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3 婚約は政略的なものです

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お昼休みになりアイリスが私を引っ張って食堂に連れて行った。しかもそこはいつも利用する席ではなく奥まって内緒話をするのにぴったりな周りから少し離れた場所だ。アイリスの気遣いに感謝してしまう。

「朝も聞いたけど、婚約したのはあのフェルマン様で間違いないのね?貴女とフェルマン様ってよくて顔見知り程度ではなかったの?私が知らなかっただけなの?それに授爵って?」

婚約に至った経緯は公には言えないことが多い。

「実は年末に父がパーティを開いたの。その際に騎士団に護衛を頼んでいたらしいのよ。なんでも大切な方が来るらしくて。その時の護衛の中にフェルマン様がいたの。」

ここまでは真実。この後は公にできない内容の為親友だからって言えないのが心苦しい。だから本筋は変えず少し内容を変えて話す。

「騎士団の方々は事前に危険箇所がないか邸を調べて回っていたの。アイリスは私の邸の庭を知っているでしょう。生垣で作った迷路よ。その側で散歩していたら虫が飛んできて驚いて声をあげてしまったの。その声でフェルマン様が飛び出してきて避け損なった私が生垣で怪我をしてしまったの。
痕は残らないというのに令嬢に怪我を負わしたとしてフェルマンさまが責任を取る形で婚約を申し出られたの。
父も私も傷が残らないので責任を取る必要はない。と言ったのだけれど、真面目なフェルマン様は辞退されていた授爵を王家にお願いするとまで言って求婚してくださったの。」

そう言って笑えば、アイリスはなんとも言えない顔をした。
騎士団の中でフェルマン様は有名だ。見目麗しく、実力もある独身男性として若い令嬢から理想の結婚相手であると言われている。
フェルマン様の実直な働きが評価されたのか手柄を立てたのかわからないが子爵位をという話が出ていたらしい。だが、フェルマン様は辞退されていた。
伯爵家の次男のフェルマン様はこのままなら平民となってしまう。爵位は手が出るほど欲しいものだろう。ではなぜ辞退するのか?
それは彼の元恋人が関係していると言われている。

フェルマン様の元恋人は幼なじみの子爵令嬢だった。彼が彼女のために爵位を欲しがり鍛錬に精を出していた事は有名だ。だが彼女は政略結婚でノイマン伯爵家へと嫁いで行ったそうだ。授爵の話は彼女がいないのに爵位があっても仕方がないし、人妻となった彼女と貴族のパーティで顔を会わしたくない。と辞退されているという話だ。それを物語るかの様にその後の彼は未だに彼女を想っていて恋人を作ることもしないとの噂だ。
それは騎士に憧れる令嬢達の中では知らない人はいないくらい有名な話だ。
だからアイリスは悲しそうな瞳でこちらを見ているのだ。

「そんな顔しないで。政略結婚なんてよくある話よ。私は特に好きな人もいないしお相手はあのフェルマン様よ。政略結婚とはいえ憧れの人と結婚できるなんて幸せな事なのよ。
誠実な方だから愛し愛され…は無理かもしれないけれどきっと穏やかな生活が送れるわ。」
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