【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

文字の大きさ
42 / 55

42. 理由 ③

しおりを挟む
 アニエスにお茶を淹れ、プロシオンにご褒美の山羊の乳と干し肉を与えると、リリアンは料理本を片手に受け取った籠の中身を検めた。綺麗なものと毒のあるものはエドモンに渡すので、種類ごとに分ける。毒のあるものも調合すれば薬になるそうで、エドモンは買い取ってくれるのだ。分け終えたら保存用の匣に入れる。ブノワが植物研究所に渡したものを改良し、軽量化してくれた。獲物を新鮮に運べるようになり、エドモンからも喜ばれている。

 食用で少し萎びているものや欠けが目立つものは、四人のおかずにすべく、下ごしらえに入る。

「茸は塩水に浸さないと……」

 大きめの料理鉢ボウルに塩を入れ、水を注ぎ、茸を入れる。山菜は深めの平皿に敷いて重曹を振りかける。灰汁抜きに時間がかかるので、明日の食材だ。
 野菜の皮を剥き、切り、焼いて食べる分は串に刺し、あとは調理するだけにしたところで、リリアンは覚悟を決める。

「何度見ても慣れないけど……」

 おそるおそる茸を浸した料理鉢を見ると、大量の虫が落ちている。リリアンは心の中でぎゃああと叫びながら、茸をもう一度水洗いし、石突きを取り、一口大に切った。
 初めての野営の際、ブノワから茸はこう処理するよう指示された。これまで加入した女子の幾人かは、茸の洗礼を受けて辞めたのだろうとリリアンは睨んでいる。

 茸の処理を終え、精神的に疲れ果てたリリアンがお茶を飲んで休んでいると、後発のブノワとジェラールが戻ってきた。ブノワからいつもより少ない獲物を受け取りながら、リリアンは目の端でジェラールの様子をうかがう。やはり顔色が冴えない気がする。お茶を淹れ、食事まで休んでいてとリリアンが告げると、二人はそれぞれの天幕へ戻っていった。

 リリアンは獲物を淡々と仕分けし、あまりいい値にならなそうなものを食べるために捌く。それしかできないし、二人の労苦に最も誠実に応える行動だと思うから。食事の準備ができたところで、リリアンは三人とプロシオンを呼んだ。

 野営の時はみんなで火を囲んで食事をする。スープと串焼き用の取り皿を配り、あとは自分で好きなものを取ってもらう方式だ。リリアンはプロシオンに水と焼けた肉と葉物を与える。葱の類を与えてはならないとプロシオンを飼い始めて知った。プロシオンはおいしそうに食べ終えると、リリアンと火の間で丸くなった。

 直火で焼くと全てがおいしいな、とリリアンは思う。エドモンから買った塩は万能で、少し振りかけるだけで格段に味わい深くなる。それまで調味料の類は市場で買っていたのだが、今は全てエドモンの店で買うようになってしまった。おそらく彼は美食家だ。
 そっとジェラールを見る。食べてはいるものの、いつもよりも進んでいないし、野菜ばかりのように見受けられた。

「ジェラール、何を気にしてる訳? シリウスの一件からずっと精彩を欠くけど」

 ブノワの言葉に誰も答えない。ただ、ぱちぱちと小さく木が爆ぜる焚き火の音だけが響く。ブノワは続けて言う。

「依頼を処理した。それでいいじゃない」
「そんな……」

 簡単に割り切れない、とリリアンは続けようとして、やめた。ブノワは割り切るだろうから。

「魔獣を倒すことに罪悪感を覚え始めた、というところかな」
「……そうだな」
「その考え方、きりがないし、何も食べられなくなってしまうよね」

 意味がわからず、リリアンはブノワを見た。

「ジェラール。『世界の果ての薬草』に、その罪悪感は持たなかっただろう? 植物の声は聞こえないから」

 リリアンは思わずジェラールを見る。ジェラールは下を向いたまま動けない。

「俺は薬草の命を少しでも長く保つために匣を作ったし、似た傾向を持つ植物から移植はできないだろうと判断して生息地にも残した。実際、種からしか栽培はできなかったそうだよ」
「ブノワは植物に詳しいのね……」
「紙も薬も植物が原料であることが多いからね。魔術師は詠唱するだけじゃない。紙に呪文コードを規則正しく書いて魔法陣を作るし、薬を調合することもある。魔術師がその場にいなくても魔力を発揮するなんて、素晴らしいじゃない」

 ブノワはリリアンに答えた後、再びジェラールに言う。

「俺は今ここにあるものを食べずに捨てる方がひどいと思うけど? 命を奪って生きていることは事実として受け止めて、無闇な殺生はしない。それでいいんじゃない?」

 好き嫌いが多いブノワが言っても……と思いかけ、リリアンは気づく。ブノワは自分の皿に取ったものは決して残さない。食べない時は必ず最初に言う。
 ジェラールは焼いていた魔獣の肉の串を取ると、ゆっくり食べた。プロシオンはジェラールをじっと眺めている。リリアンも串を取り、塩と香草をパラリと振りかけて食べる。アニエスも串を取り、リリアンから塩と香草を受け取った。ブノワはくすりと笑い、手元にある串の肉を食べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...