52 / 55
52. メタルスライム が あらわれた! ①
しおりを挟む
「おそらく大丈夫だと思うけど、こいつは再生力が強いから、念には念を入れよう」
「念? どうするの?」
「両目を取り出して、残りは焼き払う」
ブノワが質問に淡々と答える間に、アニエスは剣で双眸を抉り出した。ブノワは鞄から小さな匣を二つ取り出し、片目ずつ収め、一方をジェラールに渡す。
「密閉してるから、再生は心配しなくていい」
「わかった」
「匣を二つも準備していたのね」
「本当は目と心臓を入れようと思っていたんだけど、プラナリアには心臓がないからね」
世界の果ての薬草を入れた匣の小型版だ、とリリアンは思う。ブノワはせっかく開発した技術を無駄にはしない。
ブノワはもう一つの匣を鞄にしまうと、魔獣の死骸へ手をかざし、詠唱する。地獄の業火を思わせる炎が発生し、魔獣は跡形もなく消えた。
「すごい! 一瞬で消えたわ!」
「攻撃と破壊は得意だからね。初手で火炎攻撃しとけば、こんなに手こずらなかったのに、失敗した。ごめんね」
「そんな! 魔獣の弱点はなかなかわからなかったし、無事に倒せたもの!」
ブノワはにっこり微笑むと、提案する。
「ここで二手に別れよう。俺とアニエス、ジェラールとリリアンで」
「ええ?」
「理由は三つある。一つ目はプロシオンを早く病院へ連れていった方がいいということ。ひどく痛がっていたから、骨が折れているかもしれないし、運が悪ければ内臓が破れているかもしれない」
リリアンは抱えているプロシオンを見る。眠り薬で消耗は抑えられているものの、確かに心配だ。
「二つ目は魔獣の目を研究してもらった方がいいということ。身体を切断することになっても再生が容易にできそうだ」
「……三つ目はなんだ」
「魔獣と人間、両方とも腕のいい医者を俺は知っているけど、どちらも忙しいからつかまるかわからない。なるべく急いだ方がいいから俺達が先に行くのが手っ取り早い」
「別の敵が出てきたらどうするんだ」
「まあ、『一本槍のジェラール』なら大丈夫だろうし、もしジェラール達がヤラレても魔獣を倒した証拠はこっちにもあるから問題ないでしょ。二人はゆっくり来てくれたらいいから」
「あっさり人を殺すな……」
ジェラールは納得していないが、ブノワは完全に聞き流している。アニエスがプロシオンを抱き取ったのを確認すると、ブノワは常宿で待ってると言って、さっさと転移してしまった。
「あいつら……自由過ぎだろ……」
ジェラールはしばらく二人のいた場所を見ていたが、一つ息を吐くとリリアンに向き合い、声を掛ける。
「リリアンのことは精一杯守る。無理せずゆっくり帰ろう」
「わかったわ。よろしく」
術を使えない二人は、歩いて外へ出るしかない。特に地階は足場が悪いので、リリアンは危うく転びかけた。ジェラールは咄嗟にリリアンの手を取って助け、そのまま並んで歩き始める。隣のジェラールに胸の高鳴りが聞こえないか心配になるほど、リリアンはどきどきしていた。
「少し休むか」
「え、ええ。そうね……」
地上階まで折り返した頃、ジェラールはリリアンに提案した。無理に急ぐ必要はないし、ジェラールとの距離が物理的に近すぎて、緊張と興奮で持たない。そう思ったリリアンは、素直に同意する。
ジェラールは冒険者を辞めてしまう。ゆっくり話ができる機会も、もうあまりない。せめていい思い出になるように、楽しい話をできたらいいな。リリアンはそんなことを思いながら比較的広そうな近くの部屋の扉を開ける。二人が部屋に足を踏み入れると、見えない包囲網が張られ、魔物が現れた。獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ怪物、キメラだ。
「リリアン、後ろに隠れていてくれ」
「……わかったわ」
ジェラールはかなり苦戦している様子だ。魔獣を倒した時に穂先がひしゃげてしまったので、なかなか打撃を与えられないのだ。何もできなくて悔しいとリリアンが思った時、近くを小さな物体が横切った。リリアンは気のせいかと思い、瞬きをする。しばらくするともう一度、今度は逆方向に横切られた。じっと見つめ続けると、三度物体が現れ、今度は止まる。リリアンの両手に乗りそうな、メタルスライムだ。
メタルスライムは肉体的な攻撃力こそ弱いが、すばしっこくて、魔力も封じてくる、少し厄介な魔物だ。ただ、リリアンもジェラールも魔力を持たない。二人にとっては、動きの速い弱い魔物でしかないはずだ。
最初、リリアンは無視しようとした。だが、メタルスライムは必死に戦うジェラールの足元をうろちょろして邪魔をする。なんとか倒したい。
「念? どうするの?」
「両目を取り出して、残りは焼き払う」
ブノワが質問に淡々と答える間に、アニエスは剣で双眸を抉り出した。ブノワは鞄から小さな匣を二つ取り出し、片目ずつ収め、一方をジェラールに渡す。
「密閉してるから、再生は心配しなくていい」
「わかった」
「匣を二つも準備していたのね」
「本当は目と心臓を入れようと思っていたんだけど、プラナリアには心臓がないからね」
世界の果ての薬草を入れた匣の小型版だ、とリリアンは思う。ブノワはせっかく開発した技術を無駄にはしない。
ブノワはもう一つの匣を鞄にしまうと、魔獣の死骸へ手をかざし、詠唱する。地獄の業火を思わせる炎が発生し、魔獣は跡形もなく消えた。
「すごい! 一瞬で消えたわ!」
「攻撃と破壊は得意だからね。初手で火炎攻撃しとけば、こんなに手こずらなかったのに、失敗した。ごめんね」
「そんな! 魔獣の弱点はなかなかわからなかったし、無事に倒せたもの!」
ブノワはにっこり微笑むと、提案する。
「ここで二手に別れよう。俺とアニエス、ジェラールとリリアンで」
「ええ?」
「理由は三つある。一つ目はプロシオンを早く病院へ連れていった方がいいということ。ひどく痛がっていたから、骨が折れているかもしれないし、運が悪ければ内臓が破れているかもしれない」
リリアンは抱えているプロシオンを見る。眠り薬で消耗は抑えられているものの、確かに心配だ。
「二つ目は魔獣の目を研究してもらった方がいいということ。身体を切断することになっても再生が容易にできそうだ」
「……三つ目はなんだ」
「魔獣と人間、両方とも腕のいい医者を俺は知っているけど、どちらも忙しいからつかまるかわからない。なるべく急いだ方がいいから俺達が先に行くのが手っ取り早い」
「別の敵が出てきたらどうするんだ」
「まあ、『一本槍のジェラール』なら大丈夫だろうし、もしジェラール達がヤラレても魔獣を倒した証拠はこっちにもあるから問題ないでしょ。二人はゆっくり来てくれたらいいから」
「あっさり人を殺すな……」
ジェラールは納得していないが、ブノワは完全に聞き流している。アニエスがプロシオンを抱き取ったのを確認すると、ブノワは常宿で待ってると言って、さっさと転移してしまった。
「あいつら……自由過ぎだろ……」
ジェラールはしばらく二人のいた場所を見ていたが、一つ息を吐くとリリアンに向き合い、声を掛ける。
「リリアンのことは精一杯守る。無理せずゆっくり帰ろう」
「わかったわ。よろしく」
術を使えない二人は、歩いて外へ出るしかない。特に地階は足場が悪いので、リリアンは危うく転びかけた。ジェラールは咄嗟にリリアンの手を取って助け、そのまま並んで歩き始める。隣のジェラールに胸の高鳴りが聞こえないか心配になるほど、リリアンはどきどきしていた。
「少し休むか」
「え、ええ。そうね……」
地上階まで折り返した頃、ジェラールはリリアンに提案した。無理に急ぐ必要はないし、ジェラールとの距離が物理的に近すぎて、緊張と興奮で持たない。そう思ったリリアンは、素直に同意する。
ジェラールは冒険者を辞めてしまう。ゆっくり話ができる機会も、もうあまりない。せめていい思い出になるように、楽しい話をできたらいいな。リリアンはそんなことを思いながら比較的広そうな近くの部屋の扉を開ける。二人が部屋に足を踏み入れると、見えない包囲網が張られ、魔物が現れた。獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ怪物、キメラだ。
「リリアン、後ろに隠れていてくれ」
「……わかったわ」
ジェラールはかなり苦戦している様子だ。魔獣を倒した時に穂先がひしゃげてしまったので、なかなか打撃を与えられないのだ。何もできなくて悔しいとリリアンが思った時、近くを小さな物体が横切った。リリアンは気のせいかと思い、瞬きをする。しばらくするともう一度、今度は逆方向に横切られた。じっと見つめ続けると、三度物体が現れ、今度は止まる。リリアンの両手に乗りそうな、メタルスライムだ。
メタルスライムは肉体的な攻撃力こそ弱いが、すばしっこくて、魔力も封じてくる、少し厄介な魔物だ。ただ、リリアンもジェラールも魔力を持たない。二人にとっては、動きの速い弱い魔物でしかないはずだ。
最初、リリアンは無視しようとした。だが、メタルスライムは必死に戦うジェラールの足元をうろちょろして邪魔をする。なんとか倒したい。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる