りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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60話 範疇内で

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ひょお、と吹きあがった空気のかたまりが、リトの長い髪を舞い上げた。
すごい、地面が割れている。下からも風が吹く。
巨大な手にビリビリと引き裂かれたような大地は、深く、深く、垂直に近い断面を晒している。向こうに見える対岸は少し高くなっているけれど、このまま大地を寄せたらぴたりと断面が合うのではないだろうか。
背負子から一生懸命伸びあがって眺めているけれど、のぞき込むにはリトの体が邪魔になる。

「りと、見えない。うしよ向いて。――もっと、もっと、うしよに下がって」
「……お前、俺を落とす気かよ」

だって、崖のぎりぎりに立ちたいではないか。リトと背中合わせになった私は、背負子から思い切り身を乗り出して断崖をのぞき込む。
ざり、とリトのかかとが崖からわずかにはみ出した。パラパラと落ちたはずの砂が、逆に舞い上がって散っていく。
背中から突き出ている分、私の体は既に空中にある。

「俺としちゃ助かるけどよ、お前は落ちそうで怖えぇとか、そういうのもねえのかよ」

ちらりと肩越しに振り返ったリトが、半ば呆れた顔をする。
頬を潰して崖下を眺めていた私は、言われて目を瞬いた。
落ちるとは思っていなかった。だって、リトと繋がっている。

「りと、落ちない」
「俺は落ちねえよ、お前は落ちるだろうが。もういいか? 俺の方が怖えわ、お前が落ちそうで」

そうだろうか。リトがいるなら、落ちないと思うのだけど。
くるりと向きを変えられてしまい、私も慌てて体の向きを変える。この固定具の着け外しは、改善の余地がありそうだ。前後を変えるのにいちいち着け外しするのは少々手間になる。

店主へ何と言って改善してもらおうか考えていると、周囲を見回したリトが崖向こうに目を留めた。対岸には大きな木があって、涼し気にこずえを揺らしている。
リトは肩越しに私と視線を合わせ、にやっと口の端を上げた。これは、きっと何か企んでいる顔。

「お前、俺がここから跳んで、あそこの木まで行けると思うか?」

問われた意図が分からないまま、きっぱり首を振る。ざっと20m、しかも向こうの方が位置が高い。走り幅跳びの世界記録でも10mもないのだ。いくら世界の常識が違えど、そこまで変わるまい。

「そうか。行けたら凄いか?」
「しゅごい。でも、あむない」

にやつくリトの様子に不安を覚え、まさかと思いつつ釘を刺しておく。

「お前、俺の魔法を見せろって言ったよな?」

言っただろうか? とりあえず頷くと、彼はにやりと笑う。

「見せてやるよ」

そう言って前を向き、まとめた髪をぽいと後ろへ払った。長い髪が、私の腕に当たって滑り落ちる。
何を、と尋ねようとした時、リトは数歩下がって軽く助走をつけた。
……もちろん、崖に向かって。

口を開く間もなく、タタンと大地を蹴って虚空へ身を躍らせた跳躍は、とても対岸まで行こうというような渾身のものではなかった。
ふわ、と私とリトの髪が浮かび、相反して体は猛烈な勢いで下降を始め――

「風剣、飛翔っ!」

リトの声が聞こえた、と思った瞬間。
ビョウ、と周囲の空気が唸りをあげた。閉じなかった瞳に映ったのは、私とリトを囲むように一瞬渦巻いた土埃。
これは……竜巻、だろうか。
一気に発生した猛烈な上昇気流が、弾き飛ばすように私たちを上空へ舞い上げた。

耳元で風の流れる音がする。
ハタハタとリトの服が鳴っている。
いつの間に抜いたのか、左右に広げられたリトの両手には見たことのない二対の剣が握られていた。

悠々と谷間を超え、揺れる梢がリトの足より下を通り過ぎていく。
しかし上昇から下降へ転じた途端、あっという間に大地が迫ってきた。あわや激突の直前、リトが羽ばたくように両の剣を振った。
ふわ、と僅かに体が浮き上がり、リトの長い脚が難なく着地する。

抗議しているらしいペンタの声がピィピィとやかましい。
苦しいほどの胸の早鐘は、一体どれに対してだろうか。
リトは背負子と私の装備を外して抱き上げ、あの得意げな表情で視線を合わせた。

「跳び過ぎた、な?」

不器用な指が、乱れた私の髪を直してにやっと笑う。
はふ、と息をして、私は目を瞬いた。

「りと……しゅ、ごい」

やっと絞り出した声に、リトは満足げに破顔したのだった。



「――俺はな、器用じゃねえんだよ。剣っつったら剣しかできねえの」

大きな肉の塊をむしりと食いちぎりながら、リトが何でもないように言った。
私たちはさっきの大きな木の下に腰掛け、並んで昼食を頬張っている。
屋台であらかじめ買ってきた食事は、リトは肉とパン、私はポトフのような煮物。
テイクアウトなのだから、当然器で渡されると思ったのに、なんと紙袋のようなものに直接放り込まれて驚いた。
これは袋状の植物らしく、しっかり撥水されていて漏れることもなく、非常に面白い。

「けど、その代わり剣ばっかやってたから、そっちは相当な腕っつうわけ」

私はすっかり袋に気を取られていた顔を上げ、首を傾げてリトのセリフを吟味した。
……剣? 
そう、確かにリトが持っていたものは剣の形をしていたけれど、あれを剣の範疇に入れていいのだろうか。
じっと考え込む私に気づくでもなく、リトはどこか不服そうに唇を尖らせている。

「魔力は結構もってんだよ、むしろ有り余るくらいな。けど俺が魔法と相性悪くてどうにもなぁ。かろうじて生活に必要なくらいはなんとか、ってレベルなんだよな」

火種や多少の水を使う程度の魔法は生活レベルとして、魔法使いでなくとも使える人は多いそう。リトも、野営で獲物を洗う水はどこからともなく出現していたから、そういうことだろう。

「さっきの、魔法なない? りと、飛んだ」
「まあ、そうなんだけどよ。剣の技の一種っつうか……その範疇じゃねえとできねえの」

私は、もう一度首を傾げてじっとリトの手を見つめた。
察したリトが、ふいと手を振ると、その手にはさっきの剣が握られている。一体、いつ、どうやって出現したのか、こうして見ていても分からない。
どこか儚く透ける、青緑色をした短い剣。これが魔法でなくて何なのか。

「剣の、はんちゅー……?」
「深く考えんな、そういうもんなの、俺の中では! あと、他のヤツに言うなよ」
「なにを、言っただめ?」

魔法を使えないこと? 飛べること? 風の剣が使えること? 思い当たる項目が多すぎる。

「こういう、何もない所から剣が出てくること。これは俺の奥の手、人前ではまず見せねえよ。普段はフツーの剣持ってんだろ? フツーの剣士で通ってんだよ」

ぱっと手を離すと同時に、風の剣はふわりと霧散して消えた。
確か、魔法剣というものはある。剣を使って魔法攻撃に近いことをする技で、それがリトの言う『剣の技の範疇』だろうと思う。ただ、使うのはもちろん普通の剣。

「りと、普通なない」
「お前に言われたかねえわ」

眉根を寄せてしみじみ述べると、間髪入れずにそう言って額を突かれたのだった。
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