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第四話「冒険者」

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 本気の眼差しで連れて行こうとするミリアの表情に少し怖くなってどうしようか考えていると、部屋に入った俺をその場に座らされた。


 流石に怒鳴られるかなと身構える俺に彼女は
落ち着いた声で言う。

「自分が何してた分かりますか?」

「……夜に抜け出しました」

「ですよね。わかっているのは偉いです、いい子ですっ」

 そんな優しい言葉に「ふぅ」と安堵してるとミリアは俺の肩をがっしりと掴んだ。

「ですが……カイト君、ダメなことはダメです。確かに君は頭もよくで優秀だけど、夜に勝手に外に出てはいけません。もしも、魔物が出てきたらどうするんですか? 近くに聖騎士団の駐屯地はありませんし、村の兵隊もいません。私たちも光の回復魔法が中級まで使えるだけで、それ以外は何もできませんっ。なので、これから勝手に抜け出すのはやめてくださいっ」

 真剣な眼差しに一気に罪悪感が湧いてくる。
 
「す、すみません……」

 頭がいいと言われるのは少し照れ臭かったが全面的にこっちが悪いのは確かなので頭を下げた。

 すると、反省の色が伝わったのか彼女は声色を変えてすぐにこう訊ねた。

「はいっ。それで、あの大きな音はなんだったのですか?」

「え、あぁ……あれはその……」

「その……?」

「……と、隣町で花火大会でもあったんじゃないんですか?」

 まぁ、それは聞いちゃうよね。

 とはいえ、俺にはそれを言い訳できるスキルなんてあるわけもなく普通にしらばっくれることにした。

「——嘘はいけませんよ」

 どうやらまったく通用していなかったらしい。

 ここまで来たら隠し通すわけにもいかなくなって、俺は服の後ろにくるめて隠していたM1911をミリアが座るテーブルの上にそっと置いた。

「これ……です」

「……っなに、これ?」

 すると、ミリアは驚いているのか口を開けっぱなしのまま、自分の方に寄せる。

 その姿をおどおどしながら見つめる俺。マガジンを抜いているため、弾は込められていないが怖くなって、思わず手が出る。

「あっ——」

「っん?」

「いや、そのぉ……そ、そこの部分は絶対にひかないでくださいっ」

 俺が心配そうに言うと、彼女は分かってくれたようでハンドグリップを持ちながら恐る恐る周囲を見回していく。

 数秒ほど経ち、すべてを見極め終わってから俺の方を向いて一言。

「——これは、一体何ですか?」

 予想通りの質問で、俺は簡単に説明することにした。

「その、それはハンドガンって言って銃の一種です」

「銃……? 銃ってなに? 魔法の一部か何かかしら?」

 しかし、案の定。

 魔法と剣の世界に銃などあるわけもなく、まず言葉自体を分かってくれなかった。中世ヨーロッパなら大砲系の武器の一つや二つあった気がするが、もしかしたら魔法の発展のせいかそれ以上に文明が進んでいないのかもしれない。

 ただ、とは言っても色々と言うのは面倒なのでさらに簡単にまとめてみることにした。

「えっと……銃って言うのは火薬を詰め込んだ球を爆発させて弾き飛ばすことで武器にしてくれる……そ、そうですね、弓矢の改造版ですっ」

「火薬……とは?」

「——えっとぉ、ま、魔力を詰め込んだ塊のようなものですっ」

「魔力を詰め込んだ……塊……」

 何を言っているのか分かっていない顔だったが、正直これ以上説明することはできない。

 一応そのまま言っているわけだし、見てもらった方が効率的ではある気がする。そこで、提案した。

「——えと。じゃ、じゃあお見せしましょうか?」

「え?」

「いやぁ、その……構造とか説明するのは面倒なので、もう一度見てみた方がいいかなぁと?」

「あ、そうね……いやでも今はダメだわ。あの音が出るとしたら皆起きちゃうわ」

「朝はどうでしょうか?」

「うーん、そうね。それなら一応見せてもらおうかしら?」

 結局、その後は朝が来るまで寝ることになった。

 

 翌日の朝、俺とミリアは二人で近くの裏山の方へ向かった。さすがに昨日のようにすぐそばで撃つと孤児院で寝ている赤ちゃんもびっくりしてしまうのでと言うことで、念には念をというわけだ。

「そろそろですかね?」

「えぇ」

 孤児院が見えなくなったところで、披露してほしいとのことなので再びマガジンをはめて、俺はスライドを引く。

 カチャっ。

 と音がなった。その動作を不思議に思ったのかミリアは俺の持っているM1911に顔を近づける。

「これ、何をしたの?」

「これは、リロードを」

「りろーど?」

「あぁ、そうですね。準備をした感じです」

 へぇ、と分かり切っていない表情を見せるが——そろそろ離れてほしい。さっきから肩に大きな胸が乗っかっている。

「……その、い、いいですか?」

「え、あぁ! ごめんね!」

 俺が顔を赤くしながらそう言うと分かってくれたのか、焦りながら数歩離れた。

「あははは……じゃ、じゃあっ。試してもらおうかしらね!」

「は、はい……」

 頷いて、俺は木に向かって銃を構える。

「……」

 数歩後ろにはミリアが両手を体の前で組みながら、俺の方をまじまじと見ていて少し緊張してきたが首を振って再び息を吐いた。

「よしっ。いきます」

 そう言って、ハンドグリップをしっかりと握って人差し指を引き金にぴったりと付けて――次の瞬間。

 ―――――――パンッッ!!!!!!!

 木に向かって発砲した。

「っ——ひゃ!」

「うっ——」

 甲高い発砲音とその反動にミリアは少し驚いて尻もちをついた。

「だ、大丈夫ですかっ!」

「っえぇ……大丈夫よ……って、そうじゃなくてっ!! い、今の何⁉」

 大きな声で俺の肩に飛びつく。

「ちょっ――、あの、痛い、痛いですっ!」

「あ、ご、ごめんなさいっ……私ったら、少しびっくりしちゃって……」

「い、いえ……大丈夫ですけど……その、そうですね、えっと、これが銃です」

 立ちあがったミリアにそう告げて、木に空いた銃痕を見せた。

 すると、びっくりしているのか目を見開いて彼女は俺の肩を再び掴んで揺らす。

「こ、これっ——カイトくん、こ、こんなの作れるの⁉ だって、こんなに破壊力があれば……弱いモンスターならいっぱい狩れちゃうし……というか、カイトくんって魔法の属性なかったんじゃ!」

「す、スキルです。ユニークスキル」

「え、カイトくんってユニークスキル、創造よね?」

「まぁ、そうですけど……」

「でも創造って普通は発動できないんじゃ……?」

「構造を知らなければ……ですけど」

 俺が付け加えると、彼女はハッとしてさらに掴む力を強めてこう言った。

「こ、構造知ってるの⁉」

「は、はいっ……」

「……ふふ」

 み、ミリアさん……さすがに全体重は重いっ。

 圧し掛かる様に肩を掴んできて、腰を曲げる俺に対して、彼女は笑みを溢す。

 急に変わった表情で、口角をあげている彼女が怖くなり、俺は数歩後ずさった。

 しかし、再びガチッとしめられるとすぐに一言。

「私っ……これでも、昔ね、冒険者だったのよ。カイトくん、あなたは——冒険者になりなさい!! 素質があるわ、絶対に————っ!!」



 そうして、この日から。

 俺こと、カイト・フォン・ツィンベルグの英雄としての第一章が始まることになったのだった。






☆ステータス☆
名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)
年齢:12
職業:孤児
経緯:転生
固有スキル:創造レベル1
スキル:博識(銃器のみ)、格闘術
魔法属性:無し
魔法レベル:0


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