【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

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29. 焼き焦がすもの ①

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 ジェラールが資料の指示通り薬草を深く掘り起こし、リリアンが魔法仕掛けのはこに詰めていく。ブノワは疲れたと言って動かず、アニエスは作業が雑で薬草の葉と根が細切れになりそうだったからである。

「実験が失敗した時のために、少しだけ残しておいて」

 ジェラールとリリアンが淡々と作業を続けていると、ブノワの声がした。

「研究所からは全部持ち帰れと指示されているが?」
「単純な保存はたぶんある程度いけるけど、苗から移植はできないと俺は踏んでるんだよ。根こそぎ持っていくと取り返しがつかなくなる」
「わかったが……どうやって再びここへ来るんだ? さっき橋は壊しただろう?」
「そのために俺は徹夜したんだよ」

 ジェラールが作業を終えると、ブノワは鞄から折り畳んだ布を取り出し丁寧に広げていく。緻密に書き込まれた魔法陣だ。ブノワは礼を言ってジェラールから匣を受け取る。

「さっさと帰ろう」

 ブノワは魔法陣の上に乗ると、消えた。アニエスも同じように魔法陣に乗って消えたので、リリアンも続く。魔法陣の上に乗ったと思った瞬間、リリアンは常宿のジェラールの部屋にいた。

「え? ええ?!」
「これなら魔力がなくても転移できるでしょ?」

 ブノワがにっこり微笑む。リリアンの足元には魔法陣の描かれた布が敷いてある。魔法陣同士がつながっているのだろう、とリリアンは察した。

「確かにすごいが……どうやって俺の部屋に設置したんだ?」
「宿屋の主人に鍵を借りた」
「そんな面倒なことをしなくても、ブノワの部屋に準備すればいいじゃないか」
「みんなで集まるのはいつもジェラールの部屋だからね」

 極力、自室に人を入れたくないのだろう。何を言っても無駄だと諦め、ジェラールはため息を吐く。ブノワは魔法陣の布を丁寧に畳むと鞄に入れ、あくびをする。

「魔法陣と匣は俺が植物研究所に届けるから。事務所への報告はよろしく」
「ブノワ、ありがとう。魔法陣は依頼になかったのに、的確に判断してくれて感謝している」

 ジェラールが礼を言うと、ブノワは微笑み、部屋を出ていった。



 翌日、リリアンが「白い死神」の事務所へ赴くと、受付嬢から淡々と報告された。「王立植物研究所からの依頼は、先方に大変感謝されて完了した」と。リリアンはブノワが昨夜そのまま届けに行ったのだと察した。
 これ以上報告することはないので、リリアンはそのまま帰ろうかと思ったが、念の為、新しい案件がないか訊ねてみた。

「魔犬駆除、ですか……」
「ええ。今ご紹介できる案件はそれだけです」

 魔犬は理性的なので、小さい頃からきちんと躾ければ人間と共存が可能な魔獣である。魔力を持つので魔術師が使い魔として使役することが多いが、高価なので金持ちが自分の富をひけらかすために飼うこともある。
 ただ、魔犬は一度凶暴化すると、現在の技術では薬草でも魔術でも沈静化させることができないので、倒すしかないのだ。
 その魔犬は人間を見ると火を噴いてくるので、シリウス焼き焦がすものという通り名で呼ばれているという。

 案件について、リリアンは食堂で夕飯を食べながら話すことにした。単純な駆除なので込み入った作戦は立てなくていいし、恋心を意識してしまった今は、ジェラールの部屋を訪ねることはなるべく避けたい。どうしてこれまで無防備に訪ねられたんだろう、リリアンは過去の自分を思い出すとのたうち回りたくなる。

「いいんじゃない? そこそこいい報酬もらえるみたいだし。あの町の酒、旨いんだよねえ」
「ブノワ、お前、本当にやる気ないな……」
「昔はいい鉱山があったけど、今は掘り尽くされて、目ぼしい石はない」
「アニエスは石のことしか考えていないし……」

 思った通り、簡単な打ち合わせで済み、リリアンはほっとする。
 アニエスと連れ立って部屋に戻り、夜着に着替えるためにリリアンは腰巻サッシュを外した。淡いピンクの絹に銀糸が織り込まれた美しい腰巻。中央に嵌め込まれた煙水晶スモーキークオーツにどうしても目が行く。

 リリアンはようやく気づいた。煙水晶はジェラールの瞳の色に似ているのだ。この石を買った時はまだ、ジェラールに恋をしていた訳ではなかった。けれども、優しいとは思っていたし、信頼もしていた。煙水晶に安心感を覚えたのは、おそらく無意識に彼を重ね合わせていたからだろう。

 恋心を意識してから、ジェラールとなんだか上手く話せなくなってしまった。不自然にならないように心掛けるので、毎日どっと疲れてしまう。
 村にいた頃、女子達が言っていたことを思い出す。好きな人にはなかなか話し掛けられない。今なら彼女達の気持ちがわかる。
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