隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生編:1学期

第23話 期末テスト返却

 水曜日の朝、校舎に入った瞬間から、どこか張りつめたような空気が漂っているのが分かった。廊下ですれ違う生徒たちは口数が少なく、そわそわと落ち着きなく教室へ向かっていく。まるで静かな嵐の前触れだ。

 教室に入ると、その独特な雰囲気はさらに濃くなった。
 テストが終わった直後のように頭がぼんやりしているのに、返却日特有の緊張感が教室全体を包んでいる。机の上に並ぶ筆箱やノートさえ、いつもより整然として見える。

「……あー、胃が痛い」

 席に座った晴は、半ば本気でつぶやいた。
 試験中より返却日のほうが緊張するのは、もはや恒例だ。

 隣からクスクスと小さな笑い声。

「珍しいね晴がここまで緊張するの。そんなに点数気になるの?」
 美羽は、頬杖をつきながら楽しそうに晴の顔を覗き込んだ。

「気になるに決まってるだろ……今回はしっかり勉強したんだから……」

「ふふ、今回は私が見てあげたんだから大丈夫でしょ」

 美羽が胸を張る。
 その自信に満ちた表情に、晴の肩からほんの少し緊張が抜けた。

 だが、後ろの席ではもうひとり――
 紗耶がテストの問題用紙をぎゅっと握りしめ、小さく深呼吸していた。

「……はぁ……返却って苦手……」

 弱々しくこぼした声に、晴が後ろを振り向く。

「黒瀬、仕事と並行でよく頑張ってたじゃん。そんなに心配すんなって」

 紗耶は小さく、けれど確かに嬉しそうに笑う。

「ありがとう晴くん……でも、今回はこの学校に来て私にとっては初めてのテストで不安なの……」

「大丈夫だよ。絶対できてるよ、紗耶ちゃん」

 美羽が優しく声をかけると、紗耶は少し照れたように目を伏せた。

 三人で視線を交わし、ふっと気持ちが軽くなる――その直後。

「席につけー! 今日は期末テストの返却をするぞー!」

 担任の声が教室に響き渡り、緊張の波が一気に戻ってきた。
 担任がテストの束を掲げる。

「まずは国語から返すぞ。平均点は――68点だ」

 その瞬間、教室のあちこちからため息や「微妙……」という声が漏れる。
 晴の心臓がドクン、と跳ねた。

 ** 点数 **
 桐谷晴:74点
 水瀬美羽:92点
 黒瀬紗耶:78点

「お、やった……平均より上だ」

 自分の点数を見た瞬間、晴は胸を撫で下ろした。

「晴、ちゃんと読解できてたじゃん」
 美羽が嬉しそうに肩を軽く叩く。

 紗耶はというと――

「……78点。うん、悪くない……っ!」

 ぎゅっと小さく拳を握り、静かに喜んでいた。
 その慎ましい喜び方が、むしろ愛らしくて、晴と美羽は自然と笑みを浮かべた。

「次、英語を返すぞ。平均点は――58点だ」

「低っ!?」
 美羽が思わず声を上げた。
 晴は心の中で必死に祈る。

 ** 点数 **
 桐谷晴:70点
 水瀬美羽:94点
 黒瀬紗耶:82点

「よっしゃあああ!!」

 晴は机に突っ伏して喜びを爆発させた。

「晴がそんなに喜ぶなんて珍しいね」
 美羽が呆れ半分で笑う。

「いや、だって今回はマジで頑張ったから……!」

 紗耶も柔らかな笑みを浮かべる。

「晴くん、すごいよ。ちゃんと努力したって点数が言ってるね」

「黒瀬も82点ってすごいな!!」

「歌詞読むから……たぶんそのおかげ」

 照れたように頬を染める紗耶。
 それを見た美羽が、なぜかむっとした表情をしているのに晴は気づかなかった。

「次は社会を返すぞ。平均点は――71点だ」

「やべぇ……結構平均高いな……」
 晴は天を仰ぐ。

 ** 点数 **
 桐谷晴:65点
 水瀬美羽:89点
 黒瀬紗耶:81点

「……ほら、やっぱり……」
 肩を落とす晴。

「晴、惜しいよ! ちょっと届かなかっただけ」
 美羽がすぐに励ます。

「晴くん、社会苦手なの?」
 紗耶が首を傾げる。

「暗記が……死ぬほど苦手で」

「じゃあ今度、一緒に覚える方法考えよっか」

 紗耶の優しい提案に、美羽がすかさず割り込む。

「いや、暗記なら私のほうが教えるの得意だよ?」

 空気に微妙な緊張が走る。

(……なんでそのテーマで張り合うんだよ……)

 晴は心の中で頭を抱える。

「次は数学を返すぞ。平均点は――63点だ」

 平均点を聞いた瞬間、晴の顔に光が射したように明るさが戻る。

 ** 点数 **
 桐谷晴:94点
 水瀬美羽:96点
 黒瀬紗耶:67点

「よしっ……! これはたぶん美羽に勝った!」
 晴はガッツポーズ。

「残念でしたー。私は96点。2点、私の方が高ったね(笑)」
 美羽はニコニコと笑った。

「晴くんも美羽ちゃんもすごいな……数学ってこんなに取れるものなの?」
 紗耶の尊敬のまなざし。

「公式さえ覚えれば全部分かるんだよ。楽勝」

「その“楽勝”って言葉、一度でいいから言ってみたい……」
 紗耶がしょんぼり肩を落とす。

「最後は理科のテスト返すぞ。平均点は――70点だ」

 ** 点数 **
 桐谷晴:83点
 水瀬美羽:88点
 黒瀬紗耶:74点

「よし、これはまあまあかな!」
 美羽が満足げに胸を張る。

 晴も頷いた。

「俺も悪くないな。黒瀬も結構できてんじゃん」

 紗耶は胸を撫で下ろしたように微笑む。

「うん…不安だったから、よかった……」

 その声は柔らかく、ほっとした息遣いまで聞こえる気がした。

 6時間目のチャイムが鳴り、教室がざわめきと安堵の空気に包まれ始めた。
 晴、美羽、紗耶の三人は帰り支度をしながら、それぞれの答案を机に並べた。

 日が傾き始めた窓から差し込む光が、白い紙の上に淡い影を落とす。

「こうして見ると……三人ともバランスいいね」
 美羽が嬉しそうに言う。

「俺は社会の点数が低かったけどな」

「でも晴くん、英語70点だよ? 私、嬉しいよ」
 美羽はふっと優しく笑った。

 紗耶は二人を見つめ、静かに言葉を落とす。

「……私、もっと頑張りたいな。もっと……二人に追いつきたい」

 その小さな声には、本音がにじんでいた。
 晴は迷わず返す。

「次はもっと手伝うよ。数学、頑張ろうぜ!」

 美羽も朗らかに微笑む。

「紗耶ちゃん、一緒に頑張ろ?」

 紗耶はふわっと、春風みたいに柔らかく笑った。
 その笑顔は――ステージの強いライトの下では見せない、等身大の“高校生の女の子”そのものだった。
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