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本編
12 サキュバスリリスにできること ③
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翌週、リリスは裁縫道具を持ってヴォルフィの店にやってきた。仕事帰りの人も利用できるように、ヴォルフィは少し遅い時間まで薬局を開けている。最近リリスは営業が終わるまで奥の部屋で待つようになっていたので、その間に籠に入れてあったシャツと使い捨て雑巾として切った生地を受け取って作業をした。
「すごい……!」
ヴォルフィの感嘆の声を聞き、リリスは店の営業が終了したことに気づいた。作業が終わっていなかったので、集中して黙々と進めていたのだ。
「ごめんなさい。まだ全部は終わってなくて」
「このボタン、綺麗ですね。縫いつけている金の糸もいいな」
「貝ボタンに変えたら素敵かなと思って」
「袖口の擦り切れと穴もわからなくなって、新品みたいです」
「同じ生地があったから、目立たず綺麗に直せました。かけつぎという技術を以前教えていただいたことがあるんです」
「それは何をなさっているんですか?」
ヴォルフィはリリスの手元を指して言った。彼女が青い糸で何か縫っていたから。
「ああ、これは。青インクが取れないなら、似た色で刺繍をしてしまえばいいかなと思って。ヴォルフィさんの頭文字のWを刺していました」
「どうします? 今日全部刺し終えるまで待っていても、明日続きを刺していただいても、僕はどちらでもいいです」
いつもならヴォルフィが部屋に戻ってきたら、すぐに始めてしまうところだ。でもリリスの刺繍はちょうど佳境に入ったところだった。
「……仕上げてもいいですか?」
「もちろん」
しばらくリリスは黙々と刺し続け、ポケットの裏で玉結びをし、糸を切った。
「……どうですか?」
「わあ……! すごく素敵です! 最初からこういうデザインだったみたいですね!」
「気に入ってくださったならよかったです」
白いシャツの胸ポケットに滲んだ青インクを隠すために、リリスはWの文字と店の看板の意匠である花を刺した。ヴォルフィはいつも感じがいいけれど、今は声がとても嬉しそうで、お世辞ではなく本気で喜んでくれている、とリリスは思った。
「僕の一番好きな色なんです。空みたいに澄んだ青。さすがにうっかり白いシャツにつけちゃった時はどうしようかと思ったんですけど……」
「ヴォルフィさんもそういう失敗、するんですね」
「しますよ。調剤は計量に神経を使いますし、失敗が許されないです。だから疲れちゃって、普段は割と大雑把です」
「これくらいのことでしたら私でもできますから、また何かあったら言ってくださいね」
「ありがとうございます。とても助かります」
リリスは自分がヴォルフィの役に立てたことと、彼の意外と人間らしい一面を知ったことを、とても嬉しく思った。
「すごい……!」
ヴォルフィの感嘆の声を聞き、リリスは店の営業が終了したことに気づいた。作業が終わっていなかったので、集中して黙々と進めていたのだ。
「ごめんなさい。まだ全部は終わってなくて」
「このボタン、綺麗ですね。縫いつけている金の糸もいいな」
「貝ボタンに変えたら素敵かなと思って」
「袖口の擦り切れと穴もわからなくなって、新品みたいです」
「同じ生地があったから、目立たず綺麗に直せました。かけつぎという技術を以前教えていただいたことがあるんです」
「それは何をなさっているんですか?」
ヴォルフィはリリスの手元を指して言った。彼女が青い糸で何か縫っていたから。
「ああ、これは。青インクが取れないなら、似た色で刺繍をしてしまえばいいかなと思って。ヴォルフィさんの頭文字のWを刺していました」
「どうします? 今日全部刺し終えるまで待っていても、明日続きを刺していただいても、僕はどちらでもいいです」
いつもならヴォルフィが部屋に戻ってきたら、すぐに始めてしまうところだ。でもリリスの刺繍はちょうど佳境に入ったところだった。
「……仕上げてもいいですか?」
「もちろん」
しばらくリリスは黙々と刺し続け、ポケットの裏で玉結びをし、糸を切った。
「……どうですか?」
「わあ……! すごく素敵です! 最初からこういうデザインだったみたいですね!」
「気に入ってくださったならよかったです」
白いシャツの胸ポケットに滲んだ青インクを隠すために、リリスはWの文字と店の看板の意匠である花を刺した。ヴォルフィはいつも感じがいいけれど、今は声がとても嬉しそうで、お世辞ではなく本気で喜んでくれている、とリリスは思った。
「僕の一番好きな色なんです。空みたいに澄んだ青。さすがにうっかり白いシャツにつけちゃった時はどうしようかと思ったんですけど……」
「ヴォルフィさんもそういう失敗、するんですね」
「しますよ。調剤は計量に神経を使いますし、失敗が許されないです。だから疲れちゃって、普段は割と大雑把です」
「これくらいのことでしたら私でもできますから、また何かあったら言ってくださいね」
「ありがとうございます。とても助かります」
リリスは自分がヴォルフィの役に立てたことと、彼の意外と人間らしい一面を知ったことを、とても嬉しく思った。
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