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そのさん
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服は神殿にあったものを借りた。
布を巻きつけてチューブトップみたいな形にする上衣と巻きスカートにサンダル。腰に柔らかい帯布を巻いて、肩にショールみたいな布を引っ掛けて、ピンで留めれば出来上がりだ。
下着は横を紐で結ぶパンツだけ。上は巻いた布が若干伸縮して胸も抑えるから、何も無し。
少々心許ないけれど、このあたりは南方で昼間の気温は高めだから、これで十分らしい。朝晩の冷え込みは上に羽織るショールで調節するのだ。
エセキエルも、“騎士”と聞いてわたしが思い描いたような全身鎧でも詰襟の制服みたいなものでもなく、袖無しの上衣に七部丈のゆったりしたズボンをはいて腰帯で押さえるというラフな出で立ちだった。足元もサンダルだ。
腰に佩いた剣が無ければ、彼が“騎士”だなんて絶対にわからないだろう。
エセキエルに連れられ朝食を済ませた後に、神殿の司祭たちに引き合わされた。「女神により呼び寄せられたようだ」というエセキエルの説明は、すんなりと受け入れられたようだった。
神殿だからそんな説明で事足りるのか。わたしを不審に思う者などいないのか。考えてみても観察していてもよくわからない。
それに、“神殿”とはいうものの、ここが本当はどういう場所なのか、わたしにはさっぱりわからなかった。
女神の司祭という者は男も女もきれいで派手派手しくて、しかもどこか扇情的で、誰も彼もが水商売の男女だと言われたほうが納得できた。ここが“神殿”だというなら、もっと神聖で禁欲的じゃなければいけないんじゃないのか。
おまけに、そんな聖職者たちがあちこちで抱き合ったりキスを交わしたり……いったいどういうことなのか。
もちろん、エセキエルも例外ではない。
エセキエルは、わたしが「愛が欲しい」と言うから抱いたといった。
つまり、ねだられれば誰とでも性交渉をするというのが……来るもの拒まずが、“愛の女神”とやらの教義で聖職者なんだろうか。
女神に祈るのは、愛を育む夜の訪れの前に……と言われて、夕刻には礼拝にも連れていかれた。司祭の説教みたいなものも聞いたけれど、とにかく「愛は自由なもの」ということしかわからなかった。
ここに来てからずっと、わたしにはわからないことだらけだ。
エセキエルの口利きで神殿に住めることになり、部屋も用意された。
ここで世話になる間は司祭見習いのような立場として働くことにもなった。とはいえ、文明の利器なんて何もないこの場所で、わたしにできることは少ない。せいぜいが、厨房の下働き程度だ。
雑用をこなしながら、女神の教義を勉強することにもなった。
話を聞きながら、アガペーとかリビドーとか、かつて聞き齧ったそんな単語が思い浮かんで、正直、倫理か何かの授業のようだと思う。
「――ねえ、エセキエル」
「なんだい?」
「女神の説く“愛”って何なの? 愛情って、普通、特定の相手だけに抱くものじゃないの? どうして、この神殿ではそうじゃないの?」
くすりとエセキエルが笑う。それから、どう答えたものかとでも考えてか、少し間を空けてぐいと顔を寄せると、「愛は自由だと、女神は仰っているからね」と囁いた。
「自由だから、皆、その時の好き好きに、その……適当な相手を捕まえてエッチしてるってこと? 自由恋愛って、そういうことなの?」
「それは誤解だよ、ストー」
くつくつと笑って、エセキエルは首を振る。
「“愛は自由”というのは、そういうことじゃない。縛る縛られる、縛らない縛られない……愛はどんな形であってもよいし、どれを選んでもよいということだ。君の言うような唯一の相手を定めての愛でも、ただ一夜限りの愛でも、どちらも等しく愛であると女神は仰っている。だから、自分の思い描く愛と違うからといって、相手を責めてはいけない」
「じゃあ、わたしが見たのは、縛られない愛を選んだ人たちってこと?」
「そういうことだろうね」
たしかに、日本の出会い系みたいでもある。違いは、相手が不特定多数ってわけじゃないくらいだろうか。
どんな形でもか、と呟いて……。
「エセキエルも、縛られない愛を選んだの?」
わずかに目を瞠って、エセキエルは少し困ったような微笑みを浮かべた。
「わたしは、聖騎士叙勲の際に愛を与える者となることを女神に誓ったんだ」
たしかに、わたしのはじめての時、彼は「求めるから与えた」と言った。
ああ、そういうことか……と、何かが腑に落ちた気がした。
「……エセキエル」
ん? と首を傾げる彼にもたれかかる。
彼は何も言わず、体重を預けるわたしを支える。
「今夜、あなたの部屋に行ってもいい?」
「ああ」
深夜――時計がないから、具体的に何時とはわからないけれど、月の高さからみて夜半にはまだ少し早い時分だろうか。
大きく息を吸い込んで、エセキエルの部屋の扉を叩くと、すぐにかちゃりと開いて招き入れられた。
「そんな格好で歩いてきたの?」
「夜中だし、誰も廊下にいないと思って……」
薄い寝巻きに大きめのストールを巻き付けただけのわたしを見て、エセキエルは小さく笑う。
「それにしても、少し不用心じゃないかい? 君くらいの歳の娘は、そんな格好で部屋を出たりはしないよ」
引き寄せてキスを落として、笑いながらわたしを抱き上げる。
恋人でもないのに普通にこんなことができるなんて、やはり本人の言葉どおり、与え慣れているということだろうか。
「次から気をつけるし」
「そうしてくれ」
ゆっくりと運ばれて、ベッドに座らせられて、もう一度キスをされた。なんだか恋愛映画か何かみたいで、どことなく恥ずかしい。
「何か飲むかい?」
少し緊張していることを気取られてか、エセキエルにそんなことを尋ねられた。けれど、わたしは黙って首を振った。
「そう」
ふっと笑って腰を屈めたエセキエルが、わたしの唇を塞ぐ。そっと押し倒しながら舌を差し込んで、じっくりと中を探る。
「ん……」
それだけなのに身体の芯が疼きだすのは、エセキエルが“上手”だということなんだろうか。わたしが感じやすい……というわけでもないように思う。
耳朶を軽く食まれて、ぴくりと肩が揺れる。息が上がり始めているわたしと違い、彼の息遣いは穏やかで、なんだか悔しい。
悔しくて、彼の背を指先でつつつと辿ると、小さく笑う気配がした。
「そう、好きなところを触って。触れることは、相手を知ることだ」
首元を吸われて、「あ」と声が漏れる。
自然と片手が彼の頭を探り、ゆるく巻いた柔らかい髪を掻き混ぜる。
もう片手は忙しなく彼の身体を擦り……時折爪を立てそうになっては指先の力を抜くというのを繰り返している。
こんなこと、どうやって覚えたんだろう。
エセキエルは、あくまでも優しく時間を掛けてわたしの身体を高めていく。頭の中が蕩けているのは自分ばっかりな気がして、時折覗く彼の目が、冷静というよりもどこか冷めているようで、やっぱり悔しい。
それからもずっと這い回るエセキエルの手と舌に、胸の先と脚の間はもちろん、自分の知らなかった場所まで触れられて、声が止まらなくなってしまう。
「う、あっ、そこ……あっ、そこぉっ!」
ひくひくとわななくそこに熱いものがあてがわれる。ふと、避妊はどうなってるんだろうと頭を掠めたけれど、ぐちゅ、と音を立てて入ってきたものに意識は飛んで、それ以外のことはどうでも良くなってしまった。
「あ、あ、もっ……あ、いいっ」
友人と回しあってこっそり盗み読んだセックスの本には、女が中で感じるには時間をかけて開発しなきゃいけないのだとあった。
けれど、経験は浅いはずなのに、なんでこんなに感じるんだろう。
エセキエルに奥をぐいと突かれるたびに、背すじをぞくぞくとする快感が駆け上っていく。わたしって、もしかしてすごく淫乱な身体なんじゃないかと思うくらい、気持ちよくて仕方ない。
ぐちゅぐちゅと大きな音を立ててゆっくりと擦られて、声が抑えられない。脚をしっかりと絡めてもっと奥をねだるようにしがみついて、腰を擦り付けてしまう。眦から涙が滲み出て、こめかみに細く流れ落ちる。
「あっあっ、だめ、も、だめえ……っ!」
びくんと大きく背を反らす。
痙攣が止まらなくて、中が引き攣れるように震える。
なんで、またエセキエルと寝ようと思ったんだろう。
チカチカ瞬くような何かに霞んだ頭でぼんやり考える。
別にエセキエルのことが好きってわけでもないのに、どうしてだろう。
まぶたの裏で光が弾けた。
びくびくと数度震えて、くたりと脱力するわたしの唇を、エセキエルが舌でなぞる。荒く息を吐きながら数度キスをして、ぐぷりと自身を引き抜いた。
「あまり集中できていなかった?」
「え……?」
「何か別なことを考えていただろう?」
見透かされてるみたいだと思ったけど、本当に見透かされていたなんて。
別なことなんて、と答えようとしたのに、結局言葉が出てこなかった。すぐ隣に身体を横たえたエセキエルにしがみついて、「わたし、ね」と小さく呟く。
「ん?」
「いつも、こんな人だと思わなかったって言われて振られてたの」
「うん」
エセキエルの手がゆっくりと背を撫でる。そっと身体を引き寄せて、「それで?」と耳元に囁く。
「あっちから好きだって言うくせに、いつもそうだったの。“好き”ってどういう意味? 全然わかんない」
エセキエルは黙ってわたしの背を撫で続けている。
「見た目だけわたしによく似た違う何かを好きになったから、わたしを代わりにしようと思ったってこと? でも、結局代わりにならなかったからもういらないってこと? わたしって何なの?」
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの?」
軽い調子の気休めに、わたしは思い切り顔を顰める。エセキエルはそんなわたしの額を啄ばんで、それからまた深いキスをする。
「君を理解するまでに至らず、離れてしまった者がいたというだけの話だよ。せっかく芽生えた愛を、相手自身が女神の祝福を賜るほどに育てられなかった、もしくは、単に君に合う相手ではなかったというだけだ。
それとも、君は今もその相手に心を残したままなのかな?」
「――それは、ないわ」
未練があるわけじゃない。ただ、納得がいかないというだけだ。思い描いたとおりのわたしじゃないからさようならなんて、そんな身勝手に腹が立っただけだ。
「なら、さっさと忘れて次へ行けばいい。愛は何もそこだけにあるものじゃない。愛はこの世界の至るところに存在している」
「そんなに簡単に行くものなの?」
「さあ? 時に簡単で時に難しい……愛とはそうそう思い通りになるものでもないからね。女神の加護と君次第さ」
からかうような口調で返されて、小さく溜息を吐く。彼にとっては、きっと簡単な部類のものなんだろう。
「わたし、好きとか愛とかよくわからない。家族が大好きっていうのはわかる。でも、愛って言われてもピンと来ないの。愛するってどういうこと?」
「それは君自身で見つけないと。私が語れるのは、私にとっての愛だけだ」
「そう」
やっぱりだめか、と少し恨みがましく思いながら、わたしは結局そのまま眠り込むまでずっとエセキエルに張り付いたままだった。
布を巻きつけてチューブトップみたいな形にする上衣と巻きスカートにサンダル。腰に柔らかい帯布を巻いて、肩にショールみたいな布を引っ掛けて、ピンで留めれば出来上がりだ。
下着は横を紐で結ぶパンツだけ。上は巻いた布が若干伸縮して胸も抑えるから、何も無し。
少々心許ないけれど、このあたりは南方で昼間の気温は高めだから、これで十分らしい。朝晩の冷え込みは上に羽織るショールで調節するのだ。
エセキエルも、“騎士”と聞いてわたしが思い描いたような全身鎧でも詰襟の制服みたいなものでもなく、袖無しの上衣に七部丈のゆったりしたズボンをはいて腰帯で押さえるというラフな出で立ちだった。足元もサンダルだ。
腰に佩いた剣が無ければ、彼が“騎士”だなんて絶対にわからないだろう。
エセキエルに連れられ朝食を済ませた後に、神殿の司祭たちに引き合わされた。「女神により呼び寄せられたようだ」というエセキエルの説明は、すんなりと受け入れられたようだった。
神殿だからそんな説明で事足りるのか。わたしを不審に思う者などいないのか。考えてみても観察していてもよくわからない。
それに、“神殿”とはいうものの、ここが本当はどういう場所なのか、わたしにはさっぱりわからなかった。
女神の司祭という者は男も女もきれいで派手派手しくて、しかもどこか扇情的で、誰も彼もが水商売の男女だと言われたほうが納得できた。ここが“神殿”だというなら、もっと神聖で禁欲的じゃなければいけないんじゃないのか。
おまけに、そんな聖職者たちがあちこちで抱き合ったりキスを交わしたり……いったいどういうことなのか。
もちろん、エセキエルも例外ではない。
エセキエルは、わたしが「愛が欲しい」と言うから抱いたといった。
つまり、ねだられれば誰とでも性交渉をするというのが……来るもの拒まずが、“愛の女神”とやらの教義で聖職者なんだろうか。
女神に祈るのは、愛を育む夜の訪れの前に……と言われて、夕刻には礼拝にも連れていかれた。司祭の説教みたいなものも聞いたけれど、とにかく「愛は自由なもの」ということしかわからなかった。
ここに来てからずっと、わたしにはわからないことだらけだ。
エセキエルの口利きで神殿に住めることになり、部屋も用意された。
ここで世話になる間は司祭見習いのような立場として働くことにもなった。とはいえ、文明の利器なんて何もないこの場所で、わたしにできることは少ない。せいぜいが、厨房の下働き程度だ。
雑用をこなしながら、女神の教義を勉強することにもなった。
話を聞きながら、アガペーとかリビドーとか、かつて聞き齧ったそんな単語が思い浮かんで、正直、倫理か何かの授業のようだと思う。
「――ねえ、エセキエル」
「なんだい?」
「女神の説く“愛”って何なの? 愛情って、普通、特定の相手だけに抱くものじゃないの? どうして、この神殿ではそうじゃないの?」
くすりとエセキエルが笑う。それから、どう答えたものかとでも考えてか、少し間を空けてぐいと顔を寄せると、「愛は自由だと、女神は仰っているからね」と囁いた。
「自由だから、皆、その時の好き好きに、その……適当な相手を捕まえてエッチしてるってこと? 自由恋愛って、そういうことなの?」
「それは誤解だよ、ストー」
くつくつと笑って、エセキエルは首を振る。
「“愛は自由”というのは、そういうことじゃない。縛る縛られる、縛らない縛られない……愛はどんな形であってもよいし、どれを選んでもよいということだ。君の言うような唯一の相手を定めての愛でも、ただ一夜限りの愛でも、どちらも等しく愛であると女神は仰っている。だから、自分の思い描く愛と違うからといって、相手を責めてはいけない」
「じゃあ、わたしが見たのは、縛られない愛を選んだ人たちってこと?」
「そういうことだろうね」
たしかに、日本の出会い系みたいでもある。違いは、相手が不特定多数ってわけじゃないくらいだろうか。
どんな形でもか、と呟いて……。
「エセキエルも、縛られない愛を選んだの?」
わずかに目を瞠って、エセキエルは少し困ったような微笑みを浮かべた。
「わたしは、聖騎士叙勲の際に愛を与える者となることを女神に誓ったんだ」
たしかに、わたしのはじめての時、彼は「求めるから与えた」と言った。
ああ、そういうことか……と、何かが腑に落ちた気がした。
「……エセキエル」
ん? と首を傾げる彼にもたれかかる。
彼は何も言わず、体重を預けるわたしを支える。
「今夜、あなたの部屋に行ってもいい?」
「ああ」
深夜――時計がないから、具体的に何時とはわからないけれど、月の高さからみて夜半にはまだ少し早い時分だろうか。
大きく息を吸い込んで、エセキエルの部屋の扉を叩くと、すぐにかちゃりと開いて招き入れられた。
「そんな格好で歩いてきたの?」
「夜中だし、誰も廊下にいないと思って……」
薄い寝巻きに大きめのストールを巻き付けただけのわたしを見て、エセキエルは小さく笑う。
「それにしても、少し不用心じゃないかい? 君くらいの歳の娘は、そんな格好で部屋を出たりはしないよ」
引き寄せてキスを落として、笑いながらわたしを抱き上げる。
恋人でもないのに普通にこんなことができるなんて、やはり本人の言葉どおり、与え慣れているということだろうか。
「次から気をつけるし」
「そうしてくれ」
ゆっくりと運ばれて、ベッドに座らせられて、もう一度キスをされた。なんだか恋愛映画か何かみたいで、どことなく恥ずかしい。
「何か飲むかい?」
少し緊張していることを気取られてか、エセキエルにそんなことを尋ねられた。けれど、わたしは黙って首を振った。
「そう」
ふっと笑って腰を屈めたエセキエルが、わたしの唇を塞ぐ。そっと押し倒しながら舌を差し込んで、じっくりと中を探る。
「ん……」
それだけなのに身体の芯が疼きだすのは、エセキエルが“上手”だということなんだろうか。わたしが感じやすい……というわけでもないように思う。
耳朶を軽く食まれて、ぴくりと肩が揺れる。息が上がり始めているわたしと違い、彼の息遣いは穏やかで、なんだか悔しい。
悔しくて、彼の背を指先でつつつと辿ると、小さく笑う気配がした。
「そう、好きなところを触って。触れることは、相手を知ることだ」
首元を吸われて、「あ」と声が漏れる。
自然と片手が彼の頭を探り、ゆるく巻いた柔らかい髪を掻き混ぜる。
もう片手は忙しなく彼の身体を擦り……時折爪を立てそうになっては指先の力を抜くというのを繰り返している。
こんなこと、どうやって覚えたんだろう。
エセキエルは、あくまでも優しく時間を掛けてわたしの身体を高めていく。頭の中が蕩けているのは自分ばっかりな気がして、時折覗く彼の目が、冷静というよりもどこか冷めているようで、やっぱり悔しい。
それからもずっと這い回るエセキエルの手と舌に、胸の先と脚の間はもちろん、自分の知らなかった場所まで触れられて、声が止まらなくなってしまう。
「う、あっ、そこ……あっ、そこぉっ!」
ひくひくとわななくそこに熱いものがあてがわれる。ふと、避妊はどうなってるんだろうと頭を掠めたけれど、ぐちゅ、と音を立てて入ってきたものに意識は飛んで、それ以外のことはどうでも良くなってしまった。
「あ、あ、もっ……あ、いいっ」
友人と回しあってこっそり盗み読んだセックスの本には、女が中で感じるには時間をかけて開発しなきゃいけないのだとあった。
けれど、経験は浅いはずなのに、なんでこんなに感じるんだろう。
エセキエルに奥をぐいと突かれるたびに、背すじをぞくぞくとする快感が駆け上っていく。わたしって、もしかしてすごく淫乱な身体なんじゃないかと思うくらい、気持ちよくて仕方ない。
ぐちゅぐちゅと大きな音を立ててゆっくりと擦られて、声が抑えられない。脚をしっかりと絡めてもっと奥をねだるようにしがみついて、腰を擦り付けてしまう。眦から涙が滲み出て、こめかみに細く流れ落ちる。
「あっあっ、だめ、も、だめえ……っ!」
びくんと大きく背を反らす。
痙攣が止まらなくて、中が引き攣れるように震える。
なんで、またエセキエルと寝ようと思ったんだろう。
チカチカ瞬くような何かに霞んだ頭でぼんやり考える。
別にエセキエルのことが好きってわけでもないのに、どうしてだろう。
まぶたの裏で光が弾けた。
びくびくと数度震えて、くたりと脱力するわたしの唇を、エセキエルが舌でなぞる。荒く息を吐きながら数度キスをして、ぐぷりと自身を引き抜いた。
「あまり集中できていなかった?」
「え……?」
「何か別なことを考えていただろう?」
見透かされてるみたいだと思ったけど、本当に見透かされていたなんて。
別なことなんて、と答えようとしたのに、結局言葉が出てこなかった。すぐ隣に身体を横たえたエセキエルにしがみついて、「わたし、ね」と小さく呟く。
「ん?」
「いつも、こんな人だと思わなかったって言われて振られてたの」
「うん」
エセキエルの手がゆっくりと背を撫でる。そっと身体を引き寄せて、「それで?」と耳元に囁く。
「あっちから好きだって言うくせに、いつもそうだったの。“好き”ってどういう意味? 全然わかんない」
エセキエルは黙ってわたしの背を撫で続けている。
「見た目だけわたしによく似た違う何かを好きになったから、わたしを代わりにしようと思ったってこと? でも、結局代わりにならなかったからもういらないってこと? わたしって何なの?」
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの?」
軽い調子の気休めに、わたしは思い切り顔を顰める。エセキエルはそんなわたしの額を啄ばんで、それからまた深いキスをする。
「君を理解するまでに至らず、離れてしまった者がいたというだけの話だよ。せっかく芽生えた愛を、相手自身が女神の祝福を賜るほどに育てられなかった、もしくは、単に君に合う相手ではなかったというだけだ。
それとも、君は今もその相手に心を残したままなのかな?」
「――それは、ないわ」
未練があるわけじゃない。ただ、納得がいかないというだけだ。思い描いたとおりのわたしじゃないからさようならなんて、そんな身勝手に腹が立っただけだ。
「なら、さっさと忘れて次へ行けばいい。愛は何もそこだけにあるものじゃない。愛はこの世界の至るところに存在している」
「そんなに簡単に行くものなの?」
「さあ? 時に簡単で時に難しい……愛とはそうそう思い通りになるものでもないからね。女神の加護と君次第さ」
からかうような口調で返されて、小さく溜息を吐く。彼にとっては、きっと簡単な部類のものなんだろう。
「わたし、好きとか愛とかよくわからない。家族が大好きっていうのはわかる。でも、愛って言われてもピンと来ないの。愛するってどういうこと?」
「それは君自身で見つけないと。私が語れるのは、私にとっての愛だけだ」
「そう」
やっぱりだめか、と少し恨みがましく思いながら、わたしは結局そのまま眠り込むまでずっとエセキエルに張り付いたままだった。
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