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47. 終わりの始まり ①
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生き残りの冒険者に聞き取りをして、十日ほど経った夕食時、ブノワが唐突に切り出してきた。
「なんとかなったから」
「何がだ?」
「交渉」
そういえば、そんなこともあったなと、リリアンは思い出す。当日ブノワは何も言わなかったし、誰も訊ねなかったので、そのまま忘れていたのだ。
「パレードや祝賀会なんかの行事を全部なしにして経費節減するという条件で、成功報酬は認められた。みんなの希望は聞かなかったけど、それでよかったよね?」
「構わないけど、もう決まったんでしょう?」
「まあ、事後でも合意を得た方がいいかなと思って」
「私はそういうの、きっと緊張しちゃうから、却ってよかったわ」
「俺もむしろその方がいい」
ブノワは笑顔で続ける。
「一応は通ったんだけど、『何か望むものを一つ与える』という形になった。王室の格式がどうとか言ってたけど、要はなるべく現金はやめてほしいらしい」
どこまでも世知辛い話である。
「ずっと考えていたことがある」
ジェラールがぼそりとつぶやくように言う。
「今回の討伐で、平民なら一生暮らせるほどの報酬が手に入るはずだ」
「慎ましく暮らせば、だろうけどね」
「今のところ、俺は戦うしかない。でも、今回の討伐を最後に、冒険者を辞めたいんだ」
ブノワが微笑んで問いかける。
「潮時かと思うから俺は賛成するけど、みんなもそれでいい?」
アニエスが頷いたので、リリアンもあわてて賛成した。
討伐へ行く前に、ジェラールの希望でしばらく野営をすることになった。
「竜は俺達よりもはるかに大きい。ブノワとアニエスは術で攻撃できるが、俺は槍を使うことしかできない。俺は自分にできることをもう少し模索してから、戦いに臨みたいんだ」
ブノワとアニエスの二人だけで戦うのは確かに不利なので、ジェラールの言うことは一理ある。リリアンは自分が戦力外であることが本当に申し訳なかったが、せめて雑用は一手に引き受けようと思った。
ジェラールは毎朝みんなが起きる前に、走り込み等の体力作りと槍の練習をしているようだ。リリアンが朝食の支度をしている途中で帰ってくることが多く、配膳を手伝ってくれる。
「ジェラール。疲れているでしょう? 休んでいて」
「いや、俺のわがままで野営をしているのだから、これくらいさせてくれ。むしろリリアンの仕事を増やして申し訳ないと思っている」
「そんなのは全然構わないけれど……」
「試していることがあるんだが、街中ではちょっと無理なんだ。野営ができてとても助かっている」
足元のプロシオンがワン! と元気よく吠える。ジェラールと一緒に走り回るのが楽しいようで、毎日ご機嫌だ。今回の野営を一番喜んでいるのは、もしかするとプロシオンかもしれない。
食事以外は各々自由に過ごしている。
アニエスは天幕の中で魔石を磨いていることが多い。リリアンは食事の下ごしらえをしたり、洗濯をしたり、衣類のほつれを繕ったり、そういうこまごまとした作業をして、なるべくみんなが過ごしやすいように心掛けていた。
リリアンが繕いものを終えて天幕から出ると、ブノワとジェラールの話している姿が見えた。ブノワが紙に書いた数字や図表を見せ、ジェラールは頷きながら書き留めている。おそらくブノワがジェラールに算術を教えているのだろう。そっと覗いていると、ブノワが視線に気づき、リリアンに声を掛けた。
「リリアン、何か用?」
「あ……別に用じゃないんだけど、何か難しいことをしているんだなって、気になって。ごめんなさい! 勝手に見て」
「いや。別に見られても構わない。俺は学がないから、以前からブノワの時間がある時に、いろいろ教わっているんだ」
ブノワはあわてるリリアンを見て、ふっと笑みを浮かべる。
「今回は、物を投げた時の軌道と、落下の時間を割り出す方法を教えていたんだよ。条件を教えてくれれば、俺が計算するのに」
「毎回ブノワに頼む訳にもいくまい。それに、俺は自分で計算できるようになりたいんだ」
「ジェラールは飲み込みが早いよ。これまで全く学んでこなかった訳じゃないだろう」
「師匠から少しだけ習った」
邪魔をしてはいけないと思い、リリアンが立ち去る間合いをうかがっていると、ブノワが先手を打った。
「やり方はきっちり教えたから、後は自分でやってみて。合っているかどうかは、見せてくれたら確認するから」
「ああ。ありがとう」
ブノワにすばやく立ち去られてしまい、リリアンは動きそびれてしまう。邪魔をして悪いと思うのに、残された時間は限られているから、ジェラールと話したい気持ちもやはりある。せっかくの機会だから少しだけ雑談をしよう、とリリアンはジェラールに訊ねてみることにした。
「なんとかなったから」
「何がだ?」
「交渉」
そういえば、そんなこともあったなと、リリアンは思い出す。当日ブノワは何も言わなかったし、誰も訊ねなかったので、そのまま忘れていたのだ。
「パレードや祝賀会なんかの行事を全部なしにして経費節減するという条件で、成功報酬は認められた。みんなの希望は聞かなかったけど、それでよかったよね?」
「構わないけど、もう決まったんでしょう?」
「まあ、事後でも合意を得た方がいいかなと思って」
「私はそういうの、きっと緊張しちゃうから、却ってよかったわ」
「俺もむしろその方がいい」
ブノワは笑顔で続ける。
「一応は通ったんだけど、『何か望むものを一つ与える』という形になった。王室の格式がどうとか言ってたけど、要はなるべく現金はやめてほしいらしい」
どこまでも世知辛い話である。
「ずっと考えていたことがある」
ジェラールがぼそりとつぶやくように言う。
「今回の討伐で、平民なら一生暮らせるほどの報酬が手に入るはずだ」
「慎ましく暮らせば、だろうけどね」
「今のところ、俺は戦うしかない。でも、今回の討伐を最後に、冒険者を辞めたいんだ」
ブノワが微笑んで問いかける。
「潮時かと思うから俺は賛成するけど、みんなもそれでいい?」
アニエスが頷いたので、リリアンもあわてて賛成した。
討伐へ行く前に、ジェラールの希望でしばらく野営をすることになった。
「竜は俺達よりもはるかに大きい。ブノワとアニエスは術で攻撃できるが、俺は槍を使うことしかできない。俺は自分にできることをもう少し模索してから、戦いに臨みたいんだ」
ブノワとアニエスの二人だけで戦うのは確かに不利なので、ジェラールの言うことは一理ある。リリアンは自分が戦力外であることが本当に申し訳なかったが、せめて雑用は一手に引き受けようと思った。
ジェラールは毎朝みんなが起きる前に、走り込み等の体力作りと槍の練習をしているようだ。リリアンが朝食の支度をしている途中で帰ってくることが多く、配膳を手伝ってくれる。
「ジェラール。疲れているでしょう? 休んでいて」
「いや、俺のわがままで野営をしているのだから、これくらいさせてくれ。むしろリリアンの仕事を増やして申し訳ないと思っている」
「そんなのは全然構わないけれど……」
「試していることがあるんだが、街中ではちょっと無理なんだ。野営ができてとても助かっている」
足元のプロシオンがワン! と元気よく吠える。ジェラールと一緒に走り回るのが楽しいようで、毎日ご機嫌だ。今回の野営を一番喜んでいるのは、もしかするとプロシオンかもしれない。
食事以外は各々自由に過ごしている。
アニエスは天幕の中で魔石を磨いていることが多い。リリアンは食事の下ごしらえをしたり、洗濯をしたり、衣類のほつれを繕ったり、そういうこまごまとした作業をして、なるべくみんなが過ごしやすいように心掛けていた。
リリアンが繕いものを終えて天幕から出ると、ブノワとジェラールの話している姿が見えた。ブノワが紙に書いた数字や図表を見せ、ジェラールは頷きながら書き留めている。おそらくブノワがジェラールに算術を教えているのだろう。そっと覗いていると、ブノワが視線に気づき、リリアンに声を掛けた。
「リリアン、何か用?」
「あ……別に用じゃないんだけど、何か難しいことをしているんだなって、気になって。ごめんなさい! 勝手に見て」
「いや。別に見られても構わない。俺は学がないから、以前からブノワの時間がある時に、いろいろ教わっているんだ」
ブノワはあわてるリリアンを見て、ふっと笑みを浮かべる。
「今回は、物を投げた時の軌道と、落下の時間を割り出す方法を教えていたんだよ。条件を教えてくれれば、俺が計算するのに」
「毎回ブノワに頼む訳にもいくまい。それに、俺は自分で計算できるようになりたいんだ」
「ジェラールは飲み込みが早いよ。これまで全く学んでこなかった訳じゃないだろう」
「師匠から少しだけ習った」
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「やり方はきっちり教えたから、後は自分でやってみて。合っているかどうかは、見せてくれたら確認するから」
「ああ。ありがとう」
ブノワにすばやく立ち去られてしまい、リリアンは動きそびれてしまう。邪魔をして悪いと思うのに、残された時間は限られているから、ジェラールと話したい気持ちもやはりある。せっかくの機会だから少しだけ雑談をしよう、とリリアンはジェラールに訊ねてみることにした。
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