10 / 55
10. 新たな取り引き先 ①
しおりを挟む
アニエスが剣を二本、リリアンに渡す。
「私とブノワの剣。明日使うから、砥いでおいてもらえると助かるわ」
「お安い御用よ!」
一本は細身で軽い優美な意匠の剣で、もう一本は重厚な鋼の剣だ。どちらも名刀だと一目でわかる。リリアンは丁寧に砥ぎ、アニエスに渡した。
「ありがとう。もう砥げたの?」
「ええ。刃こぼれもなかったし、いい剣は計算し尽くして作られているから砥ぎやすいの」
にこやかなリリアンから剣を受け取ると、アニエスは鋼の剣を鞘から抜き、軽く素振りをする。
「いい音がする。斬りやすそう」
「ええ? こっちがアニエスの剣だったの?」
リリアンはびっくりして訊ねる。鋼の剣の無骨な意匠がブノワらしくないとは感じたのだが、通常、女性がこの重さの剣を使うことはないので、アニエスのものだとは考えもしなかったのだ。
「そうだけど?」
「重くない?」
「剣って、こんなものじゃない? ブノワの剣が特別軽いだけでしょう」
素振りを少し見ただけでも、アニエスが剣術にも懸命に取り組んできたことはわかった。それこそ真剣に。だが、リリアンはもっと軽い剣の方がアニエスの動きが活きそうだと感じた。
大切な剣だったら余計なお世話だと思い、リリアンはそっと申し出る。
「他の剣を買おうと思ったことはない?」
「特にないわ。これしかないから使っているだけ」
「この剣に思い入れは、そんなにないのね?」
「ええ」
「ねえ、よかったら、私が剣を見立てるわ。たぶんこの剣はアニエスには重すぎる」
「重い……?」
自己申告通り、剣とはこんな重さのものだと思ってきたアニエスは、ぴんときていない様子だったが、それならお願いすると剣の見立てをリリアンに任せてくれた。
夕飯の時刻になったので、四人で食堂へと向かう。特別なことがない限り、普段は常宿の近くの庶民的な店で食べている。
ブノワは美食家であると同時に偏食家でもある。嫌いな食べ物には決して手を付けない。
「ブノワは一体どんな食べ物が嫌いなの?」
「そんなこと、どうしてわざわざ聞くの?」
「ジェラールはなんでもおいしいって言うし、アニエスはなんでも黙々と食べるから」
「俺は食べられるだけでありがたいし、なんでも旨い」
「……食べ物を残すのは血税を無駄にすることだと、厳しく言われて育ったもの」
思いがけず他の二人の回答を得てしまったが、肝心のブノワは答えない。仲間になって日が浅いとはいえ、ブノワは理にかなうことなら納得して動くように感じていたので、リリアンは訊ね方を変えた。
「ブノワの嫌いな食べ物がわかったら、なるべく避けて、別のもので栄養摂ればいいかなあって思ったの」
「ふうん……」
ブノワは洒落た鞄から紙とペンを取り出すと、さらさらと書きつけた。
「はい」
「これは?」
「嫌いな食べ物一覧」
ずいぶんたくさん書かれていて、リリアンはくらくらした。これらの食材を全て避けるのは無理だ。
「ブノワお前、一応我慢してたんだな……。こんなにあったとは……」
紙を覗き込んだジェラールがぼそりと言う。アニエスもそっと覗き込み、ぴくりと身体を震わせた。血税を無駄にするなと言われて育った人間からすれば、信じられないのかもしれない。ブノワとアニエスは、同じ貴族とはいえ、ずいぶん違う環境にいたのだろうなとリリアンは思った。
「私とブノワの剣。明日使うから、砥いでおいてもらえると助かるわ」
「お安い御用よ!」
一本は細身で軽い優美な意匠の剣で、もう一本は重厚な鋼の剣だ。どちらも名刀だと一目でわかる。リリアンは丁寧に砥ぎ、アニエスに渡した。
「ありがとう。もう砥げたの?」
「ええ。刃こぼれもなかったし、いい剣は計算し尽くして作られているから砥ぎやすいの」
にこやかなリリアンから剣を受け取ると、アニエスは鋼の剣を鞘から抜き、軽く素振りをする。
「いい音がする。斬りやすそう」
「ええ? こっちがアニエスの剣だったの?」
リリアンはびっくりして訊ねる。鋼の剣の無骨な意匠がブノワらしくないとは感じたのだが、通常、女性がこの重さの剣を使うことはないので、アニエスのものだとは考えもしなかったのだ。
「そうだけど?」
「重くない?」
「剣って、こんなものじゃない? ブノワの剣が特別軽いだけでしょう」
素振りを少し見ただけでも、アニエスが剣術にも懸命に取り組んできたことはわかった。それこそ真剣に。だが、リリアンはもっと軽い剣の方がアニエスの動きが活きそうだと感じた。
大切な剣だったら余計なお世話だと思い、リリアンはそっと申し出る。
「他の剣を買おうと思ったことはない?」
「特にないわ。これしかないから使っているだけ」
「この剣に思い入れは、そんなにないのね?」
「ええ」
「ねえ、よかったら、私が剣を見立てるわ。たぶんこの剣はアニエスには重すぎる」
「重い……?」
自己申告通り、剣とはこんな重さのものだと思ってきたアニエスは、ぴんときていない様子だったが、それならお願いすると剣の見立てをリリアンに任せてくれた。
夕飯の時刻になったので、四人で食堂へと向かう。特別なことがない限り、普段は常宿の近くの庶民的な店で食べている。
ブノワは美食家であると同時に偏食家でもある。嫌いな食べ物には決して手を付けない。
「ブノワは一体どんな食べ物が嫌いなの?」
「そんなこと、どうしてわざわざ聞くの?」
「ジェラールはなんでもおいしいって言うし、アニエスはなんでも黙々と食べるから」
「俺は食べられるだけでありがたいし、なんでも旨い」
「……食べ物を残すのは血税を無駄にすることだと、厳しく言われて育ったもの」
思いがけず他の二人の回答を得てしまったが、肝心のブノワは答えない。仲間になって日が浅いとはいえ、ブノワは理にかなうことなら納得して動くように感じていたので、リリアンは訊ね方を変えた。
「ブノワの嫌いな食べ物がわかったら、なるべく避けて、別のもので栄養摂ればいいかなあって思ったの」
「ふうん……」
ブノワは洒落た鞄から紙とペンを取り出すと、さらさらと書きつけた。
「はい」
「これは?」
「嫌いな食べ物一覧」
ずいぶんたくさん書かれていて、リリアンはくらくらした。これらの食材を全て避けるのは無理だ。
「ブノワお前、一応我慢してたんだな……。こんなにあったとは……」
紙を覗き込んだジェラールがぼそりと言う。アニエスもそっと覗き込み、ぴくりと身体を震わせた。血税を無駄にするなと言われて育った人間からすれば、信じられないのかもしれない。ブノワとアニエスは、同じ貴族とはいえ、ずいぶん違う環境にいたのだろうなとリリアンは思った。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる