【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

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10. 新たな取り引き先 ①

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 アニエスが剣を二本、リリアンに渡す。

「私とブノワの剣。明日使うから、砥いでおいてもらえると助かるわ」
「お安い御用よ!」

 一本は細身で軽い優美な意匠の剣で、もう一本は重厚な鋼の剣だ。どちらも名刀だと一目でわかる。リリアンは丁寧に砥ぎ、アニエスに渡した。

「ありがとう。もう砥げたの?」
「ええ。刃こぼれもなかったし、いい剣は計算し尽くして作られているから砥ぎやすいの」

 にこやかなリリアンから剣を受け取ると、アニエスは鋼の剣を鞘から抜き、軽く素振りをする。

「いい音がする。斬りやすそう」
「ええ? こっちがアニエスの剣だったの?」

 リリアンはびっくりして訊ねる。鋼の剣の無骨な意匠がブノワらしくないとは感じたのだが、通常、女性がこの重さの剣を使うことはないので、アニエスのものだとは考えもしなかったのだ。

「そうだけど?」
「重くない?」
「剣って、こんなものじゃない? ブノワの剣が特別軽いだけでしょう」

 素振りを少し見ただけでも、アニエスが剣術にも懸命に取り組んできたことはわかった。それこそ真剣に。だが、リリアンはもっと軽い剣の方がアニエスの動きが活きそうだと感じた。
 大切な剣だったら余計なお世話だと思い、リリアンはそっと申し出る。

「他の剣を買おうと思ったことはない?」
「特にないわ。これしかないから使っているだけ」
「この剣に思い入れは、そんなにないのね?」
「ええ」
「ねえ、よかったら、私が剣を見立てるわ。たぶんこの剣はアニエスには重すぎる」
「重い……?」

 自己申告通り、剣とはこんな重さのものだと思ってきたアニエスは、ぴんときていない様子だったが、それならお願いすると剣の見立てをリリアンに任せてくれた。

 夕飯の時刻になったので、四人で食堂へと向かう。特別なことがない限り、普段は常宿の近くの庶民的な店で食べている。
 ブノワは美食家であると同時に偏食家でもある。嫌いな食べ物には決して手を付けない。

「ブノワは一体どんな食べ物が嫌いなの?」
「そんなこと、どうしてわざわざ聞くの?」
「ジェラールはなんでもおいしいって言うし、アニエスはなんでも黙々と食べるから」
「俺は食べられるだけでありがたいし、なんでも旨い」
「……食べ物を残すのは血税を無駄にすることだと、厳しく言われて育ったもの」

 思いがけず他の二人の回答を得てしまったが、肝心のブノワは答えない。仲間になって日が浅いとはいえ、ブノワは理にかなうことなら納得して動くように感じていたので、リリアンは訊ね方を変えた。

「ブノワの嫌いな食べ物がわかったら、なるべく避けて、別のもので栄養摂ればいいかなあって思ったの」
「ふうん……」

 ブノワは洒落た鞄から紙とペンを取り出すと、さらさらと書きつけた。

「はい」
「これは?」
「嫌いな食べ物一覧」

 ずいぶんたくさん書かれていて、リリアンはくらくらした。これらの食材を全て避けるのは無理だ。

「ブノワお前、一応我慢してたんだな……。こんなにあったとは……」

 紙を覗き込んだジェラールがぼそりと言う。アニエスもそっと覗き込み、ぴくりと身体を震わせた。血税を無駄にするなと言われて育った人間からすれば、信じられないのかもしれない。ブノワとアニエスは、同じ貴族とはいえ、ずいぶん違う環境にいたのだろうなとリリアンは思った。
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