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44. 押し付けられた魔獣討伐 ①
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リリアンはひさしぶりに冒険者ギルド「白い死神」の扉を開く。いらっしゃいませと受付嬢の棒読みの声が聞こえたので、リリアンはゆっくり扉を閉じ、会釈をした。
リリアンはギルドに案件を紹介してもらうことにした。報酬が多いから、というのはもちろんある。だが、野山で罪のない獣を狩るよりも、害をなす魔獣の駆除や討伐の方が、ジェラールの気持ちも楽なのではないかと思ったことの方が大きかった。冒険者は戦わないと食べていけない。気休めに過ぎないとわかっているが、大義名分があれば、少しは罪悪感も軽減されるかもしれない。
「おすすめできるような案件は、今のところないですね」
「そこをなんとか!」
塩対応の受付嬢にリリアンは必死に頼み込む。
「……そんなにおっしゃるなら、とびきりの案件をご紹介しますね。国王直々の討伐依頼なので、報酬も破格です」
美しい受付嬢は艶やかに微笑んだ。
「ギルドからようやく大きい案件を回してもらえました! 竜を倒して緑柱石の鉱脈を取り返してほしいそうです!」
夕飯時、リリアンが満面の笑みで報告すると、残りの三人は一様に「あー……」と下を向いた。
「え、え、な、何か問題でも……」
「ああ、そうか。リリアンは王都に来てまだ三か月だから、知らないんだね」
「むしろ『白い死神』は、リリアンが何も知らないからこそ、無理矢理押し付けたんでしょ」
「すまん。俺がきちんと引き継ぎをしておけばよかった」
三人の反応に、リリアンは自分が愚かな判断をしたのだと悟り、青ざめた顔で謝る。
「ごめんなさい……。よくない案件なのね……」
「この討伐、これまでいくつかのパーティーが挑戦したけど、命からがら逃げだしてきたか、戻ってこなかったかのどちらかなんだよねえ」
「最後にこの話を請けたパーティーは、半年前に出発して、帰ってきたという話を聞かないわ」
リリアンの血の気が失せる。いくら報酬が高いといっても、命あっての物種だ。
視線を感じて下を見ると、プロシオンがリリアンを心配そうに眺めている。いつもは食事を終えると、のんびり丸まっているだけなのに。リリアンがそっと頭を撫でると、プロシオンはしっぽをぱたりと振り、また丸まった。プロシオンのおかげで、リリアンの気持ちは少し落ち着いたかもしれない。
「ああ、でも、さすがに報酬は上がっているんだな」
「そこまでなんとかしたいなら、国軍を出動させればいいのにね!」
「新興国との小競り合いが続いていて、余力がないから、致し方ないという判断なのだろう」
「国軍と違って、冒険者なら使い捨てできるから、の間違いだろう? 成功しても、数名の報酬なんて、たかが知れてる」
ジェラールの言葉に対して、ブノワはシビアに返す。一国民にとっては途方もない報酬でも、軍事費と比較すればたいした額ではないのだろう。冒険者の命は軽いのだ。
「そもそも情報が少なすぎる。海洋研究所の建物の地下に緑柱石の鉱脈があることが判明し、研究員が立ち退いたところで竜が占拠した、という話しか流布されていない」
「討伐から戻ってきた人に、状況を聞き取ったらどうかしら」
「……こちらはいいが、過去を聞き出すことで、先方がつらい思いをするのではないか?」
シリウスの件が少し上手くいったから、調子に乗っていた、とリリアンは思う。ジェラールの指摘は説得力がある。逃げ帰るというのは一般的には不名誉なことだ。誇りを傷つけかねない。
「悪くないんじゃない? 情報はあるに越したことはないし。その人の気持ちを軽くする手は、俺が考えるよ」
ブノワが飄々と言うので、ジェラールは訊ねる。
「どうするんだ?」
「正解は、相手次第だよ。アニエスに協力してもらうけど、いい?」
「それは構わないけど」
人によって感じ方は違うので、確かに相手次第としか言いようがないかも、とリリアンも思う。そして、ブノワはそういう咄嗟の判断が上手い。
「それよりも。命を懸けさせようというにはちょっと舐めた金額だし、請けるならもっと条件を付けた方がいい。俺が交渉するよ」
「ブノワが?」
リリアンはびっくりして彼を見た。あの面倒くさがりなブノワが、みんなのために動こうとしている。ブノワは微笑んで続けた。
「そう、俺が。提示された金額以外に、成功報酬をもらうことにして、他にも条件を付ける。王は困っているから、たぶん乗ってくるよ」
最後に帰ってきた冒険者と所属ギルドはわかっているので、まず当人に話を訊く。その後、ブノワが交渉に行き、残り三人とプロシオンがエドモンの店で装備を揃える、ということで話がまとまった。
リリアンはギルドに案件を紹介してもらうことにした。報酬が多いから、というのはもちろんある。だが、野山で罪のない獣を狩るよりも、害をなす魔獣の駆除や討伐の方が、ジェラールの気持ちも楽なのではないかと思ったことの方が大きかった。冒険者は戦わないと食べていけない。気休めに過ぎないとわかっているが、大義名分があれば、少しは罪悪感も軽減されるかもしれない。
「おすすめできるような案件は、今のところないですね」
「そこをなんとか!」
塩対応の受付嬢にリリアンは必死に頼み込む。
「……そんなにおっしゃるなら、とびきりの案件をご紹介しますね。国王直々の討伐依頼なので、報酬も破格です」
美しい受付嬢は艶やかに微笑んだ。
「ギルドからようやく大きい案件を回してもらえました! 竜を倒して緑柱石の鉱脈を取り返してほしいそうです!」
夕飯時、リリアンが満面の笑みで報告すると、残りの三人は一様に「あー……」と下を向いた。
「え、え、な、何か問題でも……」
「ああ、そうか。リリアンは王都に来てまだ三か月だから、知らないんだね」
「むしろ『白い死神』は、リリアンが何も知らないからこそ、無理矢理押し付けたんでしょ」
「すまん。俺がきちんと引き継ぎをしておけばよかった」
三人の反応に、リリアンは自分が愚かな判断をしたのだと悟り、青ざめた顔で謝る。
「ごめんなさい……。よくない案件なのね……」
「この討伐、これまでいくつかのパーティーが挑戦したけど、命からがら逃げだしてきたか、戻ってこなかったかのどちらかなんだよねえ」
「最後にこの話を請けたパーティーは、半年前に出発して、帰ってきたという話を聞かないわ」
リリアンの血の気が失せる。いくら報酬が高いといっても、命あっての物種だ。
視線を感じて下を見ると、プロシオンがリリアンを心配そうに眺めている。いつもは食事を終えると、のんびり丸まっているだけなのに。リリアンがそっと頭を撫でると、プロシオンはしっぽをぱたりと振り、また丸まった。プロシオンのおかげで、リリアンの気持ちは少し落ち着いたかもしれない。
「ああ、でも、さすがに報酬は上がっているんだな」
「そこまでなんとかしたいなら、国軍を出動させればいいのにね!」
「新興国との小競り合いが続いていて、余力がないから、致し方ないという判断なのだろう」
「国軍と違って、冒険者なら使い捨てできるから、の間違いだろう? 成功しても、数名の報酬なんて、たかが知れてる」
ジェラールの言葉に対して、ブノワはシビアに返す。一国民にとっては途方もない報酬でも、軍事費と比較すればたいした額ではないのだろう。冒険者の命は軽いのだ。
「そもそも情報が少なすぎる。海洋研究所の建物の地下に緑柱石の鉱脈があることが判明し、研究員が立ち退いたところで竜が占拠した、という話しか流布されていない」
「討伐から戻ってきた人に、状況を聞き取ったらどうかしら」
「……こちらはいいが、過去を聞き出すことで、先方がつらい思いをするのではないか?」
シリウスの件が少し上手くいったから、調子に乗っていた、とリリアンは思う。ジェラールの指摘は説得力がある。逃げ帰るというのは一般的には不名誉なことだ。誇りを傷つけかねない。
「悪くないんじゃない? 情報はあるに越したことはないし。その人の気持ちを軽くする手は、俺が考えるよ」
ブノワが飄々と言うので、ジェラールは訊ねる。
「どうするんだ?」
「正解は、相手次第だよ。アニエスに協力してもらうけど、いい?」
「それは構わないけど」
人によって感じ方は違うので、確かに相手次第としか言いようがないかも、とリリアンも思う。そして、ブノワはそういう咄嗟の判断が上手い。
「それよりも。命を懸けさせようというにはちょっと舐めた金額だし、請けるならもっと条件を付けた方がいい。俺が交渉するよ」
「ブノワが?」
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「そう、俺が。提示された金額以外に、成功報酬をもらうことにして、他にも条件を付ける。王は困っているから、たぶん乗ってくるよ」
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