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49. 一本槍のジェラール ①
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海洋研究所の跡地へ出発する前、ブノワは三人に見取り図を配った。プロシオンは、人間達の様子を心配そうに見上げ、うろうろしている。リリアンは見取り図を見て、思わずブノワに言った。
「ずいぶん細長い建物なのね」
「建て増し申請をするたびに、最安値を提示した業者が請け負っていたらしい。設計思想なんか皆無だし、土地が足りなくなってからは地階を増設しまくったから、所員達は研究所のことを『ダンジョン』と呼んでたんだってさ」
アニエスがあきれた表情を浮かべて言う。
「それにしても、構造が複雑すぎるわ。これでは研究の効率も悪いでしょう」
「実際、管理しきれなくて、逃げた生物もいくらかいたらしい。地階増設中に緑柱石があるとわかって、『ダンジョンからお宝発掘!』と盛り上がったのに、実際には研究所の移転でやり繰りが苦しくなっただけだなんて、気の毒な話だよ」
アニエスとブノワの会話に、リリアンは微妙な気分になる。植物研究所の依頼の時も感じたが、この国の研究機関には世知辛さしかない。
「こんなものどうやって手に入れたんだ? 跡地とはいえ、王立の研究所なんだから、そう簡単には入手できないだろう?」
「ちょっと伝手があってね」
ブノワの回答にジェラールは少し思案している様子だったが、それ以上何も言わなかった。
四人と一匹は海洋研究所の跡地に着くと、そっと扉を開けて中へ入った。
外が快晴だったのもあり、リリアンは建物の暗さが気になる。湿気が多く、ところどころ床が濡れている。取り壊すはずだったというのもあろうが、建て増した箇所は研究所が稼働していた頃からあまり状態がよくなかったのだろうとうかがい知れた。造りがちゃちで、生物が逃げきれてしまうのもわかる。
生き残った冒険者が言っていた通り、人間の死体と思しき白骨がところどころにある。骨なので生々しさはないが、リリアンはなるべくまっすぐ前を見て歩いた。視界に入るとやはりつらい。
地階に入る。地上階ではところどころだった床の水が、少しではあるが一面になっていた。床を見てジェラールは眉をひそめ、プロシオンを抱える。
地階の一番端と思しき部屋の扉を開けると、水浸しの床の左方に、件の竜がいた。竜が大きいためか、それとも安普請だからか、地上階の床が全て抜け、二階分の高さになっている。右方は地上階の天井まで突き破られ、かすかだが陽光が差し込んでいた。
「うわー、噂通りすごい大きさだねー」
「ブノワ、棒読みだな……」
「ほら、人は許容範囲を超えたら、淡々と喋るものだし」
竜が動かないので、ブノワは落ち着いて部屋全体を見渡し、ぼそりと言う。
「湿っている環境を利用しようかな」
何をするのか読めず、リリアンはブノワの動きを注視する。ブノワは魔物の足元を見据えて呪文を詠唱する。底冷えのする風が吹き渡り、魔物は足元から凍りついた。
「全身をがっちり凍らせたから動けないんじゃないかな」
「いや……」
「ブノワ、竜の口元が動いているわ」
アニエスの言葉にリリアンも竜の顔を見た。涎のような粘液を垂れ流し、氷を溶かしていく。
竜はブノワの目を見て何か詠唱した。珍しくブノワの顔色が変わる。
「どうしたの?」
「まずい。魔術を封じられた。あいつ、無効化の詠唱ができるんだ」
「無効化? じゃあ『解除』の神術を……」
「待て、もったいな……」
ブノワが止めようとした瞬間、アニエスは詠唱した。ブノワはほんの一瞬魔力を取り戻しかけたが、再度無効化を詠唱される。竜はアニエスの目も見つめ、詠唱し、術を封じた。
「ずいぶん細長い建物なのね」
「建て増し申請をするたびに、最安値を提示した業者が請け負っていたらしい。設計思想なんか皆無だし、土地が足りなくなってからは地階を増設しまくったから、所員達は研究所のことを『ダンジョン』と呼んでたんだってさ」
アニエスがあきれた表情を浮かべて言う。
「それにしても、構造が複雑すぎるわ。これでは研究の効率も悪いでしょう」
「実際、管理しきれなくて、逃げた生物もいくらかいたらしい。地階増設中に緑柱石があるとわかって、『ダンジョンからお宝発掘!』と盛り上がったのに、実際には研究所の移転でやり繰りが苦しくなっただけだなんて、気の毒な話だよ」
アニエスとブノワの会話に、リリアンは微妙な気分になる。植物研究所の依頼の時も感じたが、この国の研究機関には世知辛さしかない。
「こんなものどうやって手に入れたんだ? 跡地とはいえ、王立の研究所なんだから、そう簡単には入手できないだろう?」
「ちょっと伝手があってね」
ブノワの回答にジェラールは少し思案している様子だったが、それ以上何も言わなかった。
四人と一匹は海洋研究所の跡地に着くと、そっと扉を開けて中へ入った。
外が快晴だったのもあり、リリアンは建物の暗さが気になる。湿気が多く、ところどころ床が濡れている。取り壊すはずだったというのもあろうが、建て増した箇所は研究所が稼働していた頃からあまり状態がよくなかったのだろうとうかがい知れた。造りがちゃちで、生物が逃げきれてしまうのもわかる。
生き残った冒険者が言っていた通り、人間の死体と思しき白骨がところどころにある。骨なので生々しさはないが、リリアンはなるべくまっすぐ前を見て歩いた。視界に入るとやはりつらい。
地階に入る。地上階ではところどころだった床の水が、少しではあるが一面になっていた。床を見てジェラールは眉をひそめ、プロシオンを抱える。
地階の一番端と思しき部屋の扉を開けると、水浸しの床の左方に、件の竜がいた。竜が大きいためか、それとも安普請だからか、地上階の床が全て抜け、二階分の高さになっている。右方は地上階の天井まで突き破られ、かすかだが陽光が差し込んでいた。
「うわー、噂通りすごい大きさだねー」
「ブノワ、棒読みだな……」
「ほら、人は許容範囲を超えたら、淡々と喋るものだし」
竜が動かないので、ブノワは落ち着いて部屋全体を見渡し、ぼそりと言う。
「湿っている環境を利用しようかな」
何をするのか読めず、リリアンはブノワの動きを注視する。ブノワは魔物の足元を見据えて呪文を詠唱する。底冷えのする風が吹き渡り、魔物は足元から凍りついた。
「全身をがっちり凍らせたから動けないんじゃないかな」
「いや……」
「ブノワ、竜の口元が動いているわ」
アニエスの言葉にリリアンも竜の顔を見た。涎のような粘液を垂れ流し、氷を溶かしていく。
竜はブノワの目を見て何か詠唱した。珍しくブノワの顔色が変わる。
「どうしたの?」
「まずい。魔術を封じられた。あいつ、無効化の詠唱ができるんだ」
「無効化? じゃあ『解除』の神術を……」
「待て、もったいな……」
ブノワが止めようとした瞬間、アニエスは詠唱した。ブノワはほんの一瞬魔力を取り戻しかけたが、再度無効化を詠唱される。竜はアニエスの目も見つめ、詠唱し、術を封じた。
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