【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

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28. 恋の吊り橋理論 ③

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 ジェラールは右手を後ろに差し伸べ、左手で吊り橋の縄にふれ、ゆっくり歩きだした。リリアンはそっとジェラールの手を握ってついていく。ジェラールは右利きなので、握る手も安定していて、怖くない。
 ジェラールは背が高いので、差し伸べられた手を握っていると、自然と目線が上になる。下を見ないだけでこんなに恐怖が減るなんて、と安心しきったところで、リリアンの足元が揺れた。ジェラールは即座に止まる。

「大丈夫だ。怖い時は背嚢にしがみついてもいい」

 リリアンの手は震えているが、ジェラールの手は揺るぎない。リリアンは左手でそっと背嚢の端をつかむ。ジェラールはリリアンに進んでいいかと確認し、再びゆっくり歩きだした。ジェラールは左手で吊り橋の縄に一応ふれてはいるものの、つかんではいない。おそらくかなり体幹で平衡を保っている。背嚢では隠れ切れていない広く厚い背中。たまに足元が揺れるとリリアンは思わずどきっとしたけれど、反射で驚いてしまうだけでもう怖いとは感じなくなった。ジェラールが絶対に助けてくれる。

「もう着くぞ」
「……うん」

 リリアンの両足が地面に降りたのを確認し、ジェラールは手を放す。

「ありがとう、ジェラール。おかげで怖くなかったの」
「そうか。なら、よかった」

 リリアンは右手を見る。吊り橋を渡っている間、ずっと握っていた手。放しているのが却って落ち着かない。

「ずいぶん遅かったねー」
「ブノワ、お前……」
「徹夜で疲れ果ててたから仕方ないでしょ。アニエス、いいよ」
「わかったわ」

 ブノワの指示に従い、アニエスは構えると、華麗な剣捌きで吊り橋を支える縄を左右とも切った。もう吊り橋は使えない。

「おい、俺達はどうやって帰れば……!」
「大丈夫。きちんと策は講じているから。今後悪用されないように、橋の封鎖は交渉済。普段なら俺が魔術で破壊するんだけど、今日は余力がないから無理」
「さすがリリアンのお父さんの剣ね。切れ味がいいわ」

 ブノワ達に案内され、世界の果ての薬草の生息地へと進む。待っている間に少し回復したのだろう、ブノワが話をしているが、なんだかぼんやりとリリアンの耳を素通りしていく。

 吊り橋を無事に渡り終えてリリアンはようやく気づいた。ジェラール自身も平衡を保つのは大変だったはずだ。自分の恐怖心にばかり気を取られていたが、ジェラールも本当は怖かったかもしれない。そんなことは微塵も感じさせず、怖がるリリアンを助けてくれた。

 リリアンはもう一度自分の右手を眺め、ぎゅっと握る。
 足元はもう揺れていない。それでも、リリアンの胸はどきんと鳴った。
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