初恋の実が落ちたら

ゆれ

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虎次と慶

03

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「……あっ」

 節くれだつ長い指に隠していた内側の弱点をいじられて、虎次は悩ましい声をあげる。すっかり慣れたもんだなと恐らく互いに思っていた。とろとろにリラックスして身体が開いている感じが自分でもわかり、なんだかちょっと居心地が悪い。自分ならきっと誰かを翻弄する側だと、ずっと思って生きてきた筈だったのだが、二十歳を境に虎次と慶の関係は奇妙にねじれてしまっている。

「すっげぇやらけえわ。えっろ」
「おまえが、……んっ、いじくる、からッ」
「ナカうねってる」

 ほら、と囁くいやらしい低音が、まだ無垢に高かった頃から互いを知っている。そんな男と身体を交わらせていることが未だに他人事みたいに不思議だった。

 くちゅくちゅと通り道を拡げるように指を動かしつつ、反対の手で虎次の性器をやわやわ揉みしだく。性感を高めるというよりは手遊びをするような緩慢さは、虎次が弛緩しやすいようになのか、単に焦らして愉しんでいるのか、判別がつかない。ただ、平生は優しい慶もベッドの上ではかなり意地悪になることはもうとっくに識っているため、彼が満足するまで続くのだろうとはわかっていた。

 互いに裸になり、過密なスケジュールで疲れている筈の身体を重ねる。一応翌日の予定に幾らか余裕があるときしかしないという前提はあるものの、幸せなことに売れっ子の部類に入れられる身で、やり過ぎないよう加減しながらそこそこ経験を積んでしまうのは若さゆえ。いずれにせよ両者の合意だけは確実なため、始まった時点で快楽にだけ集中していればよかった。
 もう無理だとわかれば回数関係なく終わる。仕事に支障が出そうな行為は控える。やってみてわかったのだが、虎次は噛み癖があるらしく、慶は初めはかなり苦労していた。もうすぐ七年になる今ではそれとなく阻んだり、服の袖や枕で代用したりと扱いにも慣れたものだった。

「ねえ、も、いれよ」
「ん~?」
「慶、……お願い」

 うっと返答に詰まったと思うと、ハーと溜め息をのばす。言葉は続かなかったが掌にローションを出してうしろに入れてきたので、虎次は満面の笑みを浮かべた。追いかけるように濡れた先端の感触が肉の門をかきわける。いつもこの瞬間だけは怖くて、けれど慶を手こずらせないよう注意しながら、待ち侘びたものを柔軟に受け入れる。

「あ、ああ……んぅっ……♡」
「とら、ッ……」
「はぁ……きもちぃ」
「キッツ、おま、しめすぎ」
「はは」

 比べるような経験が数えるほどしかなく、しかもかなり前のことなので虎次には今ひとつピンとこない。別に慶で試させてくれてもいいと思うのだが、本人に断固として拒否されては無理強いもできまい。嫌われたいわけじゃなかった。
 それに気に入っているのだ。最初のうちこそ違和感との闘いだった筈が、今や挿れられることで快感を拾えるようになっている。中だけで達する才能があるとわかってからは、慶が躍起になってそればっかりするという鬼畜の所業をしてきた。御蔭で今では勃ちあがっても、殆どさわられずに内側の刺激で吐精させられている。

 あの、元は備わってなかった感覚を抉じ開けられ、憶えさせられる体験。男としての何かを壊されたような、まったく別のものに生まれ変わったような、うまく言葉におろせない情動を今でも虎次は鮮明に思い出せた。自分がどうなってしまうのか自分でもわからない不安。裏腹に身体を突き抜けていく強烈な快感。ない交ぜになって涙をこぼした虎次を、慶は優しいキスとハグで宥め続けた。

 元より優しいことは誰よりも知っていた。でなければ、ももが想いを寄せる筈がない。そして慶も、妹のことがきっと好きだった。兄とふたり、いつか彼が家族に加わる日が来るのかもしれないなんて嘯いていた。

「あっ……あ、ああ、んっ……ゃ、ァッ、」
「とら、のど、……きをつけろ、よ」
「は……くそッ、だったらおまえが、ゆっくり」
「むり」

 なんでこんなきもちいの、とがさがさに掠れた声で呻かれて複雑な心境だった。自分では味わうことができないので知らないし、特に何も努力もしてない。素養があったとして、慶とこうなっていなければ使うことは永遠になかった。オメガならともかく虎次も、慶とおなじアルファなのだ。

「うっ、あ!」

 おもむろに大柄な体躯に抱き込まれて、遠慮容赦なしに腰を打ちつけられる。虎次の限界で根元まで押し込めないにしても、かきまぜられて敏感に濡れた隘路をおうとつで激しくこすられ、しこりを傘に引っ掛けられて、食い締めればはね返すように慶は逞しさを増す。掻き出されたローションと分泌液でぐちょぐちょの結合部が熱くて、痒くて、もっと刺激を欲してヒクつくのが恥ずかしい。

 膝裏に手を入れて押し込まれ、殆ど半分に折り曲げられながら真上から突き下ろされると苦しい声が洩れた。それでも動きを止めないあたり慶も我を忘れている。パンパンに太った熱芯を虎次の胎に深々と突き刺し、艶めかしく腰をまわして、うねうねとしゃぶり尽くす内壁を振り切る。もっと近くとでもいうように尻を掴んで引き寄せられて、虎次も慶の腰を足でつかまえ、より身体を密着させて最奥まで彼に明け渡した。

「きもち、……あっ、んっ、けい、そこ」
 
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