掌中の珠のように2

花影

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過去3

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残酷なシーンがあります。


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「一方の吉浦の家も地主として栄えた旧家だが、色と金に執着し、自らの欲を満たす為なら手段を選ばない家柄だった。小作人からは小作料だけでなく年頃の娘を差し出させ、自分達の欲を満たすだけでなく癒着した役人の接待にも利用された。訴えようにも地所では法が捻じ曲げられ、それらの悪行は全て揉み消されていた」
 義総は苦々しい表情を浮かべると、グラスに水を入れて飲み干す。沙耶に全てを曝け出すのに少なからず緊張していて喉が渇くのだ。
「やがて時代が変わると、もっと金を儲けようと土地の一部を売って事業を始めた。表では欧米との貿易の真似事をしつつ、裏では高利貸で莫大な利益を設けていた。結局やっている事は変わらず、役人や取引先相手に接待して法の目をかいくぐり、今日まで暴利をむさぼってきた。その陰でたくさんの人が犠牲になっていたのは容易に想像がつく」
 ため息をつくと彼の手にそっと沙耶の手が重ねられる。傍らに視線を移すと彼女は心配そうな視線を彼に向けていた。その姿に少し癒され、ほっと息をはくと話を続ける。
「その歴代の当主の中で、父はもっとも狡猾な当主だったかもしれない。情報を重視し、独自の情報網を築き上げて次々と他社を買収し、今までは地方の一企業に過ぎなかった会社を日本有数の企業にまで発展させた。報酬が良かった事もあるが、一族もそんな彼には一目置いて従っていた。
 そんな中で唯一の問題だったのが後継者に恵まれなかった事だ。歴代の当主同様、性欲の塊みたいな男だったが、3度の結婚で出来た子供は久子しかいなかった。他にも常に片手に余る数ほど抱えていた愛人が何人か子供を生んだが、無事に育ったのは1人もいない。そんな中、父は大倉の祖母と母の存在を知った。
 父がここを探り出した時、祖母が幽閉されて10年近く経っていた。無事に生まれたものの母は大倉の人間とは認めて貰えず、更には出生届も出されなかったので戸籍すらない状態だった。別荘の外の世界を知らず、僅かな使用人に世話されながら祖母を教師として学ぶ日々を過ごしていたそうだ」
 一旦言葉を切ると、沙耶がギュッと抱きついてくる。義総の真剣な表情が無理しているようにも思えたのだろう。彼女のその行動に義総は息をはくと、そっと彼女の頭を撫でた。
「もう……聞きたくないか?」
「……そうじゃないの。義総様が辛そうだから……」
「沙耶は聞いていて嫌にならないか?」
「悲しくなってきますけど……全部教えてください」
「そうか……」
 義総はもう一度彼女の頭を撫で、その額に口づける。そして彼女の匂いを嗅いで気分を落ち着けると、再び口を開いた。
「祖母に目を付けた父は、後継問題だけでなく、大倉の持つ旧家の箔がつけば吉浦の事業をさらに拡大できると踏んだ。だが、その時祖母は20代半ばで父は既に40を迎えようとしていた。更には成り上がりに過ぎない吉浦は、例え苦境に立っていようとも家格においては大倉に遠く及ばない。普通に当主に交渉しても追い返されるのが目に見えていた。
 そこで父は情報を集め、そして得られた情報を元にじわじわと罠を張り巡らせて当主を追い込んでいった。
 父にとって幸運だったのは、祖母の存在に気付いた前年に大倉の跡取りだった祖母の兄が事故で他界していた事だろう。当主は祖母の従兄達の中から後継を選ぼうとしていたのだが、父の策略で冤罪を被せて自殺に追い込んだり、ギャンブルにのめり込ませて破産させたりして排除していった。
 父が暗躍し始めて2年も経つと、追い詰められた当主は次第に酒にのめり込むようになり、妻は心労がたたって病に倒れた。頃合いを見計らった父がそこでようやく交渉に乗り出し、強引に祖母との婚約にこぎつけた。しかも酔っている当主に誓約書も書かせ、自分を後継者に認めさせたのだ」
「お婆様と婚約なさったの?」
「そうだ。そのとき母はまだ10歳。ハーフだけあって実年齢よりも大人びた美少女だったらしいが、その時父はまだ眼中になかったらしい」
 沙耶の疑問にそう言って答えると、義総は彼女の髪を優しく撫でた。彼自身もこの辺りは成長してから伝え聞いたものである。正直、この強引な手法に嫌気がさしたが、この父親の強引さが無ければ彼はこの世に生まれてこなかったのだ。
「父としてはこの勢いのまますぐに婚礼をあげてしまいたかったらしいのだが、祖母の母親が他界し、葬儀が済むと今度は当主が病に倒れた。
 大倉の内部事情を理由に婚礼は先延ばしにされていたが、実はこの結婚を一部の親族に反対され、父の方も先延ばしにせざるを得ない状況だった。当主の権限で一蹴できなくもないが、久子を吉浦の後継と認めた者達が反対に回っており、無視できない数に膨れ上がっていたからだ」
 義総は一旦言葉を切ると、グラスに温くなった水を注いで飲み干す。
「だが、その間に事件は起きてしまった。親族の1人がこの別荘を割り出し、仲間と共に襲撃をかけた。縛り上げられた母の目の前で祖母と若い小間使いが凌辱された。すぐに父の部下が気付いて助けたのだが、祖母は乱暴された時に打ち所が悪かったのか虫の息で、そのまま帰らぬ人となった。そして凄惨な光景を目の当たりにした母は、ショックで口がきけなくなってしまった」
 沙耶は体をブルリと震わせ、義総に体を寄せる。義総はそんな彼女の肩を抱いて話を続ける。
「折角婚約にまでこぎつけたのに祖母が他界してしまい、計画に狂いが生じた父は大いに慌てた。そして必死になって考えた挙句、当主には娘の方が不幸な事故で死んだと報告し、母を身代わりにして結婚する事に決めた。
 だが、体裁を気にする当主によって式とお披露目をする事が決まっている。初潮も来ていない子供ではいくら化粧でごまかしたところで身代わりなのはすぐにばれてしまうだろう。考えた父は理由を付けて式を先延ばしにし、母が成長するのを待つことにした。
 父が大倉側での地盤を固めながら襲撃に加担した親族の粛清を終わらせた時には6年経っていた。闘病中の当主の体調が小康状態を保っている頃を見計らい、父は母と彼女が16歳になった日に婚礼を挙げた。
 当日の当主の病状は芳しくなく、更には初めて別荘から外に出て、あまりにも多くの人にあった母は恐慌状態に陥っていた。結局、式は簡略して行い、当初は大規模に行われるはずの披露目の席も当主と花嫁が欠席し、身内だけで行われた。そして誰も母と祖母が入れ替わっている事を気にする者はいなかった」
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