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29 寝取り令嬢はご立腹!(1)
しおりを挟む――わたくしの名は、エレオノール・ベルトラ。
ベルトラ子爵家の嫡女であり、南部地方で有数の美女と言われているわ。
物心ついた頃から周りから褒め称えられて生きてきた。貴族の子女が教わる礼儀作法や教養を完璧に身につけ、見た目も美しいのだから賞賛されるのは当然だった。
こんなわたくしが社交界にデビューすると、もちろん殿方たちの視線は釘づけになったわ。
殿方たちから人気があると、毎日が本当に大変なの。
夜ごと行われる舞踏会のパートナーに、我先にとみんながわたくしのパートナーになりたがったわ。
当たり前よね……こんなに美しいわたくしの隣にいられるんですもの。パートナーの座を巡って、貴族令息たちの決闘騒ぎが起こるのも日常茶飯事。
ああ、美しさってなんて罪深いことなのでしょう?
もちろん、求婚状だってほとんどの貴族の子弟から届いたわ。
ベルトラ子爵家は、そこまで格式が高い貴族というわけじゃない。用意ができる持参金だってたかが知れている。
それなのに、王家とつながりがある公爵家からもわたくしと子息との縁談を進めたい、という打診があったのよ! もちろん、断りましたけど。
こんな風に、人気がありすぎると困ってしまうのよね。毎回、素敵な殿方を泣かせてしまうのだもの……わたくしったら、本当に罪深い女だわ。
でもね、わたくしだって好きな相手から求婚されたら、すぐにでも結婚するわ。
……だって、そうでしょう? わたくしは結婚に必要なものは、家柄やお金ではないと思っているの。
そう……燃えるような愛なのよ!
ただ、残念なことにわたくしが恋い慕う方には婚約者がいる。
フィリップ・グラストン侯爵子息――この世に、あんなに完璧で美しい男性がいるだなんて思いもしなかったわ。
デビュタント舞踏会で彼と出会ったとき、どんなに胸が高鳴ったでしょう?
さらさらとした亜麻色の髪も、少し甘い感じの面立ちも、青緑色の湖の底のような神秘的な瞳も……すべてが、わたくしの理想だったの。
次男だから、グラストン侯爵家の家督を継ぐことはできないって知っていた。それでも、いいって思えたのはあまりにも彼が素敵だったから。
そう思っている令嬢は、ほかにもたくさんいたわ。彼は南部地方で一番の美男子だったから。
おとぎ話みたいに美しい王子様は美しいお姫様と結ばれればいい。
そう……誰が見ても、わたくしとグラストン侯爵令息はお似合いだった。
なのに、彼が婚約者として選んだのは、垢抜けないわたくしの友人。
それが、どんなに屈辱的なことかおわかりになるかしら……?
――カタリナ・エルフィネス。
グラストン侯爵子息の心を奪った彼女を、わたくしは到底許すことができなかった。
なぜなら、彼女は彼の隣にいるのが滑稽に思えるほど、目立たない令嬢だったから。
顔形は愛嬌はあるかもしれないけれど、南部地方で一番の美女と言われるわたくしに比べたら劣るに決まっている。
強いて言えば、実家の爵位くらいよね。
……えっ、お菓子作りの腕前?
それはたしかに、味わったことがないような面白いものを作るとは感じていたわよ。
ただ、それって貴族の令嬢にとって美徳かしら? 考えてもごらんなさいな。
貴族の奥方は、自分で厨房に立つことはしないもの。それなのに何を好んで下女の真似をしているやら……。
要は、カタリナは変わり者の令嬢なのよ!
舞踏会や夜会に行っても、社交に興じるわけでもない。貴族の子息から話しかけられても、気にしているのは食べ物やお菓子のことだけ!
舞踏会でダンスもせずに、ブッフェテーブルに張りついているような意地汚い令嬢を、グラストン侯爵子息が選んだことが、わたくしにとっては驚きだったわ。
だから、決心したの……カタリナから彼を取り戻そうって。
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