【R18】六つのかりそめの閨

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本編

第七日

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 婚礼衣装を着せられている間、コンスタンツェはぼんやりと考えていた。結局、婚礼当日までアレクサンドル陛下と会うことはなかった、と。

 父王に手を引かれ、教会の門をくぐる。光り輝く祭壇の前に、コンスタンツェの結婚相手が立っていた。彼が振り向き、コンスタンツェに初めてその顔を見せた時、彼女は愕然とした。軍神の二つ名を持つ、金の髪に翠の瞳の若き皇帝。その面立ちは、この六夜、コンスタンツェの部屋を訪れていたサーシャのものだったから。

 コンスタンツェは不意に家令が言っていたことを思い出した。

『若者は薄いレンズを目に入れて、視力を矯正していることが多いです』
『魔法薬は、医療に使うものだけでなく、媚薬や、簡単な変化に使うものまで、多種多様です』

 アレクサンドルは魔法の力で姿を偽っていたのだ。ずっと会いたいと望んでいた相手と既に会っていた事実は、コンスタンツェを混乱させた。そんな彼女の気持ちを置き去りに、式は粛々と進行していく。コンスタンツェはいつのまにか署名をさせられ、アレクサンドルと誓いのくちづけを交わしていた。神と民の前で交わす、永遠の契約。

 王城に戻るとコンスタンツェは侍女達のなすがままになった。香油を塗りこめられ、香を焚きしめられ、薄絹を纏ったコンスタンツェは、まるで春の女神のようだと絶賛された。長い間雪に閉ざされるこの国で、春は本当に心から待ち望まれるものなのだ、と。鏡に映る自分を見て、今日は婚礼でもうすぐ初夜を迎えるのだと、コンスタンツェは否が応でも意識させられた。
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