りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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61話 自然と不自然

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ちらちら、ちらちらと光が動く。投げ出した私の足の上に、地面に。
口元を拭うのも忘れ、私はずっとそれを見ていた。
手を差し伸べると、私の手のひらに光が踊る。何も質量は感じないけれど、じっと光を乗せていると、ほの温かいような気がする。確かにここにあると思うけれど、はたして私が見ているのは、陰なんだろうか、光なんだろうか。
とりとめもないことを考えつつ、両手のひらにすくい上げてほんのり笑った。

「捕まえたな」

地面に寝転がっていたリトが、私を見上げてにやっと笑う。
手のひらの中でふるふる震える光は、なるほど生き物みたいだ。そう思って見つめると、はかなげで可愛いような気がしてきた。

「ちゅかまえた。でも食れべないから、放ちてあげる」

ぱっと手を広げると、もう木漏れ日の中に溶けて分からない。
私の体は、光のまだら模様に染まっている。もしかして、食べられているのは私かもしれない。

「光まで食おうとするやつは初めて見たわ」
「ちてない。りゅー食れべないの、知ってる!」

むっとリトをのぞき込んで、ついまじまじと見入ってしまった。揺れる木漏れ日が時折銀の瞳に入って、奥まで透き通るよう。深い泉の底を照らしているみたいで、指を入れたら波紋すら広がりそうな気がする。

「近い近い。怖えぇわ、その興味津々な真顔。あと汚ねえ」

手のひらで遠慮なく顔を押しのけられ、触れんばかりの至近距離だったことに気が付いた。
失礼なことを言って起き上がったリトがぐいぐいと私の口元を拭い、さて、と向き直った。

「お前、魔法はどうする?」
「どう……?」

相変わらず唐突なリトのセリフに、私は首を傾げるしかない。

「使いたいんだろ? 魔力はあるからな、生活魔法くらいやり始めてもいいだろ。万が一ってこともある。水が出せりゃあ、割と生きられるもんだ」
「まほう……?! りゅー、する! まほう、する!」

思わぬ提案に、飛び上がってリトに詰め寄った。まさか、リトからそんな声がかかるとは。もし6歳までダメと言われるなら、自ら情報を集めて習得するしかないと考えていたから。

「勝手に魔法の練習されて大事故起こすよりは、俺が見ている方がいいからな」

じっとりした視線から思わず顔を逸らして、誤魔化すように袖口を咥えた。おかしい、何ひとつそんな兆候を見せていなかったと言うのに、どうしてバレているのだろうか。

「魔よく測定は?」
「お前、既に魔法使ってんだから構わねえよ。俺の見立てでは、めっちゃある。下手に測定しにいくと勧誘が来て面倒だぞ」

そうなのか。ないよりある方がいいけれど、面倒なのは嫌だ。
測定するための器具は買うこともできるけど、普通一回しか使わないので、ギルド等の大きな施設に置いてあるのを使うそう。
有料ではあるけど小銭程度で、ギルドで測定することが多いらしい。ただ測定時に魔力が多い時は、傍から見ていて分かるものらしく、将来有望と冒険者のみならずいろんな斡旋口があるようで。

「ギルドにいただろ、やかましい暇人が」
「……らざく?」
「お前、俺が言うのもなんだが、その情報で分かっちまうのな……。まあ、そいつ。ああいう禄でもねえ輩が界隈に情報を売るんだよ」

それはリトや私からすると迷惑だけれど、勝手に売り込みに行ってくれるなら喜ばれることも多いような気がする。それで成り立っているものもあるんだろう。

「でも、ちゅかい過ぎると、あむない。測定ないと、ちゅかえる量がわかやない」

どのくらい使えるのか、まず貯金額を知るところからじゃないのだろうか。

「そんなもん、測定したって分かんねえよ。少ない、とか多い、とかそんなもんだ。魔力が多くても俺みたいに使えねえヤツもいるし、少なくても使うの上手いヤツもいる。ようは使い方次第ってことだ」

なるほど……測定したからといって数値化されるわけではないようだ。私は魔法を使うには一定の魔力が数値化して定められているのかと思っていたけれど、それも違うらしい。それだと、誰がどんな魔法を使えるか全く分からないということか。

「ま、やってみりゃ分かんじゃねえ? お前の魔法はちょっと特殊だしな」

そう言ってしばし首を捻ると、リトは手のひらを上向け、ちょいちょいと私を招いた。
すぐ隣にいるのだから、もっと寄れということか。膝に乗り上げて手のひらを見つめると、リトは両方の手を椀にしてかぱりと合わせた。まるで虫を掴まえたような仕草に首を傾げると、私へ顎をしゃくって見せる。

「覗いてみろ。見えるだろ?」
「なに? ――見える! しゅごい、りと、魔法!」

興奮して振り返った私に、リトが苦笑を返して手を解いた。

「こんなちっせえ光で喜ばれるとはな。俺は苦手だっつったろ? ろうそくみてえなのしか無理なんだよ」
「でも、しゅごい!」

だって何も必要とせずに光るのだ。一体何が元に――そうか、それが魔力なのか。
魔力はエネルギーだと理解していたけれど、少し違うのかもしれない。

「このくらい、お前もできるぞ。詠唱もいらねえし。本当はなあ、火が一番簡単なんだけど、危ねえからな。イメージしやすいだろ? ガスで燃える、あれをイメージすりゃいいんだよ。光の時も基本一緒で――」

私は、リトの分かりにくい説明を真剣に聞いた。散々に脳内で補足を入れ、自らのデータと照らし合わせ、自分なりの理解を構築する。
――不思議だ。実に、不思議だ。
具現化する怨念といい、AIのような魔道具といい。この世界は、非科学的な『意思』や『思念』がまるで存在としてあるような気がする。リトの説明を聞く限り、意思の力で『魔力』という物質に何らかの反応を起こしているよう。

「そんなに不思議なことか? 虫だって光るだろうに。何もなくても火は燃えるし、風は勝手に吹くし、空から水だって降って来るだろ。だから、その程度の『自然なこと』は詠唱がいらねえんだよ」

全然違うと思う。火が燃えるのは何かが酸化しているからだ。風が吹くのは気圧による空気の移動があるから。雨はそもそも状態が変わっているだけで、無から生み出されているわけじゃない。
物事には理屈がある、とぬるい視線を送ったところで、はたと気が付いた。
それを知らないが故に、この世界の人たちは当たり前として受け入れている。怨念が実体化するこの世界で、いかにそう思えるかが、魔法には大事なのかもしれない。

しかし、だとすると私には不利になる。だって、私はそれが不自然だと思っているから。
現に、やってみろと言われて途方に暮れている。何を、どうしたらいいのかサッパリ分からない。

「だから、魔力を玉にして光らせるっつうか……」
「魔よく、わかやない」

だって、私の手からは何も発生していない。
リトのやり方では、きっと無理だ。私は早々に諦めてリトの説明をシャットアウトした。
私は、私の理解が及ぶ範囲でやらねばならない。

魔力は、この世界に確かにあるのだ。電力だって見えるわけじゃないけれど、ちゃんとあるのだから。
そこに、ある。リトが言うなら、私にもある。
あとは、魔法に対する理解。

私が持つべきイメージは、おそらく……こうだ。
『魔力とは、エネルギーそのものではなく、変化する物質』
IPS細胞のようなイメージを持てばいいだろうか。多能性原子とでも言えばいいのかもしれない。意思というエネルギーで多能性原子を目的の物質へ変化させ、そこで起こった反応が魔法。意思は変化のためのエネルギーであり、触媒であると考えれば――。

「りゅー、やってみる」

発光に必要なものを知識から引っ張り出し、私は一つ頷いて手のひらを上向けた。

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