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第十五話「魔物の森」

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 翌朝、俺たちは孤児院の前に立っていた。

 甲冑を脱いで、腰につけてあった聖剣を闇魔術で陳腐な剣に見せ、平民のような恰好をしたシステナさん。

 そして俺の方は創造スキルで新しく作った黒色のコートに、腰にはベレッタM9A1を携えている。

 そんな俺たちの後ろにユミが魔石がはめ込んでいる木の杖を手にしながら立っていた。

「って……どうしてユミもいるんだよ」

「聞いてたし、ていうか隠す気なかったでしょ? 二人とも」

「え——っ」

「……まぁ、教官も結構声も存在もデカいしな」

「んなっ——!?」

 俺とユミがジト目で前を進むシステナさんを見つめる。ユミは気配を消すのがうまいし、システナさんとは言え気配を掴むのは難しい。

 それにシステナさんの方は逆に目立つ。超がつくほどだ。

 あんな胸をたぷんたぷん揺らすのだ、目立たないわけがない。孤児院では余計に目立つ格好をしているからな。よく小さな子供と遊んでいるのを見かけるし……悪い人じゃないから余計好かれちゃうのもある。

 俺たちの態度に玄関先で目を見開きながら頬を赤らめて驚く彼女。

「——お、いや……そう言う話じゃないだろ! 一応私からミリアには話を付けたし、彼女は二人とも強いから何とかしてくれるわ――って呑気なこと言ってたけど……でもっ」

「知ってます、私も一応全部聞いていたので」

「……死ぬかも、しれないのよ?」

「この歳で中級魔法すべて使えるのは凄いって言っていたじゃないですか」

「そ、れはそうだけど実践はそう簡単にはっ——」

 まぁ、確かにだ。

 俺も昨日の説明を聞いていた分かっていたが明らかに修行と呼べるものではなかった。言うなれば実践。しかも国がらみの。

 俺たちのような冒険者でも、もはや兵隊でもない子供にどうにかなる話ではないだろう。

 ただ、俺の銃器のことで試したいのだ。

 こいつらがどれほど貢献できるのか、そこら辺を知りたいのだ。それに、ユミだって今のうちに死線を潜り抜ける必要もある。冒険者になるためには、そのくらい潜り抜けてこそだ。

 それに、拉致の主犯など生きている価値はない。俺の最終的な夢は孤児院を潤し、世界中にいる子供たちに夢を与える事。いずれ敵になる帝国ではあるが——今回は協力して経験を積んでいきたいというのもある。

「俺は行きますよ」

「私も行く……カイト一人で行かせたくないものっ」

「初めての冒険って感じだしな」

「それに、冒険者になるのはダメだけど冒険するのはダメって言われてないものね」

 こればっかりはユミと合致した。

「はぁ……そうか、何かあっても何もできないからな、ユミちゃん」

「はい、知ってますっ!」

「俺が守るので大丈夫ですよ」

「っ——」

 ため息交じりに了承し、ユミは少しだけ頬を赤らめた。

 そうして、俺たちの初めての冒険が始まったのだった。




 孤児院を抜け、東にさらに数キロほど歩き俺たちは馬車に乗った。三人とも算術は普通に出来るので色々と計算し、最短経路でかつ最安値の馬車を選ぶことにした。

 俺たち二人はお金を持っていないため、すべてシステナさんが経費で落としてくるらしい。もしかしたら歩いていくことになりそうかな——なんて思っていたが、さすがにお金を稼ぐ手段を見つけたいところだ。

 今回のようにいつでも誰かが世話をしてくれるわけではないからな。

「教官、馬車でどのくらいですか?」

「ん、そうだなぁ……一応距離的にはそこまで遠いわけじゃないからな。帝国の国境を越えて、ノーエリアに入り、そこからは乗り換えることになる。一応数日はかかると思う。にしても、どうしたんだ? 早速心配か?」

「いや、そうじゃなくて……ほら、この馬車銅貨1枚じゃないですか」

「ん、そうだな」

「今後俺たちが冒険者としてやっていく中で相場を知るのは基本かなって」

「……ははっ、まぁそれもそうだな。ただまぁ、その年で算術も完璧なんだからそこまで気にせんでもいいぞ」

「そんなことないですよ。油断は禁物です」

「そうだな、私も肝に銘じておくよ」

 ニコッとはにかむ。

 ただ、俺らの歳は別にもうそこまで若くないが……この世界では俺の歳で算術が完璧なのはすごいものなのだろうか。閉鎖空間にいたせいで、感覚が狂ってるな俺も。

 そんなこんな話しているうちに、俺たちの馬車は発車し、数列の隊列を組みながら帝国の国境まで向かう。

 馬車には俺たち以外にも荷物が積まれていて、乗っている馬車は隊列の後ろから二番目。最後列には雇われた民兵や冒険者が座っていて、彼らの強者そうな表情には少し肝が冷えた。

「なんだ、冒険者が怖いのか?」

「えっ……いやぁ」

 システナさんがそんな俺に気づいたのか、いじるようにそう言う。しかし、俺の隣に座っていたユミは少し身を寄せて、大きくなった胸を押しつけてくる。

「ユミちゃんもかっ……そんなんじゃ二人とも冒険者にはなれないぞ?」

「っう、うるさいです」

「顔に書いてるからな、怖いって」

 そう言われても怖いもんは怖い。

 こんなので任務の方は大丈夫なのか今更心配になってきたが、さすがに冒険者がいかつい。クマみたいに大きな傷だらけの男に右目に眼帯を付けてほぼ裸みたいな服を着ている女、普通の騎士っぽい格好に人間もいるが大抵みんな傷だらけだった。

 俺もいつかあんなむさ苦しそうな人間いる巣窟に行くのか。楽しそうだがしっかりとやっていけるか怖い。

「——でも、大丈夫だ。あいつらは私よりも弱い。本気で戦えば二人でも倒せる程度だぞ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ、そうだ」

 しかし、肩を叩き彼女は声高らかにそう言った。
 それならいいのだが……でもそれで用心棒は務まるのかが不思議だ。






 草原を抜けて、森に入る。そこから乗っている人や最後列の冒険者の顔も険しくなった。システナさんの方特段変わっているわけでもなく、格好もかなり貧相なのでいつもの殺気やオーラもない。

 まぁ、馬車が揺れる度に胸が大きく揺れているけど……あまり注視しているとユミに勘付かれるから間接視野で見ているがな。

 ということで、俺はシステナさんに訊いてみることにした。

「あの、皆さん戦闘準備していますけど……どうしてですか?」

「ん、それはまぁ、ここは魔物の森だからね」

「魔物の……森?」

 首を傾げると、システナさんは楽しそうに話し始めた。自分も昔は冒険者でミリアと組んでいたときにはこの森で初級から中級モンスターを狩りまくり、ギルドや質屋で荒稼ぎしていたとのこと。しかし、この森の中には上級モンスターも数匹いるらしく何人かやられたために、今ではBランク冒険者以上ではないと立ち入ることはできないとのこと。

 そのため、皆少し緊張しているらしい。

「そうですか……でも、そんな場所通ってもいいんですか?」

「まぁ、上級とは言ってもそこまで頻繁に出てくるわけではないし。ここを越えなければ馬車乗り換えを何度もやらなきゃいけないし、逆に帝国のスラム街もある。犯罪組織もうじゃうじゃで通れないからな。こっちの方が安全なのよ」

「こ、こっちのほうが安全なんですか」

 いや、この世界の犯罪組織はどんだけヤバいんだよ。
 とはいえ、緊張感に比べてみれば特段モンスターに出会うこともなく森を抜けることができた。

「ユミ……」

「ぅ……すぅ……」

 そして、俺の膝で気持ちよさそうな寝息を立てるユミ。ほっぺをムニムニしているが起きる気配もない。もしもここにシステナさんがいなければ危うく襲ってしまいそうだ。彼女は運がいい。

「おい、寝かせておけ。明日はかなり険しい所を通るからな」

「は、はいっ」

 にしても……ユミのほっぺは柔らかくて気持ちいい。今度じっくり触るとしよう。



 森を抜け、さらに数時間。
 砂漠のような地帯で俺たちは馬車を降りて、数キロほど歩いて次の乗り継ぎ地点まで向かった。道中、暗くなっていき俺たちは馬車が止まる駅で野営をすることになった。


 しかし、このときのおれたちはまだ分かっていなかったのだ。

 この砂漠は近年、森から追いやられ、腹をすかせたモンスターが多くいることを。

 そして、中級モンスターの群れに囲まれ、俺のAK47が火を吹くことを……まだ、知らないのであった。

 
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