行け、悪役令嬢ちゃん!

ぎんげつ

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11-1.そして、断罪ザマァの日

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 そして翌日。
 完璧に整えられたロズリーヌは、おとなしく迎えを待っていた。



「殿下が迎えに来てくださるわけないじゃないの」

 そう言ってひとりで王宮に向かおうとするロズリーヌをなだめすかして待たせるのは、なかなかの苦労だった。

 とうとう「お兄様がエスコートをしてくれるということね」と謎の納得をした時には、もう、ジレットはそれでいいやと思ったくらいだ。
 もちろん、ロズリーヌの兄が迎えに来る事実などないが、おとなしく待ってくれるのだったらなんでもいい。
 
「ロズリーヌ、ああ、よく似合っている。今日も美しいな!」

 迎えに現れた王太子は開口一番にそう讃えたが、ロズリーヌは驚きに硬直したままだった。
 どうして、と呟くロズリーヌを甘やかすように、王太子は抱き締めてキスをしてと、愛情を囁くことに余念がない。
 王太子にうやうやしく片手を取られ、腰を抱かれて馬車に乗り込むロズリーヌを見送って、ジレットはようやくほっと息を吐いた。



 王宮のホールは、煌びやかな貴族たちでごった返していた。
 まだ、主催の国王は出てきていない。その前にひととおりのあいさつをと、あちらこちらを動き回る者も多い。

「王太子殿下、ロズリーヌ様。本日もご機嫌麗しく」

 いつもならあいさつに来る貴族の相手をするからと、別な行動を取ることは多かったのに、今日に限って王太子はロズリーヌを離そうとしない。
 これでもかというくらいにべったりとくっついたままだ。

 何故だろう。
 ロズリーヌが逃げ出さないよう、王太子自らが見張っているのだろうか。
 そう考えて、やっと納得する。

 このルーヴァン侯爵家のロズリーヌ・モンティリエは、逃げも隠れもするわけないのに。

 ロズリーヌは不敵に笑って顔を上げた。「殿下」と、腰に回された手をするりと撫でる。
 ロズリーヌの想像では、王太子はここで自分の態度を不審に思うはずだった――だが、王太子は不審に思うどころか、とろけるような微笑みを返して、ロズリーヌ、と糖蜜よりも甘く囁きかける。

「お前は今日も言わなければ“シルヴィ”と呼んでくれないのか?」
「あっ、いえ……」

 ロズリーヌはたちまち真っ赤になって、また俯いてしまった。
 おふたりともほんとうに仲睦まじくいらっしゃってと、さざめくような周囲の声が聞こえる。

「シルヴィ様、わたくし、逃げも隠れもしませんわ。ですから、こんなにしっかりと捕まえていなくても……」
「ロズリーヌ。これは別に捕まえているわけではないよ。私がお前を離したくないだけなのだ」
「あっ、あの……はい」

 どうにか腕から逃れようと発した言葉も、王太子にたちまち遮られてしまう。
 これはどういうことなのか。
 ロズリーヌはますます混乱する。

 もしかして、悪役令嬢として断罪されるルートは外れることができたのだろうか。
 でも、ミシェルは、王太子ルートに乗っているはずなのに?

 と、口上とともに奥の扉から王と王妃が入室した。ホールのざわめきがぴたりと止まり、皆がこうべを垂れる。

「今年もよい季節を迎えることができた」

 穏やかなよく通る声で、王が開会を宣言する。片手を上げると、楽団が緩やかな音楽を奏で始めた。

「ロズリーヌ、さあ」
「シルヴィ様」

 王太子がロズリーヌの手を取って真ん中へと進み出る。戸惑うロズリーヌを促し、音楽に合わせて緩やかなステップを踏み始める。
 周囲の貴族たちが、それに続く。

 かくして、ロズリーヌの言う「断罪ザマァイベント」卒業式典――ではなく、その代わりの夜会が始まったのだった。
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