【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

62.懐古八景 22

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「あっ」

 笑香は思わず声を上げた。そんな笑香を、支倉がにこにこと笑いながらうれしそうに見上げて来る。
 どこか古ぼけたその封筒に笑香は心当たりがあった。それは昔、小学生の頃の自分が史郎に手紙を出していた時、よく使っていた封筒だ。愛らしいクマのキャラクターがプリントされた封筒の裏に、見覚えのある丸い子供の字。

柿崎かきざき笑香より』

 やはりそれは子供の自分が史郎に出した手紙だった。封は切られていないらしい。
 支倉は満面の笑みで続けた。

「これ。ずっと渡したかったの。史郎君、私がこれを持ってることも知らなかったでしょう? ずっとこれが気になってて。いつかあなたに会った時、絶対に渡さなくちゃって、なくさないように大事にしまっておいたのよ。よかった、今日あなたに会えて」

 驚いている史郎の顔が、一瞬何かに耐えるかのようにゆがめられた。泣きそうだ、と笑香は思った。だが、すぐにぐっとその男らしい口元を引きしめて、史郎は支倉の小さな手から二つの品物を受け取った。

「──ありがとうございました」

 史郎はおだやかに告げた。支倉は再度微笑むと、史郎の背後にひかえていた笑香を脇から乗り出すようにのぞいた。

「また来てね。笑香ちゃんも一緒に。そうそう、今度は湯浅君も一緒に連れて来てちょうだい。あの子も忙しいらしくってまだ顔を見せてくれないの」

 大人の湯浅をあの子と呼んでいる、支倉のおおらかな笑顔を見て、笑香は自分の心の中が温かくなっていくのを感じた。
 支倉の微笑みに見送られ、店の敷地から離れた二人はもと来た道を歩き出した。史郎が手にした手紙の宛名を黙ってじっと眺めている。

「見せて史郎君。それ、私の手紙でしょ?」

 笑香が言って右手をのばすと、彼は手紙を持った腕を笑香が届かない位置に上げた。底意地の悪い口調で答える。

「嫌だね。これは僕のだ」

 むくれた笑香が史郎を見ると、眼鏡の奥の目が笑っている。そのまま手紙を笑香に渡さず胸元のポケットにしまい込み、史郎は渡された紙袋を開けた。くっくっと笑みをこぼす。

「……両方、僕が苦手だったお菓子だ」

 今度は笑香に渡して来る。笑香は両手で受け取って、紙袋の中をのぞき込んだ。
 中には地元で有名なゼリー菓子と、笑香が目にしたことのない焼き菓子の袋が入っていた。

「これは知ってるし、私はけっこう好きなんだけど、こっちは……?」

 焼き菓子の透明なパッケージには、昔懐かしい雰囲気の字体で『くるみの初恋』と記されている。メレンゲでできているらしい一口大の白い菓子に、史郎は苦笑して告げた。

「中にくるみが入ってるんだ。僕はそれほどくるみが好きじゃなくて。甘いし、くるみが口の中に残るから僕は苦手だったんだよ。でも多分、君は好きだと思う」

 笑香は大事な紙袋をそっと胸元に抱え込んだ。
 史郎が静かな声で重ねた。

「僕が東京にもどった時、あの家にあった僕の荷物は勝手に片付けられたんだ。だから君にあれだけもらった手紙は一通も残ってない。──僕のたった一つの宝物だな。支倉さんに会えてよかった。君と一緒に」
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