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15.妻と想い人(六)
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遠くから聞こえる夜鳥の鳴き声が、低く地を這うように庭を駆け抜ける。八条は都のはずれに近く、喧騒を逃れた鄙びた土地だ。そのせいか、二条の大納言邸とは違って宵の寂しい静けさがしんしんと身にしみる。
沙那は、夜の食事と寝支度を済ませて北の対屋を発った。馴染みの女房たちに先導されて主寝殿を目指す途中、渡殿から見える景色にしばし足を止める。
「きれいなお月様」
東から南の空へ移ろう月が、庭の水鏡に落ちてゆらゆらと水面に揺れている。月は、漆黒の世界に輝く唯一の光だ。太陽のようにじりじりと地を焦がすことなく、ふうわり優しく闇を照らしてくれる。だから、幼いころからお月様が大好きだった。
……などと、心の中で風流に語ってみたりして気をまぎらわす。
「姫様、まいりましょう」
手燭で沙那の足元を照らす小梅が、先導の女房に聞こえないように耳打ちした。
寝支度は万全だが、心の準備がまったく追いつかない。小梅に急かされるまま、沙那は胸をどきどきさせながらここに立っているのである。
「ねぇ、小梅。もう少し、もう少しだけ夜風に当たってもいい?」
「なりません。八条宮様が待つとおっしゃったとしても、お待たせするのは無礼でございますよ」
「……でもぉ。ほら、いろいろとあるじゃないの。乙女には」
「八条宮様を好いておられるのでしょう?」
「もちろん大好きよ。そこは全然ぶれてないし、これからも変わらない」
「でしたら、腹を決めなされ」
「う、うん」
いつになく気合いの入った小梅の目力と口調に、沙那は気圧されてたじろぐ。
「さぁ、まいりますよ」
「待ってよ、小梅」
「待ちません。さあ!」
小梅が、沙那の手を引いてずんずん歩を進める。
腹を決めろと言われましても、そう簡単にできるものではない。
沙那は、初夜の一件を八条宮がどう考えているのか分からなくて不安だった。それに、夏姫のこともあって、正直、このまま妻として居座ってもいいのかしらと戸惑いもある。
だから、八条宮から誘ってくれたのは沙那にとって嬉しいことだった。しかし、素肌の感触や唇の柔らかさ、気を失うまでの記憶がしっかりしているから沙那は困っている。
――いかんせん、我が背の君は麗し過ぎる。
ああ、柔くてまろい体つき(特に胸が)だったらなぁ。目鼻立ちだって、もっとこう、すっときりっと美しく整っていれば、自信を持って励むのだけれど。はぁ……。
「姫様。ため息はいけませんよ。不吉を招きます」
「わたし、ため息なんてついてた?」
「はい。しっかり気をお持ちくださいませ!」
「りょ、了解」
主寝殿に着くと、今度は小梅に代わって主寝殿の女房が沙那の手を取った。そして、しずしずと御座を通り抜けて、八条宮の寝所へ沙那を誘う。そうして、あれよあれよという間に寝所に連れていかれて、白木の妻戸がぱたりと閉まった。
――小梅も女房たちも容赦ない……っ!
沙那は泣きそうな気分になったが、敵陣に乗り込んだからにはもう後戻りはできない。
――いや、敵じゃなくて夫君だけど。
控え目に明かりが灯された寝所。そのど真ん中にしつらえられた褥の上で、単衣姿の八条宮が優雅に蝙蝠で香炉を扇いでいる。
沙那はそろそろと褥にあがって、八条宮の傍に座った。
「お、おお、お待たせいたしました」
「早かったね。心の準備はできた?」
ふっと口元をゆるめて、八条宮が香炉から沙那に視線を移す。きらめく琥珀色の瞳にどきっとして視線をさげると、今度は単衣の衿からちらりと太い鎖骨や生肌が見えて、沙那は目のやり場に困ってしまった。
「あなたを待つ間に香を焚いておこうと思ったのだが、調合に時間をかけてしまって間に合わなかった」
「この香りは、伽羅ですか?」
「そう。心を鎮めるには、伽羅がよいと聞くからね」
「あ、依言様も緊張なさっているのですね。よかった、わたしだけじゃなくて」
「うん? これは、あなたのために調合したものだよ。少しでもあなたの心が落ち着けばと思って」
穏やかな顔で、八条宮が香炉に視線を戻して蝙蝠をゆっくりと上下させる。今日は髪を濯ぐには日柄が悪かったのだろう。白銀の頭髪は、初夜とは違って結われたままになっていた。
――依言様って、ほんわかとわたしを照らしてくれるお月様みたい。
傍にいて、言葉を交わして、様々な表情を見て、知れば知るほど好きになる。
待ち伏せした日々に感じた穏やかさや優しさを、沙那は夏姫との御文からも感じていた。今も、気持ちを汲んで落ち着かせようと気遣ってくださっている。
姿だけではなく、心の内にある八条宮のあたたかな気持ちに触れる度に、沙那の思いは積み重なっていく。
「これくらいでいいかな」
伽羅の優美な香りが広がったところで、八条宮が香炉を枕元の台に置いて沙那に向き直る。沙那が背筋をぴんと伸ばすと、節くれ立った両手が袿の衿をつかんだ。近い距離で顔を覗き込まれて、首から上がかっと一気に熱くなる。
「あなたがとても気にしているようだから、この際はっきり言っておく」
「は、はい。なにを」
「胸の大きさだとかなんだとか、俺にはそういうものへのこだわりは一切ない」
沙那は突然の告白に驚きつつ、とっても重要なことなので真剣な顔で八条宮の目を見つめ返した。
「本当ですか?」
「本当だよ」
「二言はございませんね?」
「ない」
「信じてもいいのですね?」
俺は嘘が大嫌いなんだ、と耳元で囁かれて袿がするりと肩を滑り落ちた。腰を抱かれ、薄絹の単衣一枚まとっただけの体を引き寄せられる。
身じろぐ間もなく端正な顔が近づいてきて、沙那が反射的にぎゅっと目をつむると、あたたかくて柔らかい感触が唇をくすぐった。この感触は覚えているから、唇が触れているのだとすぐに分かる。
食まれて、舐められて、吸われたあと、口をぴたりと覆われて甘い唾液が口内を満たす。鼻の奥でくすぶるのは、高級な伽羅の香りかそれとも重なった二人の吐息か。
沙那は八条宮の胸に両手をついて衣を握った。右手に、自分のものではない鼓動が伝わって来る。それはとても力強くて、時々、弾むようにどくんと脈打った。
「はぁ……っ」
足りなくなった酸素を求めて口を開けば、間髪いれず歯列を割って舌が差し込まれた。狭い口の中で分厚い舌が暴れるように動き回って、舌が絡んで、引っ張られて、唾液も呼吸も啜るように吸われる。水に溺れるような息苦しさに、もやがかかったかのように頭がしびれる。
それは苦しいのに気持ちがいい、言葉にできないような感覚だ。それに酔うように身を委ねていると、横髪をなでた大きな手が肩に触れて、さらにその下をまさぐった。
「ぅん……っ」
単衣の上から指先で胸の粒を弾かれて、全身の肌がそわりと粟立つと同時に体がびくっと震える。
沙那がたまらず目を開くと、すっと唇が離れて代わりにじっと見つめられた。池の水面に落ちた月よりも美しい瞳に、魂ごと吸い込まれてしまいそうだ。
――どうしよう、依言様と目が合うだけで心臓が壊れちゃう。
八条宮が、沙那の腰紐を引き抜く。沙那は藁をもつかむ思いで、今にも投げ捨てられそうになっている自分の腰紐をつかんだ。
「どうしたの?」
「依言様にお願いがあります。こっ、これでわたしの目を塞いでくださいませんか?」
「……は?」
「依言様と目が合う度に、恥ずかしさで死にそうになります。だから、目を塞いでしまえばどうにかなるのではと思いまして……!」
なんていい考えなの、と希望の活路を見出したように目を輝かせる沙那。一方の八条宮は、困ったような顔をして沙那から視線をそらした。
沙那の顔面からさっと血の気が引く。閨では殿方に身を委ねるのが鉄則。余計な頼みごとで気分を害してしまったと反省して、沙那は腰紐からぱっと手を放す。
「ごめんなさい。今のは、聞かなかったことにしてください」
沙那が慌てて謝罪すると、八条宮がくすっと笑って腰紐を沙那の目元に巻きつけた。
「きつくない?」
「え? あ、はい」
八条宮が、沙那の右耳の上辺りで腰紐を結わえる。沙那は、ほっと胸をなでおろした。気を悪くしたかと焦ったが、杞憂だったようだ。これなら、いちいち恥ずかしさに身もだえなくて済む。あとは、八条宮に身をお任せすればなにも問題はない。
「ありがとうございます、依言様!」
朗らかに礼など言われて、八条宮は込みあげる笑いを必死におさえた。沙那の言動は、いつも奇想天外で予測がつかない。驚きの連続で、しかしなにをするにも真っ直ぐで一所懸命なのが分かっているから、かわいらしく思えて仕方がない。
八条宮は、沙那の単衣を剥いて丸裸になった体を抱き寄せた。胸の前で固く交差した二本の細腕の下に手を忍ばせて、ささやかな膨らみを手のひらで包む。そして、大きく息を吸い込む沙那にくちづけた。
「……ふ、あっ」
乳房を指先でやわやわと揉まれて、沙那は小さな悲鳴をあげて体をぴくりと震わす。しかしその悲鳴は、口の中で絡まる舌に潰されて、またたく間に甘い唾液に溶けていった。
不安と怖さ、それに嬉しさとか恥ずかしさとか、様々な思いが心の中でせめぎ合って入り混じる。けれど、舌の感触と胸に触れる指先のぬくもりが、とても気持ちいい。
「っ、はぁ……」
唇が離れた隙に大きく息継ぎする。しかし、すぐ食らいつくようにまた口を塞がれた。くらくらと眩暈を覚えて、体から力が抜けていく。すると、八条宮の手が今度はみぞおちや腰の辺りなで始めた。
――なんだか、体が変。
初夜のときのような感じではなくて、体の奥深くが、うずくようにじんわりと熱い。
――どうしちゃったの、わたし。
脚の間がもぞもぞするのを感じて、沙那は太腿をきつく閉じる。すると、ちゅっと小さな音を立てて唇が離れた。息苦しさから解放されて、懸命に息を吸って吐いてを繰り返す。沙那の呼吸が落ち着くと、軽く下唇をついばまれた。
「ん……、はあっ」
「ねぇ、沙那。目隠しの具合はどう?」
「えっと……、具合はいいですよ。恥ずかしさがだいぶ軽減されているような気がします」
「そう。それはなによりだね」
「でも」
「なに?」
「見えないから、依言様がどこをご覧になっているのか分からなくて、変にどきどきするといいますか」
「へぇ……。気のせいでは?」
「そうでしょうか」
八条宮は、沙那を褥に横たえて白い肢体を眺めた。目隠しをせがまれたときは驚いたが、これは沙那にとっていい方法なのではないか思う。しかし、目に腰紐を巻いて、片手で胸元を、もう片方で閉じた太腿の間を隠す姿は危険だ。沙那はよくても、こちらの理性が揺さぶられる。
「……依言様?」
沙那が、八条宮の気配を探すように顔を左右に振る。八条宮が急いで単衣を脱ぐと、理性を揺さぶられた証拠に、身に着けていた沙那特製愛妻家ふんどしがこんもりと盛りあがっていた。
――まいったな。
八条宮は、自分の頬を人さし指の先でぽりぽりとかく。沙那の身持ちの固さは、婚礼前に実証済みだ。沙那が清い身であるのは明らかで、実のところ、八条宮が乙女の相手をするのは初めてだから少し扱いに戸惑う。八条宮はしばらく思案して、意を決したように下穿きの紐を引いた。律儀に下穿きをたたんで、褥の脇にそっと置く。
「どうかなさったのですか?」
「ああ、すまない。下穿きの刺繍があまりにも見事だから見惚れていた」
「もしかして、早速使ってくださっているのですか?」
「うん」
八条宮が、沙那の体に自分の体を重ねる。髪をなで、頬をなで、軽いくちづけを落としてから首筋に舌を這わせる。緊張しているのか、汗ばんで湿った沙那の肌は想像以上に甘美だった。
肌を味わいながら、次は鎖骨を舐める。沙那の体は、溌剌とした性格からは想像できないくらい細くて、力任せに押さえつければ壊れてしまいそうだ。
「……あ、のっ!」
沙那の両手が、行為を制止するように八条宮の肩を押す。八条宮は、沙那の手首をつかんで敷布の上に縫いとめた。膝で沙那の両脚を割って、体をその間に滑り込ませる。
「怖くなった?」
「いいえ、そっ、そうではなくて。少しだけ待ってくださいませんか? やっぱり、恥ずかしくて……、ふ、あッ!」
万歳をした格好で腕を拘束されたまま、左胸の先を生温いものがぬるりとかすめた。さっき、首と鎖骨に感じたのと似ている感触だ。
それは固くなったり柔らかくなったり器用に形状を変えながら、胸の先端をつついて、その周りを這うように移動する。そして時折、さわさわとなにかが胸元の肌をくすぐった。
「はぁ……」
熱い吐息が胸にかかって、沙那は八条宮がそこを舐めて、髪が肌に当たっているのだと理解する。八条宮がどんな顔でそんなことをしているのか。考えるだけで、沙那の正気はどこかへ飛んでいってしまいそうになる。
左胸の次は、右胸も同じように舐め回された。恥ずかしくてたまらないのに、なにもかもが気持ちよくて、もっとしてほしくなる。
「……は、……んんっ」
乳首を強く吸われて、沙那は体をしならせた。下腹部がきゅっとしまる感じがして、体の奥がじんじんとさらに熱くなっていく。
胸をもてあそばれながら、手の拘束が解かれて太腿をなでられた。自分からお願いしたとはいえ、目を塞がれて体をまさぐられる感覚は神出鬼没で、思わず「ひっ」とおびえたような声が出てしまう。
「怖がらなくてもいいよ。あなたを傷つけるようなことはしないから」
八条宮が優しく沙那に声をかけて、ぷっくりと膨れた胸の頂を口に含む。口の中でつんつんつつかれたり、ちゅうっと吸われたり、ちろちろと舐められたりして、頭がおかしくなってしまいそうなくらいの快感にたえていると、太腿をなでていた手に下生えの奥を触られた。
「ひ、あぁ……っ」
からからに乾いた喉から、おかしな悲鳴が飛び出す。肌が敏感に八条宮の動きを察知して、その度に恥ずかしい声ばかりが口から出てくる。胸を咥えられたまま、秘裂を開かれて中を何度も擦られると、全身を快楽に支配されて背中が弓なりに反った。
「ぅ……、あ、んんっ」
沙那は、敷布を逆手につかんで声を押し殺す。熱のこもった吐息とさらさらとし八条宮の髪が肌に触れるだけでも意識が遠くへ行ってしまいそうになる。それに陰核を指で押し潰される痛感まで加わって、体がびくびくと大きく震えた。
「い、やっ。だめ……っ」
沙那の抵抗を無視して、八条宮が指先で円を描くように陰核を刺激する。だんだんと痛みがやわらいで、下腹部のうずきと共に一点に熱が集まっていく。秘所が濡れているような感じがして脚を閉じようとすると、八条宮の体がそれを阻んだ。
胸の尖りを甘く噛まれて、蜜口をいじられる。八条宮の指が動く度に、くちゅくちゅといやらしい水音がして沙那の羞恥心をあおった。
「ふぁ……、ああっ!」
沙那が軽く気をやる。八条宮は、体を起こして沙那の蜜口に中指の先を挿れた。濡れそぼった入口を丁寧に擦りあげて、ゆっくり指のつけ根まで沈める。指一本でもきついナカで指の角度を変えて肉襞をさすると、沙那が眉根を寄せて身をよじった。
「はぅ……、んんっ……」
ぐりぐりと体の中をかき回されているうちに、なにをされているのか分からなくなっていく。ただ気持ちがよくて、細切れの息をしながら遠のいていく意識を保つのが精一杯。だんだんと指の動きと卑猥な水音が激しくなって、沙那の頭の中は真っ白になった。
「……沙那」
切なげな声が聞こえて、意識が引き戻される。まだ頭の中がふわふわと夢見心地で体に力が入らない。自分の呼吸も遠くで聞こえる気がする。
「大丈夫?」
小さく頷くと、ふやけた蜜口に指とは違うものが当てられた。熱くて、固くて、その重量にごくりと喉が上下する。それは割れ目を押し広げるように往復して、ぬちゅっと粘性の音をわざとらしく響かせた。
「少しだけ、我慢して」
なにを、と沙那が考える隙もなく八条宮が猛々しい楔を突き立てる。
「ぬっ、くぅ……っ」
唇を嚙みしめて、沙那は実に色気のない猛者の如し声を漏らした。品や色気にまで気を回す余裕はない。呼吸すら上手くできなくて、陰孔をぐぐっと押し広げられる鈍い痛みに耐える。八条宮が少し動いたので、沙那は「あぅ」とかすれた悲鳴をあげた。
コトの進み具合といえば、まだ鈴口が秘苑に埋まった程度だ。できるだけ痛みを感じさせないようにとは思う。しかし、甘露でぬかるんだ隘路にぎゅうっとしめつけられたら、本能を解放してしまいたくなるのが男の性。八条宮はなんとか理性を保って、沙那の目を覆っている腰紐を解いた。ところが、沙那は目を開けようとしない。
「つらかったら、俺にしがみついてもいいよ」
「……は、はい」
沙那の返事を聞いて八条宮がふっと気を抜いたそのとき、首に細い腕が、腰になにかが巻きついて強い力でぐぐっと体を沙那の方へ引き寄せられた。
「あ?!」
「ひ、ぐっ!」
八条宮と沙那の不可思議な声が重なる。八条宮は沙那の顔の横に両手をついて、どうにか華奢な体を押し潰すのだけは回避した。しかし、不可抗力的に腰が落ちて、ずにゅっと一気に奥まで貫いてしまった。破瓜の痛みはつらいと聞くから我慢していたのに、これではなにもかもが水の泡だ。
「く……ぁ、いた……、いっ」
「す、すまない」
八条宮が手探りで腰に巻きついているものを確かめると、沙那の両脚がすごい力で絡まっていた。
「沙那……っ、この足は、なに? なぜ俺の腰を?!」
「しっ、しがみついてもいいとおっしゃったので、必死にしがみついておりますッ!」
沙那は、息を詰まらせながら答える。
だって、つらいのだもの。あの場所の違和感どころの騒ぎじゃないのだもの。お腹の中が、奥が、あそこが痛くて熱くて……。息もちゃんとできないし、なにかにつかまっていないとおかしくなってしまいそうなのだもの!
沙那を苦しめているのは八条宮の陽物なのだが、それどころではない沙那にとって、八条宮は助け舟。沙那は、さらにぎゅっと手と脚に力を入れた。
「ねぇ、沙那」
名前を呼ばれて、おそるおそる目を開ける。すると、すぐ近くに八条宮の顔があった。
「痛い?」
「……はい。でも、なんとかなりそうです」
「そう、それならよかった。あなたがなにをしても驚かない自信があったのに、俺もまだまだだな」
「ひ、ぇ……? わ、わたし、なにか粗相をいたしましたか?」
「してないよ」
笑みを浮かべて、八条宮が沙那の唇をついばむ。接点を変えて何度も、その柔らかさとか弾力を堪能するように。
「これでやっと依言様の妻になれましたね、わたし」
目尻からこぼれた生理的な涙を指で拭って、沙那はにっこりと笑う。沙那は、すっかり妻の務めを果たした達成感にひたっていた。しかし、八条宮の言葉がその達成感を取りあげる。
「いや、これからだよ」
「なんですって?」
「少し脚の力を抜いてくれないか」
沙那の唇をついばみながら、八条宮が動き始めた。ずんと奥を突きあげられて、沙那の手足がさらに強く八条宮にしがみつく。
「……ふぁっ……あぁ、ん、だめ、動かないで……っんあっ……」
力を抜けといわれても、体の奥を突かれる感覚は初めてで、どうやって耐えたらいいのか分からない。ふと、吐息にまぎれて優しい声が聞こえた。名前を呼ばれたのだと思う。
――大好き。
そう言いたいのに、口から出るのは恥ずかしい喘ぎばかり。痛くて、気持ちよくて、嬉しくて。もうなにも考えられない。体を揺さぶられる度に、意識がもやの中へ散っていく。
やがて沙那は、体をびくんと大きくしならせたあと、八条宮にしがみついたまま意識を手放した。意識は手放しても八条宮を手放さないあたり、さすが沙那である。
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