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11. 新たな取り引き先 ②
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冒険者ギルド「白い死神」への事務連絡はリリアンの担当になった。ギルドへ訪ねる用件は大きく二つあり、一つは案件の獲得と進捗報告で、もう一つは捕らえた獲物の売買である。
リリアンはギルドの扉を開く前に深呼吸した。胃が痛い。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
美しい受付嬢は敬語こそ崩さないものの、いつも塩対応である。美人だからこそ、殺傷力が高い。
「あの……今日は、獲物の買い取りを……お願いしたくて……」
リリアンの持ってきた獲物を一瞥し、受付嬢はにっこり微笑んで告げた。
「今月から買い取り価格を変更し、手数料も値上げいたします」
「価格変更と手数料値上げ、ですか……」
「ええ。不景気ですし、上の決定ですので」
世知辛い。ただでさえ結構な金額を毟られていたので、リリアンは内心苦々しく思う。
獲物を業者へ買い取ってもらうために、リリアン達冒険者はギルドに手数料を支払っている。業者は基本的に一見の冒険者と取り引きをしない。
冒険者になるのに資格はいらないし、上手くいけば報酬もたくさん得られる。だが、個々人はさほど信用されないし、いつも危険と隣り合わせなので、大抵の冒険者は安定と保障を求めてギルドに所属する。リリアンが冒険者ギルド巡りをしたのもそのためだ。
受付嬢は新しい料金表をリリアンに見せながら、続けた。
「今回の獲物は全て二級品ですから、手数料と差し引きで、このお値段ですね」
受付嬢が指した金額はとんでもなく安い。あまりの買い叩かれっぷりに、さすがのリリアンも抗議した。
「そんな! この獲物には、付加価値があるはずです! ほら、毛皮に珍しい斑点が」
「お嫌でしたら、ご自身で業者に買い取っていただいたらどうでしょう? お得意なんですよね、交渉」
初日に記入した書類のことをさりげなく覚えている。「ソウデスネ」とリリアンはがんばって貼り付けたような笑顔で言い、ギルドを後にした。
リリアンは大通りにある道具屋をくまなく回ったが、全て断られた。「なぜギルドを通さないのか?」と問われ、苦笑いしながら出ていくことを繰り返す。信用取り引き。リリアン個人に信用なんかある訳がない。
大通りを一本入ったところに、派手な看板を掲げた道具屋があった。
《どなたでもお気軽においでください! 高価買い取り確約!》
疲れ切ったリリアンは、看板に吸い寄せられるようにふらふらと店内に入った。
「いらっしゃいませ! 本日は何をお持ちくださったのでしょう?」
椅子を勧められ、リリアンは礼を言って腰掛けた。金髪に緑の瞳が美しい、道具屋より役者の方が似合いそうな色男だ。
「この獲物を買い取っていただきたくて、参りました」
「査定いたしますので、しばらくお待ちくださいね!」
リリアンは素直に従った。何軒も道具屋を回って疲れていたので、ぼんやり休んでいたとも言う。
「お待たせいたしました!」
色男が獲物と査定金額を書いた紙を持って戻ってきた。リリアンはすぐに目を通し、思わず色男を見た。
「いや……この金額はちょっと……」
リリアンは絞り出すような声で言う。ギルドよりも安い。
「小さいですし、この程度が妥当かと」
「この獲物の毛皮は希少なはず……です」
「いいえ。私の見立てに間違いはありません」
色男は自信に満ちた声で断言した。
リリアンは心もとなくなる。これだけはっきり言い切られるということは、自分が間違っているのだろうか。確かにリリアンは魔物に詳しい訳ではないし、ギルドでも二級品だと判断された。ギルドに買い取ってもらうことが難しそうな今、ここで売ってしまうのが得策だろうか。
「今後もうちの店にお持ちいただけるのでしたら、特別に少しだけ上乗せしますよ」
リリアンがなかなか返事をしないからか、色男はにっこり笑って付け足した。
リリアンは訝しんだ。本当に価値が低いものなら「お引き取りいただいても結構です」と言ってもいいはずなのに、わざわざ買い取ろうとしている。買う方が得ということだ。
これは、リリアンの見立てが正しかったのではないか?
「どれくらいですか?」
「そうですね。獲物十匹ですから、十一匹分」
もし、リリアンの見立てが正しければ、一匹あたりの価格が倍は下らない。相手はリリアンに恩を着せつつ、ぼろ儲けだ。しかも今後も定期的に搾り取れる。もう一度色男をじっと見る。目に焦りの色が見えた気がした。
「いいえ。そちらに損をさせてしまっては申し訳ないので、ギルドへ戻って謝ってきます」
「……そうですか」
リリアンは店を出た。おそらく獲物の質は悪くない。別の店に信用さえしてもらえたら、いい取り引きができるのではないか。そんな風に思ったので、足取りは軽かった。
リリアンはギルドの扉を開く前に深呼吸した。胃が痛い。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
美しい受付嬢は敬語こそ崩さないものの、いつも塩対応である。美人だからこそ、殺傷力が高い。
「あの……今日は、獲物の買い取りを……お願いしたくて……」
リリアンの持ってきた獲物を一瞥し、受付嬢はにっこり微笑んで告げた。
「今月から買い取り価格を変更し、手数料も値上げいたします」
「価格変更と手数料値上げ、ですか……」
「ええ。不景気ですし、上の決定ですので」
世知辛い。ただでさえ結構な金額を毟られていたので、リリアンは内心苦々しく思う。
獲物を業者へ買い取ってもらうために、リリアン達冒険者はギルドに手数料を支払っている。業者は基本的に一見の冒険者と取り引きをしない。
冒険者になるのに資格はいらないし、上手くいけば報酬もたくさん得られる。だが、個々人はさほど信用されないし、いつも危険と隣り合わせなので、大抵の冒険者は安定と保障を求めてギルドに所属する。リリアンが冒険者ギルド巡りをしたのもそのためだ。
受付嬢は新しい料金表をリリアンに見せながら、続けた。
「今回の獲物は全て二級品ですから、手数料と差し引きで、このお値段ですね」
受付嬢が指した金額はとんでもなく安い。あまりの買い叩かれっぷりに、さすがのリリアンも抗議した。
「そんな! この獲物には、付加価値があるはずです! ほら、毛皮に珍しい斑点が」
「お嫌でしたら、ご自身で業者に買い取っていただいたらどうでしょう? お得意なんですよね、交渉」
初日に記入した書類のことをさりげなく覚えている。「ソウデスネ」とリリアンはがんばって貼り付けたような笑顔で言い、ギルドを後にした。
リリアンは大通りにある道具屋をくまなく回ったが、全て断られた。「なぜギルドを通さないのか?」と問われ、苦笑いしながら出ていくことを繰り返す。信用取り引き。リリアン個人に信用なんかある訳がない。
大通りを一本入ったところに、派手な看板を掲げた道具屋があった。
《どなたでもお気軽においでください! 高価買い取り確約!》
疲れ切ったリリアンは、看板に吸い寄せられるようにふらふらと店内に入った。
「いらっしゃいませ! 本日は何をお持ちくださったのでしょう?」
椅子を勧められ、リリアンは礼を言って腰掛けた。金髪に緑の瞳が美しい、道具屋より役者の方が似合いそうな色男だ。
「この獲物を買い取っていただきたくて、参りました」
「査定いたしますので、しばらくお待ちくださいね!」
リリアンは素直に従った。何軒も道具屋を回って疲れていたので、ぼんやり休んでいたとも言う。
「お待たせいたしました!」
色男が獲物と査定金額を書いた紙を持って戻ってきた。リリアンはすぐに目を通し、思わず色男を見た。
「いや……この金額はちょっと……」
リリアンは絞り出すような声で言う。ギルドよりも安い。
「小さいですし、この程度が妥当かと」
「この獲物の毛皮は希少なはず……です」
「いいえ。私の見立てに間違いはありません」
色男は自信に満ちた声で断言した。
リリアンは心もとなくなる。これだけはっきり言い切られるということは、自分が間違っているのだろうか。確かにリリアンは魔物に詳しい訳ではないし、ギルドでも二級品だと判断された。ギルドに買い取ってもらうことが難しそうな今、ここで売ってしまうのが得策だろうか。
「今後もうちの店にお持ちいただけるのでしたら、特別に少しだけ上乗せしますよ」
リリアンがなかなか返事をしないからか、色男はにっこり笑って付け足した。
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これは、リリアンの見立てが正しかったのではないか?
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「そうですね。獲物十匹ですから、十一匹分」
もし、リリアンの見立てが正しければ、一匹あたりの価格が倍は下らない。相手はリリアンに恩を着せつつ、ぼろ儲けだ。しかも今後も定期的に搾り取れる。もう一度色男をじっと見る。目に焦りの色が見えた気がした。
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