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48. 終わりの始まり ②
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「算術を習っていたの?」
「ああ。ちょっと試してみたい攻撃があるんだ。上手くできるかどうかは、わからないが」
「自分で計算できるようになりたいって、偉いわね」
「そうか? 自分のことだし、あたりまえだろう」
そんな風に考えるジェラールのことを、少しでも手助けできたらいいな、とリリアンは思う。
不意にスカートを引っ張られたので、リリアンは思わず下を見た。
「プロシオン?」
リリアンの声を聞き、プロシオンは前へ進みだす。リリアンは「プロシオンが呼んでいるから」と言って、ジェラールから離れた。好きな人と話せるのは嬉しいけれど、邪魔をしたくない気持ちも本当だったから。
しばらく進んでプロシオンが立ち止まった場所を見ると、金の簪が落ちていた。蒼い石に見覚えがある。ブノワのものだ。ワン! と誇らしげに鳴いたプロシオンをリリアンは撫でてやる。プロシオンは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「ブノワ! 落とし物!」
「何?」
リリアンが簪を渡すと、ブノワは苦笑する。
「ありがとう。最近、差し込みが緩くなっているんだよな。修理しないと」
ブノワが簪を見つめる視線のやわらかさに気づき、リリアンは思わず腰巻の煙水晶に手を当てる。無意識に選んでいた、好きな人の色。以前見た時は綺麗な差し色だなとしか思わなかったブノワの簪に、別の意味を感じてしまうのは、考え過ぎだろうか。
少し気になっていたことをリリアンは訊ねる。
「生き延びた冒険者の気持ちを楽にするために、アニエスに『忘却』の神術を掛けてもらったでしょう。ブノワの魔術では駄目だったの?」
「俺とアニエスが学院の同級生だったって話、聞いてる?」
「少しだけ」
「当時から、アニエスは浄化と治癒の術が抜群に上手かったんだ。俺よりもずっと」
「アニエスは、ずっとブノワに勝てなかったって、悔しがっていたわ」
「魔術科は見る目がないなって、俺は思っていたけど。学院では、派手な攻撃系の魔術が評価されやすかっただけだよ。破壊より再生の方が、ずっとずっと大切だと思わない?」
リリアンは驚いていた。アニエスの話からは全く想像できなかった、ブノワの視点。
「それ、アニエスに言ってあげたら、絶対に喜ぶと思うわ」
「そうかな? そんなに意外性のある見方じゃないと思うけど」
「言葉にしないと、伝わらないことはあるのよ!」
リリアンの勢いにブノワは少し面食らった様子だったが、苦笑しながらわかったと答えた。
「ブノワ。計算ができた。見てもらえるか?」
ジェラールの声だ。リリアンが振り向くと、紙を持ったジェラールとアニエスが立っている。
「どうしてもわからないところがあって困っていたら、アニエスが新しい式を考えてくれた。これでいいか?」
ブノワは紙をざっと見ると、にやりと笑う。
「アニエス、相変わらず、最初の条件しか考えてないね」
「ええっ?」
アニエスはむっとしたように眉をひそめる。言い方……と、リリアンははらはらしながら、二人を見守る。
「学院時代からそうだろ? 最速で正解を出そうとして、全てを見ずに推測で済ます。だから抜けが出るんだ。これは、ジェラールがもともと立てていた式の方が、俄然、正解に近いよ」
ブノワが正しい式を伝えると、ジェラールはなるほどと納得した様子で礼を言った。アニエスもブノワの説明には納得したようだったが、かなり悔しそうな表情だ。
ずっと横で聞いていたリリアンは、余計なお世話だと思いつつも、今後二人がどうなるのかが気になって仕方なくなった。
それから数日、リリアンはジェラールから毎日槍を砥ぐように頼まれた。明らかに頻度が高いが、穂先が摩耗していて、確かに砥ぐ必要があると感じる。
「ジェラール。一体何をしているの?」
「この間、ブノワに教えてもらった式を利用して、効率的な槍の使い方を模索しているんだ。ずいぶん予想が当たるようになってきて、手応えを感じている」
「上手くいっているの?」
「ああ。リリアンに槍を砥いでもらっているおかげで、とても助かっている。ありがとう」
「役に立っているのなら、嬉しいけれど」
次の夕飯の時、ジェラールはやりたかったことがようやく成功したと告げた。
リリアンは思う。終わりの始まりだ、と。
「ああ。ちょっと試してみたい攻撃があるんだ。上手くできるかどうかは、わからないが」
「自分で計算できるようになりたいって、偉いわね」
「そうか? 自分のことだし、あたりまえだろう」
そんな風に考えるジェラールのことを、少しでも手助けできたらいいな、とリリアンは思う。
不意にスカートを引っ張られたので、リリアンは思わず下を見た。
「プロシオン?」
リリアンの声を聞き、プロシオンは前へ進みだす。リリアンは「プロシオンが呼んでいるから」と言って、ジェラールから離れた。好きな人と話せるのは嬉しいけれど、邪魔をしたくない気持ちも本当だったから。
しばらく進んでプロシオンが立ち止まった場所を見ると、金の簪が落ちていた。蒼い石に見覚えがある。ブノワのものだ。ワン! と誇らしげに鳴いたプロシオンをリリアンは撫でてやる。プロシオンは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「ブノワ! 落とし物!」
「何?」
リリアンが簪を渡すと、ブノワは苦笑する。
「ありがとう。最近、差し込みが緩くなっているんだよな。修理しないと」
ブノワが簪を見つめる視線のやわらかさに気づき、リリアンは思わず腰巻の煙水晶に手を当てる。無意識に選んでいた、好きな人の色。以前見た時は綺麗な差し色だなとしか思わなかったブノワの簪に、別の意味を感じてしまうのは、考え過ぎだろうか。
少し気になっていたことをリリアンは訊ねる。
「生き延びた冒険者の気持ちを楽にするために、アニエスに『忘却』の神術を掛けてもらったでしょう。ブノワの魔術では駄目だったの?」
「俺とアニエスが学院の同級生だったって話、聞いてる?」
「少しだけ」
「当時から、アニエスは浄化と治癒の術が抜群に上手かったんだ。俺よりもずっと」
「アニエスは、ずっとブノワに勝てなかったって、悔しがっていたわ」
「魔術科は見る目がないなって、俺は思っていたけど。学院では、派手な攻撃系の魔術が評価されやすかっただけだよ。破壊より再生の方が、ずっとずっと大切だと思わない?」
リリアンは驚いていた。アニエスの話からは全く想像できなかった、ブノワの視点。
「それ、アニエスに言ってあげたら、絶対に喜ぶと思うわ」
「そうかな? そんなに意外性のある見方じゃないと思うけど」
「言葉にしないと、伝わらないことはあるのよ!」
リリアンの勢いにブノワは少し面食らった様子だったが、苦笑しながらわかったと答えた。
「ブノワ。計算ができた。見てもらえるか?」
ジェラールの声だ。リリアンが振り向くと、紙を持ったジェラールとアニエスが立っている。
「どうしてもわからないところがあって困っていたら、アニエスが新しい式を考えてくれた。これでいいか?」
ブノワは紙をざっと見ると、にやりと笑う。
「アニエス、相変わらず、最初の条件しか考えてないね」
「ええっ?」
アニエスはむっとしたように眉をひそめる。言い方……と、リリアンははらはらしながら、二人を見守る。
「学院時代からそうだろ? 最速で正解を出そうとして、全てを見ずに推測で済ます。だから抜けが出るんだ。これは、ジェラールがもともと立てていた式の方が、俄然、正解に近いよ」
ブノワが正しい式を伝えると、ジェラールはなるほどと納得した様子で礼を言った。アニエスもブノワの説明には納得したようだったが、かなり悔しそうな表情だ。
ずっと横で聞いていたリリアンは、余計なお世話だと思いつつも、今後二人がどうなるのかが気になって仕方なくなった。
それから数日、リリアンはジェラールから毎日槍を砥ぐように頼まれた。明らかに頻度が高いが、穂先が摩耗していて、確かに砥ぐ必要があると感じる。
「ジェラール。一体何をしているの?」
「この間、ブノワに教えてもらった式を利用して、効率的な槍の使い方を模索しているんだ。ずいぶん予想が当たるようになってきて、手応えを感じている」
「上手くいっているの?」
「ああ。リリアンに槍を砥いでもらっているおかげで、とても助かっている。ありがとう」
「役に立っているのなら、嬉しいけれど」
次の夕飯の時、ジェラールはやりたかったことがようやく成功したと告げた。
リリアンは思う。終わりの始まりだ、と。
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