【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

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30. 焼き焦がすもの ②

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 そんな具合でしばらくリリアンは必要事項の応答と相槌を打つ程度しかできずにいたが、魔犬駆除の旅に出る前日、ジェラールの方から話し掛けられた。自分から話し掛けられなくても、相手から話し掛けられたら対応せざるを得ない。

「リリアン、槍を砥いでくれないか」
「わ、わかったわ」

 ジェラールから手渡された槍は、いつも使っているものと、小さめのものの二つだ。小さい方は使っているのを見たことがない。不思議に思いながらも、リリアンは二つの槍を丁寧に砥いだ。砥ぎ終えてリリアンは少し悩んだが、ジェラールの部屋へ渡しに行った。普段使わない槍まで食事の時に渡すのはなんだか気が引けたからである。
 リリアンは扉を叩く。中からどうぞとジェラールの声が聞こえたが、リリアンは動けない。入る訳にはいかないが自分から扉を開けた方がいいだろうかとリリアンが迷った時に、ジェラールが扉を開けた。

「リリアン」
「はい。二つとも砥ぎ上がったわ」

 リリアンが丁寧に二本の槍を手渡すと、ジェラールも丁寧に受け取った。

「ありがとう。別に夕飯の時でよかったんだが」
「大切なものだから少しでも早く渡したかったし、普段使っていない槍もあるから、荷物になるかと思って」
「背嚢に入れるからたいして問題はないが……」

 ジェラールの荷物が軽くなるようにと贈ったのにどうして思いつかないの、とリリアンは内心自嘲する。リリアンのしまったという表情を見て、ジェラールは優しく続けた。

「ありがとう。リリアンはいつも仲間のことを思いやって動いてくれる。師匠が言っていた通りだ。信頼できる仲間は得難いし、大切だ」
「師匠?」
「槍の師匠だ。父の宿命の好敵手ライバルだと言っていたが、実際はどうなのかわからない。父は戦っていた頃の話をあまりしなかった」

 そういえば、ちょっと浮世離れしていて紹介状を書いてくれなかったと言っていた気がする、とリリアンは過去の記憶を手繰る。

「ジェラールにとって大切な方なのね」
「ああ。家族が亡くなって、親戚が俺のことを押し付け合っていた時、師匠がやってきて『行くところがないならばうちに来い』と言ってくれたんだ。自分もそんなに余裕がある訳ではないのに、気前のいい人だった」

 ジェラールは小さい槍を眺めながら訥々と話す。

「俺の父は『一番槍のロジェ』と呼ばれていたそうだ。判断が早く、動作が機敏で、必ず先手を取るから。大槍と投槍用の小さい槍を器用に使い分けていたという話にも憧れた。だが、俺は判断も動きもそう速くないから、どうしても無理で。『大槍と小槍、二種類あるから迷うのだ』と師匠に指摘されて、俺は大槍だけで戦うことに決めたんだ」
「そうだったの」

 リリアンが今回砥いだもう一つの槍は、使わなくなった投槍用のものなのだろう。確かに古いものだったが、大槍ほど使い込まれていなかった。
 ジェラールは頭の回転も動作も決して遅くはない、とリリアンは思う。ただ、数舜の遅れが生死を分ける世界に身を置く彼は、少しでも危険を回避すべきと判断したのだろう。大変正しい。

「ブノワにこの話をしたところ、『じゃあ、「一本槍のジェラール」という名で売り込もう』と言い出した。父の二つ名をもじって考えたらしい。覚えやすいだろうと言っていた」
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