現代の奴隷は我が家の天使で神様は全力で幸せにする

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

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EX03_奴隷の誕生日・まひろの誕生日

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シロの誕生日、一ノ清夫妻も、家政婦の辻さんも俺もシロの誕生日を祝った。

料理は家政婦の辻さんが作ってくれたらしい。
いつもご飯を作ってくれているのもこの人なのだが、普段ほとんど会わない。

なぜなら、俺とシロが出かけている間に部屋を掃除してくれて、料理はテーブルに運んだ状態で呼ばれるので、ほとんど会う機会がなかったからだ。
思ったよりも若い方(かた)で、多分20代だ。

『家政婦』と思っているのはメイド服など来ていないこと。
普段着だ。
リアルとはこんなものだろう。

普段メイド服で今日だけ普段着という可能性もなくはないが、あまり気にしているとシロがやきもちを焼くので、考えるのをやめた。

テーブルには無理のない量でごちそうが並んでいる。

「〽ハーピバースディ・トゥー・ユー♪ハーピバースディ・トゥー・ユー♪」

みんなでバースディの歌を歌ったが、いつぞやのことを思い出した・・・

「〽ハーピバースディ・ディア・シロ」
「〽ハーピバースディ・ディア・まひろ」
「〽ハーピバースディ・ディア・まひろ」
「〽ハーピバースディ・ディア・お嬢様」

バラバラだよ。
この部分がバラバラになる現象に名前を付けたい・・・

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

ロウソクに火が付いたケーキを前にシロの次の動きを待っている。
なんかこのくだりデジャビュ・・・

「ほら、シロ、願い事をしてロウソクを消して」

「え?シロ?」

「えーっと、『まひろさん』の代わりだ」

「はい。(ふー)」

(パチパチパチパチパチ)

その後、辻さんがケーキを上手に切り分けてくれて、みんなで食べた。
こんなのもいいな。

シロは目の前のごちそうにご満悦そうだ。
さらに、その後みんなからプレゼントをもらって喜んでいた。

ただ、なぜみんながくれるのかは腑に落ちないようだった。

***

「衛くん、どうかね」

食事も終え、少し落ち着いた頃、テーブルで永一郎さんは俺に酒を勧めてくれた。

『RÉMY MARTIN LOUIS XIII』

れみー・・・まーてぃん・・・ルイス13・・・読めないけれど、素人にも良い酒だと分かる。豪華な箱に入っているし。

「これは・・・娘が帰ってきたときに開けようと思っていたとっておきでね」

上品なグラスにストレートで注いでくれた。

(くわん)俺と永一郎さんのグラスが良い音をたてた。

一口、口にすると口の中がカーっとする。

「くぁー」

これはかなりアルコール度数が高い。
かなりきつい。
でも、花の香りがするような、すごいお酒だ。

「ははは、度数がすごいかもね」

「俺は、酒について全く素人ですが、これは良いお酒だって分かります。すごい高いことも」

願掛けの意味もあったのかもしれない。
その酒を開けて、俺に振舞ってくれたということは、どれだけの感謝の気持ちを表したものなのか、俺の想像を超えている。

「私はね、一度ちゃんと謝りたいと思っていたんだ」

「俺にですか?」

「うん・・・まひろはね・・・一人娘ということもあって、私たち夫婦の宝物だよ」

永一郎さんの隣に座っていた鈴麗杏愛(リリアナ)さんが、優しい表情で永一郎さんを見た。

「それは容易にわかります」

「その宝物を奪ったのが君だと勘違いしてしまった」

「しょうがなかったと思います。俺もあんなことになるなんて思っていなかったし・・・」

「この酒を開けたというのは、これで上々の結果だと思ったからなんだ」

『最高』ではなく、『上々』と表現したのは、シロの火傷のことが関係していると理解した。
シロは誘拐されて、虐待されていたであろう期間に全身の皮膚に火傷を負わされている。
今も痣(あざ)の様になって肌の色が違う場所がある。

「そんな顔をしなくてもいいんだよ。娘は生きて戻ってきてくれた。死んでいたことを想像すると、最高と言ってもいいくらいだ」

「でも・・・」

「娘は10歳で私たちの元から姿を消した。そして、15歳の時に戻ってきて、今日16歳を迎えた・・・」

「・・・」

なんて返していいのか分からず、無言になってしまった。

「ただね、思い出の・・・10歳の頃の娘と、今の娘はイメージがまるで違うんだよ・・・」

「え?どういうことですか?」

「まひろは・・・どちらかというと、しっかりした性格で、少し・・・落ち着いた印象の子供だった」

なるほど、確かに、シロとは全然違う印象だ。

「姿かたちは間違いなく『まひろ』なんだけど、どこか娘が帰ってきたと考えにくくてね・・・」

「それで、これまでこのお酒を開けなかったってことですか」

永一郎さんは黙っていたので肯定と受け取った。

「だけど、今日開けたってことは・・・」

「うん、娘の成長・・・と理解するようにしたんだ」

「そんなに違うんですか?」

「そうだね・・・今は、本当に君のことが大好きみたいだ」

「ははは・・・」

なんて返していいやら・・・

「まるで私たちは見えていないかのようでね・・・それは少し寂しいかな」

そう言えば、シロは俺以外とはほとんど会話をしない。
ほとんど興味がないかもしれない。

「ただ、元気で嬉しそうな姿をまた見れたんだ。これ以上を望むのは贅沢というものかもしれないってね。妻とも話していたんだよ」

良い時期に5年間も娘と離れ離れにされていた一ノ清夫妻の悲しみは計り知れない。

「そんなまひろの最愛の人である衛(まもる)くん・・・16歳になったまひろと・・・将来的にでもいいから一緒になってはもらえないだろうか」

16歳になったら、親の同意があれば結婚できる歳だったか。

「それは・・・やぶさかではないですが、俺はまだ誰かを守っていけるだけの力がなくて・・・」

「今で十分だよ・・・君といるとまひろは・・・『シロちゃん』でいられるのだから」

一ノ清夫妻が『シロ』の名を呼ぶのは珍しい。
初めて聞いたのではないだろうか。

彼らにとって娘はあくまで『まひろ』なのだから。

『まひろ』が『シロ』でいられる・・・どういう意味だろうか。

「あー。かみさま、ずるい!」

シロが乱入してきた。
落ち着いて話せていたと思うのだが・・・
しかも、割と大事(だいじ)目の話だったのに。

「なんか、おいしそうなの飲んでる!シロも!」

「あっ!それは!」

シロがグラスの酒をグイっと飲んだ。

「うあっ」

目がバッテンになっているようだ。
そりゃあ、こんな度数の高い酒をこんな飲み方したら・・・

酒が効いたのか、しばらくはしゃいでいたシロはソファで寝てしまった。
俺もうつらうつらしていたようだ。

いつしかパーティーは終わり、辻さんが片付けてくれている音が聞こえる。
目は開かないけれど・・・
ソファで横になっている俺にもタオルがかけられた。

これも多分辻さんだろう。
ありがとうございます。


***


目が覚めると外は真っ暗で、部屋にはわずかに開いたカーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。

その窓際にはひとりの少女が立っていた。
眠い目をこすって何とか目を開けると、その髪は見慣れた銀髪で、月の光が反射して輝いていた。

「シロ・・・」

俺が寝ているときに抱き着いていないのは珍しいなと思いつつ、シロに呼びかける。
窓辺の少女は、ゆっくりこちらを振り返り言った。

「ああ、目が覚めたの。悪いけど、私は『シロ』じゃないわ」

寝ぼけて鈴麗杏愛(リリアナ)を見間違えたのか!?
俺は体を起こし、目をこすって覚まし、少女を改めて見た。

見慣れたはずの少女はどこか雰囲気が違い、少し笑みを含ませて言った。

「私の名前は『一ノ清(いちのせ)まひろ』。神谷 衛(かみや まもる)さん・・・」

馴染みのある声で、姿で、馴染みのない名前が発せられた。
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