは、生まれが違うの。この国と王族の方々に対する思いが違うのよ。『証』が出た以上行動を共にしなくてはならないけれど、そこは理解しておいてちょうだい」
なかなか典型的な貴族子女だ。
ルディオは感心してしまったし、ルカスに至っては新しい動物を見るような好奇心で彼女を観察している。
「オレはルカス。きみ名前は?」
「なっ……平民が私の名を尋ねるっていうの」
「え? オレは先に名乗ったよ。それにおうたいしでんかもオレと先生のこと紹介したじゃない。聞いてなかったの?」
「そんなわけないでしょうっ。王太子殿下のお言葉を聞き逃すなんて不敬なこと、するわけないでしょうっ」
「じゃあ、オレの名前はしってるでしょう? ちゃんと名前で呼び合うのが、お互いを知るために大事だって先生はいってるよ」
「どうして私と貴方が知り合わなくちゃならないのよ」
「え? これから一緒に魔物を倒すんじゃないの? そのために集められたんでしょ?」
ルカスの問いかけに、少女とそれを取り巻いていた子どもたち、その周りの大人たちがやれやれ、といった顔を作った。
確かに部屋の中の人間は大まかに二通りだった。
今ルカスの目の前に陣取っている、比較的良い服装をしてやたら好戦的になっている子どもとその従者といった大人たち。
それと別に、平民らしい簡素な服装とその親や年上の兄弟といった付き添いがついが者たち。
それぞれの中にまた仕分けがあるだろうが、大まかには二つの集団だ。
ルカスは後者の集団に属すだろうが、にもかかわらず『証』の中でもどうやら特別な『英雄の証』持ちであることが、前者の集団の琴線を大きくかき乱したのだろう。
まぁ、知ったことではないが。
ルディオが見る限り、どの子どもも大人もルカスとルディオの行動を制することができるほどの力の持ち主はいない。
仮に全員が一斉に敵対したとしても、だ。
「ではよくお聞きなさい。私はリリファ。お兄様は大神官を務めていらっしゃるの」
「ふーん。別にお兄さんまで紹介してくれなくてもよかったけど」
ルカスの答えに、リリファの顔が赤くなる。
悪いとは思ったが、ルディオは笑うのをこらえるのに腹に力を込める羽目になった。
「そんな簡単なことではないんだからっ。なら、貴方の親はなにをしているの?」
「知らない。赤ん坊の時に森にいたのを、先生が拾ってくれたから」
その答えを聞いて、リリファの勢いが少し弱まる。
根は善良な少女のようだ。
「で、でもっ。私たちは身分ある生まれなの。貴方と一緒にいはしないでいただきたいわ」
「そうなんだ。偉いんだ。どれくらい偉いの?」
ルカスにとって『先生』であるルディオが世界で一番偉いので、それ以外の序列に関心はなかった。
「何倍くらい?」
明日も天気かなぁ、と同じくらいの口調でルカスは聞いた。
ルカスの無邪気な問いかけに、リリファは顔を赤くして答えた。
「そうね、30倍は偉いわ」
根は単純で悪くない子なのだと、ルディオは思った。
リリファがその返答を後悔するのに、そう時間はかからなかった。
慇懃無礼を体現した兵たちに、ルディオとルカスは連行された。
言葉遣いは丁寧だが、こちらの都合は一切斟酌されない。
繰り返すがこれが、慇懃無礼。
ルカスの額に出た印の形は、どうやら『英雄』の形のようだ。
他にもあるようだが、こちらの質問には一切答えがない。
『こちらへ』
『こちらへどうぞ』
『こちらでお待ちを』
田舎の村から出てきた二人にとって、王城だけで自分たちの村よりも広い。
それを登ったり回ったりしながら、ただ『後ろをついてこい』と兵士の背中がいっている。
先頭を歩く隊長は、廊下ですれ違うお仕着せを着た男女が頭を垂れ道を譲っているところを見ると、多分それなりの位の人物なのだろう。
ルディオとルカスにはなんの説明も自己紹介もないけれど。
これが王都の流儀なのだろうか。
いっそのこと、どこかの部屋に紛れ込んでしまおうか、とルディオは思った。
自分もルカスも気配消しは充分できる。
隣で、大人の歩幅に合わさせられて、少し小走りで歩いているルカスを見る。
(面倒だから、うまく紛れて帰ろうか?)
(帰っていいの?)
(村長からのお達しは『体に印が出た者は王都に向かうこと』だったろ? もう王都には入ってる。そこから先は、知ったこちゃないさ)
これだけの意思疎通なら、村で狩りのときに使っていた目配りや指文字でできる。
呼び出した方は、当然自分たちの都合のいいように動くと思っているんだろうけど、通達された命令は『来い』だけだったわけだし、流れでなんとなく連行されているが、これはまた別の話だ。
了承したわけでもない。
村よりも広い所を歩かされたけれど、方向感覚をなくすほどではない。
いざとなれば外に出て、屋根伝いに出て行ってしまえばいい。
大ぶりの花瓶を目にとめて、ルディオは歩みを少し遅くした。
ルカスも当然合わせる。
後ろについていた兵士が、ルカスにぶつかりそうになり、ガチャリと不格好な音をたてて立ち止まる。
「チッ」
面の下から舌打ちをすると、あろうことか鞘の先でルカスの頭を小突こうとした。
それはその兵士からすれば何の気もない仕草で、そこらの行儀の悪い犬猫を避ける程度のことだっただろう。
害意すらない。
その反面、その行動で相手がどうなろうと知ったことではない、ということだ。
大人で鍛えてもいる兵士が、自分の胸の高さもない子どもの頭を、鉄製の武器で後ろから小突いたところで自分に非はないと信じ切っているのだろう。
非という意識すらないかもしれない。
これが身分のある貴賓の子どもだったら、別の対応をしているだろう。
それがルディオの癇に障った。
当然避けられるが、ルカスと鞘の間に手を入れる。
そのまま兵に身を寄せる。
ルカスが興味深げに見上げている。
兵士の体に触れることなく、その視覚を誘導することで重心をぶらせた。
「なっ」
兵士は自分の身に起こったことが信じられないとでもいうように声をあげると、すがるものもない空で腕を回した。
しかし掴むものもなく無様に後ろに倒れこむ。
兵士の体と鉄製の鎧の重さに、ぶつかられた大ぶりな花瓶が砕け、派手な音がした。
先頭を歩いていた隊長が、足を止めて振り返る。
「なにをしておるっ」
叱責を浴びて兵した素早く立ち上がり、隊長に向け敬礼をする。
本人はなにが起きたかわかっていない様子で、ただ反射で敬礼を取っているのがルディオにはわかった。
割れた花瓶を横目で見て焦っている気配が面越しでも伝わってくる。
割れた花瓶がありふれたものなのか、それとも一生どころか子々孫々まで贖わないとならない代物なのかは、ルディオの知ったことではない。
周りにいた人々が騒ぎ出す。
どう起こったかはルディオとルカスしか知らないが、なにが起きたかは周囲の人間すべてがわかった。
晒された無様さに隊長の顔が赤黒くなる。
面の下では、睨まれた兵士が青ざめていることだろう。
しかし自分がなぜこんな目に合っているのかは、わかっていない。
それほどこの兵士にとって『平民の子どもを小突く』ことが些細なことだろいうことだ。
騒ぎの中心からルディオはゆっくりと身を引いた。
ルカスもその動きに合わせる。
自然な仕草で動けば、人々の目には映らなくなる。
正確には映っていても、意識しなくなる。
そのまま予定通りさっさとか抜け出そうとしたところで、よく通る声が廊下に響いた。
「騒がしいね。なにかあったの?」
人々は声の方を向くと、一斉に膝を折った。
相手がわからない上に膝を折る礼なんてやり方も知らないので、ただ突っ立っているルディオとそれを見習ったルカス。
そして声の主だけがその場で立っていた。
当然目が合う。
上背はルディオと同じくらいだが、線が細い。
眼光は溌溂としているけれど、年に合わない不健康そうなくすんだ顔色が不似合いで、見ていると落ち着かない気持ちになる。
頭を下げるだけで誰も答えない。
周囲を見回すと、隊長に声をかけたらしい。
そういえは、ルディオはこの『隊長』の名前も役職も知らない。
「セルフィリオス王太子殿下におかれましては、ご機嫌も麗しく、」
「私の機嫌が麗しいかどうかは、これらの話し次第かな。で、なにがあったの?」
「はっ。不調法な者が恐れ多くも王宮の調度品を破損いたしまして」
兵士がビクリと体を揺らす。
隊長は『部下』ともいわなかった。
切り捨てられた感が伝わってくる。
「そう。誰が?」
王太子がその場を見渡す。
震えていた兵士がとっさに声を上げた。
「こ、この者らでございますっ。この者らが躓いてよろけ、恐れ多くも王宮の調度品を破損したのでありますっ」
裏返った声は、村の子どもたちが『オレは知らないもんっ』といたずらが見つかった時しらばっくれようとする感じに似ているが、可愛げと微笑ましさが皆無だ、とルディオは思った。
子どもでさえ時には『お前なぁ』とイラつきつつも許せてしまう可愛らしさもあったのに、こんな見ず知らずの男に罪を擦り付けられるいわれもない。
仮にも先生としてものを教える立場の人間が思ってはいけないことかもしれないが、正直面倒くさい。
手近な窓を見る。
開いている。
ルディオでも十分通れる大きさだし、ルカスも当然。
重心を移動させ、窓から出る機会をうかがっていると、王太子とやらが声をかけてきた。
「見かけない顔だね。誰?」
王太子の言葉で、人々の注目が集まってしまった。
わざとだとしたら、この王太子はなかなか曲者だ。
「え~、はじめてお目にかかります。わたくしはルディオと申します。教え子のルカスに『証』が出ましたので、付き添いとして王宮に、」
罷りこしました次第でございます、が正しいかもしれないが、自主的に来たわけでもないのでいいたくない。
ルカスはルディオの改まった口調が面白いらしく、人も気も知らずにケラケラ笑っている。
コイツ、と思わないでもないが、王都に来て初めて屈託なく笑うルカスに少しほっとした。
「あぁ、聞いている。『英雄』の証が出た少年だそうだね。本来はこちらから迎えに行かなくてはならないところ、わざわざ来てくれてありがとう」
王都で初めてまともな会話。
それがおそらくこの国で二番目の位の人物としてか成り立たないというのは、けっこうな問題ではないだろうか。
「オレね、ルカス。先生だけはルカって呼んでもいいよっていってる」
「そうか。ではルカスと君を呼ぼう。私はセルフィリオスという。呼ばれ方は『おうたいしでんか』と呼んでくれると、周囲の者がわかりやすい」
「そうなの。名前どこにもはいってはいけど。それに長いね」
子どもとは人を貶めない限り疑問を口にしていい、というのはルディオの方針だ。
傷つくかどうかは相手次第なので、まずは故意でなければよし。
しかし、自分の立場を子どもにすら押しつけたいという輩相手のときは、少し面倒なことが起こる時もある。
さて、この『おうたいしでんか』はどちらか。
ルカスに害を加えるようなら、ルカスを変えて窓から飛び出すのも訳はない。
サリ、っと爪先を動かしておく。
しかしセルフィリオスの回答は、その必要性がないことがわかった。
「そうだな。確かに長い。では今後お互いをどう呼び合うかは、もう少しお互いを知ってから決め合うとしよう」
満点以上の回答だ。
自分でもこれ以上の回答ができるとは思えない。
偉い人ってすごいものだ、とルディオがみていると、セルフィリオスがいった。
「陛下にお目通りを願う途中なのだろう? 私が案内しよう」
セルフィリオスはどうかな?といってきたので、ルディオとしては慇懃無礼で気遣いのない兵士たちよりはるかにマシな提案に是しかない。
「あ、じゃあお願いします」
一応丁寧語で答えてみる。
「そうか、では行こうか」
そのまま歩き去ろうとするセルフィリオスを、隊長が引き留める。
「お待ちを、殿下。そのような者どもと王太子殿下がご一緒なさるなど、危のうございます。警護の随行をお許し頂きたく」
「王宮内で、王太子である私の警護が必要とも思えないけれどね。それに彼らを国王陛下に目通りするために案内してきたのだろう? まさか危険かもしれない者を陛下の面前に連れて行こうとしていたわけではないだろう?」
それはまったくもってその通り。
「それより『君の部下』の始末を先に片づけたらどうかな。このままでは破片で誰かが怪我をしないとも限らないしね。王宮の品位も少し損ねる」
責任の所在をはっきりさせる。
「もっとも国の全ての責任は王族が負うものである以上、その花瓶を割った責も王太子たる私に帰するのだろうけれど」
「いえ、それは。恐れ多いことでござます」
「そう。それなら片づけはよろしく頼むよ。ついでに、君の部下にもどうしてこうなったかよく聞いておいておくれ。屈強な兵士が転ぶような廊下だとしたら、何か理由があるのかもしれないからね。では、行こうか」
光沢のあるマントを優雅にひるがえすと、セルフィリオスは礼をする人々の間を進んでいった。
歩く速さは先ほどの隊長より遅いのに、スムーズに進んでいる気がする。
同行者によって気持ちが変わり、気持ちによって歩きが変わるなんて、自分の随分気分屋だとルディオは思った。
「君の迎は私が行くといっていたんだがね。どうやら耳が遠い者が多いようで」
国政対しては税が上がるか下がるかしか興味がなく、ましてや王位や王宮闘争にはまったく興味がないルディオにも、セルフィリオスの言葉で、この気持ちのいい王太子は王宮内で主流派ではないことが察せられた。
「どうしておうたいしでんかがオレの迎えに来るの?」
ルカスがセルフィリオスを見上げたて尋ねる。
近くによると、ルディオよりも背は少し低い。
体も薄く、肌は不健康に白い。ゆっくり歩いているのも、ルカスに合わせているのもあるが、セルフィリオス自身が歩ける速度がこれなのかもしれない。
それなのに、目の光だけが強く、まるで脆弱な体に闊達な精神が閉じ込められているように感じる。
「それは、君はお願いをしないといけないからだ。それも結構大変なことを」
「なに?」
無邪気に問い続けるルカスに、セルフィリオスは意識して平易な言葉を使って返す。
「魔物をね、退治してもらいたい」
「魔物? 悪い魔物?」
「悪いかどうかはわからないけれど、私たちとは仲良くしてくれない魔物だよ」
「そうなんだ。村では魔物の縄張りに近づかなければ、あっちからは何もしてこないって知ってるよ。魔物も人間とは関わり合いになりたくないんだって。入っちゃいけないところは、先生が教えてくれるから大丈夫なんだよ」
やや胸を張りながらルカスがいう。
ルカスの『先生はすごいんだぞ』アピールは村では有名だったが、こんな王宮のど真ん中でされると、された本人もやや照れる。
「でも、どうして? 国にはさっきの兵隊とかがいて、その人たちが国を守るんでしょう? そのために税金を納めてるって先生がいってた」
確かにルディオはそう子どもたちに教えている。
税金を払うのは、代わりに戦う兵士たちを養ったり、みんなで出し合ったお金で大きなことーー橋をかけたり、道を作ったりーーをするためだ、と教えている。
それが『王族』にも通用するかは、わからない。
「そうだね、その通りだルカス。君の先生は正しい」
この王太子には通用するようだ。
ルカスが誇らしげな顔でルディオを見上げてくる。
それに頷きながら、ルディオはこの王太子が少数派であることを理解した。
こんな考え方の王族では、特権威意識が満載の王族貴族たちからさぞ煙たがられるだろう。
知らないけれど。
「本来なら君のいう通りなんだが、兵士たちだけでは魔物に対応できなくてね。歴史書によると魔物が押し寄せてくるたび、体に『証』が現れる者たちがいて、その者たちが魔物と戦ってくれていたんだ。
その『証』は体の上の方であればあるほど力も強い。
そしてそれぞれの特性を表している。
君の額の『証』は『英雄』。
『証』の者たちを統べて、先頭に立し導いていく者の『証』なんだよ」
…………なるほど。
ここに至って、やっとルカスが呼ばれた訳が分かった。
というかここに至るまで誰も説明してこなかったのが、大問題ではないだろうか。
年端もいかない少年を『証』が出たからといって、魔物と戦わせる。
たまたまルカスは森での狩りも教えているから体力もあり、刃物や弓矢の扱いも、動物をしとめる技も身に着けているし、たまたまルディオが知っているから『そのほかのこと』も教えているが、そうでなかったらどうなることか。
「『証の者たち』ということは、他にも『証』が出ている者がいるということですね?」
ルディオの問いに、セルフィリオスが答える。
「あぁ。君たちが一番遠い地にいたので、他の者たちはすでに集まっている。それぞれ歴史書に記されている『証』の性質も確認してあるよ」
「そうですか。その『方々』に比べて、ルカスは幼いのでは?」
「いや。『証』が出た者は、みな十代ばかりだ。ルカスが特に幼いということはないだろう」
ということは。
国か王族か軍かは知らないが、十代の子どもたちに自分たちも敵わない魔物に立ち向かわせようとしているわけだ。
本当にしょうもないな。大人ってやつは。
「君が考えていることはわかる気がするよ、ルディオ。しかし実際、兵の中でも手練れの者を向かわせたこともあるし、金で傭兵を雇ったこともある。わが国がが弱みを見せることを承知で異国の軍に頼ったこともある。だが、一時しのぎにはなったが、奴らはどこから湧いて出てくるのやら、それすらも掴めない。せめて言葉の通じる相手なら、とあるとあらゆる学者やら動物をまとめて飼っているいる者なども向かわせたが、ことごとく目的を達したものはいなかった。中には奴らと必ず通じ合える、と奴らのただ中に丸腰で飛び込んでいった者もいたよ」
「一応聞きますけど、どうなりました?」
「……子どもがいる前では、あまり口に出したくない結果になった」
セルフィリオスが配慮のできる大人でよかった。
ルカスも狩りをしているので獲物を屠ることはあるが、充分な感謝と余計な分はとらないようにさせている。
獲物を得るために必要な狩りと相手を殺すための戦いとでは、やり方が違う。
片方は得るための行いで、もう片方は破壊のための行為だ。
どうしても必要ならば、それは大人がやるべきであって、子どもにさせるものではない。
それくらい、この王太子なら考えただろう。
それくらいはルディオでも察せられた。
それでもというのなら、本当にどうしようもないのだろう。
『証』を持たない人間には。
「歴史書っておっしゃってましたけど、とすると前回も子どもたちだけで魔物に立ち向かわせたってことですか」
立ち向かっていった、とはいいたくない。
きっと本人たちは自ら向かっていったと思っているかもしれないが、子どもを死地に向かわせた大人たちがいたはずだ。
「耳に痛いことだが、その通りだ。私の何代か前の先祖が美辞麗句を並べ立て、子どもたちを死地に送り込んだ。だから今王家は存続し、この国はのうのうと歴史を刻んでいるわけだ」
飾らない言葉は結構だが、それとルカスに何のかかわりがあるのか。
たまたま『証』が出たからといって、教え子を死地に送り出す先生がいるものか。
「君の憤りは甘んじて受けよう。だが、もう他に手立てがなくてね。ルカスも使えるのだろう? あれが」
なるほど。
あれ、ね。
確かにあれは強力な武器になる。
いいところに目を付けたものだ、かつての王族たちは。
あれが使える者に、『証』が出るというのなら、単純にして明快。
なんと便利な識別方法だろう。
「そういうわけでね、これから陛下にお目通りいただいた後、他の『証』が出ている子供たちを紹介するよ」
「はぁ」
ルディオは不敬にもセルフィリオスに不敬な返事を返した。
心はすでに、ルカスを連れてどこまで逃げ出そう、という算段を整えつつある。
自分とルカスなら、国の警備兵に捕まることもないだろうし、特に惜しむようなものを村に残してはいない。
どうやら王太子は気配に敏感なようだ。
「まずはルカスと同じ『証』を持った子どもたちと会ってみて欲しい。抜けるのはいつでもできるだろう?」
ルディオを見て微笑む。
儚げな笑みでありながら、太々しさも感じる。
王族というのは、よくわからない。
「こんな状態の君たちと陛下と謁見させるのは、やる気のなさをマイナスにしてしまうかもしれないんだけれど、これも手順でね。諦めて。そしてすぐに忘れてくれると助かるよ」
一国の王太子。
つまり次代の王が現王を批判しては、下手をしたら死を賜ることもあるだろう。
しかしセルフィリオスは恐れてはいないようだ。
「ま。構いませんけど。俺もルカスも王様とお会いするときの礼節作法なんて知りませんよ」
一応不逞の輩っぽくいってみるが、セルフィリオスには効かなかった。
「ルカスは『英雄の証』持ち出し、君はその後見人だ。たとえ王の前でも膝をつく必要はない。ただ直答はないだろうから、なにかいってきても、もごもご呟いたら取次官が勝手に奏上する。気にしなくていい。ただ一度だけ」
セルフィリオスは言葉を切って、申し訳なさそうにルカスを見た。
「一度だけ、わかりやすくあれを使って見せて欲しい。どんな者にもはっきりとわかるように」
顔は笑っているが、目が伴っていないお手本のような笑顔だ。
「おうたいしでんかって、次の王様なんでしょう? お父さんと仲が悪いの?」
ルカスがなかなか核心を突く質問をする。
「いや、私の父は前の王様でね。今の王様は叔父にあたるんだ。そして、従妹の男の子がいる」
…………それはそれは。
王様だろうが村長だろうが、絶対にもめる状況だ。
ルディオは周辺国との地図とこの国に隷属していない、できれば対立している国を調べておこうと決めた。
両脇に、『ただ扉を開けることが仕事』の人間を配した扉にたどり着く。
セルフィリオスは優雅な仕草で、仕草だけで扉を開けさせた。
扉の先には、初めて見る自国の王らしき男と、王妃らしき女。
そして王の椅子のほんの少し後ろの椅子に、その男女の息子らしい男の子が座っていた。
年はルカスとそう変わらなそうだが、俊敏さにおいてはルカスが、今まで食べてきた食事の量なら圧倒的にその子が勝つであろう姿だ。
セルフィリオスは扉のすぐ内側でルディオとルカスをとどめると、ごく気楽な様子で玉座に近づいていった。
そして、男の子の前に立った。
「セルドゥルク。そこは私の椅子だ。どきなさい」
男の子は不満そうな顔で母親らしき王妃を見る。
王妃は冷めた目で王を見る。
王は苦虫を噛んだ顔をして、少しだけ頷いた。
王妃が男の子を手招きし、自分の膝に座らせた。
やせぎすな王妃の膝の上では座りが悪いのか、男の子はむずがったが王妃が後ろから手を回すと不満顔をしながらも動かなくなった。
王妃がなにか耳打ちしたのが効いたらしい。
そんな二人の横で、王と王太子の会話があった。
「陛下。『英雄の証』の者が登城したら、王太子たる私が出迎えるとお伝えしていましたし、それついてご許可をいただいていると思っておりましたが」
「そうだな。そうであった」
「しかしながら、かの者が王都についたという連絡も、王宮に参上しているという知らせも受けておりません」
「そうか。城にも怠惰な者がおるな。あとで相応の罰を与えなくてはな」
セルフィリオスは王を見下ろしながら、王はセルフィリオスと一切視線を合わせないままの会話だ。
寒々しい会話が少しあり、王はセルフィリオスに着席を促した。
セルフィリオスは落ち着いた仕草で席についた。
頬が紅潮しているので、余計に肌の白さが引き立つ。
四人が並んでいるのを見ると、ルディオは身震いした。
先王の遺児の王太子。
現王と妃とその息子。
どう見ても火種しかない。
こんな場所からは一刻も早く暇したい。
広間は広いといっても、高い天井に反射して声は届く。
しかし『高貴な方との直接の会話』は平民には許されておらず、セルフィリオスがいった通りご下問にもごもごしていると、間に2人ほどいる『平民の言葉を正しく王にお伝えできる言葉遣いに変える』のを職務としている官吏がうまいこといっているらしい。
王の機嫌はまぁまぁ良いようだ。
セルフィリオスの予想通り、最後のあれを見せてみろ、といわれた。
王としては大道芸のひとつのように、ちょっとした余興とでも思ったのだろう。
王の言葉は聞こえたが、二人を介して同じことが伝えられた。
「どうする? 先生?」
ルカスがルディオに聞いてくる。
人前でやるときは、必ず聞くように、といっていたのが身についている。
「そうだな、少しだけ見せてやろう。天井ぎりぎりまでで。熱は増さずに深さだけ増してみな。もし制御できなくなっても、先生がいるから大丈夫」
「えー、それくらいオレにだってできるよ。見てて」
そういうと、ルカスは手の平を天井に向けた。
その手の平から、何の前触れもなく炎が生まれた。
生まれた次の瞬間には巨大な火柱となり、高さはルカスの手の平から天井にまで達した。
命じた王も王妃と子どもも椅子から転げ落ちることはなかったが、少しでも遠ざかるように手すりに力を込めてずり上がった。
二人の官吏のうち、より王に近いひとりは慌てて壁際まで逃げ去り、ルカスに近いほうのひとりは動くこともできず呆然と火柱を見上げている。
ルカスがルディオを見る。
ルディオが頷くと、ルカスは炎を黒く変えた。
熱は赤い炎よりも放たれなくなったが、それを見た誰もがより強い『なにか』に変質したのがわかった。
本能的に人間に畏怖を持たせる、本来人間が扱うべきではない『なにか』だ。
それをルカスは苦もなく出現させている。
王が収めるようにいったのは聞こえたが、一応礼儀らしいので取次の官吏が伝えてくるまで待って、それから収めた。
退室を許可するとのことなので、ありがたく承る。
その背中に男の子の声がかかった。
「化け物め」
その化け物の手を借りなければ保たれないものの上にいることに、気づいているのだろうか?
控えの間にいると、それほど待たずにセルフィリオスが来た。
ゆったりとした動作はルディオから見てもなんだか高貴っぽく見えるのに、本人は漲るものとそれを発揮できない体との差異に消耗しているようにも見えた。
「待たせたね。では他の『証』の子どもたちのところに案内するよ。みなには集まってもらっているんだ」
セルフィリオスの後に続いていくと、王宮の外縁部らしいところに来た。
姿は見えなくとも、ルディオには『証』の子どもたちの気配を感じ取れた。
それぞれの特性があるようだが、総じてルカスほどの力の持ち主はいないようだ。
扉の前に控えていた兵が、扉を開ける。
それは内側を守っているようでもあったが、逃亡を許さない見張りのようでもあった。
しかしルディオは、この程度なら簡単に突破できるな、という感触を得た。
扉が開かれ、セルフィリオスを先頭に三人が部屋に入る。
部屋中の人間から一斉に視線を向けられた。
それは単に好奇心のものから、嫉妬、敵愾心、恐れ。
どちらにしろ余り好意的なものはなかった。
それを感じているはずなのに、セルフィリオスは完全に無視して笑顔で口を開いた。
「みなも待ちかねていただろう。彼が『英雄の証』ルカスだ」
ルカスの背に手を添える。
部屋の中は、子どもとそれよりやや少ない人数の大人とがいた。
どうやら『証』の子どもの後見やら親兄弟らしい。
自分がいることでルカスが引率の先生と一緒だなんて、と侮られることは内容で、ルディオは少し安心した。
ぶつけられる視線は想定内なので、特に気にしない。
ルカスとルディオを紹介すると、セルフィリオスは部屋を出て行った。
王太子ともなると、いろいろ多忙なようだ。
漠然と全体に紹介されたからといって、いきなり友好的雰囲気になるわけでもない。
子どもたちの中でもやや力の強そうな女の子がルカスの前に進み出てきた。
年はルカスより少し上かもしれない。
なかなか上等な布の服を着ている。
貴族の子女のようだが、片方の肩をあらわにしているのははしたないといわれても仕方がない仕様の服だ。
しかしそのあらわになった方には、ルカスとは異なる形の『証』が現れている。
「いっておくけど。『証』が出た者の多くは貴族なの。『英雄の証』が平民に出たのは残念だわ」
「そうなんだ」
ルカスは気のない返事を返した。
それが気に喰わないようで、少女は声高に宣言した。
「いいこと。あなたと私たちとでは、生まれが違うの。この国と王族の方々に対する思いが違うのよ。『証』が出た以上行動を共にしなくてはならないけれど、そこは理解しておいてちょうだい」
なかなか典型的な貴族子女だ。
ルディオは感心してしまったし、ルカスに至っては新しい動物を見るような好奇心で彼女を観察している。
「オレはルカス。きみ名前は?」
「なっ……平民が私の名を尋ねるっていうの」
「え? オレは先に名乗ったよ。それにおうたいしでんかもオレと先生のこと紹介したじゃない。聞いてなかったの?」
「そんなわけないでしょうっ。王太子殿下のお言葉を聞き逃すなんて不敬なこと、するわけないでしょうっ」
「じゃあ、オレの名前はしってるでしょう? ちゃんと名前で呼び合うのが、お互いを知るために大事だって先生はいってるよ」
「どうして私と貴方が知り合わなくちゃならないのよ」
「え? これから一緒に魔物を倒すんじゃないの? そのために集められたんでしょ?」
ルカスの問いかけに、少女とそれを取り巻いていた子どもたち、その周りの大人たちがやれやれ、といった顔を作った。
確かに部屋の中の人間は大まかに二通りだった。
今ルカスの目の前に陣取っている、比較的良い服装をしてやたら好戦的になっている子どもとその従者といった大人たち。
それと別に、平民らしい簡素な服装とその親や年上の兄弟といった付き添いがついが者たち。
それぞれの中にまた仕分けがあるだろうが、大まかには二つの集団だ。
ルカスは後者の集団に属すだろうが、にもかかわらず『証』の中でもどうやら特別な『英雄の証』持ちであることが、前者の集団の琴線を大きくかき乱したのだろう。
まぁ、知ったことではないが。
ルディオが見る限り、どの子どもも大人もルカスとルディオの行動を制することができるほどの力の持ち主はいない。
仮に全員が一斉に敵対したとしても、だ。
「ではよくお聞きなさい。私はリリファ。お兄様は大神官を務めていらっしゃるの」
「ふーん。別にお兄さんまで紹介してくれなくてもよかったけど」
ルカスの答えに、リリファの顔が赤くなる。
悪いとは思ったが、ルディオは笑うのをこらえるのに腹に力を込める羽目になった。
「そんな簡単なことではないんだからっ。なら、貴方の親はなにをしているの?」
「知らない。赤ん坊の時に森にいたのを、先生が拾ってくれたから」
その答えを聞いて、リリファの勢いが少し弱まる。
根は善良な少女のようだ。
「で、でもっ。私たちは身分ある生まれなの。貴方と一緒にいはしないでいただきたいわ」
「そうなんだ。偉いんだ。どれくらい偉いの?」
ルカスにとって『先生』であるルディオが世界で一番偉いので、それ以外の序列に関心はなかった。
「何倍くらい?」
明日も天気かなぁ、と同じくらいの口調でルカスは聞いた。
ルカスの無邪気な問いかけに、リリファは顔を赤くして答えた。
「そうね、30倍は偉いわ」
根は単純で悪くない子なのだと、ルディオは思った。
リリファがその返答を後悔するのに、そう時間はかからなかった。
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