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32. すさんだ町 ①
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数日かけ、四人は魔犬駆除を依頼された町に着いた。以前は魔石の発掘で栄えていたが、現在ではあらかた掘り尽くされ、じわじわと衰退の一途を辿っている。
道が汚いな、とリリアンは思う。無造作に投げ捨てられたごみ。誰も片づけようとしないのだろう、こびりついた汚れにずいぶん年季が入っている。ほとんどの建物は薄汚れていて、行きかう人々の表情もどこか暗い。リリアンの故郷も田舎ではあるが、人々は元気で笑顔だ。全然雰囲気が違う。
カチャンと小さな音がした。リリアンが音の方を見ると、ジェラールが足元の小さな矢を拾っている。
「当たったの?」
「脛当てだから問題ない」
こども用の玩具だが、まともに当たったら怪我をするだろう。危ないなとリリアンが思ったところで、弓を手にした小さな男の子がジェラールに飛び掛かってきた。
「かえせ」
「……これはお前の矢か?」
「そうだ。かえせ。とるな」
「違うでしょう。まずはごめんなさいって謝らなきゃ。怪我をしたら痛いのよ」
リリアンは男の子をじっと見つめる。まだ小さいとはいえ、矢で怪我をする可能性と謝罪は教えるべきだ。
「おとこはつよいからへいきだろ」
「運よく怪我をしなかったとしても、悲しませてしまうから駄目なの!」
男の子は顔を真っ赤にしてしばらく震えていたが、ジェラールにぼそりとつぶやいて手から矢をひったくると、一目散に駆け出した。
ブノワがあきれたような表情で言う。
「治安が悪いねえ」
「……ごめんなさいと言ったから、わかってくれたんだろう」
リリアンは周囲の大人達が何事もなかったかのように通り過ぎていくことの方が気になった。きっとこんなことは日常茶飯事で、大人がこどもを叱らないのだ。
町の中心にある、おそらく一番大きい宿屋に四人は泊まることにした。さびれた雰囲気で、なんだか居心地が悪い。
「これからいつまで泊まることになるかわからないんですけど、大丈夫ですか?」
「構わんよ。宿代をきちんと払ってくれるなら、部屋は空いているし、楽しくていい」
「それはもちろんお支払いします。……楽しい?」
リリアンは主人の言葉が気になり、思わず口に出してしまう。リリアンがしまったと思っていたところに、主人はぼそりと返した。
「この町は、娯楽がないからな」
主人は口の端を少しだけ上げる。笑っているのだろうが、リリアンは彼の表情がなんだか怖い。底の知れない闇を思わせる。
「この町で一番旨い料理を出す店を教えてくれませんか」
ジェラールが宿屋の主人に訊ねる。
「別に旨くはないが、この宿屋の三軒隣にある」
旨くはないとわざわざ言うのもどうなんだろう、とリリアンは思う。表情に出ていたのだろう、主人はリリアンに説明する。
「営業してる食堂はそこだけだ。他は潰れちまったからな」
「酒場は?」
「酒場はごろごろある。さすがに酒場がなくなったら、みんなこの町を出ていく」
「へえ、それは楽しみだ」
ブノワが笑顔で答えると、主人は口の端を少しだけ上げたまま返す。
「お客さんが好きそうな品のいい店は、ないかもな」
道が汚いな、とリリアンは思う。無造作に投げ捨てられたごみ。誰も片づけようとしないのだろう、こびりついた汚れにずいぶん年季が入っている。ほとんどの建物は薄汚れていて、行きかう人々の表情もどこか暗い。リリアンの故郷も田舎ではあるが、人々は元気で笑顔だ。全然雰囲気が違う。
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こども用の玩具だが、まともに当たったら怪我をするだろう。危ないなとリリアンが思ったところで、弓を手にした小さな男の子がジェラールに飛び掛かってきた。
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「……これはお前の矢か?」
「そうだ。かえせ。とるな」
「違うでしょう。まずはごめんなさいって謝らなきゃ。怪我をしたら痛いのよ」
リリアンは男の子をじっと見つめる。まだ小さいとはいえ、矢で怪我をする可能性と謝罪は教えるべきだ。
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「治安が悪いねえ」
「……ごめんなさいと言ったから、わかってくれたんだろう」
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町の中心にある、おそらく一番大きい宿屋に四人は泊まることにした。さびれた雰囲気で、なんだか居心地が悪い。
「これからいつまで泊まることになるかわからないんですけど、大丈夫ですか?」
「構わんよ。宿代をきちんと払ってくれるなら、部屋は空いているし、楽しくていい」
「それはもちろんお支払いします。……楽しい?」
リリアンは主人の言葉が気になり、思わず口に出してしまう。リリアンがしまったと思っていたところに、主人はぼそりと返した。
「この町は、娯楽がないからな」
主人は口の端を少しだけ上げる。笑っているのだろうが、リリアンは彼の表情がなんだか怖い。底の知れない闇を思わせる。
「この町で一番旨い料理を出す店を教えてくれませんか」
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「酒場は?」
「酒場はごろごろある。さすがに酒場がなくなったら、みんなこの町を出ていく」
「へえ、それは楽しみだ」
ブノワが笑顔で答えると、主人は口の端を少しだけ上げたまま返す。
「お客さんが好きそうな品のいい店は、ないかもな」
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