30 / 55
30. 焼き焦がすもの ②
しおりを挟む
そんな具合でしばらくリリアンは必要事項の応答と相槌を打つ程度しかできずにいたが、魔犬駆除の旅に出る前日、ジェラールの方から話し掛けられた。自分から話し掛けられなくても、相手から話し掛けられたら対応せざるを得ない。
「リリアン、槍を砥いでくれないか」
「わ、わかったわ」
ジェラールから手渡された槍は、いつも使っているものと、小さめのものの二つだ。小さい方は使っているのを見たことがない。不思議に思いながらも、リリアンは二つの槍を丁寧に砥いだ。砥ぎ終えてリリアンは少し悩んだが、ジェラールの部屋へ渡しに行った。普段使わない槍まで食事の時に渡すのはなんだか気が引けたからである。
リリアンは扉を叩く。中からどうぞとジェラールの声が聞こえたが、リリアンは動けない。入る訳にはいかないが自分から扉を開けた方がいいだろうかとリリアンが迷った時に、ジェラールが扉を開けた。
「リリアン」
「はい。二つとも砥ぎ上がったわ」
リリアンが丁寧に二本の槍を手渡すと、ジェラールも丁寧に受け取った。
「ありがとう。別に夕飯の時でよかったんだが」
「大切なものだから少しでも早く渡したかったし、普段使っていない槍もあるから、荷物になるかと思って」
「背嚢に入れるからたいして問題はないが……」
ジェラールの荷物が軽くなるようにと贈ったのにどうして思いつかないの、とリリアンは内心自嘲する。リリアンのしまったという表情を見て、ジェラールは優しく続けた。
「ありがとう。リリアンはいつも仲間のことを思いやって動いてくれる。師匠が言っていた通りだ。信頼できる仲間は得難いし、大切だ」
「師匠?」
「槍の師匠だ。父の宿命の好敵手だと言っていたが、実際はどうなのかわからない。父は戦っていた頃の話をあまりしなかった」
そういえば、ちょっと浮世離れしていて紹介状を書いてくれなかったと言っていた気がする、とリリアンは過去の記憶を手繰る。
「ジェラールにとって大切な方なのね」
「ああ。家族が亡くなって、親戚が俺のことを押し付け合っていた時、師匠がやってきて『行くところがないならばうちに来い』と言ってくれたんだ。自分もそんなに余裕がある訳ではないのに、気前のいい人だった」
ジェラールは小さい槍を眺めながら訥々と話す。
「俺の父は『一番槍のロジェ』と呼ばれていたそうだ。判断が早く、動作が機敏で、必ず先手を取るから。大槍と投槍用の小さい槍を器用に使い分けていたという話にも憧れた。だが、俺は判断も動きもそう速くないから、どうしても無理で。『大槍と小槍、二種類あるから迷うのだ』と師匠に指摘されて、俺は大槍だけで戦うことに決めたんだ」
「そうだったの」
リリアンが今回砥いだもう一つの槍は、使わなくなった投槍用のものなのだろう。確かに古いものだったが、大槍ほど使い込まれていなかった。
ジェラールは頭の回転も動作も決して遅くはない、とリリアンは思う。ただ、数舜の遅れが生死を分ける世界に身を置く彼は、少しでも危険を回避すべきと判断したのだろう。大変正しい。
「ブノワにこの話をしたところ、『じゃあ、「一本槍のジェラール」という名で売り込もう』と言い出した。父の二つ名をもじって考えたらしい。覚えやすいだろうと言っていた」
「リリアン、槍を砥いでくれないか」
「わ、わかったわ」
ジェラールから手渡された槍は、いつも使っているものと、小さめのものの二つだ。小さい方は使っているのを見たことがない。不思議に思いながらも、リリアンは二つの槍を丁寧に砥いだ。砥ぎ終えてリリアンは少し悩んだが、ジェラールの部屋へ渡しに行った。普段使わない槍まで食事の時に渡すのはなんだか気が引けたからである。
リリアンは扉を叩く。中からどうぞとジェラールの声が聞こえたが、リリアンは動けない。入る訳にはいかないが自分から扉を開けた方がいいだろうかとリリアンが迷った時に、ジェラールが扉を開けた。
「リリアン」
「はい。二つとも砥ぎ上がったわ」
リリアンが丁寧に二本の槍を手渡すと、ジェラールも丁寧に受け取った。
「ありがとう。別に夕飯の時でよかったんだが」
「大切なものだから少しでも早く渡したかったし、普段使っていない槍もあるから、荷物になるかと思って」
「背嚢に入れるからたいして問題はないが……」
ジェラールの荷物が軽くなるようにと贈ったのにどうして思いつかないの、とリリアンは内心自嘲する。リリアンのしまったという表情を見て、ジェラールは優しく続けた。
「ありがとう。リリアンはいつも仲間のことを思いやって動いてくれる。師匠が言っていた通りだ。信頼できる仲間は得難いし、大切だ」
「師匠?」
「槍の師匠だ。父の宿命の好敵手だと言っていたが、実際はどうなのかわからない。父は戦っていた頃の話をあまりしなかった」
そういえば、ちょっと浮世離れしていて紹介状を書いてくれなかったと言っていた気がする、とリリアンは過去の記憶を手繰る。
「ジェラールにとって大切な方なのね」
「ああ。家族が亡くなって、親戚が俺のことを押し付け合っていた時、師匠がやってきて『行くところがないならばうちに来い』と言ってくれたんだ。自分もそんなに余裕がある訳ではないのに、気前のいい人だった」
ジェラールは小さい槍を眺めながら訥々と話す。
「俺の父は『一番槍のロジェ』と呼ばれていたそうだ。判断が早く、動作が機敏で、必ず先手を取るから。大槍と投槍用の小さい槍を器用に使い分けていたという話にも憧れた。だが、俺は判断も動きもそう速くないから、どうしても無理で。『大槍と小槍、二種類あるから迷うのだ』と師匠に指摘されて、俺は大槍だけで戦うことに決めたんだ」
「そうだったの」
リリアンが今回砥いだもう一つの槍は、使わなくなった投槍用のものなのだろう。確かに古いものだったが、大槍ほど使い込まれていなかった。
ジェラールは頭の回転も動作も決して遅くはない、とリリアンは思う。ただ、数舜の遅れが生死を分ける世界に身を置く彼は、少しでも危険を回避すべきと判断したのだろう。大変正しい。
「ブノワにこの話をしたところ、『じゃあ、「一本槍のジェラール」という名で売り込もう』と言い出した。父の二つ名をもじって考えたらしい。覚えやすいだろうと言っていた」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる