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16. 名前とお買い得物件 ③
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野営から常宿に戻った翌日、リリアンは道具屋エドモンへ魔石を買いに行くことを三人に告げた。「重いものではないし、俺が一緒に行っても役に立たないから、店主に任せるといい」とジェラールは言い、リリアンは頷いた。アニエスは一緒に行きたがったが「きりがないからやめろ」とあきれ顔のブノワに止められていた。アニエスは何時間でも飽きずに石を見続けるという。魔石一つにそれだけ粘ったら、確かに店主に申し訳ない。リリアンはアニエスに気持ちだけ受け取っておく旨を告げ、一人で出かけることにした。
扉を開けると、鈴が鳴り、しばらくして店主が出てくる。
「いらっしゃい」
「こんにちは! 今日は魔石を買いたいと思ってきました!」
「魔石ならいいものがたくさんある」
店主はリリアンを店の奥へ招く。簡素な応接室だ。リリアンを椅子に掛けさせると、店主は更に奥へと続く扉を開いた。心なしか店主の雰囲気がやわらかい。
戻ってきた店主は、机に布を広げ、匣に納めている魔石を並べていく。
「お前さんは魔力を持たないようだから、加護が強いものを中心に選んできた」
魔石としか伝えなくとも、店主はある程度察していた。アニエスも言っていたように、石英の類が多い。水晶、黄水晶、紫黄水晶、金針水晶。深く濃い紫色が目を惹く紫水晶は、寄り添うような親しみやすさと高貴さを併せ持つ不思議な存在感がある。魔力を持たないリリアンが見ても、翠玉の落ち着いた緑には癒しを感じるし、紅玉の華やかな赤には情熱が迸っているし、蒼玉の深い蒼からは崇高な雰囲気と深い知性が伝わってくる。
「守護といったら、普通は黒水晶だろうが……」
店主がぼそりと言うので、リリアンは彼の指す石を見る。威力が強いのは素養のないリリアンにもよく伝わってくるが、なんとなく落ち着かない。リリアンは黒水晶にそんな印象を持った。
リリアンはなぜか、地元の村でやたらかまってきていた材木問屋の息子のことを思い出した。村一番の商家の跡継ぎだし、いい体格をしていて悪い顔立ちでもなかったから、狙っている女子もいくらかいたが、リリアンは彼のことが苦手だった。何かにつけてリリアンに絡んできて、時にはけなすにもかかわらず、「嫁へ行くあてがなければ、もらってやってもいい」などと言ってくるので、何をしたいのかわからなかったのだ。
「やはり苦手そうだな。しっくりくる石を選んだらいい」
店主はまたもぼそりと言う。見抜かれていた。
リリアンは布の上の魔石を眺める。どれもきらきらしていて、とても美しい、はずだ。でも、綺麗すぎて気後れしたり、主張が強すぎて落ち着かなかったり、意外としっくりくる石はない。多すぎてよくわからない。
リリアンが少し疲れてきた頃、目に入った石があった。大粒でカットが美しく、威力はありそうなのに、主張は控えめ。ずっと同じ場所に置かれていたはずなのに、気づかなかった。
「これ、手に取ってみてもいいですか?」
「もちろん」
店主の許しを得、リリアンは焦げ茶色の石を手に取る。カットの具合がよい。輝きを上手く引き出しつつ、ふれた時のなめらかな手ざわりも兼ね備えている。なにより、持っていると気持ちが落ち着いた。
扉を開けると、鈴が鳴り、しばらくして店主が出てくる。
「いらっしゃい」
「こんにちは! 今日は魔石を買いたいと思ってきました!」
「魔石ならいいものがたくさんある」
店主はリリアンを店の奥へ招く。簡素な応接室だ。リリアンを椅子に掛けさせると、店主は更に奥へと続く扉を開いた。心なしか店主の雰囲気がやわらかい。
戻ってきた店主は、机に布を広げ、匣に納めている魔石を並べていく。
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魔石としか伝えなくとも、店主はある程度察していた。アニエスも言っていたように、石英の類が多い。水晶、黄水晶、紫黄水晶、金針水晶。深く濃い紫色が目を惹く紫水晶は、寄り添うような親しみやすさと高貴さを併せ持つ不思議な存在感がある。魔力を持たないリリアンが見ても、翠玉の落ち着いた緑には癒しを感じるし、紅玉の華やかな赤には情熱が迸っているし、蒼玉の深い蒼からは崇高な雰囲気と深い知性が伝わってくる。
「守護といったら、普通は黒水晶だろうが……」
店主がぼそりと言うので、リリアンは彼の指す石を見る。威力が強いのは素養のないリリアンにもよく伝わってくるが、なんとなく落ち着かない。リリアンは黒水晶にそんな印象を持った。
リリアンはなぜか、地元の村でやたらかまってきていた材木問屋の息子のことを思い出した。村一番の商家の跡継ぎだし、いい体格をしていて悪い顔立ちでもなかったから、狙っている女子もいくらかいたが、リリアンは彼のことが苦手だった。何かにつけてリリアンに絡んできて、時にはけなすにもかかわらず、「嫁へ行くあてがなければ、もらってやってもいい」などと言ってくるので、何をしたいのかわからなかったのだ。
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