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EX05_一ノ清まひろと破壊者
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建築のことは分からない。
鉄筋とコンクリートで作られている建物のことをRC造りというらしい。
シロの正拳突きがどれだけ人間離れしていても、RCの壁に穴を開けることはできないはずだ。
ただ、建物には「仕切り壁」というものがある。
要するにシロの部屋はいつか、隣の部屋とつなげて1つになる予定だったようだ。
一次的に2つの部屋を仕切るために作られた壁。
これは鉄筋コンクリートでは作られない。
しかし、そこには軽量鉄骨やベニヤ板、石膏ボード等の建材などがある。
正拳突きで穴が開くはずがない。
人間には無意識のリミッターが付いてるという。
後先考えずに腕を振ると、筋肉を傷めるかもしれないし、固いものを殴る時は痛いと思って、無意識に力をセーブするものだ。
ただ、さっきのシロの力は普通じゃない。
小柄なシロに俺は投げ飛ばされた。
そのリミッターが外れていたような感覚だった。
シロは眠っている。
俺は、一ノ清夫妻とともにリビングにいる。
「衛くん・・・ケガは良いのかね」
「痛いですが・・・今はシロが優先です。何があったんですか?」
脇腹が痛い。
動くと痛い。
動かなくても痛いから、あばらが折れているのかもしれない。
ただ、今は話を聞きたい。
「まひろが病院から戻された日・・・既に拘束されていたんだ」
「え!?あの拘束具・・・永一郎さんたちじゃ・・・」
「実の親が娘を拘束するわけがないだろう。緩めると暴れていたんだ・・・あんな風に」
「誰なんですか!?あいつは」
『誰』とは、俺は無意識にシロの別人格だと思っていたのだ。
「分からないよ・・・悪魔憑き・・・とでも言うのか。はじめは君の洗脳だと思っていたんだよ・・・」
なるほど、こんなものを見せられたら普通ではいられないだろう。
洗脳と思うかもしれない。
洗脳と思いたかったのかもしれない。
残念ながら、今の俺に現状を説明してくれる人はいなかった。
説明できる人もいなかった。
一ノ清夫妻は頭を抱えている。
万事休すか。
いや、待てよ。
一人だけいた。
全ての状況を理解している可能性がある人物。
「すいません。まひろさんを病院に連れて行きたいので、車出してもらえますか?」
「あ、ああ・・・分かった」
永一郎さんがのろのろと動き始めた。
俺は、再びシロの部屋に向かった。
部屋は相変わらずひどいありさまだ。
窓ガラスは割れている。
破片が鋭角になっているのではなく、窓ガラスの中央に丸い感じで穴が開いている。
すごいスピードで殴らないとこうはならない。
厚手の窓ガラスを素手で割るなんてことが普通の人間にできるのだろうか。
少なくとも俺にはできないだろう。
先の仕切り壁もそうだ。
コンクリートでなくても、壁は壁。
シロの腕を見たら違和感があった。
骨折しているかもしれない。
しかも、こぶしから血が出ている。
とても痛々しい状態だ。
「まひろ、お前だろう。お前がやったんだろう!?」
シロが目をぱちりと開けて立ち上がった。
「いたた・・・」
右手を押さえている。
腕もこぶしも痛いだろう・・・
そう考えると、『まひろ』がそんなことをするだろうか。
自分の身体に・・・
「ちゃんと監視していてよね。とんでもないことになるじゃない」
『シロ』ではなかったようだ。
痛さで顔をゆがめつつも片目だけは開けた状態で『まひろ』は言った。
「まひろだろ?」
「呼び捨てにしないでもらえますか?」
「痛いだろ!?まず、病院に連れて行くよ!」
「私が・・・意識を失ったら、またあいつが・・・来ちゃうから・・・」
苦悶の表情を見せるまひろ。
「あいつって・・・」
「『破壊者』よ」
「『破壊者』・・・また新しいやつか!?」
今度は、名前ですらないのかよ・・・
「『破壊者』はなんでも壊しちゃうから・・・」
「どうなってんだよ。お前自身が壊されちゃってるじゃないか」
「しょうがないでしょ!私じゃコントロールできないんだから」
横を向いてしまった。
「大丈夫だから。ずっと一緒にいるから。お前が暴れたら全力で止めるから」
「もうっ、私じゃない・・・『破壊者』だから」
まひろはプイっと後ろを向いてしまった。
(バン)「衛くん!車の準備できたよ!」
永一郎さんがドアを開け呼びに来た。
「はい!・・・ちょっとごめんな」
「きゃっ!」
シロ?まひろ?とにかくこいつを抱きかかえて、車に急いだ。
***
その後、病院に連れて行ってもらい、シロは腕ギブスを付けられた。
折れていたらしい。
こぶしも骨にヒビが入っていた。
俺も肋骨にヒビが入っていた。
大参事だよ。
家に帰ったのは夜になってからだった。
車の中では、シロ、いや、まひろは静かにしていた。
包帯やギブスが痛々しい。
家に帰ると一ノ清夫妻がリビングのソファに座った。
「はー」
大変だった、とか、落ち着いた、とか、色々な気持ちの表れの『はー』だったんだろうな。
まひろがゆっくりとソファーに近づいた。
「パパ・・・ママ・・・久しぶり」
その声に驚いたのは、永一郎さんだった。
「まひろ!」
鈴麗杏愛(リリアナ)さんも続いた。
「まひろなの!?」
「ただいま・・・」
バツが悪そうに答えるまひろ。
夫婦は、腕の傷に当たらないように気を付けつつも、まひろに抱き着き泣いていた。
『本当の意味で』帰宅したのは、今日だったという訳だろう。
気になるのは『シロ』のこと。
『まひろ』が言うことが本当ならば、『一ノ清まひろ』がメインの人格で、『シロ』は別人格。
そして、同列かどうかは分からないが、『破壊者』がいる。
そもそも、多重人格というのは本当なのか。
そんなにコロコロ入れ替わることなんてあるのだろうか?
鉄筋とコンクリートで作られている建物のことをRC造りというらしい。
シロの正拳突きがどれだけ人間離れしていても、RCの壁に穴を開けることはできないはずだ。
ただ、建物には「仕切り壁」というものがある。
要するにシロの部屋はいつか、隣の部屋とつなげて1つになる予定だったようだ。
一次的に2つの部屋を仕切るために作られた壁。
これは鉄筋コンクリートでは作られない。
しかし、そこには軽量鉄骨やベニヤ板、石膏ボード等の建材などがある。
正拳突きで穴が開くはずがない。
人間には無意識のリミッターが付いてるという。
後先考えずに腕を振ると、筋肉を傷めるかもしれないし、固いものを殴る時は痛いと思って、無意識に力をセーブするものだ。
ただ、さっきのシロの力は普通じゃない。
小柄なシロに俺は投げ飛ばされた。
そのリミッターが外れていたような感覚だった。
シロは眠っている。
俺は、一ノ清夫妻とともにリビングにいる。
「衛くん・・・ケガは良いのかね」
「痛いですが・・・今はシロが優先です。何があったんですか?」
脇腹が痛い。
動くと痛い。
動かなくても痛いから、あばらが折れているのかもしれない。
ただ、今は話を聞きたい。
「まひろが病院から戻された日・・・既に拘束されていたんだ」
「え!?あの拘束具・・・永一郎さんたちじゃ・・・」
「実の親が娘を拘束するわけがないだろう。緩めると暴れていたんだ・・・あんな風に」
「誰なんですか!?あいつは」
『誰』とは、俺は無意識にシロの別人格だと思っていたのだ。
「分からないよ・・・悪魔憑き・・・とでも言うのか。はじめは君の洗脳だと思っていたんだよ・・・」
なるほど、こんなものを見せられたら普通ではいられないだろう。
洗脳と思うかもしれない。
洗脳と思いたかったのかもしれない。
残念ながら、今の俺に現状を説明してくれる人はいなかった。
説明できる人もいなかった。
一ノ清夫妻は頭を抱えている。
万事休すか。
いや、待てよ。
一人だけいた。
全ての状況を理解している可能性がある人物。
「すいません。まひろさんを病院に連れて行きたいので、車出してもらえますか?」
「あ、ああ・・・分かった」
永一郎さんがのろのろと動き始めた。
俺は、再びシロの部屋に向かった。
部屋は相変わらずひどいありさまだ。
窓ガラスは割れている。
破片が鋭角になっているのではなく、窓ガラスの中央に丸い感じで穴が開いている。
すごいスピードで殴らないとこうはならない。
厚手の窓ガラスを素手で割るなんてことが普通の人間にできるのだろうか。
少なくとも俺にはできないだろう。
先の仕切り壁もそうだ。
コンクリートでなくても、壁は壁。
シロの腕を見たら違和感があった。
骨折しているかもしれない。
しかも、こぶしから血が出ている。
とても痛々しい状態だ。
「まひろ、お前だろう。お前がやったんだろう!?」
シロが目をぱちりと開けて立ち上がった。
「いたた・・・」
右手を押さえている。
腕もこぶしも痛いだろう・・・
そう考えると、『まひろ』がそんなことをするだろうか。
自分の身体に・・・
「ちゃんと監視していてよね。とんでもないことになるじゃない」
『シロ』ではなかったようだ。
痛さで顔をゆがめつつも片目だけは開けた状態で『まひろ』は言った。
「まひろだろ?」
「呼び捨てにしないでもらえますか?」
「痛いだろ!?まず、病院に連れて行くよ!」
「私が・・・意識を失ったら、またあいつが・・・来ちゃうから・・・」
苦悶の表情を見せるまひろ。
「あいつって・・・」
「『破壊者』よ」
「『破壊者』・・・また新しいやつか!?」
今度は、名前ですらないのかよ・・・
「『破壊者』はなんでも壊しちゃうから・・・」
「どうなってんだよ。お前自身が壊されちゃってるじゃないか」
「しょうがないでしょ!私じゃコントロールできないんだから」
横を向いてしまった。
「大丈夫だから。ずっと一緒にいるから。お前が暴れたら全力で止めるから」
「もうっ、私じゃない・・・『破壊者』だから」
まひろはプイっと後ろを向いてしまった。
(バン)「衛くん!車の準備できたよ!」
永一郎さんがドアを開け呼びに来た。
「はい!・・・ちょっとごめんな」
「きゃっ!」
シロ?まひろ?とにかくこいつを抱きかかえて、車に急いだ。
***
その後、病院に連れて行ってもらい、シロは腕ギブスを付けられた。
折れていたらしい。
こぶしも骨にヒビが入っていた。
俺も肋骨にヒビが入っていた。
大参事だよ。
家に帰ったのは夜になってからだった。
車の中では、シロ、いや、まひろは静かにしていた。
包帯やギブスが痛々しい。
家に帰ると一ノ清夫妻がリビングのソファに座った。
「はー」
大変だった、とか、落ち着いた、とか、色々な気持ちの表れの『はー』だったんだろうな。
まひろがゆっくりとソファーに近づいた。
「パパ・・・ママ・・・久しぶり」
その声に驚いたのは、永一郎さんだった。
「まひろ!」
鈴麗杏愛(リリアナ)さんも続いた。
「まひろなの!?」
「ただいま・・・」
バツが悪そうに答えるまひろ。
夫婦は、腕の傷に当たらないように気を付けつつも、まひろに抱き着き泣いていた。
『本当の意味で』帰宅したのは、今日だったという訳だろう。
気になるのは『シロ』のこと。
『まひろ』が言うことが本当ならば、『一ノ清まひろ』がメインの人格で、『シロ』は別人格。
そして、同列かどうかは分からないが、『破壊者』がいる。
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