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42. 理由 ③
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アニエスにお茶を淹れ、プロシオンにご褒美の山羊の乳と干し肉を与えると、リリアンは料理本を片手に受け取った籠の中身を検めた。綺麗なものと毒のあるものはエドモンに渡すので、種類ごとに分ける。毒のあるものも調合すれば薬になるそうで、エドモンは買い取ってくれるのだ。分け終えたら保存用の匣に入れる。ブノワが植物研究所に渡したものを改良し、軽量化してくれた。獲物を新鮮に運べるようになり、エドモンからも喜ばれている。
食用で少し萎びているものや欠けが目立つものは、四人のおかずにすべく、下ごしらえに入る。
「茸は塩水に浸さないと……」
大きめの料理鉢に塩を入れ、水を注ぎ、茸を入れる。山菜は深めの平皿に敷いて重曹を振りかける。灰汁抜きに時間がかかるので、明日の食材だ。
野菜の皮を剥き、切り、焼いて食べる分は串に刺し、あとは調理するだけにしたところで、リリアンは覚悟を決める。
「何度見ても慣れないけど……」
おそるおそる茸を浸した料理鉢を見ると、大量の虫が落ちている。リリアンは心の中でぎゃああと叫びながら、茸をもう一度水洗いし、石突きを取り、一口大に切った。
初めての野営の際、ブノワから茸はこう処理するよう指示された。これまで加入した女子の幾人かは、茸の洗礼を受けて辞めたのだろうとリリアンは睨んでいる。
茸の処理を終え、精神的に疲れ果てたリリアンがお茶を飲んで休んでいると、後発のブノワとジェラールが戻ってきた。ブノワからいつもより少ない獲物を受け取りながら、リリアンは目の端でジェラールの様子をうかがう。やはり顔色が冴えない気がする。お茶を淹れ、食事まで休んでいてとリリアンが告げると、二人はそれぞれの天幕へ戻っていった。
リリアンは獲物を淡々と仕分けし、あまりいい値にならなそうなものを食べるために捌く。それしかできないし、二人の労苦に最も誠実に応える行動だと思うから。食事の準備ができたところで、リリアンは三人とプロシオンを呼んだ。
野営の時はみんなで火を囲んで食事をする。スープと串焼き用の取り皿を配り、あとは自分で好きなものを取ってもらう方式だ。リリアンはプロシオンに水と焼けた肉と葉物を与える。葱の類を与えてはならないとプロシオンを飼い始めて知った。プロシオンはおいしそうに食べ終えると、リリアンと火の間で丸くなった。
直火で焼くと全てがおいしいな、とリリアンは思う。エドモンから買った塩は万能で、少し振りかけるだけで格段に味わい深くなる。それまで調味料の類は市場で買っていたのだが、今は全てエドモンの店で買うようになってしまった。おそらく彼は美食家だ。
そっとジェラールを見る。食べてはいるものの、いつもよりも進んでいないし、野菜ばかりのように見受けられた。
「ジェラール、何を気にしてる訳? シリウスの一件からずっと精彩を欠くけど」
ブノワの言葉に誰も答えない。ただ、ぱちぱちと小さく木が爆ぜる焚き火の音だけが響く。ブノワは続けて言う。
「依頼を処理した。それでいいじゃない」
「そんな……」
簡単に割り切れない、とリリアンは続けようとして、やめた。ブノワは割り切るだろうから。
「魔獣を倒すことに罪悪感を覚え始めた、というところかな」
「……そうだな」
「その考え方、きりがないし、何も食べられなくなってしまうよね」
意味がわからず、リリアンはブノワを見た。
「ジェラール。『世界の果ての薬草』に、その罪悪感は持たなかっただろう? 植物の声は聞こえないから」
リリアンは思わずジェラールを見る。ジェラールは下を向いたまま動けない。
「俺は薬草の命を少しでも長く保つために匣を作ったし、似た傾向を持つ植物から移植はできないだろうと判断して生息地にも残した。実際、種からしか栽培はできなかったそうだよ」
「ブノワは植物に詳しいのね……」
「紙も薬も植物が原料であることが多いからね。魔術師は詠唱するだけじゃない。紙に呪文を規則正しく書いて魔法陣を作るし、薬を調合することもある。魔術師がその場にいなくても魔力を発揮するなんて、素晴らしいじゃない」
ブノワはリリアンに答えた後、再びジェラールに言う。
「俺は今ここにあるものを食べずに捨てる方がひどいと思うけど? 命を奪って生きていることは事実として受け止めて、無闇な殺生はしない。それでいいんじゃない?」
好き嫌いが多いブノワが言っても……と思いかけ、リリアンは気づく。ブノワは自分の皿に取ったものは決して残さない。食べない時は必ず最初に言う。
ジェラールは焼いていた魔獣の肉の串を取ると、ゆっくり食べた。プロシオンはジェラールをじっと眺めている。リリアンも串を取り、塩と香草をパラリと振りかけて食べる。アニエスも串を取り、リリアンから塩と香草を受け取った。ブノワはくすりと笑い、手元にある串の肉を食べた。
食用で少し萎びているものや欠けが目立つものは、四人のおかずにすべく、下ごしらえに入る。
「茸は塩水に浸さないと……」
大きめの料理鉢に塩を入れ、水を注ぎ、茸を入れる。山菜は深めの平皿に敷いて重曹を振りかける。灰汁抜きに時間がかかるので、明日の食材だ。
野菜の皮を剥き、切り、焼いて食べる分は串に刺し、あとは調理するだけにしたところで、リリアンは覚悟を決める。
「何度見ても慣れないけど……」
おそるおそる茸を浸した料理鉢を見ると、大量の虫が落ちている。リリアンは心の中でぎゃああと叫びながら、茸をもう一度水洗いし、石突きを取り、一口大に切った。
初めての野営の際、ブノワから茸はこう処理するよう指示された。これまで加入した女子の幾人かは、茸の洗礼を受けて辞めたのだろうとリリアンは睨んでいる。
茸の処理を終え、精神的に疲れ果てたリリアンがお茶を飲んで休んでいると、後発のブノワとジェラールが戻ってきた。ブノワからいつもより少ない獲物を受け取りながら、リリアンは目の端でジェラールの様子をうかがう。やはり顔色が冴えない気がする。お茶を淹れ、食事まで休んでいてとリリアンが告げると、二人はそれぞれの天幕へ戻っていった。
リリアンは獲物を淡々と仕分けし、あまりいい値にならなそうなものを食べるために捌く。それしかできないし、二人の労苦に最も誠実に応える行動だと思うから。食事の準備ができたところで、リリアンは三人とプロシオンを呼んだ。
野営の時はみんなで火を囲んで食事をする。スープと串焼き用の取り皿を配り、あとは自分で好きなものを取ってもらう方式だ。リリアンはプロシオンに水と焼けた肉と葉物を与える。葱の類を与えてはならないとプロシオンを飼い始めて知った。プロシオンはおいしそうに食べ終えると、リリアンと火の間で丸くなった。
直火で焼くと全てがおいしいな、とリリアンは思う。エドモンから買った塩は万能で、少し振りかけるだけで格段に味わい深くなる。それまで調味料の類は市場で買っていたのだが、今は全てエドモンの店で買うようになってしまった。おそらく彼は美食家だ。
そっとジェラールを見る。食べてはいるものの、いつもよりも進んでいないし、野菜ばかりのように見受けられた。
「ジェラール、何を気にしてる訳? シリウスの一件からずっと精彩を欠くけど」
ブノワの言葉に誰も答えない。ただ、ぱちぱちと小さく木が爆ぜる焚き火の音だけが響く。ブノワは続けて言う。
「依頼を処理した。それでいいじゃない」
「そんな……」
簡単に割り切れない、とリリアンは続けようとして、やめた。ブノワは割り切るだろうから。
「魔獣を倒すことに罪悪感を覚え始めた、というところかな」
「……そうだな」
「その考え方、きりがないし、何も食べられなくなってしまうよね」
意味がわからず、リリアンはブノワを見た。
「ジェラール。『世界の果ての薬草』に、その罪悪感は持たなかっただろう? 植物の声は聞こえないから」
リリアンは思わずジェラールを見る。ジェラールは下を向いたまま動けない。
「俺は薬草の命を少しでも長く保つために匣を作ったし、似た傾向を持つ植物から移植はできないだろうと判断して生息地にも残した。実際、種からしか栽培はできなかったそうだよ」
「ブノワは植物に詳しいのね……」
「紙も薬も植物が原料であることが多いからね。魔術師は詠唱するだけじゃない。紙に呪文を規則正しく書いて魔法陣を作るし、薬を調合することもある。魔術師がその場にいなくても魔力を発揮するなんて、素晴らしいじゃない」
ブノワはリリアンに答えた後、再びジェラールに言う。
「俺は今ここにあるものを食べずに捨てる方がひどいと思うけど? 命を奪って生きていることは事実として受け止めて、無闇な殺生はしない。それでいいんじゃない?」
好き嫌いが多いブノワが言っても……と思いかけ、リリアンは気づく。ブノワは自分の皿に取ったものは決して残さない。食べない時は必ず最初に言う。
ジェラールは焼いていた魔獣の肉の串を取ると、ゆっくり食べた。プロシオンはジェラールをじっと眺めている。リリアンも串を取り、塩と香草をパラリと振りかけて食べる。アニエスも串を取り、リリアンから塩と香草を受け取った。ブノワはくすりと笑い、手元にある串の肉を食べた。
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